KJESSのブログ

三浦節子が煮物を届けた先は、近所に住む若い母親の高橋沙織と、その息子の涼介だった。沙織は30代前半で、夫が海外での単身赴任中ということもあり、幼い息子と二人三脚の毎日を送っていた。年末の寒さが厳しさを増す中、沙織は仕事と家事の両立に追われ、どこか心身ともに疲れていた。

その日、節子が玄関先に持ってきた煮物を受け取ったとき、沙織は驚きと感謝の気持ちでいっぱいになった。

「三浦さん、本当にありがとうございます。こんなに美味しそうな煮物をいただけるなんて……。」

節子は微笑みながら、「独り暮らしの私じゃ食べきれない量を作っちゃってね。涼介くんも好きそうな味付けにしたから、ぜひ一緒に食べてちょうだい。」と優しく言った。

沙織は煮物を食卓に並べ、涼介と一緒に夕食を取ることにした。涼介は湯気の立ち上る煮物をじっと見つめ、箸を手に取った。

「これ、すっごく美味しい！お母さん、これ誰が作ったの？」

「三浦さんが作ってくださったのよ。涼介、三浦さんにお礼を言おうね。」

煮物の優しい味が体を芯から温め、沙織はその一食がどれほど自分たちを元気づけるかを実感した。

食事を終えた後、沙織は涼介を寝かしつけながらふと思った。「私も誰かにこうやって温かさを届けられたらいいな。」

翌日、沙織は涼介を保育園に送った帰りに近所の商店街を歩いていた。そこで見つけたのは、小さな菓子店の前に並んだ手作りクッキーのセットだった。カラフルな包装紙に包まれたクッキーは、見ているだけで心が和むような可愛らしさだった。

「これなら私でも贈れるかもしれない。」

沙織は迷わずクッキーをいくつか購入し、帰宅後、心を込めて包装し直した。メッセージカードも添え、それを持って涼介を迎えに行くついでに保育園の先生たちに渡すことにした。

「いつも涼介を見てくださってありがとうございます。今年もあと少しですが、どうぞお体に気をつけてくださいね。」

先生たちはその贈り物に驚き、口々に感謝の言葉を伝えてくれた。保育園では何かと忙しい年末の準備が進む中、沙織の心遣いが職員たちを和ませたのだ。

その日の夕方、保育園の主任である川上美咲は、自宅に帰る途中で手渡されたクッキーを見つめていた。

「こういう小さな心遣いって、ほんとに嬉しいものね。」

彼女は自分も何か温かい気持ちを伝えたいと思い、翌日職場で全職員にちょっとしたお菓子を配ることを決めた。贈り物の内容は大げさなものではなかったが、その心遣いは、職場の空気をほっと和らげるものとなった。

こうして沙織の小さな行動は、新たな感謝の波を生み、次々と人々の心を繋いでいく一歩となったのだった。

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