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2021年05月02日
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カテゴリ:飯田蛇笏の部屋

蛇笏の文学と風土 蛇笏の通人的側面 対談 飯田龍太&上田三四二

 

『俳句』四月号 角川書店 昭和五五年

 

一部加筆 山梨県 山口素堂資料室

 

上田 「なつやせや」というのがありますね。

「なつやすや死なでさらへる鏡山」。大正四年の作。

これなんぞは万太郎の世界かもしれない。これは詞書があるんですね、なんか老妓と再会してとい

うのが。老妓ってほんとかツって。(笑)いささか韜晦があるんじゃないかという気もするくらいなんだけど。夏やせでしよ。老妓じゃなくて労咳の若い妓じゃないか……。(笑)これもね、ぼくは好きな句で、蛇笏としては余り言われない方の句なんですね。

蛇笏といえば結局「岩ふすま」とか「連山」でしよ。それは確かにそのとおりで、間違いないんですけれども。しかし同時に、蛇笏の半面として、そういう言葉が適当かどうかわかりませんが、ぼくは蛇笏には一種の通人といったところもあったと思うんですよ。

 

 飯田 ああ、それは上田さんが初めておっしゃった。批評家は言わないわ、それ。誰も言わないの。わたしも息子だから親孝行のために、(笑)あえて口をつぐんでおるんだけども。

 

 上田 いゃ、男として大いに名誉なことですよ。(笑)でも、そうですね……。

 

 飯田 当人にも聞きませんがね、若いころはけっこう遊びやりましたでしようね。それは、弟の森武臣が、富国生命の、兄貴もその方面はまんざらでもなかっただろうということを言っています。その通りだと思いますよ。

 

 上田 初期に

「閨怨のまなじり幽(くら)し野火の月」

というのがあって、それはいわば蛇笏の暗い情熱のチロチロするような、そういうものが出ているし。それから晩年ので、これは好きな句だけれども、「秋冷の」でしたが、「まなじりにあるみだれ髪」っていうのね。それなんかも、割合距離を置いたようなところで、しかし非常によく見ている。先ほどの「扇さす」とよく似たようなところなんですね。はじめの「野火の月」とか、その辺の句は、それと通人ということとは必ずしも一致しないので別のことかもしれませんけ

ど、割合閔房の句がある、蚊帳によせてよく詠んであります。そういうところなども先ほどの堀口先生じやありませんけど、一種こう、押えているというのか、なんか非常に強い、暗い情熱があっ

て、それがやっぱり詩人の一つの条件じゃないかと思うんです。そしてその非常に強いものが、結局「岩ふすま」とか「連山」にまでいく。なぜ、どうして、そういうふうに「岩ふすま」とか「連山」までいくかというと、そういう暗い情熱が、風土というか、山とか岩とか、そういうものに浄化されて、そこへ出ていくときに蛇笏の本領が発揮されるんじゃないかと。そういうふうにぼくは理解したいんです。その暗い情熱というのは、それをどけては、蛇笏の大事なものがやはり欠けてしまうと思うんです。

 

 飯田 上田さんの今おっしやったことはね、ここに蛇笏が生きておったら、照れるでしようが、雲の上だと莞爾たる笑みを漏らすでしようね。

 

 上田 いやどうも……。

 

 飯田 そういう観点での蛇笏鑑賞というものは、今まで余り見かけておりませんね。

 

 上田 たとえば鵜の句がずいぶんありますね、あれはどんなふうにお考えになりますか。

 

 飯田 蛇笏の好奇心だと思ってる。

 

 上田 なるほど。ついでにお聞きしますが、蛇笏は謡曲をやられましたか。

 

 飯田 やらないです。

 

 上田 そうですか。鵜の、長良川の一連がありますね。あれを読んだとき、これは謡曲の「鵜飼」ですね、日本の伝統的なああいう一つの罪の世界、殺生の世界、そういうものを……。

 

 飯田 これは上田さん指摘なさったけれども、その鵜飼、例の謡曲の鵜飼というのはきよういらっしゃった石和の鵜飼山というあの寺がこのすぐ近く。それについての知識はもちろんあるわけだから。

 

 上田 あれは石和でしたか。

 

 飯田 石和です。始終そこへはいっておったから。

 

 上田 それじゃ知識はあるわけだ。

 

 飯田 ええ。謡曲全般についての知識があったかどうかは、わたしはつまびらかでないけれども、少なくとも鵜飼のイメージが長良川一連の「荒鵜」その他「月の穢に鳴く」とかいう作品ですね。あれには一つの、おたしは好奇心ということを軽率に言ったけれども、しかし好奇心以上のものがありますね。ある意味で妖気が漂うような……。

 

 上田 鵜の句には全般に、今おっしゃった

「三伏の月の穢に鳴く荒鵜かな」

というのはもうちよっと初期の句ですけど、そこにすでに、そういう妖気みたいのがあって、そのあと長良川の一連が何年か後にありましてね。

 

 飯田 「鵜舞のおとろへて曳くけむりかな」なんて……。

 

 上田 それから「篝火の翳(かげ)疲れ鵜に瞬(またた)けり」、ぼくは好きな句です。

 

 飯田 非常に興奮して作っています。

 

 上田 そうです。そうです。実に強いですよ。

 

 飯田 事実は賑やかな観光の舞台なんですが、読んでみると蛇笏の周辺に人を感じないでしよ。

 

 上田 感じませんね。実際はなんか、賑やかな……。

 

 飯田 ええ。花火上げたり……、表われてくる作品のような陰々戚々たる風景ではないわけです。

 

 上田 そうです。陰々滅々たる、修羅と罪業の世界です。そこには盆花が流れてくるというような句があって、それは昼間の句ですけど、そこで一つ雰囲気が出ていて、そして夜になって鴨が魚を取って、それを非常に陰々滅々とした形で歌って、最後に篝火が消えて、スッと舞台が終わるというような、そういう世界ですね。あそこにも蛇笏の非常に強いものが出ていて、ぽくは蛇笏をはじめて読んだときに印象に残ったのがこの鴨の句なんです。

 

 飯田 なるほど。あの鴨の句については余り……。

 

 上田 余り言われてないようですね。

 

 飯田 ということは、「連山」の方に蛇笏に対する鑑賞の目が。しかしね、今おっしやられたような意味合いからすると

「南無鴨川盆花ながれかはしけり」

という句など、かなりうまい句だと思いますね。「南無」という言葉などは、ご指摘のような要衝がないと、ただ言葉の面白さだけでは生れてこない。

 






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最終更新日  2021年05月02日 10時30分25秒
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