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カテゴリ:オーディオ
手元に、戦時中の昭和20年3月に製造された古いコンデンサーがある。
メーカーは、㈱ニ井製作所 型式OPC-3。 0.1μF 3000Vというスペックが手書きで書かれて、 裏には船舶無線用というスタンプが押されている。 昭和16年になると、軍艦以外の輸送船に関しても、従来は逓信省管轄だったものが、 戦時標準船として軍艦と共に海軍省に統一され建造される事となった。 客船や今までの輸送船は廃止になり、新たに10種類の船種が制定される事になる。 同時に、電気艤装に関しても規格が統一された。 既に、昭和13年ごろから戦時船舶無線に関して、 逓信省と4つの電機メーカーで改善が図られ、 昭和15年からは周波数が安定した主発信式と呼ばれた水晶式に置き換えられて、 昭和16年には海軍との連携の為に3つの周波数追加と、 2つの波長を同時通信可能なように改善されていく事となる。 その結果、各々の船種に合わせた、500Wと250Wの長・短波送信機と、 150Wの中・短波送信機と、50Wの長・中波送信機に、500Wと250Wには方位測定器と、 500Wには8球のスーパーヘテロダイン、それ以外には4球のオートダイン受信機を組み合わせた、 1号~4号の無線機が作られる事になった。 このOPC-3コンデンサーも、 そうした軍艦や戦時標準船の無線装備に使われる予定のものだったのだろう。 当時は、金属箔を紙で挟み込んだペーパーコンデンサーが一般的だけど、 OPC-3は高耐圧で大きさの割にキャパシタンスが小さく、 密閉された金属ケースで船舶用のスタンプがあるので、 海軍省の管轄で軍需品扱いだったマイカコンデンサーだと思われる。 コンデンサーの絶縁油に関しては、 日本では1936年にナフテン系のものが一般的になると、 これが国産オイルコンデンサーの標準になって近年まで使われていた。 因みにコンデンサーに使われたオイルで、 今では毒劇物扱いのPCB(塩化ジフェニル)は、 国産では戦後の1954年から製造されていて、 これを改良した三塩化ジフェニル入りは1958年からなので、 戦前の国産コンデンサーに使われている事はない筈だ。 戦争末期で資材不足になっても、 絶縁体のマイカ(雲母)は余り問題が無かったらしいけど、 電極材料のスズや鉛の確保も軍需優先で何とかなっていたらしい。 末期になると、ケース内に充填する絶縁物には火山灰が混ぜられていたとのこと。 当時から、高耐圧で高周波特性が良くて温度特性も優秀で、 極めて安定した性能を持つマイカコンデンサーは軍需として供給されていて、 航空機用には、色も形もキャラメルの様なものが使われていた。 辛くも兵役を逃れ、デッドストックとして売られていたのを家に連れて来たのは、 ひょっとしたらツイーターのローカットか、アンプのカップリングに、という事ではなく、 単に戦時中の国産の古いコンデンサーがどんなものか知りたかったからだ。 6個で2000円が高いのか安いのか分からないけど、 とにかく、戦時中から戦後の混乱期をかいくぐって来た貴重品。 外観を見ても、75年近く経過しているのに、感心する位にシャンとしていて驚く。 規格を表示したラベルと裏側の船舶無線用スタンプの様子。 ラベルの表示には、全て手書きの物もあったりするのは戦時中の影響だろう。 まず戦時中の受信機の一例。 航空機用の飛5号甲無線機の受信機を調べてみると、 軽量と言う事よりも、主にパーツの供給やメンテナンスを考慮して、 1種類の真空管だけでスーパーヘテロダインを作り上げている。 新品の真空管が、動作チェックをして3段階に性能分類されていたような時代では、 幾ら回路設計に問題が無くても、実用で本領発揮は難しかったのではないか。 この受信機は、元はアメリカのナショナルHROを参考にしているらしいけど、 真空管の性能が良くて種類も豊富なアメリカと違い、 使用真空管はUt6F7の1種類だけだ。 在庫もそこそこあって作り易くて定評があったのだろうか。 既に戦時中の量産化の為に多品種から小品種へシフトしていたと思われ、 実際には軍から無理やり押し付けられたのだろう。 6F7は元々アメリカRCAで作られたもので、本来は周波数変換用の真空管。 当のアメリカでも受信機(ラジオ)への使用例はかなり少なかったらしい。 後世になって回路をチェックしてみると、 良くスーパーヘテロダインを実現できたものだと、 当時の設計者の苦心が伺われる代物らしい。 船舶用に関しては、地上基地用と同様に、 パーツの供給が大変で消耗の多い航空機用よりも、 供給部品の品質とか種類にも余裕があり性能は安定していた筈だ。 地上用の送信機の参考に1929年から運用され、 戦後の1950年から1994年まで在日米海軍に接収されて、 戦時中は潜水艦用の超長波無線を担っていた、愛知県の依佐美送信所を取り上げてみる。 ここに残されている共振用コンデンサーのスペックが、 OPC-3と似たような4KV/0.1μFで、 ドイチェ・デュビリィア・コンデンサトール社のパラフィンオイル入りのマイカコンデンサ。 これには戦前のドイツ帝国特許というDRPの刻印がある。 現用時には295個が使われていたらしい。 依佐美送信所のテレフンケン式長波送信装置(出力500KW)の昭和27年に書かれた電気回路略図。 出力は1000倍も大きいけど、恐らく戦前の船舶用の長波送信機も機構は同じようなものだと思う。 減衰が小さく遠くまで届き、水中でも通信可能だった、 潜水艦への遠距離通信に使われた超長波送信の17.442KHzを作るのには、 まず商用3相電源3300V(MAX1000KW)で、 メインの920KWの3相誘導電動機を駆動。 同じ電源でメインの920KW電動機と同期した、 サブの36KW3相誘導電動機を回し、 その動力で直流励磁用の20KWと3KWの発電機2つを駆動。 この2つの発電機で得られた励磁用直流電源は主に、 20KWはメイン直流発電機、3KWはメイン直流電動機の励磁用に供給される。 各々、その一部は自動速度調整機に使われて、メイン直流電動機の回転速度を一定に保った。 メイン電動機シャフトは、同軸直結で800V/860KWのメイン他励直流発電機を駆動。 得られたDC電源で730KWの他励直流電動機(1360rpm)を回して、 この動力で回転子重量21.2tで600KW/5.814KHzの、 AEG製・高周波発電機(高さ3.6m 総重量35t)を駆動している。 この回転子の慣性モーメントも安定した周波数には極めて有効であった。 わざわざ三相電源から直流電源に変更しているのは、 一種のワード・レオナード式の回路を組んで、 元の商用電源の周波数変動による回転ムラを無くすためだ。 実際の回路図でも自動速度調整の部分は、かなり凝った回路で、 常に1360rpmを保つようにフィードバックが掛かっている。 【ワード・レオナード方式について】 直流発電機の回転数が一定でも、 その界磁電流を制御する事により、 直流電動機への電圧を変える事が可能になる。 直流電動機の回転数は、 回転子に給電する電機子の電圧に比例して速くなり、 励磁の強さには、ほぼ反比例して遅くなる。 高周波発電機で得られた高周波の5.814KHzは次に、 起動時の磁化用に必要な電力を得る為に、 専用の18KWの電動機と10/30V・400Aの直流発電機が繋がっている、 鉄心の磁気歪を利用して3逓倍の3次高調波を取り出すという、 周波数3倍機を通して17.442KHzを得ている。 これを、11.5KWの電動機と500/200V20A直流発電機を電源とする、 磁器飽和しやすい鉄心と直流コイルが巻かれた、 直流オンで鉄心が磁器飽和して信号出力が1/100になる信号用磁気誘導変更機を使い、 そこから3個の同調用のバリオメーターコイルと、多量のマイカコンデンサーで共振させて、 更にアンテナ同調用のローディングコイルを経て、 外部の巨大なアンテナからやっと出力500KWのモールス信号発射。 17.19mもの波長を受け取る側の潜水艦には送信機は無く、 オマケに数百メートルの長さに及ぶアンテナが必要なので、 水中では、これを引っ張りながら移動していた。 長波は情報量が小さく、モールスで一文字送るのに数分掛かるので、 あらかじめ決められていたマニュアルの様なものがあり、 それを見て行動していたらしく、浮上時には送信機も含めた短波無線を使っていた。 2019-8-19追記改訂 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019.09.23 22:25:30
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