KJESSのブログ

母への初めての大福を贈ったことで、自分の作ったもので人を喜ばせる喜びを知った春樹は、さらに「梅屋」での修行に打ち込むようになった。おばあさんからさまざまな餡や生地の作り方を学ぶだけでなく、町の人々が求める味や季節ごとの食材を生かした工夫も考え始めたのだ。

ある日、おばあさんが春樹に新しい挑戦を持ちかけた。「春樹君、次は町の人に贈る大福を考えてみないかい？一人一人が何を喜ぶか考えながら、特別な大福を作ってみるといいよ。」おばあさんは、この町で長年店を営んでいたため、常連客一人一人の好みを把握していた。春樹はそのおばあさんの言葉を聞き、町の人々の笑顔を思い浮かべながら、初めて自分で考えた大福を作ってみることにした。

春樹はまず、季節に合わせた大福を作ろうと考えた。冬が近づき、寒さが厳しくなるこの季節に、ほっと心が温まるような甘さと香りを持った大福がいいのではないかと。そこで、柚子の皮を使って香りを引き立てた「柚子大福」を作ることに決めた。柚子の爽やかな香りと、ほんのり甘くて柔らかな餡の組み合わせは、寒い冬にぴったりで、心も体も温まるような一品だ。

初めての「柚子大福」が完成すると、春樹はおばあさんの助けを借りて、町の人々に試してもらうことにした。まずは、いつも「梅屋」に来てくれる常連の一人である田中さんに試食してもらった。田中さんは、昔からの和菓子好きで、季節ごとに新しい味を試すのを楽しみにしている人物だった。

春樹が「柚子大福」を差し出すと、田中さんは目を輝かせて「これはまた新しい味だね！こんな爽やかな大福は初めてだ」と感激してくれた。その言葉に春樹は胸が熱くなり、自分の大福が人々に喜びを届けられたことを改めて実感した。

続いて、春樹は他の常連客や近所の人々にも少しずつ「柚子大福」を配っていった。それぞれの反応が返ってくるたびに、春樹は自分の作る大福が人々の生活の一部に溶け込み、彼らの心にささやかな喜びを届けられていることを感じた。少しずつ、町の人々も「梅屋」の新しい味に期待を寄せ、春樹が作る大福を楽しみにするようになっていった。

やがて、春樹の「柚子大福」は噂になり、他の店からも話題として聞かれるようになった。春樹はおばあさんと共に、さらに工夫を重ね、季節の素材を取り入れた新しい大福を考案するようになった。たとえば、冬が深まると栗や甘酒を使った「冬のあったか大福」、春には苺や桜の花びらを練り込んだ「春の香り大福」など、季節ごとにバリエーション豊かな大福を生み出していった。

そうして春樹は、おばあさんの知識を受け継ぎながらも、自分なりのアイディアを加えて大福作りの腕を磨いていった。町の人々からの温かい反応が、春樹にとって何よりの励みとなり、さらに技術を磨こうという意欲を与えてくれた。

ある日、「梅屋」に足を運んだ町の住人が、春樹に声をかけた。「春樹君の作る大福、みんなに喜ばれているよ。こんなに若いのに、しっかり人の心を感じられる大福を作れるなんて、大したもんだ。」その言葉に、春樹は照れくさそうに微笑んだが、心の中では小さな自信が芽生えていくのを感じていた。

その夜、春樹はおばあさんに自分の感謝の気持ちを伝えた。「おばあさんのおかげで、少しずつですが、自分の道が見えてきた気がします。僕もいつかおばあさんのように、人に愛される大福職人になりたいです。」

おばあさんは、静かにうなずきながら「春樹君が大切なのは、誰かのために心を込めて作ることだよ。その気持ちがあれば、必ず大丈夫。いつか君は、この町の大切な存在になるだろうね」と語りかけた。

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