かくの如き語りき

2005/04/05(火)01:33

●●●幸福の黄色いハンカチ

日本映画(59)

青い空に向かって、 高い旗竿が伸びている。 その上から下まで、本当にぎっしりと、 結びつけられているのは黄色いハンカチ。 夕張の風に、棚引いている。 “もし、おまえが一人なら、 ハンカチを掲げておくれ。” 網走刑務所での六年の刑期が終わる直前に、 島勇作が、妻の光枝に書いた手紙。 “だが、もし、ハンカチがなければ・・・” 「あれっ?」 最初に見つけたのは欽也だった。 その彼に釣られて、朱実の顔も綻んだ。 島勇作の顔がジンワリと変化する。 あまり表情に変化のない男は、 大きすぎる感情を表しかねているようだった。 だが、まぎれまく眼前に広がるのは、 黄色いハンカチ、風に棚引いている。 すぐに、彼は、愛する女性を見つけた。 赤いファミリアの三人の旅、 陽気な旅だったのは、欽也のせいだろう。 旅で知り合った朱実にしつこく迫るような 軽率な青年ではあったし、 毛ガニを食べ過ぎて、北海道の美しい景色も、 愉しめないほどトイレに駆け込むが全く、憎めない。 同僚からあらぬ誤解を受けて、 北海道への一人旅にでた朱実だったが、 奇妙な男達に巻き込まれて道連れになっていた。 1977年、山田洋一監督作品。 若い武田鉄矢と桃井かおりが、 個性を生かした演技で映画を楽しくしてくれる。 その楽しさが観る者を巻き込み、 最後には、島勇作の肩と ポオンと叩いてやりたくなる。 「良かったな、良かったな、勇さん」 高倉健は、みんなの想いをしっかり抱いて、 愛する女性のもとへ駆けだしてゆく。 “だが、もし、ハンカチがなければ・・・” この男はきっと、そこに戻らなかっただろう。 そして、彼女なら、待ち続けていただろう。 高倉健と倍賞千恵子は、 そんな気持ちに私たちをさせる。 武田鉄矢と桃井かおり、同様に、 役者の持ち味が、ピッタリと作品にはまる。 きっと、この作品は、おとぎ話に近いのだと思う。 物語の登場人物は、その登場人物でしかない。 複雑な、裏表は必要ない。 どんな物語よりも 純粋な「存在」だと思えてくる。 例え、おとぎ話だとしても、 そのおとぎ話が、人を育むことがある。 子供も、大人も、変わりなく。 Tie A Yellow Ribbon Round The Ole Oak Tree 「幸せの黄色いリボン」の歌詞そのままに。 原作はニューヨーク生まれのピート・ハミル、 小説家だけでなく、ジャーナリストなどの顔も持つ。 日本映画の代表作にも挙げられるこの作品も、 ハリウッドリメイクが決まっているという。 黄色いハンカチが棚引く。 黄色いハンカチが棚引く。 カメラは、長い間、そのハンカチを写す。 ほんとうに貧相なあばら屋。 だが、鮮やかな黄色いハンカチは 幸せというものをはためかせている。

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