かくの如き語りき

2006/04/24(月)23:09

●●●ブロークバックマウンテン

アメリカ映画(215)

心とはどこかが渇いているのだろう。 充たしながら潤しながら毎日を続けている。 毎日、毎日。 こうなるだろう、という未来、 こうであるべきだ、という未来、 だがそれだけでは、充たされぬ心がある。 渇く、心。 アメリカ、ワイオミングのブロークバックマウンテン。 雲広がる空、広大な空、だが、渇いた空。 荒涼たる大地に聳える山々。 イニスとジャックは仕事を求めてやってきた。 そして出会った、そして仕事を得た。 季節労働ではあったけれども、 羊の放牧を管理する仕事は、 決して楽なものではなく 単調な食事に過酷な自然条件、 毎日、毎日、 羊の数が減るのを気遣いながら、 まだ二十歳の青年二人は 自分の未来に溜息をついているようでもある。 貧しい、先の見えない未来に。 こうなるだろう、という未来、 こうであるべきだ、という未来。 凍えるような寒さがきっかけで、 一人で寝る寂しさがきっかけで、 ブロークバックマウンテンの山に抱かれて、 イニスとジャック、二人はお互いの肌を求めた。 明るい青年のジャックの上に寡黙なイニスが乗り、 無我夢中のイニスに恍惚の表情のジャック。 だがそれは、一夜限りのはず。 そう二人は言い聞かせていたかも知れない。が。 こうあるべきの未来。 ジャックもイニスも結婚をし、子供を持った。 二人の青年は連れ合いの女性に愛されていた、と思う。 ジャックもイニスも、女性たちに愛されていた、と思う。 だが彼女たちの愛は彼らを潤すことは出来なかった。 たったそれだけのこと。 それが、全ての物語。 アン・リー監督は二人の青年の物語を描いた。 時代背景に、その土地の文化を重ねて、 ただ、渇いた心を潤そうとした青年二人が、 深い闇に似た亀裂に落ち込んでいる様を綴っていく。 イニスとジャック、 会うたび触れるたびに溢れる幸福と、 反動のように訪れる渇きの苦しさは、 砂漠の地で水を求めるようにお互いを求める。 心は、そのままだと渇くのだ。 当たり前でない題材で当たり前のことを描く、 アン・リー監督は観る者の視野を広げようとする。 ヒース・レジャーとジェイク・ギレンホール、 魅力的な俳優の引力は強く、 この曰く付きの作品を見事に 自分たちの勲章の一つにしているように見えた。 そして男優の映画でありながらも、 女性たちの心も丁寧に描かれている。 渇く、心。 その渇きを潤すために、 私たちは何をしているのか。 イニスとジャック、 彼らの心はお互いの存在で癒された。 ブロークバックマウンテン、 寒さに震え人肌を求め、 渇いた心を潤すためにお互いを求めた。 それだけなのだ、ただ、それだけ。

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