山梨県歴史文学館 山口素堂とともに

2021/04/03(土)18:39

河合曽良 『奥の細道』俳諧書留

俳人ノート(51)

河合曽良 『奥の細道』俳諧書留  *室八嶋 絲遊に結つきたる煙哉        翁 あなたふと木の下暗も日の光     入かゝる日も程々に春のくれ 鐘つかぬ里は何をか春の暮 入逢の鐘もきこえず春の暮    三佛開山佛光國師佛國ゝ佛應ゝ   雲岩寺十景     五橋     三井   海岩閣 竹林    獨木橋     神龍池   十梅林 龍雲洞   瑞雲ゝ     都寺泉   玉几峯 鉢盂峯   瓜 ゝ     岩虎井   水分石 千丈岩   涅槃ゝ   飛雲亭 玲瓏岩   梅船ゝ  *四月五日、奈須雲岩寺ニ詣で  仏頂和尚旧庵を尋   木啄も庵は破らす夏木立       翁  翁に供せられて、雲岩寺遊ふ。茂りたる山の入口より清冷たる川ニ遊ひて、三町斗歩て山門ニ至ル。鉢盂峯、龍雲洞、千丈、玲瓏ノ岩、五橋、三井、総而かんのうこかさゝる所なし。 物いハで石にゐる間や夏の勤秋鴉主人の佳景に対す 山も庭にうごきいるゝや夏ざしき 浄坊寺図書何がしは、那須の郡黒羽のみたちをものし預り侍りて、其私の住ける方もつきづきしういやしからず。地は山の頂にさゝへて、亭は東南のむかひて立り。奇峯乱山かたちをあらそひ、一髪寸碧絵にかきたるやうになん。水の音鳥の声、松杉のみどりもこまやかに、美景たくみを尽す。造化の功のおほひなる事、またたのしからすや。 * 東山雲岩寺満藏山 夢想國師開記 山深み昼くるだにもさびしきに      よる人やある白糸のたき みそ山 ひたち・下野・みちのくのさかい ことや あやをりが池 歌有。 無常野 知田川 いつな山 つくは山  しら川の關やいづことおもふにも、先、秋風の心にうごきて、苗みどりにむぎあからみて、粒々にからきめをする賤がしわざもめにちかく、すべて春秋のあはれ・月雪のながめより、この時はやゝ卯月のはじめになん侍れば、百景一ツをだに見ことあたはず。たゞ声をのみて、黙して筆を捨るのみなりけらし。 田や麦や中にも夏時鳥  元禄二孟夏七日    芭蕉桃清  黒羽光明寺行者堂 夏山や首途を拝む高あした      翁    同 汗の香に衣ふるはん行者堂はせをに鶴絵がけるに 靏鳴(サン)や其声に芭蕉やれぬべし  翁 鮎(同)の子の何を行衛にのぼり船  高久角左衛門ニ授ル みちのく一見の桑門、同行二人、なすの篠原を尋て、猶、殺生石みんと急侍るほどに、あめ降り出ければ、先、此処にとゞまり候。 落くるやたかくの宿の時鳥      翁 木の間をのぞく短夜の雨       曾良  元禄二年孟夏   蠶する姿に残る古代哉        曽良 奥州岩瀬郡之内須か川相楽伊左衛門ニテ 風流の初やおくの田植歌       翁  覆盆子を祈て我まうけ草      等躬     水せきて晝寝の石やなをすらん    曽良   雛に鮇の聲生かす也 翁    (かじか・鰍)一葉して月に盆なき川柳       等  雇うやねふく村そ秋なる      曽良賤の女か上総念佛に茶を汲て     翁  世をたのしやとすゞむ萱もの    等有時は蝉にも夢の入ぬらん      曽良      楠の小枝に戀をへたてゝ      翁恨ては嫁か畑の名尽にくし      等 霜峰山や白髪おもかけ       曽良酒盛は軍を逍ゐ闘に来て       翁  秋をしル身とものよみし僧     等更ル夜の壁突破る鹿の角       曽良  鳥のお伽の泣ふせる月       翁色々の祈りを花にこもりゐて     等  かなしき骨をつなく糸遊      曽良山鳥の尾にをくとしやむすぶらん   翁  芹堀はかり清水つめたき      等薪引雪車一筋の跡有て        曽良  をのをの武士の冬寵る宿      翁筆とらぬ物ゆへ戀の世にあはす    等  宮にめされしうき名はつかし    曽良手枕にほそき肱をさし入て      翁  何やも事のたらぬ七夕       等住かへる宿の柱の月を見て(よ)   曽良  薄あからか六條の髪        翁切樒(しきみ)枝うるさゝに撰残し  等  太山つくこの聲そ時雨るゝ     曽良さびしさや湯守も寒くなるまゝに   翁  殺生石の下はしる水        等花遠き馬に遊行を導て        曽良  酒のまよひのさむる春風      翁六十の後へそ人の正月なれ      等  蠶飼する屋に小袖かさなる     曽良 天 元緑二年卯月廿三日 みちのくの名所々々、こゝろにおもひをこめて先せき屋の跡なつかしきまゝにふる道にかゝりいまの白河もこへぬ  早苗にも我色黒き日数哉      翁岩瀬の郡すか川の駅に至れは乍単齋等躬子を尋ねてかの陽關を出で故人に逢なるへし  上 発句前ニ有  同所 桑門可伸のぬしは栗の木の下に庵をむすべり。傳聞、行基菩薩の墓の古西に縁ある木成と、杖にも柱にも用させ給ふとかや。隱栖も心有さまに覺て、弥陀の誓もいとたのもし。 隱家やめにたゝぬ花を軒の栗     翁 稀に螢のとまる露艸        栗齋切くつす山の并の并は有ふれて    等躬 (并の并 井の井?)畔つたひする石の棚はし       曾良 歌仙終略ス。連衆(等雲・深竿・素蘭以上七人)  須か川の駅ゟ東二里はかりに、 石河の瀧といふあるよし、行きて見ん事をおもひ催し侍れは、此の比の雨にみ(水)かさ増りて川を越すかなはすといゝて止けれは さみたれは瀧降りうつむみかさ哉   翁   (さみたれ=五月雨) 案内せんといはれし等雲と云人のかたへかきてやられし藥師也。この日や田植の日也と、めなれぬことをふれを有りてまうけせられけるに、 旅衣早苗に包食乞ん。        ソラ 志ら河 誰人とやらん、衣冠をたゝしてこの關をこえ玉フと云事、清輔が袋草紙に見えたり。 上古の風雅、誠にありがたく覺へ侍て、  卯花をかざしに關のはれぎ哉     曾良 須か川の連衆 矢内彌一衞門 素蘭 吉田祐碩 等雲 内藤安衞門、深竿。釋可伸 栗齋。 外 太田庄三郎旅衣早苗に包食乞ん□たかの鞁あやめ折すな       翁夏引の手引の青草くりかけて      等躬やうを又習けりかつミ草       等躬 市の子どもの着たる細布       ソラ日面に笠をならぶる涼して       翁 芭蕉翁、ミちのくに下らんとして、我蓬戸を音信て、猶白河のあなたすか川といふ所にとゞまり侍ると聞て申つかはしける。   雨晴て栗の花咲跡見哉         桃雪    いづれの草に啼おつる蝉       等躬   夕食喰賤が外面に月出て        翁    秋來にけりと布たくる也       ソラ西か東か先早苗にも風の音       翁 我色黑きと句をかく被直候。白河、何云へ。   關守の宿をくいなにとをふもの     翁泉や甚兵へニ遣スの發句       □□ (册尺一枚、前ノ句。) 中將實方の塚の薄も、道より一里ばかり左りの方にといへど、雨ふり、日も暮に及侍れば、わりなく見過しけるに、笠嶋といふ所にといづるも、五月雨の折にふれければ、 笠嶋やいづこ五月のぬかり道      翁 (册尺二枚、前ノ句。) しのぶの郡、しのぶ摺の石は、茅の下に埋れ果て、いまは其わざもなかりければ、風流のむかしにおとろふる事ほいなくて、(加衞門加之ニ遣ス。) 五月乙女にしかた望んしのぶ摺      翁 大石田、高野平右衞門亭ニテ 五月雨を集て凉し最上川        翁 岸にほたるつなぐ舟杭        一榮爪畠いざよふ空に影待て        ソラ 里をむかひに桑の細道        川水うしの子に心慰む夕間暮        一榮 水雲重しふところの吟        翁佗笠を枕にたてゝ山颪         川水 松むすひをく國の境め        ソラ永樂の舊き寺領を戴て         翁 夢とあはする大鷹の紙        一榮たき物の名を曉とかこちたる      ソラ 爪紅うつる双六の石         川水卷揚る簾にちごの這入て        一榮 煩ふ人に告る秋風          翁水かはる井手の月こそ哀なれ      川水 碪打とて撰ミ出さる         ソラ花の後花を織する花莚         一榮 ねはんいとなむ山陰の塔       川水穢多村はうき世の外の春富て      翁 刀狩する甲斐の一亂         ソラむくら垣人も通らぬ關所        川水 もの書く度に削る松の木か      一榮星祭ル髪は白毛のかるゝ迄       ソラ 集に遊女の名をとむる月       翁鹿苗にもらふもおかし塗足駄      一榮 柴賣に出て家路忘るゝ        川水ねむた咲木陰を晝のかけろいに     翁 たえたえならす万日のかね      ソラ古里の友かと跡をふりかへし      川水 ことは論する船の乘合        一榮雪みぞれ師走の市の名殘とて      ソラ 煤掃の日を草庵の客         翁無人をふるき懐紙にかぞへられ     一榮 やまめからすもまよふ入逢      川水平包明日も越べき峯の花        翁 山田の種を祝ふ村雨         ソラ  立石の道みてまゆはきを俤にして紅花        翁  立石寺 山寺や石にしミつく蝉の聲       翁新庄御尋ねに我宿せはし破れ蚊や      風流  はしめてかほる風の薫物       芭蕉菊作り鍬に薄を折添て         孤松  霧立かへす虹のもとすえ       ソラそゝろなる月に二里隔てけり      柳風  馬市くれて駒むかへせん       筆すゝけたる父か弓矢をとり傳      翁  筆こゝろミて判を定る        流 梅かさす三寸がやさしき唐瓶子     良  簾を揚てとをすつはくら       如柳 三夜サ見る夢に古郷のおもはれし    木端  浪の昔聞島の墓はら         風 雪ふらね松はをのれとふとりけり    柳  荻踏しける猪のつま         翁 行盡し月を燈の小社にて        松  疵洗うはんと露そゝくなり      端 散花の今は衣を着せ給へ        翁  陽炎消る庭前の石          八楽しミと茶をひかせたる春水      流果なき蝶に長きさかやき       端袖香爈煙は糸に立添て         風  牡丹の雫風ほのか也         柳老僧のいて小盃初んと         翁  武士乱レ入東西の門         良白鹿も鳴なる奥の原          端  羽織に包む茸狩の月         流秋更て捨子にかさん菅の笠       柳  うたひすませるミのゝ谷くミ     翁乗放牛を尋る夕間夕暮れ        風  出城の裾に見ゆるかがり火      端奉る供御の肴も疎にて         翁  よこれて寒き禰宜の白張       流ほりほりし石のかろとの崩たり     風  知らさる山に雨のつれづれ      柳    咲きかゝ花を左に袖敷きて       端  鶯かたり胡蝶まふ宿         良 風流亭水の奥氷室尋ねる柳裁         翁  ひりかほかゝる橋のふせ芝      風流風渡る的の變矢に鳩鳴て        ソラ 盛信亭風の香を南に逼し最上川        翁   小寒の軒を洗ふ夕立        息 柳風物もなく麓は露に埋て         木端翁 雲の峯幾つ崩レて月の山 涼風やほの三ケ月の羽黒山 語られぬ湯殿にぬらす袂哉 月山や鍛冶か跡とふ雪清水       曽良錢踏て世を忘れけり湯殿道    三日月や雲にしらけし零峰

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