カテゴリ:柳田国男の部屋
柳田先生礼讃 F・H・メーヤ
定本 柳田国男集 月報 2 昭和37年2月 筑摩書房 一部加筆 山梨県歴史文学館
柳田先生の定本巣第八巻についてなにか文章を書くように頼まれました。この本には次の作品がはいっています。 「桃太郎の誕生」「女性と民間伝承」「童話小考」「昔話を愛する人に」「昔話のこと」 いつも自分の研究が不足だと思っているのに、今、こんな大切なおたのみを受けて、これまでの勉強が非常に浅かったことを惑じます。柳田カ生から御指導を数年間受けながら、すぐれた研究発表をしている婦人力の中の一人としてではなく、ただこれから新たに、真面目に勉強をしようという気持をもつ者として一言述べます。 この気持、これからもっと真面目にいろいろ考えてみたいという望みを。三十年前にはじめて「女性と民間伝承」を読み終った多くの婦人達ももったに違いないと思います。この本は特に婦人のために、何百年も前から知られている和泉式部について主に書かれています。西洋の歴史や伝説にはこのような女の人は一人もあらわれません。 その名前はお寺の伝説や石についての話、民謡、あるいは歌の本などの中に出てきます。一人で全国をめぐり歩いたか、又は一人の美しい娘をつれて歩いたか、こういう問いにははっきりした答えが出来ませんが、たしかに彼女の美しい姿と歌は日本の隅から隅まで知られています。あるときはその名前は弘法大師の名前と一緒に出ますが、ある場合には尼となっています。ときには占いをする女中おそろしい山姥ともなってあらわれます。 伝説は越後の瞽女の形で旅をし、四、五目農家に泊って夜は歌をうたい、村め若衆を楽しませたりしましたが、彼女の本当の墓は京都にあるきれいな石塔だということです。 柳田先生がどれほど女の人達について深く考えられたか、この本の中の沢山のこまかい事がらによってよくわかります。もっと大事なことは、昔からの日本人の生活と民間伝承の中で女の人が特別の地位をもっていることです。この本を読むと女の世界の多くの問題に気がつきます。 「昔話研究」という雑誌に九回ほど続いた「童話小考」は、昔話の研究をする人にとって一番助けとなる材料です。これを読まなければ「猿婿入」話と、ある他の話、例えば「大蛇に嫁ぐもの」、「姥皮と蛙報恩」、「鴛の卵と桃の酒」、との関係がわかりません。この研究によって一つの話が沢山の形に変化し、又、広く分布していることがわかります。 同じ頃に書かれた「昔話を愛する人に」は、昔話採集の目的と技術について非常にはっきりした指導を示された文章です。実際に採集を志す人々に対して、先生は注意深い指導を与え、激励されています。 「桃太郎の誕生」の中でも又、一つの昔話を中心とし、多くの話との関憬を説明していられます。即ち桃太郎譚と「海神小童」「瓜子織姫」「田螺(たにし)長者」「鄰の寝太郎」や、和泉式部の伝説も含めたいろいろの話に関する研究です。これ以前にも先生は昔話と信仰の関係について触れておられますが、ここでははっきり昔話を民間信仰に結びつけられました。 この第八巻の中で一番後で書かれたものは「昔話のこと」です。たしかにこれは昔話について最も力強く述べられたもので、先生の昔話に対する愛、昔話研究の世界的視野、又、それによって人類の歴史についての知識を広げる希望、をみることが出来ます。「日本昔話名集」は日本の研究者のために書かれた本ですが、既に外国の学者にも知られています。この本を読んで特に日本の昔話を愛する気持が起るかどうかわかりませんが、たしかにこの内容をみれば日本は昔話の宝に富む国であることが知られ、この熱意ある序文によって昔話研究につくす力と信念を与えられます。 (上智大学教授)
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最終更新日
2021年03月28日 16時55分48秒
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