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作家・内藤みかのメインブログ ~電子書籍などの新しいコト〜

ナイトパック冒頭部分



nl


もしも
ネットカフェの隣の部屋の人が
モトカレだったら・・・・


微妙にリンクしている6つの個室の物語
    「ナイトパック」

5/11よりtomebooktownでケータイ&PC配信スタート!!!






ナイトパック




第1話 

L-11 レディースシート


ナイトパック

第1話 

L-11
レディースシート


 

 私の未来は、バラ色
のはずだった。
 それなのに、今は真
っ黒。
 夢も希望もぜんぶ、
黒く塗りつぶされて、
今いる部屋も真っ黒の
壁に囲まれている。こ
こは、何十と、小さな
個室が連なっているネ
ットカフェ。何十もの
狭いスペースの中に、
一人ひとりがこもって
いる場所だった。

 世界中に嫌われてい
る気がして、閉じこも
りたくなり、ここに来
た。

 前後左右を真っ黒い
板に囲まれているこの
狭い個室は、天井だけ
は開いていた。
 頭上から流れてくる
のは、別の部屋にも誰
かがいるという微かな
気配。コーヒーの香り、
タバコの匂い、ケータ
イの着信音、くぐもっ
た話し声や咳払い、ク
シャミの音、それから、
オーダーしたのか、カ
レーのような香辛料の
匂いも。

 私以外にも、何人も
の人たちが、この店の
中にいるらしいけれど、
誰とも顔を合わせては
いない。

 ネットカフェ『スパ
ークリン☆』では、そ
れぞれが個室にこもる
ので、他のお客とは視
線を交わすこともない。

 今、何十人もの人が
店内の個室に入ってい
るのかもしれない。で
もきっと、ひと言も会
話もしないうちに、私
はこの店を、去るのだ
ろう。

 ライターに火をつけ
たら、薄暗い個室の中
が一瞬、ぼうっと明る
くなった。電源を入れ
ていないままのパソコ
ンモニターの画面に、
私の泣きはらした顔が、
浮かび上がった。
 新宿『スパークリン
☆』のレディースルー
ムに来るのは、もう、
何度目だろう。この半
年、三日と開けずに通
っている。

 就職活動のためだ。

 ネットカフェが、私
のハローワークの窓口
のようなものだった。
アパートにインターネ
ット回線を引いてない
から、ここに来るしか
なかった。

 企業に履歴書を送る
のも、説明会の応募を
するのも、すべてイン
ターネットのみの受付
としているところが多
いので、ちょくちょく
訪れ、黒いリクルート
スーツ姿のままで、必
死にパソコンを覗き込
んでいた。

 履歴書を送り、説明
会に参加して、そして、
筆記試験を受けるか面
接を受けたところで不
採用になり、またネッ
トカフェに戻って、他
の企業に履歴書を送り、
説明会に応募し……。

 私、今年になって、
一体何度、そんなこと
を繰り返したんだろう?
 
 受けて、落ちて、受
けて、落ちて……。
 そう、まだ、一度も
内定なんて、もらって
ない。


 世界中が、

 おまえなんか、いら
ないよ

 と、拒んでいるかの
ようだった。


 春には街に大勢いた
リクルートスーツの学
生も、今ではほぼ消滅
している。夏なので、
スーツで歩くと蒸して、
汗ばんで、苦しいくら
い。

 真夏日の街をリクル
ートスーツで歩く女の
姿は、影法師が起き上
がって動き出したかの
ように、どす黒く炎天
下に浮かび上がってい
て、惨めだった。

 就職できないという
だけで相当つらいのに、
さらに、このあいだ、
彼氏とも別れた。

 私がフられたのだ。


 そして今日は、やっ
との思いで進んだ最終
面接の当日だったのに、
とんでもないハプニン
グが起きて、不採用と
なってしまった。もう、
何のあてもない。また
一から就職活動を始め
なくてはならないのだ
ろうか。

 どうしようもなくど
す黒い落ち込みが、今
の私を取り囲んでいる。

 会社からも恋人から
も求められていない私
なんて、もう、生きて
いても、仕方がない。


 多分、少し、錯乱し
てる。
 私はもう一本、タバ
コに火をつけた。最近
ストレスが溜まりまく
っていて、本数が増え
ている。
 また、ぼわっ、と、
辺りがオレンジ色に染
まった。

 足下には、私が持ち
込んだ大きなカートが
ある。店員は旅行にで
も行くのかと思うだろ
うけれど、この中には、
真っ赤な灯油のタンク
が入っている。
 どうしてこんなもの、
持ってきたのだろう。


 これを頭からかぶり、
ライターをつければ、
あっという間に、私な
んて、終わってしまう
のに、それは、やっぱ
りできない。まだ生き
てはいたい。

 とにかく疲れて、も
う、一歩も動きたくな
かった。歩き疲れて、
就職活動にも疲れて、
生きていくことに疲れ
て、今夜は、ただ、こ
こで、閉じこもってい
たい。

 ご利用時間は、と聞
かれて『ナイトパック』
を選んだ。
 夜十時から朝の六時
までの八時間パックで、
二千円。普通は一時間
四百円かかるので、か
なりオトクだ。

 部屋番号L‐11が、
今夜の私の居場所だっ
た。

 もう、疲れて動けな
かった。
 毛布を借りて、くる
まって、目を閉じる。

 寝る前に一応、携帯
でメールを確認した。
やっぱり、どこの会社
からも採用の連絡は、
なかった。

 あきらめて、とにか
く眠ることにする。リ
クライニングソファの
上で、ヘッドフォンで
音楽を聴きながら、現
実から離れようとする。
ネットラジオから流れ
てきたのは、セレブリ
バティの『ウィーアー
エブリシング』。せつ
ないバラードに浸りな
がら、瞳を閉じた。


 目を覚ました時には、
私の人生、少しでいい
から光が差しています
ように……。








 








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