520122 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

碧山窟

里山を買うまで(9)

うめももさくら


「あんたが、カケルさんかよぉ~」
みぞれまじりの強風の中、タカさんは、バイクに乗って来ました。
私は、「立ち入り禁止」のチェーンをくぐって挨拶しまた。
「はい。カケルですぅ~」
「オレ、あんたの土地の隣なんだぁ。町内会長には話し聞いたぞ。
 物好きだなぁ。あんたも。そいで、境界の杭打つべ。来週どうだ。」
「いいぞぃ。来週なぃ。電話番号おせっからよぉ~。」
私は、子供の頃からぢぢばばと会話していたので、バイリンガルなのです。(笑)
パイクは10メートルぐらい走ったあと、ぐるっと戻ってきました。
「んでよお、立会人つけっからよぉ~。マーさんつうんだが、
 ちっと、きむづがすぃ人でよぉ。」
「あん~、マーさんがぃ。知(す)ってるよ。」
「なぬっ。おめ、マーさんと話ししたのげぇ!」

*

「10万出せ!」
彼は、山から材木運搬車を下ろして来ると、開口一番に言いました。
「オレは、前のヌシから木を買ったんだからなっ。」
寒いのに、興奮しきった顔から汗が流れています。
「そいづわこまったなっす。(それは困りましたネ。)」
私は切り株に腰を下ろしました。
村が一望に見渡せます。私は、運搬車の木にチラッと目をやりました。
「サクラとスデ(シデ)がぃ。いいナメコ出来るべなぁ。
すっかす、いい、眺めだなっし。」

「オメ、なんでナメコだって分かるんだ。」
「太さと長さだべ。サクラは15年ぐれぇだな。スデは30年だ。」
「・・・」
その後、また、繰り返しました。

「この木はオラのもんだからよぉ~。」
「わがったでば(わかりましたよ)。あたも被害者、オレも被害者、
まったく、血圧上がっちまうなぁ。(笑)。
とんでもねぇ売主だ。裁判すっからよぉ。立ち会ってけろ。
(立ち会ってくださいよねっ!)」

クスリのゴミは彼のものだと直感しました。

*

不動産屋に電話しましたよ。すぐにね。
あまり、いじめたら、高血圧の彼に気の毒です。
「木を切ってる人がいたんですけどねえ。契約書を読み直して、刑事事件か、民事事件か考えてみたんですよ。これって、どう考えても刑事事件だと私は思います。一週間以内に解決しなかったら、警察に行きますから、よろしく。」
3日目に電話が来ましたよ。
木の売買契約書もないし、領収書も無いってね。
ドサクサまぎれだったんでしょ。

でも、その翌週、私は彼の家に一升瓶を持っ行きました。
今後ともよろしくの軽い気持ちで。

「ごめんくださぁ~い!」
玄関の戸を開けると、ダウン症の少女がひとり、こたつにあたっていました。

オナガガモ

ハローワークは、正月あけだというのに、血走った目の人の群れでした。
私は、失業者になりました。人の群れは私を憂鬱にしました。
どうにか、こうにか、失業保険をいただける手順をふみました。
その後、通知が来て、病気のこともあったので、即失業保険が入って来ました。
また、暗黒の冬です。
3ヶ月の記憶はぜんぜんありません。
雪解けの雨がふるある日、突然電話がありました。
妻の教え子の父親からでした。
「相談に乗ってほしいんだが・・」

*

とある森林公園で、妻の教え子の父親に会いました。
その教え子はダウン症だったんです。

教え子は二十歳になっていました。

「社会福祉法人つくりたいんだが・・県から説明受けてよぉ。
 書類まとめられる人が、誰もいないんだわぁ。見本はあるんだけど。」
「定款、経理規程、人事規程集、管理規定集、事業計画、
法人審査か。そして国県協議だね。ぃぃよ。手伝うよ。」

学校法人にいたので、社会福祉法人規程の特殊性はするっと飲み込めました。
私は、ヘッダーに「Rev.0.01」とつけて、とある法人の規定集を見本にして、パタパタパタと、入力をはじめました。法人が認可されたら「Rev1.00」理事会で審議するときは。0.01から繰り上げて、県に提出したら、2.00.。NPO法人の規程もこの方法だと文書管理が楽です。

*

タカさん、マーさん、私と次男は、はぁはぁ、ぜぃぜぃと、山頂をめざしました。
「これがウリハダカエデだぞ。」
私は、次男に教えました。
「葉がねばるから、紙すきに使える。」
マーさんは、途中で休むと沢を指差しました。
「あそこにヤマワサビ。」
「こいつは。。コブシだな。」
私が言うと、二人は笑いました。
「んだ。北国の春よ。」
「さて、行くか。」

更に山頂をめざします。ピッケル持ってきてよかった。私は思いました。
木の根にピッケルをかけて登るのも藪こぎの基本です。
「これが境のマツだよ」
マーさんが言いました。

あや。。ま。。「鳩の屍骸が転がっています」
「オオタカいるんですね。」
二人は顔を見合わせて、「ハヤブサならなんぼでもいるがよぉ。」
サシバのあとにはオオタカかぁ。底知れないぞこの山。
頂上は意外に平坦でした。
私は、ソニーのGPSアンテナを出して、クリックしました。
次男とタカさんは、いっしょに杭を打ちました。

*

山から下りると、小屋の前で、次男と同年代の少女が木のチップを袋に詰めていました。その袋が特殊なフィルムだと、すぐわかりました。
マーさんは、「何してんだい。」と聞きました。
タカさんは、「キノコやってんのよぉ。冬だと温度管理が楽だから。」
「アオカビ入ったらダメになるからなぁ。空気は通すけど胞子は通さない特殊な袋なんだよね。タカさん。」
「なんで、おめぇ、そんなこと、知ってんの?」
「マイタケやったこと、あるから。。」
「ほんじゃ、よろしく。」
と、タカさんは、仕事にかかりました。
私が家に帰ろうとすると、マーさんがつぶやくように言いました。

「場所、ちょっと左にしといたらからな。」
私は頭を下げました。
山の「ちょっと」は、10メートル以上です。

*

規程集と事業計画というものは、かかわってはじめてわかります。
基本は、たくさんの失敗のうらがえしです。
私は、見本にはなかった、「苦情処理規程」をつくって追加しました。
それと、規程集はISO9000と14000に即、対応できるようにしておきました。
「授産」が始まって知的障害者でも理解できるように。

*

また、仕事が来ました。
長男のPTA役員会で、ばったり会いました。
かつて、私が学校法人にいたときの出入り業者の人です。
MS-DOSがまだなかった時代にパソコン関係でおつきあいしてました。
「実は、人生方向転換しましてねぇ。。」

彼は、とある学校法人の名刺を出しました。
肩書きは「事務長」
「遊びにおいでよ。」


遊びに行きたい人はクリックしてね。

人気blogランキングへ!!


© Rakuten Group, Inc.