2021/11/13(土)18:30
素堂69才 宝永七年(1710)『葛飾序』--芭蕉十七回忌追善集--
素堂69才 宝永七年(1710)『葛飾序』--芭蕉十七回忌追善集-- 今はむかしの友はせをの翁、十暑市中に風月を語、七霜かつしかの隠れ家にともなふ。さすがに葛飾は万葉集に、赤人墨丸の詠を残されしより、其名もかうばしく、金城をさること遠からず、富士筑波を両眼にながめ、上野浅草の花の雲、出る舟入る舟眺望たやすくいひがたし。いつそかつしかをことごとく見廻りなんと、ことぐさにのみいひて、風雅のことしげきにやまきれけん。とかくするうちにふと行脚の心つきて、行ては婦り、かへりてはゆき、三たびにおよぶ頃、ついになにわの浦にて身まかりぬ。ことし十七回にあたりぬれば、門人したしき友、かつしかの志つがんと、日頃は名をだにしらぬ所々を、句につづりて手向草となしぬ。そもそも此翁の生涯宗祇法師にさも似たるをもつて、髭なき宗祇ともいへり。謝霊運の髭をうらやみ、玉摩詰が像に植しためしもあれば、宗祇のそりおとしにてもあらば植まほしけれど、尺八もたずの宗祇とやいはん。只あり芭蕉仏といふことしかり。