アイツのせいだって、そう決め付けることでさ、
楽になることってあるやん?
俺は悪くない、アイツが、アレが悪かったんやって。
すげぇすげぇガキの頃の話。
今考えると、何ていうか本当にバカバカしくて子供染みて、
まぁ、実際に子供やったんやけど。
あの時はなんでもないことが楽しくて、
そして、なんでもない事に腹を立て、
そして、なんでもない事に悲しくなった。
そんな毎日。
そんな毎日を俺はいっつもユウキと過ごしてた。
どこへ行くのも何をするのも一緒に。
俺はバカみたいに騒ぎまくるガキで、
ユウキは大人しくていつも静かに笑ってた。
だけど、いっつも一緒に居た。
いつだっけかな?ある春に、遠足があって。
そのとき、雨が降ったんだよ。
遠足ってさ、やっぱり子供にとっては
スゲェ楽しみで、だからみんながっかりしてた。
雨天延長だったけど、延長した日も雨が降って、
その次の日も。
そして、その次の日も。
結局、遠足は中止になっちゃってさ、
もう、みんなが意気消沈した次の日、
嘘みたいに晴れたんだ。
その時に俺は、今でも後悔してるんだけど
一言、余計なことを言っちまったんだ。
「ユウキ、お前のせいだぞ。お前が雨男なんだ!」って。
あまりに悔しかったんだろうね。
もう、誰かのせいにでもしないと気が済まないくらい。
実は、実際に、俺とユウキと俺の家族とユウキの家族で
その前に遊園地行く話があってさ、
その時に雨が降ったんだよ。
その他にもさ、ユウキと自転車で遠出しようって
言ってたときも雨が。
夏休みに海行くってときも、台風が来て。
だから、お前のせいだって。
その時、俺、言っちゃったんだよ。
誰かのせいにすることで、自分を納得させようと、
そうしたんやろうね。
ユウキは、へへへ、ごめん、って
下を向いて笑ってた。
そして、秋の遠足も雨が降った。
その時にさ、もう、何かバカみたいな話だけど
ユウキのせいだ、って事になってんの。
クラス中がさ。
先生が、遠足は中止になりましたって言った瞬間、
クラスで一番デカイ青木のヤツがさ、
あーあ、ユウキのせいだよ、って。
先生がそんなこと言うなって言っても、
クラス中がユウキのせいだ、ユウキのせいだ、って。
で、もっともっとバカなのは俺で、
一緒になってユウキのせいだ、ユウキのせいだって。
言っちゃったんだ。
ユウキはまた、下を向いて、ごめんって。
そう言ってた。声は、震えてた気がする。
もうさ、そうなると、運動会とか
そういう行事の度に、ユウキが言われるの。
お前はくんなよ、って。くると雨がふるんだよ、って。
ユウキはその度、へへへって笑って。
で、やっぱり雨が降ったりすると、
子供って残酷やね。いっせいにユウキを責めるの。
それが、6年生まで続いたな。
6年生になるとさ、修学旅行があって。
どこでも、まぁ、そうだと思うんだけど、
小学校最大のイベントなんだよ。
俺、ユウキとその時も同じクラスで、
でも、なんとなく、ユウキとつるんでなかった。
その時にさ、いよいよ来月って迫ったときに
班分けみたいなのがあって、自由行動の。
誰もさ、ユウキと組まない訳。俺も。
そんでさ、さすがに先生は言ったんだよ。
ちゃんと班に入れてあげてって。
「ユウキは、修学旅行に来させないから、いいんでーす」
そんな声があがったんだよ。
さすがにさ、俺は、それは無い、って思ってさ。
ユウキを自分の班に入れたんだよ。
もう、他のヤツが文句言いまくってたんだけど、
俺は、ユウキを自分の班に入れた。
ちょっとね、やっぱり罪悪感があったんだよ。
こうなってしまったのは、俺がさ、きっかけな訳だし。
その日の帰りにさ、すごい久しぶりにユウキと帰ったんだ。
なんか、ユウキはいつも以上に黙ってて。
俺はわざと明るく言ったの。
気にすんなよ、って。お前、ちゃんと修学旅行来いよ、って。
でも、ユウキは首を振ったんだ。
で、お前なー、気にすんなって言ってんじゃん!て言い掛けたときに、
すっごい小さい声で言ったの。
「行けない。おれ、再来週引越しするの」
もう、さ。そんな訳無いんだけど、
みんなが来るなって言ったから、転校するんだって思っちゃって、
悲しくなって泣けてきてさ。
俺のせいだー!って。そんで泣きそうな顔してたら
違うよ、って。お父さんの仕事の都合だよ。って。
ユウキが逆に俺を励ますように慰めるように言ってて。
何だかそれが逆に恥ずかしくなっちゃって、
涙がボロボロ出た。ボロボロ泣いた。
そんで、引越しの日さ、俺、母親と
挨拶に行ったの。
俺の母親も人が悪くてさ。知ってたのに言わなかったんだ。
俺とユウキがまだ、仲良いと思ってたから、
ギリギリまで言わないでおいたんだって。
で、挨拶に行く日。
やっぱり、雨が、降ったんだ。
すっげぇ、悲しくなってきたけど、
何だかもう、俺もユウキも逆に笑えてきてさ、
やっぱり、そうかも、なんて言って笑い転げた。
ドラマみたいな感動のシーンじゃなくて良かった。
もしそうだったら、俺、ずっと泣いてたと思うもん。
ユウキがさ、修学旅行、晴れるよ。俺が居ないもん。
って言ったときは、さすがに泣きそうになったけど。
その、翌々週の修学旅行。
東大寺で撮った写真には、みんな傘を持って写ってた。
アイツのせいだって、そう決め付けることでさ、
楽になることってあるやん?
俺は悪くない、アイツが、アレが悪かったんやって。
でもさ、やっぱり、そうやって誰かのせいにしたって
結局自分に跳ね返ってくる。そう思ってる。
ユウキは大人しいヤツだったけど、
笑った顔はすっげぇ晴れてた。
いま、考えると、アイツが雨男な訳ないやん。
あんな笑顔するヤツが、雨なんか降らせられないって。
で、さ。
冷静に考えると、アイツと居ると雨が降るって。
アイツといつも一緒に居たの、俺なんだよね。
だからさ、きっと、思うんだけど
俺が雨男だったんだよ。ユウキは、知ってたのかもしれないな。
でも、言わなかった。
アイツがさ、いま、どこにいるのかわかんねぇけど、
きっとおんなじ顔して笑ってて、そんなアイツの上には
きっと青空が広がってる気がする。
クサイ言い方だけどさ、似合うんだよ、アイツの顔にさ、青空が。
だから、その分、俺のとこに雨が降ってもいいと思う。
雨はな、やっぱキライだけど、さ。
という話をしたら、僕が雨男でも
許してもらえますかね?っていうかユウキって、誰。