山梨県歴史文学館 山口素堂とともに

2021/09/03(金)06:51

防人の歌 信濃紀行文・詩歌集 東歌 『萬葉集』より

防人の歌 信濃紀行文・詩歌集 東歌 『萬葉集』より 『甲府だより』伊藤良氏著 昭和62年   一部加筆 山口素堂資料室 韓衣裾(スソ)に取りつき泣く子らを置きてぞ来ぬや母(オモ)なしにしてちはやぶる神の御坂に幣(ヌサ)奉(マツ)り斎う命は母(オモ)父、がため大君の命(ミコト)かしこみ青雲の棚引く山を越よて来ぬかも難波道を往きて来までと吾妹子が著けし紐が緒絶えにけるかも吾妹子が偲びにせよと著けし組糸になるとも我(ヮ)は解かじとよわが家(イワ)ろに行かも人もが草枕旅は苦しと告げ遣らまくも日な曇り確氷の坂を越え時(シダ)に妹が恋しく忘らえぬかもみ薦刈る信濃の真弓吾が引かばうま人さびて否と言わんかもみ薦刈る信濃の真弓引かずして弦(オ)著(ハ)ぐるわざと知ると言わなくに 信濃紀行文・詩歌集 平安以後 わが心なぐさめかねつ更科やをばすて山に照る月を見て雲はれぬ浅間の山のあさましや人の心を見てこそやまめ君がゆく所と間けば月見つつ銕捨山ぞ恋しかるべき望月の駒よりおそく出でつればたどるたどるぞ山はこえつるいつとてかわが恋やまん千早ぶる浅間の嶽の煙絶ゆとも出づる湯のわくに懸れる白糸はくる人絶えぬものにぞありける風越の峰のうえにて見るときは雲は麓のものにぞありける園原や伏屋に生うるはは木のありとは見えてあわぬ君かなははき本の心を知らで曽の原の遠にあやなくまどいぬるかな山田もる木曽の伏屋に風吹けば畔つたいしてうづらおとなう諏訪の海に氷すらしも夜もすがら木曽の麻衣さえわたるなりかけわたす木曽路の橋のたえまより危ぶみながら花を見るかな信濃なる浅間の嶽に立つけぶり遠近人の見やはとがめぬ更科や銕捨山のたかねより嵐をわけていづる月影夜さむなる穂屋のすすきの秋風にそよぎぞ鹿も妻を恋うらむかたしきの衣手寒くしぐれつつ有明山にかかる村雲尾花ふく穂屋のめぐりの一村にしばし里ある秋のみさ山月見れば衣手寒し更科や姥捨山の峰のあき風さらしなや雪のうちなる松よりもはげしきものはわがたのむつま信濃なる伊那のこおりと思うだに誰かたのめの里というらん五月雨に木曽のみさかを越えかねてかけぢにしばの庵をぞさすおり立ちて清水の里にすみぬれば夏をば外に聞きわたるかなはるかなる月の都に契ありて秋の夜なかの更科の里いざさらばかけぢにしばし庵せん木曽のみさかに夕日さしたり駒なづむ木曽のかけ路の呼子どり誰ともわかぬ声きこゆなり千曲川春行く水はすみにけり消えていくかの峰の白雪夏ふかき峰の松ケ校風越えて月かげすずし有明の山思ひたつ木曽の麻衣あさくのみ染めてやむべき袖の色かは今宵しも姥拾山を詠むればたぐひなきまで澄める月影我を世にありやと問わば信濃なるいなとこたえよ嶺の松風信濃野や木賊における白露は磨ける玉と見ゆるなりけり聞きわぶる寝覚の床のさ夜時雨降る程よりもぬるる袖かな信濃なるあいそめ川のはたにこそすぐせ結びの神はましませ思いきや幾瀬のよどをしのぎきてこの波合に沈むべしとは吹きおろす蜂のあらしもまぎれゆくひびきや谷の戸隠の山照る月を見し夜へだててさらしなや嶺なる寺も秋霧の空岩の松ひびきは波にたちかわりたびの寝覚の床ぞさびしき思いきや年月名のみ聞き渡る木曽の桟きょう越えんとはかわりゆく世に色かえぬ松風の音のみ残る神の峰かな信濃なる菅の荒野をとぶ鷲の翼もたわに吹く嵐かな例ながらこよいはわきて月よみの光くまなき杜の神垣色も香も盛りと聞きし花にまたこと葉の花のいろも添うらん吹く風に散らばをしけんさくら花はや来て見ませ咲きのさかりをもろともに見てぞ嬉しき此の寺の花のむしろにこよまどゐせんみなかみの花の盛りのこととわんやよ待てしばし下る筏師小田はたけ我は作りて麻衣気ままにしらす身こそ安けれ古のますらたけをの手立ねり進み競いし跡所見つもみぢする秋のにしきのはたむらにめづるや御代の城山の月旅なれど椎の葉ならでけこに盛る飯田の里は住みよかけりいわたたすかしこくもあるか天そそりそそりたたせるこまのみたけは久方の天の岩戸のあけしよりくも井にのこる有明の山敷島の遠はあまりにひろければ道とも知らで人や行くらんむかしたれ雲のゆききのあとつけてわたしそめけん木曽のかけはしゆく水のすゑとおとおしみすずかるしなのたかはら秋ふかみかもうれしくもわけこしものか温々に松虫草のさきつづく山寂しさの極みに堪へて天地に寄する命をつくづくと思う蓼科の出湯の谷間末遠く雪の御岳今日さやに見ゆ  八つが嶺の裾野高原あさぎりのきらひわたりて秋すめるかも白珠の歯にしみとおる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり槍が岳そのいただきの岩にあがり天の真中に立ちたり我はひさかたの天の原より立つ秋は目にしるくして山の裴深しあららぎの紅の実を食む時はちちはは恋いし信淡路にしてかぎりなきみそらのはてをゆくくものいかにかなしきこころなるらん水海の米はとけてなお寒し三か月の影波にうつろう碓井嶺に上りて見れば日の沈む信濃のくには起き伏しにけり鳳凰が山をおおえるおくしなの山田の渓の秋に逢うかな野の草の色づき枯るるさま見れば土に朽つるものは皆静かなりみづうみの波に浮きゐし鴨の群いづべ去りけん凍りわたれる仙丈の高根をいでて冬の日は天つみ空にかがやきにけり命一つ露にまみれて野をぞ行く涯なきものを追うごとくにも白樺のひくき木だちの朝さむし夏の穂高のひかり冴えつつ千曲川遠く落ちゆく瀬の音を夜々のまくらにおもいつつねんつゆの空雲なくはれて雪のころ乗鞍岳はまぢかくぞみる岩の上に高あぐらしてまねきなばよりても来べき秋の雲かなしづかなる真昼の家にこゑ透りうつつに寂し草ひばり鳴く真木ふかき谷ょりいづる山水の常あたらしきいのちあらしめ山高く家居しをりてさやかにも月平らかにたたみを照らすせせらぎのゆりくるごとき朝鳥のとおさえづりをまどろみて聴くにわか雨ふりて晴れたる湖むかうひとつさみしき朝のひぐらし遠雲をながめてあればま近くを影をおとして走る雲あり鉢伏の山を大きく野に据ゑて秋年々のつゆ草の花信濃路はつづく山々雪つもりけさのあさけの空の明るさ滅びゆく山の湖をとぶらいて竜胆の花をわがただよわす常念の峰にゐる雲しばしだに晴れよとまちて時たちにけり近づきて見ればきびしき蓼科の山片寄りに白雲の凝る火口縁より見下す池に湛うるはうす黄に濁る妖しき水の色並びなき山川の姿見めぐりてここに生い立つ若き人を思う

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