テーマ:ただ思うこと・・・(562)
カテゴリ:介護のお仕事 素敵な老人達
みけマンマが仕事について書くのはたぶん、これが初めてではないかと思います。一応仕事は個人情報が絡むのであまり書かないようにしていたんですが、今日、ホームで天へと旅立って行った方がいらっしゃったので、なんとなくですが、昔いた職場での事を書こうかと思います。
以前みけマンマが働いていた職場は認知症専門の施設、いわゆる世間一般にいわれるボケ老人を収容する施設で働いていました。居宅介護施設といえば聞こえはいいですが、結局は手におえなくなった認知症の老人を入居させてそれっきり、という施設でした。 ここの認知度は半端でなく高く、朝から晩まで便・尿失禁の嵐。弄便(ろうべん ウンコでコネコネ遊んじゃう状態)なんて日常茶飯事。日常会話なんて全く不可能な人も多数、意思はあっても疎通は無理、って人がほとんど。 CT撮れば 「海馬、溶けてなくなってますね」 って人も何人かいました。 でも、みんな愛すべき老人達ばかりでした。 そんな中でひと際認知度の高いおじいさんがいました。浜田さん(仮名)80代後半。 ある日、家に帰ろうとして帰れず、「帰り道が分からなくなってさー」と言ってから急激に認知症が進んだおじいさんでした。 浜田さんはすでに言葉を失っており、「はあ」「どうも」「ああ」としか言えず、食事も手づかみでも食べれず、歩くことも出来ず、トイレも全く分からない、ある意味認知症の完成形でした。 介護抵抗が激しく、介護職員を殴ってメガネが割れたりなんてことも。服を脱がせてお風呂に入らせようとしても脱がしてくれない。 そんな浜田さんはいつの間にかみけマンマの時だけ、みけマンマの介助でお風呂に入るようになっていました。浜田さんはみけマンマをみると、何故か頭を撫で撫でしてくれました。 そんなこんなで半年ぐらい経ったある日。新しい介護職員が入って来ました。その介護職員は訪問介護の方で働いている時に窃盗をして警察に逮捕されたという前歴があり、みけマンマたちは施設に来るのには反対していましたが、人手不足ということもあり、彼はみけマンマのいる施設にやってきました。 彼が働き始めて1ヶ月経ったある日。みけマンマが浜田さんの入浴介助をしようと服を脱がせて おや??? と思いました。みぞおちに3個、青あざが出来ていたのです。 このあざは…? 「浜田さん、これ、どうしたの?」 「ほうかね。ほうほう。」 やっぱ無理か。 不審に思ったものの、気にしすぎなんだろうか、と思って3日ほど経った時。今度は腕や足に出来たばかりの赤い内出血の跡がいっぱい出来ていたのです。仲のいいNさんに言うと、Nさんも 「ほんとだ!!!何これ!!」 調べてみると、新しく来た彼が夜勤を始めた日からあざが着き始め、夜勤明けには必ずあざが出来ていたのです。 「みんな、気をつけて彼の監視をして下さい」 その後、彼は職員の目を盗んで浜田さんに馬乗りになって往復ビンタをしたり、つねりながら食事介助していたり、トイレで振りかぶって殴っているのが目撃されました。すぐに施設長に報告しましたが、 「そう、困ったね」 の一言で終ってました。 そしてある朝、みけマンマが出勤してくると、浜田さんは左目をパンダ目にして、しかも左眉から出血してうつむいて座っていました。もちろん彼が夜勤明け。 「どういう事なの!!なんで浜田さんがこんな顔になってるの!」 彼は夜間転倒したのだと言い張りましたが、記録にも転倒とは書かれていませんでした。 施設長に報告しましたが 「ああ~~あ」 の一言終わりでした。 「あんた!いい加減にしなよ!!あんたが浜田さん虐待してんの分かってるんだからね!!!」 彼はふてくされていました。 が、それから2週間したある日、出勤してくると、今度は浜田さんの耳から左頬が赤黒く内出血していたのです。 「転んだんですよ」 彼は言い訳しました。一人夜勤の施設。言葉を話せない老人。どうやって虐待を証明できるっていうんだ。彼の目は勝ち誇っていました。常に顔の左側が内出血してるのは右手で殴ったからだろう。 浜田さんはみけマンマを見ると、震えながら涙を流し、 「あああ、、ううううう」 とすがって来ました。 許せん。 絶対許せん。 施設長に言っても 「ああ~浜田さん、やられちゃったね~。せっかく前のあざが綺麗になってきたのにね」 これも絶対許せん。 みけマンマはとうとう、本社に内部告発しました。 彼は即刻クビになりました。 でも、みけマンマも内部告発したことで、施設を追われる身になりました。しかし、みけマンマはもう、こんな所では働けないと思っていたので、潮時だと思いました。 施設を辞める最後の日。 普通はこういう施設では職員が辞める事は、入居してるお客様には全く伝えず辞めます。認知症の方は環境の変化にパニックになるからです。 でも、浜田さんだけにはちゃんとサヨナラの挨拶をして辞めたい。 最後の入浴介助。 みけマンマは入浴からあがった浜田さんに 「浜田さん、短い間だったけど、お世話になりました。浜田さんと一緒にいる時間は楽しかったです。みけマンマ、今日でこの施設最後なんだけど、いつまでも元気でいてくださいね。」 そう言うと、じっとしていた浜田さんが突然ポツリと 「いやだ。」 と言いました。 「いやだ。」 「いやだ。いやだ。」 「ごめんね、浜田さん。でも、もう今日で最後なんだわ。ごめんね」 「いやだ。」 「いやだ。」 そして顔をクシャクシャにして涙をポロポロ流すと、 「うううう……今まで、ありがとうございました…」 と言ってみけマンマの手を握ったのでした。 あの浜田さんが。 いつも、空中を見つめて空気を食べてる浜田さんが。 そして、いつもは服を着せようとしても、すぐに脱いでしまうのに、自分で一生懸命服を着ようとするのです。泣きながら。 これが、いわゆる奇跡というヤツなんだろうか。 以来、浜田さんには会っていません。 まだ元気なのか、そうでないのか。でも、みけマンマは浜田さんに出会った事で、介護にも奇跡は起きるんだと、心は必ず通じるのだと、実感しました。 今の施設でも、介護の仕事をしていて本当に良かったと思うことが多々あります。 いくらウンコを塗りつけられても、投げられても、殴られても、やはり人間は素晴らしいんだと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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