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2026.03.21
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カテゴリ:原付バイク
子供の頃の夏休みは、
いつも祖父母の家に居たのだけど、
朝の6時頃になると
いつもスーパーカブがトコトコやってきて、
カチャンというサイドスタンドを立てる音で
何となく目が覚めていた。

直後に人の足音が近づいてきて、
郵便ポストから聞こえる
カサカサ、カタンという
新聞が届けられた音と共に寝床から這い出して、
夏休みのラジオ体操へ出掛ける準備をする。

他にもスーパーカブといえば、
後に赤いボックスを積み
フロントに黒い集配カバンを積んだ、
郵便局の赤い奴は
学校の帰りにも良く見掛けたし、
今の時代でも馴染み深い。

それから、後の荷台に黒い箱を積み
フロントに大きなスクリーンを付けて、
白いヘルメットにスーツといういでたちの、
信用金庫の職員さんが乗る
スタンダードな奴は印象に残っている。

何より食堂や酒屋さんの前には、
必ずと言っていい程
ホンダ・スーパーカブがいた。

時々、酒屋の店先で
店員さんが荷台にビールケースを積んでいたり、
白い上っ張りを着た食堂の人が
左手に岡持ちをぶら下げて
走っているのを見た事があるけど、
それらのバイクに関してはヤマハ・メイトとか
スズキ・バーディーも混ざっていたと思う。

スーパーや駅の二輪駐車場には
必ず自転車と一緒にスーパーカブいたし、
まだ実家の周辺に田んぼがあった頃には
近所のオジさんが、
カブのリアキャリアに農機具を括って
朝夕の田んぼの水の管理をしていた。

いずれにせよ、
スーパーカブは
昭和の街中では
当たり前のように、
どこにでも走り回っていた存在で、
プロが使う道具であり
普通の庶民の生活の道具でもあった。


個人的にバイクに凝っていた時は、
スズキのGSX-Rという
400ccマルチのスポーツバイクと、
バイク屋の店頭で1万円程で売られていた
中古の50ccスーパーカブを持っていた事があった。

400ccスポーツバイクは
152kgの重さに
水冷59馬力のエンジンを積んでいたけど、
そのエンジンは電気モーターみたいに回り、
セカンドで軽く1万回転まで回すと
90Km/h出るというバイクで、
初めて400ccで
200Km/hを超えたと話題になったバイクだった。

片や空冷単気筒の50ccで
74Kg位の重さがある実用2輪車は
せいぜい30~40Km/h位で、
時々は50Km/h出るという
のんびりとしたものだったけど、
400ccマルチとは対極の
スロー・ライディングが
結構心地良くてお気に入りだった。

どこへ行っても
駐輪に気を使う必要がないので
近所の買い物には便利だったし、
のんびりと諏訪湖を一周するのも楽しかった。

とにかくスーパーカブは
クルマや400ccと違い
税金も安くて車検も無く
何よりガソリンが全然減らないエコバイクで、
一度タンクをリザーブに切り替えてから忘れてしまい
諏訪湖の釜口水門辺りで動かなくなり、
近くのガソリンスタンドまで押していった記憶がある。

スーパーカブは昭和の映画でも良く見掛けた様な気がする。
”男はつらいよ”では
団子屋”とらや”の隣で印刷業を営んでいた
タコ社長が使っていたし、
最近では新海誠監督の”天気の子”では、
ピンクのスーパーカブが走っていた。


海外で見たスーパーカブといえば、
もう30年以上前になるけど、
ベトナムのホーチミン市に
5日ほど滞在した際、
空港から一歩市街地に踏み込めば
そこら中にスーパーカブが走り回っていて、
耳慣れた排気音が昼夜問わず途切れる事も無く
常に街を包み込んでいた。

その街中を歩けば
バイク屋さんの前で
小学校4~5年生くらいの少年が
しゃがみこんで下を向き
バラバラのカブのエンジンを組んでいて、
小遣い稼ぎだろうか。

結構楽しそうにピストンとかシリンダーを手にしていたのを見れば、
いずれは腕の立つ一級のバイク職人になる事は間違いない。


ある日、夕方の6時過ぎに
一軒のローカル食堂へ行き中に入ると
そこは土間になっていて、
奥にテーブルと椅子が2セット
その手前の左手に1セット置かれていたのだけど、
入り口に近い右の手前にはスペースが空いていて
1台のスーパーカブが置かれていた。

丁度、夕飯時の良い時間なのに
なぜか客は誰もおらず、
店員さん達は
揃って店の椅子に座ってTVを観ていた。

店に入った途端、
皆が一斉にTVから
こちらの方に視線を移したので、
まだ開店ではないかもしれないと思いつつも
ビールが欲しいと訊いてみる。

中の一人が何か言いながら
手振りでテーブルを指さすので、
スーパーカブに近いテーブルの椅子を陣取り
ホーチミンの熱気を追い払うためにビールを2本頼む。

ビールを運んできた店員さんに
全く分からないベトナム語で書かれたメニューを
適当に指差しオーダーしてから、
傍に置かれているカブを観察すると
かなり大事に扱われているようで
使用感はあるけど綺麗なものだ。

そこで、アレっと思ったのが
白いレッグシールドに貼られていた、
日本語の”おしん”というステッカーだ。

333(バーバーバー)という
暑い場所にはピッタリの
いい意味で水っぽいビールを飲みながら、
何となく皆が観ているTVを見れば
NHKの”おしん”ではないか。

個人的にドラマを観た記憶はないけど、
どこかで見たような
着物姿の泉ピン子さんと
子役の小林綾子さんとなれば
あの”おしん”しかない。

どうも、”おしん”は大人気のドラマで
ベトナムではかなり有名らしい。
店内に客がおらず閑散としているのは、
住人達が”おしん”を観る為に
家に籠っているのではないか。

暫くして、魚醤のニョクマムに
パクチーやミントなどで味付けされた
骨付きのチキンライスを一人で食いながら、
”おしん”とTVに釘付けになっている店員の背中と
傍らのスーパーカブを交互に眺めつつ、
外で走り回っている
聞き慣れた排気音を聴きながら
333ビールを飲んでいると、
時間軸と空間が歪んでいくようだ。


所で、今時のバイク事情といえば
1000cc前後の大型バイクが殆どだ。

昔、よく見た原付スクーターも少数派で、
時々走っている奴はピンクのナンバープレートしか見ない。
既に白いナンバープレートの
50ccバイクは絶滅危惧種らしい。

というわけで、
ヘソ曲がりには大変気になる
50ccのスーパーカブ。

新型の諸元を見ると
1958年当時の4.5馬力から
3.7馬力にスペックダウンしているのが気になる。

これは排ガス規制による
燃焼効率の低下と触媒の影響だろうけど、
下手をすると燃費まで悪化しているかもしれない。

1速のギア比の低さは
どんな条件でも必ず動く為というのは昔からで、
昔は3速だったのが
新型が4速になったのは
少ないパワーを効率よく使う為だと思われる。




およそ単一乾電池ほどの容積を持つ
最小のエンジンを積んだ
生活の道具である、
50ccのスーパーカブが
世の中から消えようとしている。

かつてはあらゆる場所で見掛けた
1958年生まれの傑作ツールは、
2025年に最終オーダーを持って生産中止。

既にスーパーカブは
個人の使用は殆ど無くなり、
白いナンバープレートの
50ccタイプを見付ける事は困難となり、
見掛けるのは、ピンクのナンバーを付けた
郵便局の赤い車体ばかり。

ヘソ曲がりの古狸は
世間の大型バイク至上主義に反発しつつ、
世の中から、いつの間にか消えてしまっていた
50ccのスーパーカブを思い出し、
30数年ぶりに手元に置きたい衝動に駆られいる。


たった3.7馬力で
暖房やラジオは勿論、
屋根も無くて
必要最小限の装備しかないけど、
この車輪が2つしかない
燃費が良くて維持費が掛らない乗り物は、
簡便な終の移動手段として
一つの理想のように思えて来た。





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最終更新日  2026.05.14 16:00:19
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