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カテゴリ:カメラ、レンズ、写真
戦後、千代田光学で35mmカメラ用に作られたスーパーロッコール45mmf2.8。
梅鉢と呼ばれる独特のデザインが可愛らしいレンズである。 この梅鉢レンズは、1948年に発売されたミノルタ35に付いていたレンズで、 フィルムのフォーマットが24X32の、いわゆる日本判と呼ばれるものだ。 試作には時計の職人さんが関わったらしいけど、 まだ精密金属加工が脆弱だった大阪では大変苦労したらしい。 ミノルタでは、このカメラはライカ以上の35mmカメラにしようと意気込み、 裏蓋開閉式やセルフタイマーにシンクロ装置を内蔵し、 自社設計で硝材から一貫生産のレンズを搭載するなどの意欲作だったけど、 思惑は外れて最後のライカ判のⅡbに至るまで余り売れなかった。 原因は、大阪では坂東ものと呼ばれた東京のメーカーに比べて、 特に初期のボディ自体の造り込みの甘さがあった上に、 この六甲山に由来した名前のロッコールレンズが、 国産他社のテッサー型と比べても写りがイマイチだったのと、 その後も他社ではポピュラーなf2を超える大口径が、 いつまでも登場しなかったのも要因の一つだったと思われる。 梅鉢のスーパーロッコール45mmf2.8に関わっていたのが、 当時の田嶋一雄社長が三顧の礼で迎えた、 1941年に入社してきた斎藤利衛氏という人物である。 あの東条英機氏と同じ陸士17期だったけど上官とそりが合わず中退したらしく、 その後はニコンに入社してレンズ設計を学んだのだけどここも辞めて、 次に富士山麓で隠遁生活を始めたという風変わりな人だった。 ミノルタにやってきた斉藤氏は伊丹工場の一角の竹やぶに、 数作所なるレンズ設計室を設けてから晴耕雨読の仙人のような生活を始めて住み込み、 ニコン時代に下働きをしていた天野さんという人物と籠っていたのだ。 ここは女人禁制の結界のような場所だったので人が近づく事も稀だったらしい。 当時は手数が必要で、レンズの設計に不可欠だった光跡計算部隊も拒否していたのだろう。 戦後になり、社内に神話まで生み出していた数作所から生まれた初期のレンズが、 ミノルタ35用の梅鉢45mmf2.8(3群5枚)と、 ミノルタメモ用の50mmf4.5(3群3枚)だった。 当然、こんな状況からでは、早々に新しいレンズなど出来るわけもなく、 ミノルタから50mmでf2の標準レンズが出るのは、 既にニコンやキヤノンがドイツ製を置き去りにし始めた1955年の事である。 オマケにズミクロンを真似たという、そのレンズの描写は褒められたものではなかった。 そんな山師の様な斎藤氏に疑問を持ち、危機感を覚えたのが、 当時の田嶋一雄社長の末弟で、カメラ技術にも明るかった田嶋義三氏だった。 田嶋社長が寵愛する怪しげな数作所を切り離し、 ミノルタに近代的なレンズ設計部門を興す為に田嶋義三氏が内々に招いたのが、 後に傑作レンズの5cmf1.8を生み出した松居さんだ。 その松居さんが、後にキヤノンへ移籍するきっかけが数作所とのゴタゴタであった。 家にも数作所レンズは3本程あるけど、 こういう今では(当時でも)考えられないような背景を持ったレンズは、 眺めているだけでノンビリとした当時の日本の情景や、 数作所周辺の竹やぶの景色まで何となく想像出来て微笑ましい存在である。 唯我独尊を地で行く斉藤仙人の息が掛かった数作所レンズは、 最新の理論でカネとマンパワーを投入し、常にライバルを横目に見ながら、 理詰めで真面目にキッチリとやっていた他社製品とは次元が違い、 ハナから同列で語ることが間違い。 ミノルタは、戦後の早い段階からコーテッドレンズを作っているけど、 これは戦時中に海軍工廠光学部で行われていた、 主に潜望鏡や双眼鏡への人造氷晶石を使った、 増透術(コーティング技術)が元になっている。 この初期型のスーパーロッコール45mmにも淡いコーティングが施されている。 一番前のレンズエレメントは3枚張り合わせだけど、 これは斉藤氏が暫く在籍していたニコンのゾナー型に倣ったものだろうか。 3枚張り合わせの生産は容易ではなく、レンズの生産技術は結構高かったと思う。 絞り値が正面から見える小さな丸窓が面白い。 今ではオリジナルの古いロゴのレンズキャップは希少品ではないか。 【作例は全て銀塩写真】 女鳥羽川で泳ぐ鯉のぼり。 昼間でも逆光気味だと、全体にフレアっぽくなりコントラストも低めだけど、それも味である。 ただ、夕景などで低い角度の光線が関わると、 思っている以上に盛大にゴーストが発生するので注意が必要だ。 工事の足場にやってきた猫。この後、足早に階段を昇って行った。 古いタクシーの配車場。中央下に、懐かしい「やまびこ国体昭和53年」の看板が見える。 山間の春の景色。農道わきの花桃とその下のタンポポ。それに繋がる木々の芽吹きが清々しい。 カラマツの若葉は海の中の生き物みたいである。 梅鉢は、何というか駄菓子みたいなレンズだ。 勿論、これは最大級の誉め言葉である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019.11.15 11:32:00
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