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2020年08月22日
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カテゴリ:山口素堂資料室

山梨の俳諧『農おとこ』五味可都里編

 

 池原錬昌氏著『可都里と蟹守』「五味家蔵」より 

一部加筆 山口素堂資料室

 

山梨県立図書館甲州文庫蔵。請求番号、甲4338。半紙本刊本一冊。二二・六×一五・九糎。原表紙、砥粉色、菊花文。

中央に原題藁。無辺「農おとこ」。内題、「俳話農男集」、また序文中に「のうをとこ(といへる小冊子…)」とある。丁数、一七丁半(奥付半丁含)。板外(ノド)左端下部に丁付、第四丁から十八丁まで、「四…十六」(第一~四丁は丁付確認できず。奥書「天明ハのとし五月にえらぶ/甲斐の国雪亭可都里。刊記「京菊舎」。天明八年、闌更序。印記「甲州文庫(朱・陽)等。巻頭、序につづいて「のうをとこのことば」と題する文章あり。見返に書入「羽田氏/自明[印]

[印]」。可郡里編の俳請撰集。巻頭には富士を詠んだ発句・脇を集め、その他、闌更らと巻いた歌仙二巻と、各地の俳人の発句を収める。農男とは、麥刈の頃、富士山に消え残った雪が、笠をかぶり鍬を持った男のように見えることをいい、この時期田植えをすることが習わしであるという。

農おとこ

はなたちばな、よもに、ほひ、ほとゝぎすまつ日数かさなりつゝ、不尽のゆきしらまだらになりゆきけるを、このほとりの人々農男となんよびはべるよし。ことの趣は鶏鳴舘のあるじなる人つぶさにふみ筆にしるし、それに俳諧のほ句・連句をつぎて、のうをとこといへる小冊子なれりける。実や此をのこのかたち、たゞしくあらはるゝより、月に花に人のこゝろもとけわたりぬる、めでたきのうをとこなりければ、ともにほざごとすとて、よしなしごとをぞかいつけける。

天明八戊申年五月             半化坊

 

俳諧農男集 のうをとこのことば

天の原富尽の高嶺しいつはあれど、田長鳥の声まち、麦かり初る頃ほひしも、そがひの雪のむら消のこりたるくまびに、ひきかたの大のたくみのおのづからなる人がたの、さすがにかしらには、小笠と見ゆるものなんうちかゝぶり、真手には鍬やうのものとりもたらむさま、ほのかにに顕はるなりけり。其あらはるゝときぞ、田をうゝるにときをうるとて、それを此さとらのならはせに、農男となんいとふるきよぞいひ継もてはやしける。実やとよどしのみつぎもの、望月のたらばひゆかんさいつさがをしもこの高嶺のみゆきにたぐひ、称へいふ事にかはあるにこそありけれめ。

                        

不尽のねや皐月足る雪をとこ    可都里

   雨ぬれをとめ野は田うゑ笠    蘭更

にほひよき抽の長者に餌場て    咲為

   靱の煤をうちはらひけり     漢甫

朝の月遂江鈴の音は譯       むつ女

   霧はれわたり鶴ならび居る    

  (下略)

 

入集 白州町(北杜市)の俳人抜粋

  六月や声あるうちをほとゝぎす   台ケ原 台珉(だいみん 北原)

  葉ざくらや水の底なる薄みどり   台ケ原 竹山(ちくざん 不明) 

 

【註】台珉――台ケ原醸造屋七賢 北原氏

可都里 諸家文通発句集 寛政四年(1792

 二月朔日出文通

 教来石 塚原彦兵衛

  雨晴て山の笑ひを見る日哉

 

 霜月十九日出文通同二十三日着

 教来石 塚原彦庵

  霜の上に寝て居て動く乞食哉    甫秋

 

【註】

可都里 諸家文通発句集 寛政八年(1796

  山里や包むものなき冬の月     台珉

 

可都里 諸家句集 年不詳

 馬城(長坂町)

  我が宿の月も疎からず山さくら

  うかがふや筆は浮舟のほとゝぎす

  人なみの月夜也けり草の庵

  四方からけしき攻め鳧庵の言

  名どころは家のちいさし雪の暮

 甫秋(白州町)

  明ぬよの嬉しかり鳧春の雨

  凉しさや角も篤ほどの松なれど

  いかな夜も風にあふ也啼衛

  朝□によいふし見ゆる在所哉

  かげ膳のすはる朝也初しぐれ

  夕浪もわするゝ空やかんこ鳥

 

可都里追善集 花之跡 蟹守編

文政六年(1823

我伯父雪亭葛里、今年七十あまり克とせの秋の月をかぎりの詠として、のこれる萄の香を記念にとゞめ、文もかよはぬ仲山界の人となり給ひぬ。おのれいと若かりしより、朝ゆふにつかへ侍りて、こゝろの浅茅つばらにこと、ひしつゝこゝらのとし月を過ぬ。今はその聞えさへむなしき床のまくら辺に、涙の淵をなして

  櫂をてたのむかげなし秋の水   蟹守

五十七日にあたれる日、泉の精舎に斉会(ヲカミ)のむしろをまうけ、各々香を捻りて

(以下俳諧百韻略)

  くれないの水もゆるばかりや桃の国 五町田(高根町)万志良

  明ぬ夜のうれしかり鳧春の雨    教来石(白州町)甫秋

 

杖廼跡(つえのあと) 蟹守編 

文政三年(1820)~四年 広島までの西国旅行・信越関東の旅。

信州から帰国の折り

 九月八日

八日、朝より雨ふり、四ツ過より大ぶりにて風吹き、上諏訪出立頃よりは、しきりに降あれ、合羽も通し、郷戸原などにては、合羽も風にとらるゝばかり也。七ツ過、教来石(白州町)に着。甫秋(塚原)にやどる。

 

九日、教来石を出立。きのふの雨晴らに晴、台ケ原の駅を出て、日頃見なれし富士を望むに更に見へず。かゝる晴天にいかなれば見へぬなど、ひとりごちしてしばらく行くに、ふと見出しければ、

雲か雪か中空に見ゆ不尽の山

かくて其日は、韮崎に泊りて、懇十日、目出度帰国也。云々

 

(中略)

 良夜

ひとゝせの面おこすやけふの月

名月や居えて置たき露の上

弄ぶ人しりがほに月ぞ照る

 信陽に旅寝しながら、嫉捨の月見はづしければ

十六夜の間もおもひやる三十里

いざよいといふ隙にはや月の人

鳴るはづのなることで鳴る月夜哉

膝つきもぬるゝばかりぞ雁の声

 里風亭にて 探題

踏出して詠めはせねど秋の暮

目白などかよふ柞(ははそ)のもみぢ哉

荻の声わするゝ折や遠砧

鹿鳴や長月の夜もなきやうに

 石鳴亭 探題

心して片々へ飛螽(いなご)かな

蔦ひらひらさらでも蔦は秋の物

川ぎりや我を離れて人へ行く

 

台ケ原の駅を出るに、きのふの雨晴らに晴、日頃見馴し不尽(富士)を望むに更に見へず。いかなればかゝる晴天に見へぬことやはあるとひとりごちして、しばらく行くに、漸見出しければ

雲か雪か中空に見ゆ不尽の山

 






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最終更新日  2020年08月22日 08時33分48秒
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