台湾役者日記

2006/01/24(火)02:56

「たまゆらの(仮題)」(8)

創作物件(15)

(1) Previous←  食堂の奥にはもう一部屋狭い空間がある。女はそこを台所兼パントリーとして使っていた。向かって右側の壁に扉のない木製棚が打ち付けてあるが、部屋に踏み込んでみると、案の定、どの棚にも食器や食料品は見当たらなかった。棚には埃が積もっている。正面突き当たりの壁には窓があり、その下にタイルで化粧張りしたセメントの調理用シンクが作りつけられていた。近づいて覗き込むと、風呂場と同じで、まるでずいぶん以前から一滴の水も流されていないかのように乾ききっている。窓越しに見えるのは玄関前の庭から続く小さな空間で、砂利を敷き詰めてはあるがところどころに膝の高さくらいの雑草が生えていた。その空間の向こうには背の高い樹木が、手前ではまばらに、奥へ行くほど稠密に立ち並び、街へ向かう細い道はその樹木の間を縫ってだらだらと降りていくはずだった。  食堂に引き返し、玄関ホールを通って寝室に戻った。  寝室に入ると手前にベッドあり正面突き当たりに天井の高さまでの窓が開いている。厚手の白いブロードのカーテンがしきりにはためいている。右手壁際に据えられたベッドを通り過ぎて、カーテンを掻き分け、潮風に抗うようにしてバルコニーへ出た。正面から照りつける太陽が目に眩しい。逆光の彼方に山がちの陸が見えた。正面の陸地は向かって左に腕を伸ばし、ずっと左手を回り込んで、この家の建っているこの高台にまで伸びている。バルコニーの端まで寄ってみた。眼下に海面が見えた。海は右手の先で外洋へ通じており、いま目の下に広がっているのは、それほど大きくもない入り江である。 (つづく) →NEXT 改稿:2005年6月28日夜 改稿:2005年7月13日夜(部屋の配置変更w) 改稿:2006年1月23日夜

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