里山を買うまで(9)「あんたが、カケルさんかよぉ~」 みぞれまじりの強風の中、タカさんは、バイクに乗って来ました。 私は、「立ち入り禁止」のチェーンをくぐって挨拶しまた。 「はい。カケルですぅ~」 「オレ、あんたの土地の隣なんだぁ。町内会長には話し聞いたぞ。 物好きだなぁ。あんたも。そいで、境界の杭打つべ。来週どうだ。」 「いいぞぃ。来週なぃ。電話番号おせっからよぉ~。」 私は、子供の頃からぢぢばばと会話していたので、バイリンガルなのです。(笑) パイクは10メートルぐらい走ったあと、ぐるっと戻ってきました。 「んでよお、立会人つけっからよぉ~。マーさんつうんだが、 ちっと、きむづがすぃ人でよぉ。」 「あん~、マーさんがぃ。知(す)ってるよ。」 「なぬっ。おめ、マーさんと話ししたのげぇ!」 * 「10万出せ!」 彼は、山から材木運搬車を下ろして来ると、開口一番に言いました。 「オレは、前のヌシから木を買ったんだからなっ。」 寒いのに、興奮しきった顔から汗が流れています。 「そいづわこまったなっす。(それは困りましたネ。)」 私は切り株に腰を下ろしました。 村が一望に見渡せます。私は、運搬車の木にチラッと目をやりました。 「サクラとスデ(シデ)がぃ。いいナメコ出来るべなぁ。 すっかす、いい、眺めだなっし。」 「オメ、なんでナメコだって分かるんだ。」 「太さと長さだべ。サクラは15年ぐれぇだな。スデは30年だ。」 「・・・」 その後、また、繰り返しました。 「この木はオラのもんだからよぉ~。」 「わがったでば(わかりましたよ)。あたも被害者、オレも被害者、 まったく、血圧上がっちまうなぁ。(笑)。 とんでもねぇ売主だ。裁判すっからよぉ。立ち会ってけろ。 (立ち会ってくださいよねっ!)」 クスリのゴミは彼のものだと直感しました。 * 不動産屋に電話しましたよ。すぐにね。 あまり、いじめたら、高血圧の彼に気の毒です。 「木を切ってる人がいたんですけどねえ。契約書を読み直して、刑事事件か、民事事件か考えてみたんですよ。これって、どう考えても刑事事件だと私は思います。一週間以内に解決しなかったら、警察に行きますから、よろしく。」 3日目に電話が来ましたよ。 木の売買契約書もないし、領収書も無いってね。 ドサクサまぎれだったんでしょ。 でも、その翌週、私は彼の家に一升瓶を持っ行きました。 今後ともよろしくの軽い気持ちで。 「ごめんくださぁ~い!」 玄関の戸を開けると、ダウン症の少女がひとり、こたつにあたっていました。 ハローワークは、正月あけだというのに、血走った目の人の群れでした。 私は、失業者になりました。人の群れは私を憂鬱にしました。 どうにか、こうにか、失業保険をいただける手順をふみました。 その後、通知が来て、病気のこともあったので、即失業保険が入って来ました。 また、暗黒の冬です。 3ヶ月の記憶はぜんぜんありません。 雪解けの雨がふるある日、突然電話がありました。 妻の教え子の父親からでした。 「相談に乗ってほしいんだが・・」 * とある森林公園で、妻の教え子の父親に会いました。 その教え子はダウン症だったんです。 教え子は二十歳になっていました。 「社会福祉法人つくりたいんだが・・県から説明受けてよぉ。 書類まとめられる人が、誰もいないんだわぁ。見本はあるんだけど。」 「定款、経理規程、人事規程集、管理規定集、事業計画、 法人審査か。そして国県協議だね。ぃぃよ。手伝うよ。」 学校法人にいたので、社会福祉法人規程の特殊性はするっと飲み込めました。 私は、ヘッダーに「Rev.0.01」とつけて、とある法人の規定集を見本にして、パタパタパタと、入力をはじめました。法人が認可されたら「Rev1.00」理事会で審議するときは。0.01から繰り上げて、県に提出したら、2.00.。NPO法人の規程もこの方法だと文書管理が楽です。 * タカさん、マーさん、私と次男は、はぁはぁ、ぜぃぜぃと、山頂をめざしました。 「これがウリハダカエデだぞ。」 私は、次男に教えました。 「葉がねばるから、紙すきに使える。」 マーさんは、途中で休むと沢を指差しました。 「あそこにヤマワサビ。」 「こいつは。。コブシだな。」 私が言うと、二人は笑いました。 「んだ。北国の春よ。」 「さて、行くか。」 更に山頂をめざします。ピッケル持ってきてよかった。私は思いました。 木の根にピッケルをかけて登るのも藪こぎの基本です。 「これが境のマツだよ」 マーさんが言いました。 あや。。ま。。「鳩の屍骸が転がっています」 「オオタカいるんですね。」 二人は顔を見合わせて、「ハヤブサならなんぼでもいるがよぉ。」 サシバのあとにはオオタカかぁ。底知れないぞこの山。 頂上は意外に平坦でした。 私は、ソニーのGPSアンテナを出して、クリックしました。 次男とタカさんは、いっしょに杭を打ちました。 * 山から下りると、小屋の前で、次男と同年代の少女が木のチップを袋に詰めていました。その袋が特殊なフィルムだと、すぐわかりました。 マーさんは、「何してんだい。」と聞きました。 タカさんは、「キノコやってんのよぉ。冬だと温度管理が楽だから。」 「アオカビ入ったらダメになるからなぁ。空気は通すけど胞子は通さない特殊な袋なんだよね。タカさん。」 「なんで、おめぇ、そんなこと、知ってんの?」 「マイタケやったこと、あるから。。」 「ほんじゃ、よろしく。」 と、タカさんは、仕事にかかりました。 私が家に帰ろうとすると、マーさんがつぶやくように言いました。 「場所、ちょっと左にしといたらからな。」 私は頭を下げました。 山の「ちょっと」は、10メートル以上です。 * 規程集と事業計画というものは、かかわってはじめてわかります。 基本は、たくさんの失敗のうらがえしです。 私は、見本にはなかった、「苦情処理規程」をつくって追加しました。 それと、規程集はISO9000と14000に即、対応できるようにしておきました。 「授産」が始まって知的障害者でも理解できるように。 * また、仕事が来ました。 長男のPTA役員会で、ばったり会いました。 かつて、私が学校法人にいたときの出入り業者の人です。 MS-DOSがまだなかった時代にパソコン関係でおつきあいしてました。 「実は、人生方向転換しましてねぇ。。」 彼は、とある学校法人の名刺を出しました。 肩書きは「事務長」 「遊びにおいでよ。」 遊びに行きたい人はクリックしてね。 人気blogランキングへ!! |