KJESSのブログ

秋も深まり、肌寒さが増してきた頃、春樹は部活動で出会った後輩・夏希が一人でため息をついているのを見かけた。彼女は部活の練習も真面目に取り組み、誰に対しても丁寧な性格で、春樹からも一目置かれる存在だった。しかし、その日ばかりは何か悩んでいるようで、目に力がなく、表情も暗い。

春樹が声をかけると、夏希は少し驚いたが、彼に向けてかすかな微笑みを浮かべた。「最近、元気がないみたいだけど、何か悩んでいるの？」と尋ねると、彼女は少し戸惑ったようにうつむき、ぽつりぽつりと話し始めた。

「実は…来年から進路を決めなきゃいけないんですけど、自分が何をやりたいのか分からなくて…。周りの友達はみんな目標があって、頑張っているけど、私は何も決められなくて不安で」と、彼女は心の内を吐露した。将来についての漠然とした不安と焦り。春樹もかつて同じような感覚に悩んでいたことを思い出し、彼女の気持ちがよく理解できた。

その夜、春樹は夏希を少しでも励ましたいと考え、再び「梅屋」に足を運んだ。彼はおばあさんに、未来への不安や迷いを抱える後輩のために、励ましの気持ちを込めた大福を贈りたいと相談した。すると、おばあさんは少し考え込んだ後、「それなら、この『希望大福』がいいかもしれないね」と、特別な大福を見せてくれた。

「希望大福」は、春に咲く桜のような淡いピンク色の求肥で包まれており、中には春を思わせる香り豊かな桜あんが詰まっていた。この大福には、未来への希望や新しい可能性を象徴する意味が込められており、食べる人の心をそっと後押しする力があるとおばあさんは言った。

「大福を食べた瞬間、ふっと心が軽くなり、自分の中にある小さな希望に気づくかもしれない。迷いや不安を抱えている人には、この大福が少しでも励みになればいいんだよ」とおばあさんが語るのを聞いて、春樹はこれこそ夏希にぴったりだと思い、丁寧に包んでもらった。

翌日、放課後に春樹は夏希を呼び出し、「これ、夏希のために選んだんだ」と言って「希望大福」を差し出した。夏希は驚いた顔で春樹を見つめたが、「ありがとう」と礼を述べて、恐る恐る大福に手を伸ばした。そして、春樹の見守る中、一口かじると、桜の香りがふんわりと口いっぱいに広がり、まるで春の訪れを感じさせるような優しい味わいが彼女を包んだ。

「この味…何だか懐かしくて、優しい味がする…」と呟く夏希に、春樹は少し微笑んで「この大福はね、未来に向かって歩み出す人にそっと寄り添ってくれるんだって。自分の進む道が分からなくても、少しずつでも前に進めるようにって」と伝えた。

その言葉に、夏希は目を見開き、そしてしばらく考え込むように俯いたが、やがて柔らかい笑みを浮かべた。「今まで、自分だけが迷っていると思っていたけど、春樹先輩もそんな時期があったんですね。なんだか少しだけ心が軽くなりました。ありがとう」と彼女は素直に感謝を伝えた。

それからしばらくして、夏希は少しずつ元気を取り戻し、自分の進むべき道を模索し始めた。大福を贈ったことで彼女の心に少しでも変化が生まれたことに、春樹は嬉しさを感じた。そして、未来に迷いながらも前を向いて歩き出す彼女の姿を見て、自分もまた新たな一歩を踏み出そうと決意した。

夜、再び「梅屋」を訪れた春樹は、おばあさんに報告した。「おばあさんのおかげで、夏希も少しずつ前に進むことができた気がします」と伝えると、おばあさんは静かに微笑んで「人にはそれぞれ、進むべき道があるんだよ。その道を見つける手助けができるのが、こうした贈り物の役目なのかもしれないね」と優しく語りかけた。

春樹はその言葉を胸に刻み、大福が持つ不思議な力と、人の心に寄り添う贈り物の大切さを改めて感じた。翔太や夏希のように、大福が誰かの心を癒し、勇気を与える存在であることに感謝し、自分もまた誰かの支えになれるような存在でありたいと願った。

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