畠中惠の『ちょちょら』から嘉祥菓子
【中古】 ちょちょら / 畠中 恵 / 新潮社 [単行本]【宅配便出荷】(文中敬称略)『しゃばけ』シリーズが人気の畠中惠に『ちょちょら』(2011.3.20新潮社)という小説があります。町人物が多い畠中にあっては、珍しく武家物。主人公は、間野新之助。時代設定は11代将軍家斉の時代です。新之助は兄の自害によって、播磨の国多々良木藩の江戸留守居役を仰せつかります。自害した兄は美男子、剣の使い手にして頭も良く、そのうえ人気者でした。なのに主人公は見た目も冴えなければ、頭の良さも、剣の腕も、小説中の言葉を借りるなら「平々々凡々々」という設定です。新之助の取り得は、真面目、真っ正直。この新之助を取り囲む脇役たちが、ヒトクセもフタクセもあるのです。なかでも久居藩(ひさいはん)の岩崎という人物キャラが秀逸。煮ても焼いても食えない曲者なのだけれども、実は温情派。そうした面々に囲まれて、新之助は多々良木藩にふりかかる難事に向かっていくというストーリーです。この小説を読むと、留守居役とは各藩の外交官なのだとわかります。外交ツールとして料理屋遊びが出て来ますが、この小説でカギとなる外交アイテムが和菓子なのです。クライマックスは、江戸城で6月16日に行われる「嘉祥の行事」。小説内では「嘉祥の祝い」として出て来ます。その部分だけ引用してみましょう。嘉祥の祝いは平安時代からあったらしい風習で、禁中で続けられていたという。三方ケ原の戦で破れた家康公が、嘉定通宝を拾い、大久保藤五郎が献上した菓子を口にしてから運が開けた事によって、今では吉例として、江戸城にても年中行事として続いている。p295小説に出て来る嘉祥菓子は、資料通りに大久保主水があつらえたもの。その中身はというと、これも引用しましょう。菓子には、長方形に平たく伸ばして切餅にした熨斗繰(のしくり)、平たく伸ばした麩である煮染麩(にしめふ)、串に刺した団子きんとん、しんこを練って平らにし、丸めたあずき餡をのせた阿古屋、しんこ菓子の寄水(よりみず)、大饅頭、それに鶉形の餅菓子鶉焼がある。p300寄水は、ねじった形のしんこ餅。鶉焼は、大福の前身です。小説『ちょちょら』は思わぬ結末で幕を閉じますが、それは読んでのお楽しみ!