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[カメラ、レンズ、写真] カテゴリの記事

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  見てくれだけで買い込んだマイヤー・オプテックの望遠レンズ／テレメゴール２５０ｍｍとオレステゴール３００ｍｍ

  戦後になると主にカールツァイスイエナを補完する立場で、どちらかというとローコストのアマチュア向けレンズを生産していた、マイヤー・オプテックのレンズ。昔は殆ど顧みられる事のなかったレンズで、クラッシックカメラブームの時にも殆ど無視された存在だった。個人的にも３０年以上前にプラハを訪れるまで、当時はメイヤーと呼ばれていた東側のマイナーレンズなんか、そう言えば聞いた事があるなというレベルで何の興味も無かったのだ。当時のプラハのカメラ屋さんのお目当ては、日本でも一定の評価を得ていた旧ソ連のカメラやレンズであり、その次がカールツァイス・イエナの製品だった。所が、見慣れた旧ソ連やカールツァイスイエナは、確かに日本国内より安価で種類も豊富だったので、実際に使ってみたかったものが入手出来ると、次に鏡胴が違うとか、もっと程度の良い奴とか、詰まらない事に気が向いて無駄遣いをしないように、バックパッカーの自制心が働く。こうなると嫌でも見慣れないマイヤーのレンズに目が行くようになる。最初に買ったのが、他にはない焦点距離のプリモプラン７５ｍｍで、それ以来マイヤーブランドを贔屓にするようになった。当時のマイヤーレンズは一部の戦前の大口径レンズはともかく、戦後のレンズとなれば余程のへそ曲がりか貧乏人のレンズで、今でこそ、好き者の間ではカリスマ的な存在のレンズもあるけど、とにかく安いというのが一番の特徴という存在だった。そのマイヤーレンズの中でも昨今殆ど見掛けないのが望遠レンズで、どうやらデジタル時代には需要も無いらしく、一時復刻されたラインナップを見ても無視されている有様。最初に買い込んだのがオレステゴール３００ｍｍｆ４だった。殆ど使わない焦点距離なので見てくれがカッコ良くて、デカくて重ければ結構というだけで選んだレンズ。手始めに憧れだったツァイスイエナのゾナー１８０ｍｍｆ２．８を買い込んでから、次に、ゾナーの異母姉妹の旧ソ連製ジュピター１８０ｍｍｆ２．８を日本へ持ち帰り、その次に買った巨砲レンズがオレステゴール３００ｍｍｆ４だった。当時はリュックに押し込んで担ぎ上げる時の重みが嬉しかったのが懐かしい。オレステゴールは１９５２年に登場した、４枚玉のテレメゴール３００ｍｍｆ４．５に変わり、１９６７年に登場した５枚玉を使った望遠３００ｍｍレンズで、それ以降は１９７０年という比較的短期間生産されただけで、名前を詰まらないペンタコンに変えられてしまった。実は１９６６年にツァイスイエナのゾナー３００ｍｍが、５枚玉から６枚玉にマイナーチェンジをしているので、オレステゴールは１９４６年に登場した初期型ゾナーと同じスペックになった。もう一本のマイヤー製望遠レンズはテレメゴール２５０ｍｍｆ５．５で、購入したのは他で見た事が無い焦点距離だったからだ。このレンズは１９５２年に登場して１０年ほど生産されて後継は無かった。上がオレステゴール３００ｍｍｆ４で、下がテレメゴール２５０ｍｍｆ５．５。テレメゴールは軽量で取り回しも楽だけど、Ｍ４２マウントだと思っていたらエクサクタだった。以前、ブログで手持ちのエクサクタマウントで一番長いレンズが、アンジェニューの１８０ｍｍと書いたのは間違いである事に今頃気が付いた。２５０ｍｍ越えの望遠レンズなんか殆ど使い道がないので、２本ともファインダーを覗いて、それっきりというレンズ。せめて一度くらいはフィルムを通してやろうと、造り込みと存在感が凄いオレステゴール３００ｍｍｆ４を、敢えて引っ張り出してみる。裏蓋に付いていた値札を見ると、３２００コルナという事で日本円で大体９６００円。安いマイヤーレンズの中でも別格の値段だったと思う。このクラスの望遠が高いのは、大きなエレメントの為に大塊のガラスと、色収差の補正の為にフッ素を使ったＥＤ系の硝材も必要だから。オレステゴールは重さが２Kをg越えで長さは約２６０ｍｍ。バックパッカー当時に使いもしないレンズを、リュックの中へ押し込んで、ずっと中欧を歩き回っていたなんて今では信じられない。オレステゴール３００ｍｍｆ４の作例（全て銀塩写真）いつも諏訪を見守っている八ヶ岳の阿弥陀岳は雪で真っ白で正に銀嶺。雪雲が後方に去っていく左隣の北八ヶ岳方面を望む。コンパスで描いたような綺麗なＲが見事。ピラタスロープウェイ駅から見る景色はどうなんだろうか。雲が晴れて雪を被った蓼科山が姿を現してくれた。伝説では八ヶ岳の妹であり、諏訪富士とも呼ばれる二重火山の柔らかい山容が眩しい。甲斐駒方面を望む。満月の夜に印象的な雲との取り合わせが面白い。勇ましい神話の軍神の名前と繋がるオレステゴールは、操作してみればヘリコイドは滑らかで機械加工精度も高いようで、決して二線級のレンズではなく遠距離の解像度とコントラストは申し分ないし、望遠特有の色収差にしても白が白くちゃんと写るのを見ても優秀である。現物に殆どお目に掛かる事もなく使用例もないけど、ツァイス・イエナのゾナー３００ｍｍよりも相当コスパは良いと思う。

  2024.03.30

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  エルノスター型というよりはプリモプラン型と言うべきアンジェニューの９０ｍｍｆ１．８

  ドイツがまだ戦争を引きずっていた１９５０年代に、レトロフォーカス３５ｍｍから始まる、黄金期を迎えていたフランスのアンジェニュー。サンテアン生まれのピエール・アンジェニュー氏は映画で有名なパテ社で光学に関わり、１９３２～３４年に母校の建物を借りてＡＳＩＭＯを設立。１９３５年になると現在に続くアンジェニュー社を、サンテティアンヌ近郊にあるロワールのサンテアンで設立して、パリ１９区に工房を開き業績を大きく伸ばす。１９３７年にはサンテアンの母校に戻り第二工房を作り、機械部品はパリ、光学部品はサンテアンで生産。１９３８年には５０ｍｍｆ２．９と５０ｍｍｆ１．８のレンズに、例のＰ．Ａｎｇｅｎｉｅｕｘ　ＰＡＲＩＳと刻印。１９３９年頃に国防・戦争省の働きかけで疎開し、１９４０年にはパリの工房は閉鎖されたのに、それ以降もＰＡＲＩＳの刻印を入れ続けたのは、商売上手というべきか。アンジェニュー９０ｍｍｆ１．８のレンズ構成図をみると、基本的には巷で言われる４群５枚のエルノスター系で、以前紹介した４群４枚のｆ２．５と同系統のレンズだ。ただ、２群目の張り合わせレンズを見れば、１９３６年に登場して当時としては大口径の中望遠だった、独マイヤー製のプリモプラン７５ｍｍｆ１．９に繋がる。実際に全くの無関係という事はないんじゃないかな。プリモプランはビオターの廉価版というようなものだったけど、アンジェニューの９０ｍｍｆ１．８はゾナー８５ｍｍを意識したものだろう。１９５１年に登場して１９６０年頃には生産中止となった。１９５１～１９５６に東側の独ドレスデンで作られた、ウエストレベルファインダーのプラクティカＦＸと、仏アンジェニューの９０ｍｍｆ１．８という組み合わせは、５０年代には実際にあり得たもので伊達や酔狂ではない。初期の頃のプラクティカはエクサクタと比べても工作精度が高くて造り込みが良い。オマケにクイックリターンではないシャッターは、振動も小さくて下手なレンジファインダー機より静かかもしれない。ウエストレベルファインダーのルーペでピントを合わせて、ボディー前面に配されたシャッターボタンを中指で押す。静かなシャッター音とブラックアウトするファインダーも含めて、何というかハッセルブラッドを操作しているようでもある。信号機にも通じる３色のカエデの葉っぱが上手い具合に並んで秋の訪れを告げている。紅葉の向こう側は川原でススキの穂も白くなり、手前にはアワダチソウも咲いている。秋も深まった八ヶ岳山麓の畑で頑張っている案山子。日が落ちるのが早くなり、手持ちで畑の脇に植えられた花をとらえるギリギリ。蓼科山が覗いている、稲の刈入れが終わった山間の田んぼの残照。目の前の赤いリンゴをキッチリと見張っている案山子。作物が無くなった畑を背に、トンボが舞う夕日を眺めている案山子。湿気た雑草などを燃やすので煙が凄い。左のビニールハウスの前では二つの焚火に挟まれた案山子が一人。右側のビニールハウスの人影は焚火を見守る人間。トウモロコシを背に睨みを利かせる案山子。目立つ作物が長ネギ位になった畑で頑張っている案山子。右手のポールの上にはトンボがとまっている。放置された耕作地はススキの天国。その上を無数のトンボが舞っている。大粒の雪が降っている中で立ち続けている案山子。いつの間にか風も強くなって、雪が真横に流れていくようになった。お下げの三つ編みの案山子。ここに立ち続けてもう何年目だろうか。●アンジェニューの製造年とシリアルＮｏ．　　　１９３５～１９４２年：～Ｎｏ．１５０００１９４３ｙ：～２５０００　　　　１９４４ｙ：～４００００１９４５ｙ：～５００００１９４６ｙ：～６５０００　　　　１９４７ｙ：～９５０００１９４８ｙ：～１２００００　　　１９４９ｙ：～１５００００１９５０ｙ：～１７５０００　　　１９５１ｙ：～１８８１９０１９５２ｙ：～２０５１４４　　　１９５３ｙ：～２５２９５３１９５４ｙ：～３３３９４２　　　１９５５ｙ：～３７４４９４１９５６ｙ：～４２２２２５　　　１９５７ｙ：～４５７７１０１９５８ｙ：～４８９０２９　　　１９５９ｙ：～６５６７８２１９６０ｙ：～７７２７３９　　　１９６１ｙ：～８９２２３７１９６２ｙ：～９８３６２０　　　１９６３ｙ：～１０４８８０６１９６４ｙ：～１０８９６５１　　１９６５ｙ：～１１３３５５３１９６６ｙ：～１１６５２０６　　１９６７ｙ：～１１９７９７１１９６８ｙ：～１２１８５９４　　１９６９ｙ：～１２４３６１８１９７０ｙ：～１２７６６９１　　１９７１ｙ：～１３０３９４５１９７２ｙ：～１３６３７３３　　１９７３ｙ：～１３７４０２９１９７４ｙ：～１３８８５２７　　１９７５ｙ：～１４０７０４６１９７６ｙ：～１４２５５７２　　１９７７ｙ：～１４３６７３８１９７８ｙ：～１４４５９３７　　１９７９ｙ：～１４５１５７１１９８０ｙ：～１４６０２３０　　１９８１ｙ：～１４６８９８７１９８２ｙ：～１４７３０３２　　１９８３ｙ：～１４７６８４５１９８４ｙ：～１４８４２７６　　１９８５ｙ：～１５０４６０７１９８６ｙ：～１５１７８３８　　１９８７ｙ：～１５２４０１４１９９４ｙ：～１５４８７００

  2024.03.16

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  望遠鏡を発明したオランダ製のオールドデルフト望遠レンズ・アルギュラー１３５ｍｍｆ３．２

  世界で初めて望遠鏡を生んだオランダ製の望遠レンズは、何というか特別な存在感がある。所が、１８０ｍｍのアレファーもそうだけど、数が少ない割に大多数の撮像素子が小さいデジタル時代には、銀塩時代の望遠系は需要が無いらしく、どれも格安になっていたりしてコレクターにはありがたい。家にあるオールドデルフト製アルギュラー１３５ｍｍｆ３．２だけど軽量な３群５枚構成の望遠レンズで艶のある黒塗りとシルバーの対比が、古い望遠鏡のようで良い雰囲気が良い。このレンズを実際に使ってみると、思った通りの古い望遠鏡を覗いているような感じで、最近のハイコントラスト＋高解像とは別の世界がある。ダメと思うか良いなと思うかは主観で構わないけど、このレンズでしか得られない写真が撮れるのは間違いない。アルパ９ｄに付けたアルギュラー１３５ｍｍ。コンパクトで軽量な望遠レンズなので取り回しは楽だ。アルギュラー１３５ｍｍｆ３．２の作例（全て銀塩写真）足元の田んぼを見守る八ヶ岳連峰の阿弥陀岳も、いつの間にかすっかり雪が消えている。田んぼの脇を、１羽のオスのキジがいるけど動く気配がない。いつもなら直ぐ逃げてしまうので、アレッと思い望遠レンズで覗くと、直ぐ脇に茶色で地味なメスの頭が覗いている。（２つの白い棒の真ん中辺り）飛び立たないのはメスを見守っているのだろうか。日本のキジは国鳥だけど、実際には狩りの対象でもある。それを補う放鳥のお蔭で各地で見られた固有性は失われて単一化しているらしい。田んぼを抜けてきた薫風を受けながら、二人の案山子が春の田んぼを見張っている。畑の脇の案山子の向こうで火が焚かれて、煙がこちらに向かってきているけど、案山子が煙を呼んでいるように見える。お下げの可愛らしい案山子が、ずっと同じ場所で頑張っている。２人の案山子が、田んぼを挟んで睨みを利かせている。逆光気味だと一段と古望遠鏡の味わいが出てくるアルギュラー。１３５ｍｍのハイファイレンズ望遠なんて幾らでもあるので、こういうのは貴重かもしれない。

  2024.02.17

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  ツァイスイコン銘が刻まれたイカレックスは純正フォクトレンダー最後のプロジェクトだった（テッサー５０ｍｍｆ２．８）

  フォクトレンダーのベッサマチックの後継として、企画されたベッサフレックスから派生して、１９６６～１９７２年までブラウンシュバイクのグリースマローデにあった、旧フォクトレンダー工場でレンズとボディーが生産されたイカレックス。最後の１年間だけ製造されたＳＬ７０６は、１９７２年にフォクトレンダーの商標と共にローライに譲渡され、最後はローライＱＢＭマウントのＳＬ３５Ｍとしてシンガポールで生き延びた。元々、カールツァイスは、１９４０年代にフォクトレンダーの株式を少数取得した後、既に１９５６年にフォクトレンダーの株式を取得し協業を開始していた事情がある。フォクトレンダーは１９６０年代初頭に、なぜかツァイスのコンタフレックスに対抗する、ベッサマチック／ウルトラマチックを販売開始。これを元に１９６３年にはヴァルター・スワロフスキー氏により、後継機でフォーカルプレーンシャッター一眼レフの、ベッサフレックスのプロトタイプが完成したものの、ツァイス・イコンのコンタフレックスと競合する為にプロジェクトは休止。プロトタイプの写真を見ると、物凄い造り込みのレンズシャッター一眼レフのベッサマチックから見ると、大分シンプルでオーソドックスな外観になっている。この時に一番安いベッサフレックスがトリプレットのパンター５０ｍｍｆ２．８付きで、これをドイツマルク／ＤＭ３９８で販売する事を考えていたらしい。この頃のテッサーレンズ固定でピントも前玉回転式という、レンズシャッター一眼レフのコンタフレックス・スーパーＢＣが、倍近い価格のＤＭ７９９であったことを考えると、実際に販売されていればコンタフレックスの命脈は即座に絶たれていただろう。それでもツァイスイコンは１９６６年になると、市場に押し寄せていた日本製中級一眼レフのペンタックスＳＰなどに対抗するべく、ベッサフレックスのプロジェクトをイカレックスという名称で復活させる。ついでに正方形のフォーマットを持つ１２６カセットフィルムを使う、当初はイカレックス１２６として企画され、後にコンタフレックス１２６と改名して、１９６７年にドイツ国内限定でテッサー４５ｍｍｆ２．８付が、ＤＭ５９８の価格で２万５千台が出荷された。フォクトレンダーはこの辺りで完全にツァイスイコンに統合されたらしい。イカレックス３５の発売当初は日本製中級一眼レフに比べると、既に時代遅れで露出計もなく明るいレンズもない体たらく。やがて測光に関して３５ＣＳ測光プリズムを出したものの、電池交換の度にファインダーの脱着が必要というもので、露出計の情報といえばカメラとは非連動な上に、レンズの絞り込みによる測光が必要という面倒なものだった。明るいレンズに関しては、フォクトレンダーのトロニエ氏とエガート氏、ユーバーゲン氏により、オリジナルのウルトロンの前に凹レンズを嵌め込んだレトロフォーカス効果で、無理矢理バックフォーカスを延長したようなウルトロン５０ｍｍｆ１．８が１９６８年に登場。全体から見ると何ともチグハグで、日々進化していった日本製カメラに対抗しようと、とにかく早急に立ち上げる事を最優先させたのだろう。その後、１９７０年になると、ペンタックスＳＰと同じＭ４２マウントが登場し、最後の１９７１年にはイカレックスの完成形として、ようやく開放測光のＳＬ７０６が作られるも１９７２年で終了した。この頃になるとニコンが中級機で電子制御シャッターを搭載したＥＬを発表して、世界にドイツのカメラの居場所は無くなってしまっていたのだ。それでもＳＬ７０６はローライによりシンガポールで生き延びていく。当初は１９７４年からフォクトレンダー銘のＶＳＬ１として登場して、１９７６年になると最終形態のローライＳＬ３５Ｍが登場するも、プロジェクトとしては失敗と見て良い。イカレックスで特筆するべき点は、何と言ってもツァイスブランドとはいえ、フォクトレンダーからオリジナルのレンズが供給された事で、これにカールツァイスも加わって今思えば贅沢なラインナップ。そして、これが１７５６年創業の老舗フォクトレンダーによる、最後のオリジナルプロジェクトになった。イカレックス用のレンズのラインアップは以下の通り。広角：ディスタゴン２５ｍｍｆ４／スコパレックス３５ｍｍｆ３．４。標準：テッサーとカラーパンター５０ｍｍｆ２．８／ウルトロン５０ｍｍｆ１．８。中望遠：ダイナレックス９０ｍｍｆ３．４／スーパーダイナレックス１３５ｍｍｆ４。望遠：スーパーダイナレックス２００ｍｍｆ４／テロマー４００ｍｍｆ５。それに加えてキルフィットのＯＥＭである３６～８２ｍｍｆ２．８のズーマーがあった。ディスタゴンとテッサーはカールツァイスのオリジナルだけど、殆どがフォクトレンダーオリジナルいうのがレンズファンには響く。標準のウルトロンは１９６８年に発売された当初は、ドイツでの価格はドイツマルク／ＤＭ２７９だったのが、１９７１年になるとＤＭ２３８．５に値下げして１９７２年に終了。１９６６年から標準の顔だったテッサーはＤＭ１３９で、廉価版でトリプレットのパンターはＤＭ８５だった。因みに一番高いのはズーマーのＤＭ８７５で、単焦点では望遠の４００ｍｍのＤＭ８２０だった。まだＭ４２が登場する前の１９６８年版の英語のパンフレットを見ると、４００ｍｍは相当高価だったらしく同じ焦点距離の単眼鏡があって、それ用のカメラアダプターがリストに載っている。次に１９７１年のプライスリストを見ると、メインは独自のバヨネットマウントらしくＭ４２は３本しかなく、更にアメリカ市場ではｆ値が暗い３群構成である、テッサーとパンターが落とされているのを見ても、既にペンタックスとの競争に勝てる内容ではなかったのが分かる。レンズファンがイカレックスのレンズに惹かれるのは、テッサーとディスタゴン以外はフォクトレンダーが最後に作った純正レンズであり、後のコシナ製フォクトレンダーレンズだって尊重すべきではあるけど、復活までに掛かった３０年近い歳月を見れば殆ど何の繋がりもないのは明白だ。個人的には標準が好きなので、最初にＭ４２のウルトロンを入手したのは３０年くらい前の事で、その後、コンタフレックスでお馴染みのテッサーも入手した。西ドイツ生産最後の純正テッサーに関しては、レンズシャッターのコンタフレックスがあり、それ自体は造り込みが凄くてとても良い出来のカメラというのは認めても、テッサーは前玉ピント合わせな上にカメラ自体が完調という個体は希少だ。実はコンタフレックスというのは、大概は一見すると造りが良くてピカピカなのだけど、シャッターがちゃんと動作しているように見えても、実際にはダメな場合があるので注意した方が良い。何せ壊れると複雑な機構のお蔭でリペアに手間が掛かり恐ろしく高く付くので、テッサーファンにはイカレックス用のＭ４２マウントは必須なのだ。Ｍ４２マウントで露出計内蔵のプリズムが付いた、イカレックス３５ＣＳ＋テッサー５０ｍｍｆ２．８の組合せ。当時の価格はセットでＤＭ６８２。１７５６年創業で老舗のフォクトレンダーは、戦後の中級機でも造り込みは見事で手を抜いておらず、オイルショック前のドイツの機械がどういうものだったか今に伝えている。外観だけでもフォクトレンダー独特の艶のあるメッキと、線の細いＲに縁どられた精緻なプレスラインだけでも鑑賞に堪えるカメラだ。イカレックス・テッサー５０ｍｍｆ２．８の作例（全て銀塩写真）田植えが終わり午後の光に包まれている田んぼの畔の左側に一羽のカラス。八ヶ岳連峰が見下ろす田んぼに植えられた稲が初々しい。緑色が大分濃くなってきて畑を見守る案山子が登場。右奥の顔を覗かせている蓼科山と前後２人の案山子に見守られている畑。夕方になり斜光を浴びて立っている畑の案山子が２人。畑の土手で一人の案山子が見守るブロッコリー畑で一人の農婦が作業をしている。畑で一人頑張っている案山子を写真で応援してみる。ここはいつも複数の案山子がいて賑やかくて、冬になっても頑張っている事もあるので案山子ファンには嬉しい。夕方になり空に雲が広がってきた畑。右手のシルエットはトウモロコシで左手はトマトか。昼夜の寒暖差でここら辺の夏野菜は一級品。

  2024.01.27

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  ローコスト化とコンパクトを追求したミノルタとの協業で誕生した異端のライツ製４０ｍｍｆ２ズミクロンＣ

  プロ用のカメラが一眼レフへ移行してＭ４が売れなくなり、次に気合いを入れて露出計内蔵で新時代の希望の星である”Ｍ５”を発表したライツ。その次に登場したＣＬは、Ｍ５と比べ大幅なコンパクト化を図りつつローコスト化も狙い、比較的リーズナブルな新時代の高性能レンジファインダー機として、Ｍ５やライカフレックスのサブや入門用として企画されたと思われる。ＣＬの設計はライツで行われたものの、オイルショックの煽りで更に経営が悪化した上に、元から高コスト体質のライツでは製造が出来ず、日本のミノルタで生産されたカメラだ。結局、ライツ新時代の希望であったＭ５とＣＬは、後継機がＣＬＥで終了してしまう事になる。次に出てきたレンジファインダー機は新規設計をあきらめ、往年のＭ４をベースにして可能な限りコストカットを図った。そのＭ４－２やＭ４－Ｐをドイツから切り離しカナダで生産しつつ、期待の一眼レフだったライカフレックスも高コスト体質のお蔭で消滅。結局はミノルタのダイキャストを元にＲ型ライカをポルトガルで生産開始。今のバカ高いライカ製品がバンバン売れている時代からは想像できないけど、ライバルでありながら安物と蔑んでいたのに、底辺まで蹴落とされ日本のメーカーと手を組まざるを得なかったライツ。そのライツ暗黒の時代に手を差し伸べたのがミノルタだった。かつては雲の上の存在で、お手本と仰いだライカへの恩返しというのが真相らしい。この時のライツとの協業で誕生したＣＬ用の標準レンズが、ダブルガウスのズミクロンとロッコールの４０ｍｍｆ２だった。当初のＣＬ用標準レンズはローコストとコンパクトネスを目指し、テッサー型のエルマリート４０ｍｍｆ２．８が企画されていた。とにかくレンズ構成を見てもコストカット優先だったらしく、試作段階ではブルガリアでの部材組み立てまで行われていたというものの品質の面で断念。とにかく安く上げるために徹底したお蔭で、操作性まで犠牲になっていたらしい。結局、ライカの看板レンズだったエルマー５０ｍｍｆ２．８が、１９５７年に登場したものの１９６２年には廃番になったのを見ても、時代的にｆ２．８のテッサー型では高級カメラの標準レンズとなり得ず、商業的に売れそうにないという事でｆ２のダブルガウスに変更される事になる。エルマリート４０ｍｍｆ２．８の試作分は４００本程だったけど、それらは社外へ公式に売られる事は無く、ライツ社内で販売されたお蔭で今では珍品扱いとなっている。４０ｍｍｆ２レンズの試作はミノルタとライツの双方で行われて、結局はライツで設計されたレンズ構成が採用され、海外ではライツで製造されてズミクロン銘となり日本国内ではミノルタが製造を担当してロッコール銘で販売した。レンズ構成図を見ると同時期のズミクロン３５ｍｍと似ている。コストカットで既存の３５ｍｍを下敷きにして４０ｍｍに仕立てたと思われ、各エレメントに使われている硝材も同じではないかと思う。ライカＣＬの方は１９７３年に発売され１９７９年まで続いたけど、ズミクロンＣ／４０ｍｍｆ２の量産は１９７２年に開始されて、初年度だけで６．０００本を生産している。生産の最終年は１９７５年であり、トータルの生産数は５４．３５０本だった。カタログＮｏ．１１５４２で、アクセサリーのフードのＮｏ．は１２５１８。手元のズミクロンＣ／４０ｍｍｆ２は、３０年以上前にアメリカの通販で見付けたもので、専用のフードとキャップ付きで２２０ドル位だった。レンズ自体の程度は良いのだけど、ヘリコイドがガサガサした感じだったのと、専用フードが外れなかったので、関東カメラサービスへオーバーホールに出した。ズミクロン４０ｍｍを使う場合は、４０ｍｍのフレームがあって等倍の明るいファインダーのベッサＲ３Ｍ。コンパクト優先のレンズは操作性が余り良くないけど、とにかく軽量でスナップ撮影には文句のない組み合わせだ。軽合金製で重さが１２５ｇという軽量級で、コンパクトな外観を持つズミクロン４０ｍｍ。とにかくコンパクトネス優先で使い勝手は二の次という所がある。キャップも従来の被せ式とかいうものではなく、フィルター枠に爪が噛んで嵌め込む独特なもので、構造上、耐久性は大丈夫かなと思っていたけど問題無い。徹底したコストカットのお蔭で、距離計に連動する部分がＭ型レンズとは異なっていて、レンズ後端部分が全周で並行に移動せず、上の連動部分だけに傾斜の付いたカム形状となっている。その為にＭ型ライカに取り付けた場合、無限遠でピントが合っていないと距離計が外れているので注意が必要。ダメでも４０ｍｍなら目測でも使えるので大きな問題ではないけど。ズミクロン４０ｍｍｆ２の作例（全て銀塩写真）時々訪れる金属製の白壁に挟まれた空間に向かうと先客がいた。シャッターが下ろされツタが絡みつき、建物としては役目は終えているのだけど、なぜか竹ぼうきと傘が用意されている。左奥の建物、錆びたトタンの落書き、赤いコーンの向こう側の白い壁にはツタが絡みついて、駐車場の一角がモダンアートになっている古い薬局に張られている色褪せた鎮痛剤のポスターを、招き猫が眺めているように見える。右側にある手書きのコロナ対策の張り紙も良い味を出している。ここのウナギの蒲焼は今時リーズナブルで実に旨い。昼時に行くと店は開いているのに大声で呼んでも誰も出てこないけど、それでも待つ価値がある。民家の壁の前に補強の為の鉄棒がクロスしている。その前に咲くバラが無機質な鉄のイメージを和らげてくれているようだ。古い建物を見るとつい気になってしまう。立派な煙突が目立つけど何か火を使う仕事場の名残りだろう。右側にチラッと見えている物干し台を見ると生活は継続しているようだ。元印刷屋さんだったらしい建屋も、作ろうと思っても絶対に作る事が出来ないオブジェになっている。ウロコ雲が広がる空の下で、散歩道の脇にあるススキの穂が白くなり、背後の山のカラマツも黄色くなって秋の深まり告げている。

  2024.01.13

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  見掛けてから三度目に入手したＭ４２／スコパレックス３５ｍｍｆ３．４を連れて奈良の橿原へ

  ウイーンが源流の創業１７５６年という世界でも屈指の老舗だったフォクトレンダー。ツァイスイコンに吸収されて途絶えていたブランドも、日本のコシナからベッサとスコパーという名称で復活した時は嬉しかった。へそ曲がりには、名門で老舗なんだけどライカやツァイスよりも地味な所が良くて、使いもしない大判用の旧い真鍮で出来たペッツバールレンズを買ってみたり、本当はウルトロン付きのビテッサが欲しかったのだけど当時は高価だったので、半額ほどで買えたウルトロンレンズが付いたプロミネント１ｂをサブで使ったりしていた。そのプロミネント１ｂは他を真似する事を潔しとない、独自のピント合わせ機構のせいで決して使いやすいカメラではなかったけど、レンズシャッターの中級機なのにキッチリとした高精度で高密度な造り込みには驚いた。付いていたウルトロンレンズの描写もお気に入りだったので、いずれイカレックス用のＭ４２マウントをと思いつつ気に掛けていても、元の数が少ないのか中々お目に掛かれないレンズだった。その後、東京の中古カメラ市でＭ４２ウルトロンを購入した時に、初めて1枚目のレンズが凹んでいるのに気が付いたりしていたのだけど、その隣にスコパレックス３５ｍｍｆ３．４なんかも並んでいて、昔は余り世間で馴染みのないＭ４２マウントは大体2万円台位のものだったので、それも買っちゃおうかと思ったのを覚えている。それでも、その場でスコパレックスを買うのを躊躇したのは懐具合の心配ではなく、当時はカメラとかレンズよりも写真の比重が大きかったので、余り使わないレンズを調子に乗って２つも買い込もうとする自分に嫌悪したからだ。生産性のない古モノなんか次にいつ巡り合えるか分からないけど、将来のお楽しみは少しくらい取っておいた方が良いではないか。結局、２本目のスコパレックス３５ｍｍに出会ったのは、ほぼ１０年くらい経過してから出会ったジャンク品で、かなり安いけど絞り羽根が動かない個体だった。更にそこから大体１０年ほど経過して３本目の出会い。既にデジタル時代になりｆ値の暗い３５ｍｍなんか需要が無いらしく、見掛けない割に２０年前と殆ど変わらない物価の優等生価格な上に、初見の奴よりも程度が良さそうだった。手元にやってきたスコパレックス３５ｍｍｆ３．４は、１９５７年頃に登場したレトロフォーカスレンズで、アンジェニュ―の３５ｍｍと似たような、テッサー型（＝スコパー）にワイドコンバーターを追加した５群６枚。１９６４年当時の価格はベッサマチック用がＤＭ２１５（ドイツマルク）で、標準のセプトン５０ｍｍｆ２はＤＭ２９８だった。参考までに、その前のｆ値が０．１暗い、旧型レンジファインダー／プロミネント用の、初期型スコパレックス３５ｍｍｆ３．５のレンズ構成図。こちらも、この時代の典型的なレトロフォーカスの一つで、４群５枚のマスターレンズのテッサー型の前に凹レンズを配したシンプルなもの。１９５５年当時の価格はＤＭ２２０だった。プロミネントはレンジファインダー機なのに、広角がレトロフォーカスだったのは、レンズの後ろにビハインドシャッターを備えたカメラなので、バックフォーカスが必要だったからだ。更に広角のウルトラゴン２４ｍｍｆ５．８に至っては、レトロフォーカスなのは当然だけどミラーボックス付きという代物だった。フジカのＭ４２マウント機は実に優秀なカメラで、Ｍ４２でレンズマウントとボディーの機能が合うと、常に明るい開放絞りのファインダーで被写体を追える上に、シャッターが作動した時にはちゃんと絞り込んでくれるのだ。カールツァイス銘だけど合併によるハイブリッド表示で、スコパレックスはあくまでもフォクトレンダー製のレンズだ。スコパレックス３５ｍｍｆ３．４の作例（全て銀塩写真）思わず新幹線の名古屋駅から工事現場写真を撮ったのは、中央下の交差点にプジョー２０８（Ⅰ）が停まっていて、右下にトヨタＦＪクルーザーが走っていたからだ。大阪・高槻市の自転車預り所。シルバー人材センターとの連携で、放置自転車を無くす試みだろうけど良いアイディアだと思う。街中を歩いていて好きな電車が走ってくると、ついカメラを向けてしまうけど、個人的には撮り鉄ではなくて乗り鉄の比重が高い。かつて大和の国の財産の半分が集まると言われ、今では文化遺産に指定されている奈良の今井地区に潜り込む。大好きな奈良酒の”出世男”の蔵もここにあって、酒瓶と一緒に荷物を送って頂いて大助かりだった。かつては防火用に水が湛えられていた筈の防火水槽も、今ではオブジェとなって風景に溶け込んでいる。手造りと思しき窓格子が歳月を経たお蔭で良い雰囲気のオブジェになっていて、縦に配された枯れた丸棒一本一本の表情が何とも言えない。屋根に葺かれているのは、表面がコンクリートそのものなので文化瓦だと思うけど、高度成長期の時代は地元でも集合住宅で良く見掛けた。アルミサッシではない木の窓枠も貴重で、この建屋一式が昭和の文化遺産だ。大阪・鶴橋のコリアンタウン入り口。時々、ネットでここからキムチを取り寄せているので立ち寄ってみた。いつもの豊田商店に初めて訪れ家で定番のレンコンキムチと他に幾つか選んだ後も、熱気に煽られて別のショップで色々と買い込む事になる。いつもの地元散歩写真。散歩道の途中にある”防火そう”の看板が、ここら辺の強烈な紫外線と風雨でどこまで劣化するか気になっている。既に１年以上は、この場所で頑張っている案山子。右側には蓼科山が見守っている。奈良の橿原神宮に置かれた巨大な絵馬には、まるで忌まわしいコロナ禍から逃れるかのように疾走する兎が描かれていて、そのコロナがやっと５類移行になり明るい兆しが見えてきた今年がもう直ぐ終わる。まあ色々あったけど何はともあれ今年は兎年でジャンプした事にして、来年の辰年では天空に昇る良い年になりますように御願いしたい。

  2023.12.23

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  キルフィット製ニコンマウントの"Delux"アダプターで使うキラー１５０ｍｍｆ３．５

  以前、３０年ほど前にハインツ・キルフィット製の、ニコン用キラー１５０ｍｍｆ３．５を購入した時に付属していた、ミラーボックス用のレンズを一眼レフに取り付けるための、”Ｄｅｌｕｘ”アダプターを取り上げた。これがライカＬマウントのシステムなので、ひょっとしたらと思い当時から一番安かった、ビゾ用のテリート２００ｍｍなんぞも手に入れたりしていた事を書いた。結局は純正のキラーと違い、テリートは無限遠で１０ｍソコソコにしかピントが合わなかったけど、それらをポートレート撮影に持ち出して遊んでいたのが懐かしい。キルフィット・キラー１５０ｍｍは風景にも持ち出したけど、軽量で写りの良いレンズという印象は残っているものの、殆ど使わなかったのは１３５ｍｍが好きだったからだ。秋になって大分涼しくなったお蔭で、久しぶりにキラー１５０ｍｍを連れ出してみたくなった。キルフィット・キラー１５０ｍｍｆ３．５の作例（全て銀塩写真）曇天の薄暗い天気の中で田んぼを見守る八ヶ岳連峰の阿弥陀岳。田んぼの向こうには諏訪富士と呼ばれる、たおやかな山容の蓼科山が頭を覗かせている。田畑が続く丘陵地帯の南側には甲斐駒山系が見える。この左手の東側にはお馴染みの八ヶ岳が控えている。秋の日差しの中を無数のトンボが群れている。八ヶ岳の阿弥陀岳が見下ろす田んぼの脇の小さな花壇。案山子の背後では焚火が焚かれているけど大概は湿気ているので煙が凄い。背後のナスとインゲンを二人の案山子が見守っている畑。久しぶりに引っ張り出した軽量なキラー１５０ｍｍは、相変わらずブラパチ写真には有効だ。レンズ先端のＡＰＯ風の３原色リングは色収差の補正も表しているのか、上がって来た写真を見てもキルフィット独自の品質管理のお蔭もあって何の文句も無い。独自のマクロと共に映画界でも評価されたキルフィットは、サードパーティーの中でも特に望遠系のレンズに力を入れていたけど、改めて当時のプロが納得するコスパの高さを確認する事が出来る。改めてキラー１５０ｍｍとテリート２００ｍｍの３本を並べてみると、長さは殆ど変わらないけど右側のキラーは鏡胴の太さが目立つ。キラーの２本のゴムのローレットは先端側が絞りでその下がピント。手にしっくりと馴染む人間工学に基づいた操作性も抜群なレンズだ。

  2023.11.25

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  ツァイスのベルテレ式ゾナーを下敷きにした軽量コンパクトなユピテル／ジュピター１３５ｍｍｆ４

  カールツァイスのゾナー１３５ｍｍｆ４を下敷きにして、旧ソ連で１９４０年代後半から開発がスタートした、ジュピター／ユピテル１３５ｍｍｆ４。色収差が厳しくなる望遠レンズには異常分散のフッ系硝材が必要なのだけど、大概の旧ソ連製レンズはカールツァイスのコピーと言われながら、実際には特殊な硝材は安価なものに変えて再設計したりしている事が多い。このレンズはどうなんだろうか。因みにオリジナルは二枚目がフッ系クラウン。クラスノゴルスクの工場でレンジファインダーのキエフとゾルキー用と共に、ユピテルー１１として一眼レフ用のＭ３９マウントも作られ、Казанским оптико-механическим заводом（カザン光学機械工場）では、１１Ａというアダプター付きのタイプを生産して、他にもАрсенал（アルセナル工廠生産協会）では、キエフ１０と１５用のバヨネットマウントが作られた。オリジナルと同じ３群４枚で正確な焦点距離は１３３．１２ｍｍ。前玉から後玉後端までの長さは５９．３５ｍｍというコンパクトなレンズだ。ゾルキー（ライカ）用の内部構造。このレンズは昔、ヤシカ・コンタックスを背負ってプラハを訪れた時に、いつもの望遠コンビであったプラナー８５ｍｍ＋ゾナー１３５ｍｍを止めて、プラナー１００ｍｍ一本にしたのだけど結局は物足りなくなって、ゾナー１３５ｍｍを置いてきたのを悔やみながら現地のカメラ屋さんで入手したものだ。家の旧東側製光学製品の大半がスラブ語圏のバックパッカーで入手したものだけど、既にツァイス・イエナのゾナー１３５ｍｍｆ３．５は持っていたので、コンタックス＋アダプターで使えるＭ４２の１３５ｍｍレンズとなると、そこでの選択肢は旧ソ連製かマイヤー位のものだったので、結局は手持ちには無いｆ４という値に惹かれて、ジュピターの旧いアルミ鏡胴の奴を選んだ。早速、その軽量コンパクトなレンズで、プラハ上空を飛ぶ飛行船を追っかけたりしていたのが懐かしい。ペンタックスＳＬに付けたユピテル１３５ｍｍｆ４。この独特なコーティングの色が購入を後押したのだ。ユピテルはゾナー型に加えてｆ値を欲張っていないので実にコンパクト。左側にあるのは大きさの比較で並べた同世代のｆ２．８／タイル１３３ｍｍ。長さと先端の開口径の大きさが大分違うのが分かる。このタイルは別の機会にＭ４２だと思って購入して、早速使おうとした時にＭ３９だと気が付いた。因みにタイル１３３ｍｍはレニングラードの国立光学研究所／ГОИ（ＧＯＩ）に於いて、Д.С. Волосов（Ｄ．Ｓ．ヴォロソフ）氏により、１９５１～１９５８年に掛けて開発試作された後の１９６０年から量産されたもので、一群目が貼り合わせというオリジナル設計の３群４枚構成。この時代に世界的にも珍しかったｆ２．８という明るさは、恐らく軍需目的だったのだと思われる。ユピテル１３５ｍｍｆ４の作例（全て銀塩写真）阿弥陀岳が見下ろす田んぼの稲ももう直ぐ刈り取りが始まる。向こう側の田んぼの土手に大きなカラマツがあるけど、その傍でコサギが羽を休めている。阿弥陀岳が見下ろす秋の田んぼの脇に作られた小さな花壇と、その奥の物置の屋根にカラスが一羽。蓼科山が見守る田畑も秋真っ盛り。色付いた稲が首（こうべ）を垂れて、その奥にはソバの白い花が満開になっている。首を垂れた稲の向こう側の空にはカラスが飛んでいく、雲の様子が猛烈に暑かった頃とは大分違う。別の日に阿弥陀岳から連なる南八ヶ岳を眺める。田んぼの土手の上の農道脇に小さな花壇をしつらえるセンスに拍手。夕方になり農作業が終わり人が消えて、もう直ぐ日が暮れる静かな山間の田んぼ。３羽ガラスが秋の田んぼを下に見ながら、餌場にでも向かって飛んでいるのだろうか。背後にあるカラマツは防風林も兼ねている筈で、その手前には白いソバの花が満開になり、更にその手前の案山子が見守るキャベツ畑では収穫作業が行われている。あと僅かで秋のつるべ落としの日が消える。今でこそ１３５ｍｍは地味で人気のないレンズだけど、望遠で手持ち撮影が比較的容易な１３５ｍｍは、レンジファインダーのライカにも、フレームが用意される程のポピュラーな存在だった。それは景色からポートレートなど色んな場面に使える万能レンズであり、報道のプロは必携だったしアマチュアにも人気の望遠レンズだったので、サードパーティーも含めた同じメーカーからも、わざわざｆ値の違うものが供給されていたりしたのだ。個人的には頭の中のブライトフレームで、撮影対象を凝視する感じになる１３５ｍｍは昔から好きで、もっとマトモに写真を撮っていた時には必携のレンズだった。今でも時々引っ張り出して見ると、１３５ｍｍの人間が凝視した時の視点というのは、写真を撮る上で結構重要なものである事を再認識させられる。２００ｍｍを超えるレンズの使いこなしが難しいのは、人間の視点を越えてしまい非現実的な景色になっているからではないかと思われ、１３５ｍｍはもっと見直されて然るべきレンズだ。

  2023.11.04

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  プラナー誕生１００周年記念で１９９６年に登場したヤシコン標準プラナーの最高峰である５５ｍｍｆ１．２

  以前、格差写真機と称してヤシコン・マウントのケンコー製安カメラに、プラナー５５ｍｍｆ１．２を付けてブログに駄文を書いた事がある。高価でレアなレンズだろうがジャンクの安レンズでも、写真の本質は撮る方にあるという事を思えば、幾ら苦労して入手した限定品であっても、レンズを変えた所で写真が上手くなるという事などあり得ない。個人的には一本のレンズが持つ個性とか特性というものは、写真という視点から俯瞰すれば二次的なものなので、時々見聞きする”このレンズだけは手放せない”とか”、”このレンズに出会ったお蔭で…”とかいう話に関しては、レンズの数が増える程に個人的には首を傾げながら何十年も過ごしてきた。それでも贔屓にしているレンズは幾つかあるのは事実で、その中の一番がヤシカ／コンタックスのプラナー５０ｍｍだ。そもそも１８９７年にパウル・ルドルフ氏により生み出されたプラナーという名称は、１００年を超えて今に至るまで続いている世界的に稀有なもので、オマケにそれは後に世界中へ広がったダブルガウスの元祖でもある。市井のレンズファンにはレンズに刻まれたカールツァイス銘だけでも特別なのに、それに加えてプラナーという名称まで追加されたＷネームとなれば、嫌でも尊敬と畏敬の念をもって接するしかないではないか。そのプラナーが１９９６年に誕生１００周年を記念して、プラナー５５ｍｍｆ１．２という特別な奴を限定生産する事を発表。早々にプラナーファンは常にカメラ雑誌をチェックしつつ、幾ばくかの頭金の準備を開始。やがて、前日からワクワク／ソワソワしたまま、持参した頭金とカードの分割でプラナーファンが望みうる、世界最高峰の標準レンズを迎えに新宿経由で中野へ出掛けた。店頭で支払いの手続きをしながら初めてレンズの実物と対面したのだけど、その前に店員さんが奥から持ってきた外箱が何とも普通な事に少し驚いてもいた。そこから常に手提げ袋から伝わるプラナーを感じながら東京を歩き回り、帰路のあずさ号の中で改めてコンタックスのロゴがプリントされた紙箱を開け、中から何の変哲もない取説を引っ張り出すと、それを眺めながらロング缶のビールで乾杯をした。その後、苦労して入手した５５ｍｍｆ１．２をどうしたかというと、最初にコダクロームで数本試写した後は殆ど仕舞ったままで余り使った記憶が無いのは、定番標準器のプラナー５０ｍｍｆ１．４に比べデカくて重いのもあったけど、そもそも５０ｍｍｆ１．４の描写に何の不満も無かったからだ。お蔭で、既に手元へ来てから四半世紀を越えているのに、通したフィルムはトータルで１０本程度かも知れない。プラナー５５ｍｍｆ１．２は当時のカールツァイスが持っている技術を全て注いで、近接補正のフローティング機構まで仕込んだ高級標準レンズだったけど、個人的には実用品というよりはプラナーファンの心の拠り所のようなものであり、手元にあるだけでホッと出来るプラナー教徒の御神体のようなものだった。何せ標準レンズのくせに外径がΦ８８もあって重さは５００ｇ。これを部屋に張っておくと何かの護符になるかもしれない、ヴァルター・ヴェルチェ氏により設計されたレンズ構成図のアップ。１０００本の為だけに新規に設計された、７群８枚という何とも贅沢な凝ったもので、近接補正のフローティング機構を内蔵している。コンタックスＳ２に付けた専用フード付きのプラナー５５ｍｍｆ１．２。デジタルでフィルム感度とかレンズのｆ値が無意味になった昨今だけど、５０ｍｍｆ１．４とは違う、ただならぬデカさと存在感には感動できる。プラナー５５ｍｍｆ１．２の作例（全て銀塩写真）２０２３年の春の進み方に煽られて久しぶりに引っ張り出してみた。良い感じの雲と八ヶ岳連峰が見守る田んぼには春の日差し。もう直ぐ農作業が始まって賑やかくなる前の静けさが心地いい。畑の土手に２本並んで植えられた、小さな梅の木の花が満開になっている。２０２３年の春は進み方が尋常ではなく、通常なら地元では１か月くらいのスパンでゆっくり楽しめるのに、あっと言う間に色んな樹種の桜が一気に満開になってしまった。ここの枝垂れ桜は、いつも他と比べて開花時期が遅くてＧＷ中に花見が可能なのだけど。大分、雑木林も賑やかくなってきて、淡い緑色の花を咲かせている柳の後ろには山桜の花が咲き、カラマツの梢も色が変わってきている。手前の柳川の土手にも春が訪れたばかりで、ようやく草が芽吹き始めた所なのに、奥にある二本の古い桜の木は既に満開となり、それに挟まれている柳も地味な花を咲かせている。毎年春になると出掛けていって会いに行く馴染みの桜の古木。今まで何回も色んなレンズで撮ってきているけど表情はいつも違うので飽きない。普段は開花が一呼吸遅れる枝垂れ桜も周辺の桜と一緒になって満開になっている。ここは色んな樹種の桜が植えられている公園だけど、いつ行っても人がいるのを殆ど見た事が無い贅沢。別の場所の柳川の土手に咲く桜も満開だ。背景に見える森のカラマツも色が変わってきている。田んぼの一角に作られた箱庭では花桃が見事に咲き切って、その根元にはスイセンも咲いている。春になると畑を見守る為に登場する案山子が今年もやってきた。春になって、これから畑の農作業が始まるのを待ち構えている案山子たち。一眼レフ用大口径のｆ１．２の標準レンズで、元々バックフォーカスを長くとる事が難しいダブルガウスの場合、５５ｍｍという焦点距離はその前の５８ｍｍと共に、’６０～’７０年代までは一般的なものだった。以前リコーの傑作標準レンズである、新しいＸＲリケノン５５ｍｍｆ１．２を取り上げたけど、ニッコールの５５ｍｍｆ１．２が５０ｍｍになるのは１９７８年であり、５５ｍｍは標準の大口径レンズには比較的無理のない焦点距離らしい。同じツァイスブランドで新時代の最高性能標準レンズである、オータス／アポディスタゴン５５ｍｍｆ１．４もそうだけど、ツァイスの５５ｍｍという焦点距離は、特に名前が”平坦”を意味するプラナーに於いて、像面の平坦性を維持しながら最高性能を目指すには必需だったと見える。時間を経て改めて写真を眺めていると色々と考えさせられる事があって、もう少しリバーサルで使っておけば良かったと少し反省している。

  2023.10.21

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  最後はペンタコンオートに改名させられたマイヤー・オプティックのベストセラー標準レンズだったオレストン５０ｍｍｆ１．８

  戦後は東側に存在したマイヤー・オプティックは、戦前からパウル・ルドルフ氏との関係でツァイス・イエナとも繋がりがあって、主に高価なツァイスレンズを補完する普及品を手掛けていた。何と言うか世界に冠たるツァイス・イエナのセカンドブランドみたいな位置にあって、恐らくコスト追求で安価な硝材に苦労しつつ、時には独自のレンズ構成を考案して、地味だけど堅実なレンズが多くて今見るとこれはこれで得難い魅力がある。戦後の旧ソ連では、ツァイス・イエナのレンズを下敷きにして、高価な硝材を置き換えて似た様なレンズをコピーしていたけど、マイヤー・オプティックのオリジナル性は尊重するべきだろう。因みに、ツァイス・イエナを師と仰いでいた、国産のニコンの場合はオリジナルを超える事が目標に開発されたらしく、実際に比べてみれば、その成果は理解できるものがある。別に、この意見は個人的な思い込みではなくて、朝鮮戦争当時にライフという雑誌と契約していた、プロの一級報道カメラマン達の証言があるのだから間違いない。戦後のツァイス・イエナ製の３５ｍｍ判用標準ダブルガウスレンズは、基本的にはリヒター氏により１９２０年代に登場した、有名ではあるけど古参のビオターであり、更に一眼レフ対応でバックフォーカスを稼ぐために、少し焦点距離の長いビオター５８ｍｍｆ２が担っていた。その後、１９６０年になると、ようやくパンカラー５０ｍｍｆ２が登場して、ダブルガウス標準の焦点距離は５０ｍｍに変更されている。一方、同時期のマイヤーオプティックの標準レンズは、１９５２年～１９５９年まで５枚玉のプリモラン５０ｍｍｆ１．９であり、既に世界的に見ても一眼レフ用としての焦点距離と明るさは先進的なものだった。プリモプランの次のオレストン５０ｍｍｆ１．８は６枚玉となり、レンズ構成はダブルガウスのビオター系に変更された。このレンズは１９５９年～１９７０年までオレストン銘で生産された後は、やがてペンタコン・オートという何とも味気ない名称に変更されてしまう。その上、１９７８年になるとペンタフレックス・オートカラーとか、ＯＥＭまで手掛けてオートレビュノン銘でも製造された。ついでに東側のテッサーに代わる入門用標準レンズを担っていた、プラクティカ―という味気ない名前の５０ｍｍｆ２．４というのも、マイヤー・オプティック製のレンズである。詰まらないレンズ銘への変更理由は良く分からないけど、マイヤー・オプティックを下に見ていたツァイス・イエナでは、高価な硝材も優先的に当てがわれて性能的には上のＦ２パンカラーとはいえ、ずっとＦ１．８オレストンを相当意識していたのではないか。１９６９年になってツァイス・イエナのパンカラーが、Ｆ２からＦ１．８に改良された時に同じスペックのオレストンを、いい機会とばかりに無味乾燥な名前に変えさせたと思われる。ツァイス・イエナこそ東側が誇る世界に冠たるトップブランドであらねばならぬ。ところでマイヤーオプティックの高性能レンズには、オレストンとかオレステゴールという名前が使われている。元がギリシャ神話の神様らしいという事は知っていたけど、今回改めて調べたらトロイ戦争の総大将オレステスであった。それがマイヤーでも上級のレンズに付けられているのを見ると、ツァイス・イエナという伝説に彩られた世界的に有名なブランドと、決してそれを超える事を許されないものに対する、鬱屈したプライドと言うか敵愾心というものが透けてくるようだ。当時のオレストン５０ｍｍｆ１．８のパンフレットを見ると、比較的暗い場所でもストロボ無しで使えるという事が協調されている。ツァイス・イエナの看板だったビオター５８ｍｍＦ２の上を行く、キッチリと５０ｍｍの上に明るいというのがオレストンプライド。別のパンフレットでも夜間のストリート写真や、室内の薄暗い場所での写真を作例にして、ｆ値の明るさを前面に押し出している。マイヤーのオレストンはビオターのような華やかな逸話も無く地味ではあったけど、レンズに勇ましい軍神に因んだ名前を刻み込んでツァイス・イエナに対抗していたらしく、そういう何ともいじましい所がヘソ曲がりのレンズファンには堪らないのだ。プラクティカＭＴＬ５Ｂとの純正コンビ。東側を代表する一眼レフだったＭＴＬ５Ｂは日本でも新品が売られていたけど、安定感のある独特の斜め上からの中指レリーズが病みつきになる。マイヤー・オプティック／オレストン５０ｍｍｆ１．８の作例（全て銀塩写真）色づき始めたカエデの下で佇んでいる石仏に、柔らかくなった日差しを透過した笹の葉の影が季節の移ろいを知らせている。地元の長円寺の紅葉には、今では県外の大型バスが訪れる名所になったけど、昔は知る人ぞ知る穴場だった。長円寺のカエデは京都から持ってきたものらしい。紅葉の向こうには幾つもの石仏が並んでいて、独得な風情を醸し出している。ここら辺は紅葉が始まったかと思うと、進行速度が早くて１週間も経つとガッカリする事がある。カラマツは年によって色づきが全然違うのだけど、この年は良い感じに変化していった。そろそろススキも種を飛ばす準備が完了して待ち構えている。戦後のビオター５８ｍｍをコピーした例には旧ソ連のヘリオス４４－２があるけど、それからすればオレストンの５０ｍｍｆ１．８というオリジナル性は評価するべきで、そこにはドイツの老舗としてのプライドが感じられる。いずれにせよオレストンがペンタコン・オート銘時代も含めてロングセラーになった理由は、ブランド主義とは別の位置にいる合理的な実質主義者には文句の無いレンズだったからだと思われる。

  2023.10.07

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  風巻氏による独自の高次収差法を応用して老舗の小西六で作られたヘキサノン５０ｍｍｆ１．９は国産ウルトロン

  戦後の小西六は早々にコニカⅠで健在ぶりをアピールした後、１９５４年１０月になると都内の３つの百貨店に、開発中の新商品を展示発表する。その中にはライカマウントのレンズも含まれていて、翌年にヘキサー５０ｍｍｆ３．５が最初に市場へ登場、次にヘキサノン６０ｍｍｆ１．２と５０ｍｍｆ１．９が続いた。ヘキサノン５０ｍｍｆ１．９はコニカⅡに付けられた試作バージョンと共に、単品で発表されたものの１９５５年１０月の段階では価格未定であった。実際には１２月になると、当初は単品ではなくチヨタックスとレオタックスへ供給されている。やがて昭和光学から当時２３．５００円という値段で発売されて、１９５７年にはオナーにも供給されたけど、ずっと小西六が直接発売に関わっていないのは、自社にライカマウントのボディーが無かったからだろう。因みに１９５６年／昭和３１年の国家公務員の給与は８、７００円。シリアルは３１２１〇〇～３１２４〇〇で、鏡胴のデザインが微妙に違っていて、初期型にはプロトタイプに近いものと２種類くらいあるらしい。当初コニカⅡＡに搭載された同系列の４８ｍｍｆ２ヘキサノンも、ⅢAの後期やⅢMでは５０ｍｍｆ１．８に置き換えられていく。５０ｍｍヘキサノンは小西六で戦前から戦中に掛けて独自の収差理論を確立した、風巻友一（ともかず）氏による【特許公報：昭２９－１２２５】の応用らしく、ダブルガウスの前群をバラし非対称にしてコマ収差の補正に挑戦した、初期の新しい国産ダブルガウス型レンズの一つだった。実際にヘキサノンの構成図を見ると、単純なダブルガウスというよりも戦前のシュナイダーから発表された、トロニエ氏による世界初の非対称ダブルガウスだったクセノン５０ｍｍｆ２に近く、前群はエルノスター型で後群がガウス型というハイブリッド型なのだ。戦後になるとトロニエ氏は、戦前のクセノンを新しい硝材でブラッシュアップして、イギリス軍に指示されて移籍したフォクトレンダーから、ウルトロンという傑作レンズを発表している。１９５１年には通産省の元で新種のレンズ開発に参加していた小西六なので、当然、このヘキサノンにも新しい硝材が使われている筈で、６０ｍｍｆ１．２と共に５０ｍｍｆ１．９はその成果の一つと思われる。ヘキサノン５０ｍｍｆ１．９は、よく国産ズミクロンなどと評されているけど、むしろ国産ウルトロンというべきレンズなのだ。ニコンがカールツァイスを基礎として、キヤノンがライツのベルク理論を発展させていたのに対して、小西六が贔屓にしていたのは１７５６年創業の老舗だった、フォクトレンダーという事ではないか。風巻氏が移籍した先のペンタックスでもヘリアー型のレンズが登場しているのを見ても、あながち的外れではないと思う。風巻氏による広報特許の一例を見ると、後のペンタックスのレンズにも風巻理論が繋がっているのが分かる。【特許公報：昭２７－３０２３】のヘリアー型ヘキサノン５０ｍｍｆ２．８。当時の純正コンビであったレオタックス＋ヘキサノンのアウトフィット。銀塩写真機として２１世紀になっても古びる事はない。ヘキサノンｍｍｆ１．９の作例（全て銀塩写真）手前に見えるアサヒ・スーパードライの空き缶は、キラキラして鳥よけの効果があるらしく時々見掛ける。農道脇の土手の一角がに小さな花壇が整備されていて夏の花が揺れている。風に揺れるガマの葉っぱ。良く見ると一匹のアマガエルも一緒に揺れている。低く垂れこめた雲の向こうは雨が降っている。ここら辺も暫くすれば夕立になるかもしれない。休耕田の脇で咲いている白い花の向こうにガマの穂も見える。農繁期に休日はないけど手塩に掛けた作物の生育の楽しみは他に代えがたい。畑の脇で頑張っている案山子が一人。田んぼからの内変換したソバ畑。真っ盛りになっている花を見ると秋の新ソバを思い出してしまう。ソバ畑の上を一筋の夕光が走っているけど、今から数分もすれば消えてしまう。ソバ畑の夕景。もう直ぐ日が暮れる時間帯がゴールデンタイム。オリジナルのウルトロン５０ｍｍｆ２は、フォクトレンダーのプロミネント１ｂで経験があるけど、モノクロでも分かる位の特徴があった。何というか、画面全体に薄く油を引いたような、艶というか華やかさがあって、単なる解像度だけではない語れない独特な味わいで、この特徴はヘキサノンにもあるように思う。

  2023.09.23

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  旅先の上田でのお楽しみは松尾カメラで昔から気になっていたオリンパス・ワイドを買い込んでブラパチをする

  昔は、国の内外問わず、どこかしらに訪れたら散歩趣味の延長でカメラ屋さんを探しだして、そこで何かしらのレンズやカメラを物色する楽しみがあった。特に日本であればレンズ付きのカメラなんぞを買い込むと、ついでに一番安いネガカラーを探して、試写も兼ねてサブで使って遊んでいたのだ。所が、コロナ禍でどこにも出掛けなくなると、こういう楽しみは無くなってしまい、オマケにフィルムは高騰して現像する場所も限られていき、撮影結果をその日の内に知る事が難しくなってしまった。何と言ってもコロナ禍の３年で、東京へ行けば必ず新宿駅前から直行していた、アルプス堂が消えたのにはガッカリ。今年の春にコロナが５類扱いになり、合わせて上田へ出張する必要が出来た上に朝が早いので、駅前のビジネスホテルに前泊する事になった。実は上田駅の近くには”松尾カメラ”というカメラ屋さんがあって、長野市の”ヤマモト写真機”共々に、ここは長野県を代表する銀塩写真文化のオアシスなのだ。夕方にチェックインして部屋に荷物を運びこむと、早々に宿の傍にある松尾カメラへ向かい、店内に並べられたカメラとご対面。この時は、ネットでも販売されていた幾つかのカメラの中で、一番引き合いが多いのはワルツのカメラとの事で、ワルツファンは早速、整備済みの綺麗な個体を見せて貰ったけど、個人的にワルツで拘っているレンズがコミナーではないのが惜しかった。他にもフォカやペンタコン・シックスなども気になるけど、基本的には昭和の文化遺産とも言うべき国産のコンパクトカメラが良い。それらの中から旅先の相棒として選んだのがかつて地元の諏訪の岡谷工場で作られていたオリンパスワイド。これが店頭に置かれる事になったいきさつは、前オーナーがコレクションを増やし過ぎて、哀れな事に家族からの批判に耐えられなくなったという事らしい。手にしたオリンパスワイドは外観はＣクラスと言った所だけど、打痕や凹みが無く、整備済みとの事でファインダーが綺麗なのが良い。シャッターはボタンの押し込みが深いけど、低速まで粘る事もなく軽快な動作をしている。次に裏蓋を開けてシャッターをバルブにして開放。裏側からレンズの後群に注目してみると、ワイドズイコーの後群が曇っていないのが素晴らしい。実はオリンパスワイドには昔から興味はあったけど、例のズイコーレンズの腐食による白内障が怖くて、中々実際に使ってみようと購入する事が出来なかった。ついでに、もう一つ注意したいのは巻き上げで、フィルムのコマが重なってしまう事があるらしいけど、これは実際に撮影するしか方法がない。店頭でストラップとキャップを適当に見繕って貰い、ついでに受注停止で高騰して一人一本限定という、フジカラーＮ１００を買うと一旦ホテルに戻った。オリンパス・ワイドは昭和３０年／１９５５年９月に、３５Ｖに広角の３５ｍｍレンズを搭載して、ワイド専用カメラの先駆けとなり、他のメーカーにも影響を与えた傑作だ。当時の価格は￥１６．９００円で、大卒公務員の初任給は￥８．７００だったので、今の感覚なら大体４０万円程という事か。今のカメラ＝スマホの時代では考えられないけど、大体７０年ほど前の日本では、カメラなんか超の付く高級耐久消費財だった事が分かる。今ではオリンパスワイドの相場は３０００～４０００円という所だけど、昔の中古市場、特にクラッシクカメラブームの頃は、結構人気があって２万円位は平気でしていたと思う。昔は買えなかったオリンパスワイドも、今では２台持ちになってしまった。右が上田の松尾カメラで入手したオリンパスワイドで、ホテルで少し使い方おさらいしてからフィルムを詰めてブラパチ散歩に持ち出した。左の方は、オリンパスワイドが気に入ってしまい後から入手した予備機だけど、コッチの方が程度は良くてフィルム圧板を見てもそれ程使われていなかったらしい。こういうのは大概シャッターが不調なのが多いけどこれは完調。鬼門のレンズが通販写真では、腐食による白内障は無く綺麗そうだったけど、入手してから良く見ると後群にカビがあった。早速フィルム側から後群を外し、アルコールとベンジンでクリーニングを実施すると、いつもの里山田畑写真に持ち出した。コンパクトだけど比重の高い古き良き時代の銀塩メタルカメラは、手触りからして今時のプラスチックデジタルとは次元が違う。曇っていたらアウトのワイドＤズイコーも、２１世紀を跨いで四半世紀近く経過して問題なければ、恐らくこれからも大丈夫ではないかと思う。上田は呑み屋のレベルが高いし地酒も色々あるので、日のある内は、とにかく歩き回って酒飲みの下準備をするのは当然だけど、宿から見て松尾カメラの反対方向にある飯島商店にも寄って、ここでしか入手できない”みすず飴”も買わなければならない。オリンパスワイドの作例（当然、銀塩写真）ファーストショットは宿を出て直ぐ裏にあるトラットリア・ノンノ。赤いチンクが羨ましい。今の新型チンクとは比べ物にならない骨太な大衆車だ。裏道を上田城方面に向かっていると学校らしき建物が見えてきた。部活中と思われる学生達がランニングをしている道路脇の石垣の上に、一匹のネコが昼寝をしている。これが元上田城三の丸藩主居館跡に建つ上田高校だと後で分かったのだけど、最初左手の真田城に近い筈の方向へ向かったら通れそうもなく、逆方向へ引返したら凄い遠回りになって敷地の広さに驚いた。実は１７８９年の翌年に建て替えられた藩主居館の表御門であった、すなわち当時は城主しか通れなかったという同校の校門の事は知らず、不審者と間違えられるのも嫌で途中で引き返したのは残念。近くでじっくりと拝見したかった。オブジェの様になった古い建屋にエアコンの室外機がある。今年の夏は長野県内でもトップレベルの暑さを連日記録していた上田なので、どうやらエアコンは必須らしいけど、夏は暑い地域というイメージは無かった。新潟に長期の酷暑をもたらした、フェーン現象にも繋がる特異な現象だったのだろうか。漆喰が残る土壁に木枠の引き戸が懐かしい、いつ消えてしまうか分からない文化財は写真に残さないといけない。上田城に向かう途中で見付けた、どういう構造になっているのか良く分からないビルの塊。真田神社で夕方の木漏れ日を浴びてぶら下がっている六文銭の絵馬。逆光だとハイライトがフレアっぽいけど、それもいい味になる。別の日に松本駅前で自衛隊の広報活動をやっていたけど、マスコットキャラクターなんてものは初めて見た。牛なのか。古い建屋に張られたポスターは色褪せて放置されている。かつて貼られていたであろう先輩ポスター達の跡をみると、これも早晩消えていくのだろう。大きなハウスカレーの古いホーロー看板を見て、昔のハウス食品の家ロゴマークを思い出した。個人的には、こっちの方が一般家庭に関わる食品メーカーとしての温かみを感じる。これから連想したのが小学館の勉強ロゴマークで、子供の頃はどちらかを見ると片方を連想していた。左下に回覧板をポストに入れる人がいるので、この木枠の窓が懐かしい建屋はまだ生きているのだ。駐車場の一角にあるツタに覆われた人気のない建屋だけど、裏に回ってエアコンの室外機を見ると新しいので、まだ使われているらしい。コンパクトな割に比重が高いメタルボディーの中心に光る、小さなビー玉の様な広角サンハンＤズイコーが付いたオリンパスワイド。ほぼ７０年前に登場したカメラだけど、プラスチック外装の自働カメラが早々に陳腐化して消えていったのに比べて、既に２１世紀になってから四半世紀近くを経過しているのに、スナップ写真機として古びた部分は全く無い。

  2023.09.02

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  テッサーに代わり新時代のカール・ツァイス・イエナの看板商品になる筈だったビオメター８０ｍｍｆ２．８は西側にも影響を与えつつ何とも地味な存在

  戦後になり爆撃で破壊された工場の再建と共に、アメリカ軍による技術者の連行と西側への逃亡者に加えて、ヤルタ会談によるソ連軍の接収で混乱していた、光学界の巨人であるカール・ツァイス・イエナ。それでも、ほんの数か月を経て何とか工場を再建すると、ツァイス・イエナのAbteilung Foto（写真目的部門）に、フォクトレンダーでキャリアを積んだ、３５歳のハリー・ツェルナー博士が部門長に就任。当時のドイツで最も若くて最も経験が豊富なレンズデザイナーが、カール・ツァイス・イエナの中核にやって来たのだ。ツェルナー氏は戦時中に開発された新しい硝材を知ると、新時代に相応しいレンズの可能性を追求する為に、既存の光学系の設計を新しい硝材でやり直すことを開始。その最初の成果が１９４７年１０月２９日に完成した、新しいテッサー５０ｍｍｆ２．８であったけど、既にテッサー型の限界に気付いていたツェルナー氏は、その結果に満足する事が出来なかった。　カール・ツァイス製のｆ２．８テッサーに関しては、　既に戦前の１９３４年に試作されていたローライフレックス用があった。　それには１９３３年に設計されたテッサー８０ｍｍｆ２．８レンズが付いていたのだけど、　販売されなかったのはテッサーの描写に問題があった。　実は５０ｍｍからの単純な発展型だった為に、　焦点距離の延長に伴う収差の増加と共に、　およそ１０度広くなった画角のお蔭で球面収差の影響が出てしまい、　周辺部の描写までも劣化させていた。翌年の１９４８年にツェルナー氏は先輩のメルテ氏によって設計された、変形ダブルガウスのｆ１．４ビオターの収差補正の理論を応用して、新しい光学系の開発に着手する。そして１９４８年９月に完成した新型のビオメター８０ｍｍｆ２．８は、その時点でローライフレックスが入手できる最高のレンズであったにも関わらず、１９４９年までのソ連向けの戦時賠償生産が優先され、およそ２０００本が供給されただけで、東西の分裂がはっきりした時点で、ローライとのプロジェクトは中止されてしまった。オマケにカールツァイス・イエナの新時代を象徴する筈だった、高性能で最新鋭のビオメターが完成しても、当時の保守的な首脳陣と共産党は、栄光のテッサーブランドを手放すつもりはなかったらしく、その後も４０年に渡りテッサーは東側の標準レンズとして製造される事になる。一方、戦後間もない西側のオーバーコッヘン・ツァイスでは、レンズの生産が遅れてライバルのシュナイダー製のレンズが、西側ツァイス・イコンのカメラやローライフレックスに供給される有様だった。所が、その後１９５０年になって、ツァイス・イエナが戦時賠償生産を完了して、西側の民生市場に再参入を目論んだ時点になってみると、既に西側ではローライ向けにビオメターそっくりのシュナイダーのクセノターとか、オーバーコッヘン・ツァイスからも１群目を張り合わせにしたという、オプトン製のプラナーが登場して市場が消滅。　上記のビオメターそっくりのクセノターに関しては、　ビオメターの共同設計者だったルドルフ・ソリシュ氏が西側に逃亡した際に、　シュナイダーへ持ち込んだ可能性が高い。　ついでにビオメターという画期的なレンズに関して、　ツェルナー氏はパテントの申請もしていないけど、　当時のツァイス・イエナはテッサーへの拘りが尋常ではなかった。　テッサーよりも高性能らしいけどスペックは同じという、　知名度も無い良く分からん西側製品の様な高価で退廃的なビオメターよりも、　テッサーは世界中で知名度も定評もあって安価に作れるという事を優先。　当時の共産党とそれに倣うカールツァイス・イエナの幹部の影響は大きく、　テッサーしか見ていない官僚的で保守的な共産主義の元では、　ツェルナー氏が幾ら良いものを作っても認められる事など無かったと推察する。　１９５０年７月になると東側のカールツァイス・イエナでは、プリマフレックスⅡ、マスター・コレレ、エクサクタ６X6用に、東側ご自慢の看板商品でありながら性能がイマイチだった、８０ｍｍｆ２．８テッサーの改良に着手する。合わせて、戦前のビオゴンが使えない西側のコンタックスⅡA／ⅢAの為に、広角のビオメタ―３５ｍｍｆ２．８を売り出したものの、ベルテレ氏により改良された新型ビオゴンで終了。結局、ツェルナー氏は東側向けのレンズに集中する事になり、せっかくの３５ｍｍビオメターの前面にワイドコンバーターを配したような、当時世界でも稀有な一眼レフ用広角レンズのフレクトゴン３５ｍｍを、アンジェニューのレトロフォーカスと殆ど同時期に開発する。オリジナルの１９４８年式ビオメター８０ｍｍに関しては、プラクチシックス用として再計算され、ローライ用と違い設計の自由度がある為に改良されて前玉が大きくなった。１９５１年には３５ｍｍ判ポートレートレンズという事で、ビオメター８０ｍｍはプラクチナ、プラクチカ、エクサクタの各マウントと共に、１６ｍｍムービーカメラのAK16用にも細々と供給された。１９６０年代になると全自動絞りのビオメターが登場するも、望遠では戦前から定評のあるゾナー１３５ｍｍよりも高価だったために売れず、一部のポートレート写真家を除いて殆ど評価される事も無いままに、結局、３５ｍｍ判用は１９６５年に姿を消す事になる。一方、中判用の方はプラクチシックス用に関し、１９５６年６月にエレメントの２番目の硝材を、イエナで開発された最新のＳＳＫ１０に置き換えて改良。それでも、１９５９年にようやくテッサーと入れ替わるまで、最新で最高のビオメターは日の目を見る事はなかった。その後、ようやく６X６判用の標準レンズとしてペンタコンＳＩＸとコンビを組み、ツァイス・イエナの高性能看板レンズとしての役目を果たしていく。所でオイルショック後の７０年代後半になって、なぜビオメターが日本のブロニカへ短期間だけ供給される事になったのだろうか。当時ブロニカは高コストなニッコールからの脱却を試みる中で、東側との決済レートの関係でニッコールよりもコスパは良かった筈で、短期の供給になってしまったのは、主要なアメリカ市場に於ける共産主義アレルギーだと思われる。　ツァイス・イエナ製のブロニカ用ＭＣビオメター８０ｍｍｆ２．８は、　１９７４年に３千本／１９７７年に５千本／最後の１９７９年には５６０本が、　ビオメター或いはゼンザノン銘で供給されている。他にもビオメターは、ペンタコンＳＩＸのシュナイダー・バージョンである、エクサクタ６６の標準レンズだったクセノターの廉価版として、ごく少量だけ生産されたようだ。ペンタコンＳＩＸマウントのビオメターの構造図。ビオメターのレンズ構成図を見ると、クセノター型はビオメター型という事が分かる。因みに西側のオーバーコッヘン製プラナーは、１群目が２枚の貼り合わせになっていて、いずれにせよ２つのレンズの下敷きはビオメターで間違いない。これを見るとツェルナー氏は、１９６１年に新ガラスを使ったタイプで、ようやくパテント申請を行ったらしい。ビオターの絞りを挟んで最初の後群が２枚張り合わせだったものを、ビオメターでは１枚に簡素化したお蔭で、レンズ構成としては、ガウス型＋トポゴン型のハイブリッド。これの4番目に配された薄くて湾曲のきついレンズエレメントⅣは、中心厚の精度が煩く高度な研磨技術が必要となるので、ツァイス・イエナのレンズ群でもビオメターは高価なレンズだった。実用性丸出しのフジカＳＴ８０１に付けた、アルミそのままの鏡胴が特徴の中期型ビオメター８０ｍｍｆ２．８。フジカ独特の遊びの無いデザインが東側のアルミレンズに合う。このビオメターはシリアルから１９５２～１９５５年製なので、ローライ用から改良されたオリジナルに近いレンズだ。３５ｍｍ判用のビオメターの初期型は黒鏡胴のピントリングが革巻きで、後期型になるとお馴染みのゼブラ模様になる。昔、プラハのカメラ屋さんに潜り込んだ時に、カウンターの上に置かれたペンタコンＳＩＸを前に、若い女性が店員から使い方を教わっているのを見た。どうやら、ずっと欲しかったカメラを手に入れたらしく、嬉しくて誇らしいような明るい笑顔を始終見せていて、その気持ちが痛いほど分かる自分も嬉しくなってしまった。というわけで３５ｍｍ判にも使えそうなビオメター８０ｍｍだけ購入。なぜかレンズ単体だけ幾つもあったのは、ペンタコンＳＩＸがポンコツなのかアダプターを使い３５ｍｍ判で使う為か。どれも値段は８００コルナ前後（２４００円）だったと記憶している。手持ちのビオメターは、シリアルから１９６４～１９６７年製なので、既に前群の２枚目が新しい硝材に変更されているタイプだ。同じショップで別の機会に入手したゾナー１８０ｍｍにくっついていた、ペンタコンＳＩＸ－＞Ｍ４２アダプターで、いつか使ってやろうと思いつつ３０年…。ベッサフレックスに付けたペンタコンＳＩＸ用のビオメター８０ｍｍ。レンズ銘の頭に付いている虫の様なマークは東側の高品質製品を表している。中判用のもう一本はブロニカ用。カール・ツァイス・イエナと、今では消滅した東ドイツを表すＤＤＲ／デーデーエルの文字が入った、ゼンザノン銘のＭＣビオメター８０ｍｍ。実はブロニカ標準のニッコールＰ７５ｍｍｆ２．８も同じ様なレンズ構成であり、両方ともビオメター＝クセノター型という親戚関係にあるけど、当然ながらビオメターの方が先輩でオリジナルである。１９５０年代製でＭ４２マウントのビオメター８０ｍｍｆ２．８の作例（全て銀塩写真）色んな桜が満開なのに、誰も訪れているのを見たことがない公園にて。咲き始めの桜も良い。最近は気が付くと一気に開花してしまうので油断できない。いつもなら他の桜と違い２週間くらい遅い筈の枝垂れ桜。蕾の様子を見に行ったら、この有様。田んぼの土手に春の到来。里山をバックに満開の桜。下に見える赤い花は花桃。右手のカラマツも色が変わってきて春が進んでいく。まだ何も手が付けられていない田んぼの脇に咲く古い桜の木。いつもなら、田んぼには水が張られている筈なのに。良く訪れている別の田んぼの脇でも桜の古木が満開。右手下には川の対岸で咲いている桜が見える。新緑で色づいた木々の真ん中の下に案山子が居る。実は偉大なテッサーレンズの後継だったのに、継子扱いで今では殆ど忘れられたビオメター８０ｍｍレンズ。それは本家よりも西側でクセノターとして開花して、初期のプラナーにも影響を与えたのは良かったけど、へそ曲がりは当然ながらビオメターを贔屓にしなくてはならない。

  2023.08.05

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  アメリカ海軍による高解像度写真撮影システムの要請から生まれた元エルカンのライツ・アポテリート１８０ｍｍｆ３．４

  今時のライカマニアはバカ高くないとライカ製品は買わないらしい。どうやらライカというものは、プロ用のツールとか好き者の愛玩道具というものから、ビンテージのスポーツカーや時計などと共に金儲けの為の投機対象になり、見栄と権威主義に縁どられた投資ゲームの為の手駒に落ちぶれてしまった。５０ｍｍｆ２の標準レンズ一本に百万円の価値がある事に意味があり、ついでに古い奴までが性能がどうとかいう以前に、ライカに関わるモノは何であれ値段が高くないと困るらしい。何せ、あっちではズマーが５万円を越えて、こっちではズマリットが１０万円を越えているという狂気を見るにつけ、非金持ちは由々しき問題だと怒る以前に、キッパリと手を切ることが出来てせいせいしている。ライツが”アポ”というのものはカネになると気付いたのは大分前の事らしく、最初のアポテリートが誕生したきっかけは、１９６０年代後半のアメリカ海軍からの要請だった。軍事の光学系は他国に性能がバレるのを恐れて大概は自国産が基本だけど、既にコダックのエクターでは限界だったと見える。やがてライカフレックスＳＬをベースにした高解像度の写真システムは、１９６０年代にカナダ・ミッドランドにあるライツ・カナダに於いて、ウォルター・マンドラー氏によるエルカン１８０ｍｍｆ３．４レンズで結実する。そのエルカンをベースにした市販バージョンが、ライツ初のアポレンズであったアポテリート１８０ｍｍｆ３．４だった。レンズエレメントにライツ・ヴェッツェラーで開発された新しい分散特性を持つ特別な硝材を使い、理論的限界に近付いたと言われる各単色収差の補正により可視光から赤外域まで広い領域で、望遠レンズの弱点である色収差が補正された夢のアポクロマート望遠レンズ。その高性能レンズは１９７５年から１９９８年まで販売されていたけど、実際には後継のｆ２．８アポ・エルマリートが登場した１９９４年には生産されず、最後は１９９５年の４００本で生産は中止されている。仕様としては、前期：１１２４０と後期：１１２４２があり、フィルターとレンズのキャップが異なっている。実は、金満アメリカ市場に於いて、写真撮影用でアポを謳ったレンズは他にも存在していた。例えばポートレート写真を変えたと言われた、フォクトレンダーのアポランターとか、殆どがアメリカに呑み込まれたバカ高いアルパ用の、キノプティック・アポクロマートなどがある。どれも希少で高価なレンズというのが共通していて、例えば、キノプティックの１００ｍｍは２４５本、アポランター付きのベッサⅡも数百台というレベルの生産数で、性能よりもバカ高いというのが金持ちの自尊心をくすぐるらしい。どうやらライツはアポテリートのお蔭で、少量生産の特殊で希少な上にバカ高ければ、金持ちは幾らでも喜んで買うという事に気が付いたと見える。以降、１８０ｍｍならアポエルマリートｆ２．８やアポズミクロンｆ２、それよりも長い２８０ｍｍや１００ｍｍマクロなどが続々と登場する事になる。この望遠アポの乱発はライバル達も刺激したらしく、ツァイスからはコンタックス用のアポゾナー２００ｍｍｆ２、アンジェニューからはアポアンジェニュ―１８０ｍｍｆ２．３などが生まれた。家にあるアポテリートは大分前に手元にやってきたもので、日本の中古カメラブームの時でも、アメリカならライカ関係は送料込みで半額ほど入手出来た頃だ。アメリカとの通販にはエアメールで送られてきたカタログを眺めてリストアップ。２～３日の間は懐具合と相談しながら、どうしようかと煩悶する。やっとの思いで選んだ製品リストと共に、クレジットカードの情報を書いた手紙をエアメールで送る。更に、そこから１週間ほどで届く小包を開ける時の楽しみ。結果として、時にはお目当てが売り切れだったりしてガッカリという、リスト到着後から、およそ２週間掛りの何とものんびりとした時代だった。当時、ライカの一眼レフ用の中古レンズなんか、アメリカでも既に人気が無いらしく安かったけど、アポテリートは結構高くて５００ドル以上はしていたと思う。個人的に色収差が補正された夢の望遠アポクロマートレンズには興味があったけど、高価な上に中々姿を現さないレンズでもあり、ようやく出物を買い込んだのは良いけど、その頃は、まだボディーが無かったので知人のＲ－Ｅを借りてきた。早速、ポートレート撮影会に参加してフジクロームで試写に持ち出すけど、人様の大事なカメラはとっとと返さなくてはいけないので、翌日には、いつものコダクロームで風景に持ち出す。カメラを返却してから、暫くして上がってきたリバーサルフィルム。逆光気味でカラマツ林の上に雲の合間からチョコっと顔を出した八ヶ岳のカットを見て驚いた。それでも、ポートレートの最短距離で撮ったコマを見ると、色は綺麗なのだけど何となく”ピシっ”としたものが無いように見えたのは不思議だった。恐らく最短撮影距離が２．５ｍと長めで、フローティング機構もないアポテリートは、元々の使用用途からして無限遠で最高性能が出るように設計されているんじゃないかと思った。エルカンは軍艦から遠距離の相手を観察する道具というよりも、主に航空偵察で使われたんじゃないか。キッチリと赤外線領域まで色補正がなされたのも、曇りの日でも写真が撮れるように長波長の赤外線フィルムに対応したものだろう。例えば、米海軍で運用された航空機の一つに、攻撃と偵察を担っていたＡ－５ヴィジランテというのがあるけど、エルカンの高解像度写真システムは航空偵察行動に使われていた筈で、これには無限遠での最高性能以外は要らないのだ。何せ、エルカンとは違い民生用とは言え、アポテリートだって使用用途が単なる写真撮影以外に、特別な学術用とか工業用への用途も謳われた特殊なレンズである。やがてライカ貯金で買い込んだＲ６が手元にやってきた。暫く、カメラが無い時期に出物があればチョコチョコと買い込んでいた、１カムと２カムの安レンズで写真を撮って遊んでいたのだけど、望遠は１カムのレンズ構成が違うエルマリート１３５ｍｍが好きだったので、１８０ｍｍなんか出番がない。そして夏になると考えていた事を実行に移した。諏訪湖花火の日にＲ６に秘蔵のアポテリート換装すると、それを三脚とレリーズと共にクルマへ積み込んで、花火が打ち上がる反対側の湖畔である南側へ向かう。諏訪湖の北岸と違いガラガラの南岸道路を走り抜け、そこから中央高速の下にある畑が並ぶ高台に上ると、華やかで鮮やかな色彩と無限遠での高解像を狙って、アメリカ海軍お墨付きの高解像度写真システムをセットした。諏訪湖の対岸を絞り開放のファインダーを覗いただけで、思わず、”すげーな”と声が漏れる。やがて花火が打ち上がり、新しく詰め込んだリバーサルフィルムを一本だけ撮り終えると、道が混む前にとっとと帰宅。その後、現像から帰ってきた写真を見て改めて唸る。打ち上げられて爆音を轟かせている明るくて鮮やかな花火も凄いけど、それに加えて、往年のマグネシウム閃光の役割を果たした花火のお蔭で、諏訪湖の北岸にあるホテルの各階層でベランダから覗く人々の顔と、その後ろで開け放たれた窓。ホテルの下の湖岸には観覧席で座って見上げている見物客達と、その後ろには道路を歩く人達の服装とか出店の様子も分かる。軍需品なのでカネに糸目を付けないで作られた上に、性能を明らかに出来ないオリジナルのエルカンとは少し違う可能性がある、民生品のアポテリートの独特な４群７枚のレンズ構成図。望遠のアポクロマートレンズの基本は、少なくとも１枚はフッ系クラウンなどの異常分散を使った１群３枚だ。このレンズは色収差の補正と共に像面の平坦性も狙っていると思われる。Ｒ６に取り付けたアポテリート１８０ｍｍｆ３．４。紫がかった淡いコーティングが特殊なレンズ感を醸し出す。最近、Ｒ６は１カムレンズなどで絞り込み測光を多用し過ぎたらしく、自動絞りが効かなくなり何を付けても絞り込まれたままになってしまった。まあ、電池を抜いてＴＴＬ測光を使わなければ問題無いのけど。確かに、ある部分でアポの優位性は認める事は出来ても、それだけがレンズの本質ではないとは思う。アポテリート１８０ｍｍｆ３．４の作例（全て銀塩写真）フィルム高騰でいつまで銀塩写真が取れるか分からないので、一番好きな新緑の時期にアポテリートを引っ張り出してみる。里山にも春がやってきた。芽吹きが始まった雑木林で目立つ山桜。田んぼの脇にある若い山桜が満開になっている。右奥の里山に根付いた古い山桜は今年も一緒に咲いてくれている。色んな木々の芽吹きに混じっていても桜は目立つ。今年はサクラの開花が異様に早くて、まだ水も張っていない田んぼの脇に植わっている桜も満開になって春真っ盛り。春の桜の生命力は他の木々とはちょっと違う。何というか音波まで発しているようだ。今年もちゃんと春が訪れた田んぼ。いよいよ田植え作業の準備が始まる。蓼科山が見守る田んぼにも既に稲が植えられている。機械植えの後には人の手で追加修正作業を行う。こちらは八ヶ岳の阿弥陀岳が見下ろす田んぼで機械植えの後の補修作業中。この時期、田んぼの畔の草刈り作業もそこら中で行われている。それを見守るのは、奥と手前の２羽のカラス。いつものキャベツ畑にも植えられたばかりの苗を見守る案山子たちが頼もしい。他の畑にも案山子が登場して賑やかくなってきた。カラーネガのブラパチでは実力の半分も見えないかもしれないけど、これはこれで一つの資料という事で。

  2023.07.15

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  オリンパスのＯＭ３５ｍｍｆ２は微光量下での描写が見事だしｆ１．４クラスの大仰さと比べると地味で取り回しも楽な所がいい

  一眼レフ用の３５ｍｍ広角レンズのｆ値となればｆ２．８もあれば十分で、ｆ２ともなればこれは大口径と呼んでも良いんじゃないか。３５ｍｍレンズは殆どレンジファインダーばかりで、一眼レフ用は滅多に使わないけど、持ち出すのはオリンパスのＯＭズイコー３５ｍｍｆ２が多い。高千穂製作所に始まるオリンパスの創業は１９１９年。体温計と顕微鏡が主力で、オリンパスの商標は１９２１年に取得。その後、顕微鏡で成功すると体温計はテルモに譲渡して、１９３４年には写真レンズの開発を開始。最初のズイコー７５ｍｍｆ４．５が完成したのが１９３６年で、この時にセミオリンパスⅠを販売。戦時中の１９４３年に諏訪工場を取得して、翌年には伊那工場を取得して光学兵器を生産。戦後は、各々カメラ工場と顕微鏡工場として再出発している。顕微鏡から出発して光学兵器を作り、それを元にカメラを作っているというのがオリンパスのイメージと繋がり、ペンシリーズやＯＭシステムが実際にコンパクトで取り回しが楽なので、ＯＭシステムを使っている時は特殊な精密機器を扱っている気分になる。ＯＭシステムがＡＦに出遅れてＯＭ－７０７というカメラを出した時に、米谷さんがプロデュースした金属製の精密カメラこそオリンパスの神髄だと信じていたので、正直に言うとガッカリしたのを覚えている。失敗したＯＭ７０７プロジェクトは今でもどうでも良いけど、それよりもパワーフォーカスなるＯＭ－１０１は少し気になった。実際にはＲＦコンタックス系のギア操作と同じで、ＡＦの５０ｍｍレンズを付けて操作してみると余り使いやすいものではなく、７０７以上に少数の生産で消えたのは仕方なかったと思われる。プログラムシャッターのみでシャッターボタンを押すしか出来ない１０１に、アダプター無しでＯＭレンズを付けると、どうなるのか良く分からなかったけど、明るさで適当に絞りを操作してみると、一応、写真は撮れるようだ。ＯＭズイコー３５ｍｍｆ２の作例（全て銀塩写真）八ヶ岳が見守る麓の田んぼも秋色に染まってきた。もう直ぐ稲の刈入れが始まる。八ヶ岳連峰で２番目に高い阿弥陀岳の左下の白い点々はコサギ。食い物の相談でもしているのだろうか。土手のススキも穂が出て来て、色づいた田んぼを蓼科山が見守っている。日が暮れて大分暗くなってきた田んぼの脇に案山子が一人。古い建屋とピカピカのスーパーカブ。元キャバレーだったらしいこの建物は今は駐車場だけど、スーパーカブは今でも現役で働いていると思う。ビルに囲まれ新しいクルマばかりの駐車場の奥に佇む、古い建物がいつ消えてしまうか気が気ではない。この駐車場もよくみると、奥の二台を動かしたいとなると面倒くさそうだ。ヨーロッパで見掛ける竹馬を履いた大道芸の準備が完了して、演者に観客や警備員さんの視線が集中する。次に鎖の付いた丸い金具の中に香を焚いて、それを振りながら大道芸の開始を告知。スマホなんか見ていないで、せっかくの観劇に集中するべきだと思うが。２００２年頃まで作られていたらしいＯＭズイコー３５ｍｍｆ２を入手したのは、コンパクトなＯＭ用のブラパチ３５ｍｍレンズが欲しくなりｆ２．８を探していたのだけど、なぜかクモリのある個体が多かったので仕方なくｆ２を選んだ結果。使ってみれば標準の５０ｍｍｆ１．４と殆ど同じ大きさで扱いやすく、微光量下でも大口径を謳える描写が気に入ってしまい、ｆ２．８漁りはずっと中断したままでいる。３５ｍｍのｆ２は大口径レンズだという作例写真。７群８枚だけど重くもなくコンパクトだと思う。

  2023.07.01

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  ２０世紀末に登場したライカ標準原器のネジ式４Gズミクロン５０ｍｍは地味だけど真鍮製で高比重というのが往年のライツを彷彿させる

  世紀末の１９９９年に日本のレモン社によるリクエストで作られた、新世代の第４世代／４Gのスクリューマウント／ズミクロン５０ｍｍｆ２。戦前の精密光学製品の鏡胴は真鍮製が普通だった時代に遡ったような造り込みで、最近の軽合金製と違って比重が高く小振りな割に重いレンズだ。これは、当時世界で一番ライカが売れていた日本向けの製品で、生産数は４００本とも言われている。確か、価格は９万円＋であり、標準レンズの割に高価ではあったけど、その頃は古い方が人気があって、新しいズミクロンなんか中古で５万円位だったと思う。それで、＋４万円程を奮発すれば、単に写真を撮るための最新標準レンズであるという以上に、国産やロシアなどを含めたライカ系全般の機材テストや、フィルムの評価にも使える万能標準原器レンズという事で腹を括った。ライカ貯金からカネを工面してレモン社へ行き、それから殆ど四半世紀が過ぎた。最初にコダクロームで試写して、確かに良いレンズだなと思ったのだけど、当時はヤシコンがメイン機材だったので余り使う事が無かった。まだコダクロームで結構真面目に写真を撮っていた頃は、ヤシコンのボディーを３台ぶら下げていて、１台は望遠の８５～１３５ｍｍが付いていて、もう一台には殆ど広角の２５ｍｍだったけど、時々１８ｍｍかもう一本の望遠。標準レンズだけは、ずっとプラナー５０ｍｍｆ１．４のみであり、コダクローム２５を詰めたＲＴＳとのコンビは変えなかった。地元ブランドのヤシカＹＥに付けた、第４世代のねじ式ズミクロン５０ｍｍｆ２。華々しくて造り込みの凄い旧世代とバカ高いアポに挟まれて、何とも地味な存在でライカマニアからは無視されているんじゃないかな。実用性のあるフード内蔵で、新時代のライカの顔ともいえるレンズなので安心して持ち出せる。ヤシカ・ライカなんか巷では地味な存在だけど、戦前から軍需に関わってきたニッカが源流なので、プレスライン一つ見ても分かるように造り込みは上等である。第４世代（４G）／ネジ式ズミクロン５０ｍｍｆ２の作例（全て銀塩写真）田植えが終わって、文字通りの薫風が田んぼの上を吹き渡っていく。その畔には黄色いアヤメなのかカキツバタが揺れている。鏡面とまではいかないけど風が弱くなり、輝いている田んぼで幾らかそよいでいる稲の清々しさ。田植えが終わると、早速人の代りに案山子が登場して田んぼを見守っている。畑にだって案山子が登場して睨みを利かせ始めている。作物が収穫時期になるまでずっと畑を見守り続ける。なぜか目立たない場所に追いやられている案山子。八ヶ岳連峰が見下ろす田んぼも田植えが完了している。古い建屋は現役なようで薪を作る作業小屋らしい。良く見ると屋根に小さな避雷針が乗っているけど効果はあるのだろうか。このレンズで写真を撮って何か問題があれば、それは機材やフィルムが原因というよりも、殆どは運用している本人に問題があるという事になる。

  2023.06.17

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  １／２０００秒の高速レンズシャッターを搭載したミノルタＶ２写真機

  ミノルタが”Ａ”というビューファインダーカメラを発表したのは１９５５年だった。１９５６年にはＡ－２へと進化して、１９５８年には国産初の連動露出計を搭載したオートワイドが登場して、高速シャッターで話題になったＶ２が登場した。昔はミノルタのＶ２というカメラは余り見掛ける事が無くて、どちらかというと珍品の部類ではなかったか。ミノルタのＶ２はフォーカルプレーンでも難しかった、１／２０００秒をレンズシャッターで実現したエポックメイキングで、当時の価格は￥２４、８００というもので、同じ時期の大卒公務員の初任給が￥９、２００だったので結構な高級カメラだった。Optiper-Citizen-HS M-10というシャッターユニットは、シチズンと共同開発した独自のものだけど、基本的に一度全開しないといけないレンズシャッターの場合、高速は１／５００秒が限界なので、ちゃんとからくりがある。１秒～１／５００秒のシャッター速度では全速に何の制約が無い。実は高速域ではシャッターを全開せずに速度を稼いでいるので、１／１０００秒では解放絞りがｆ４に制約され、１／２０００秒ではｆ８になってしまう。個人的にＶ２が好きな部分は、５群６枚の４５ｍｍｆ２のロッコールレンズと、経時変化で大概は無用の長物になっている露出計が無い点だ。Ｖ２のアップバージョンだったＶ３に興味がないのは、余計な露出計が付いてるせいである。そもそも高速側のシャッタースピードなんか、標準以下では１／２５０秒が殆どで時々１／５００程度なので、他のカメラでも１／１０００秒以上の高速なんか、望遠レンズ以外では使った事が無いので個人的にはオマケでしかない。Ｖ２は大柄で重いカメラだけど、まだ手抜きを知らない時代のカメラなので高密度なのだ。このカメラのデザインを担当したのはミノルタ社内ではなく、(有)ＫＡＫというデザイン事務所だった。特にＭＩＮＯＬＴＡのロゴは、このタイプが一番カッコいいと思う。大阪に行く用事が出来た時にその本拠地だったミノルタのカメラを連れて行こうと思い、Ａ－５と比べて選んだのが、なぜか重い方のＶ２だった。ミノルタＶ２の作例（全て銀塩写真）良く見る通天閣の写真というと南側の正面しか見た事が無いので、裏側は月の写真同様のレアなんじゃないかと思っている。夜になり真っ赤にライトアップされた通天閣は、コロナ禍では警告を表していたのだけど、動きを止めて休んでいるロボットのような風情があって可愛らしい。新世界マーケットの入り口の赤い提灯と通天閣のイラストが良い。夜の通天閣の赤い色が印象に残っていて新世界というと赤を思い出す。庭で満開になっている梅と瓦屋根にネコ。春だね。奈良の法隆寺で中門右側から睨みを利かせる朱色の阿形像。大体３．８ｍの高さがあり、元は奈良時代の和同４年（西暦７１１年）完成。塑像で作られて、ずっと外気に晒されていたお蔭で、既に奈良時代末期に大幅な補修が行われ以降、大部分が塑像から木造に変わってしまっている。仁王門の左側で邪気の侵入を見張っている黒い吽形像。頭部、右手、背中、腰などが貴重なオリジナルだそうだ。大部分が木造の阿形像に比べて原型を残しているのは、黒い塗料のお蔭かもしれない。地元の諏訪地方から法隆寺に行く場合にＪＲの切符を買うと、”○○－法隆寺”と表示された切符が渡されるので、法隆寺駅の改札を出る際には無効スタンプを押して貰わなくてはならない。赤文字で、”信号を守れ！！”という看板を初めて見たけど、信号を守らない連中へのイライラ感まで伝わってくる。

  2023.06.03

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  世界で２番目にプラナーの対称性を崩した新しいダブルガウスの標準ビオターレンズ５．８ｃｍｆ２

  ビオターはカールツァイスのヴィリー・メルテ氏により、１９２７年に映画フィルムで使用されたのが最初で、シュナイダーが１９２５年に発表したクセノンに続く、プラナーから発展してダブルガウスの非対称性を採用したレンズだ。１９３０年代には３５ｍｍ判用の４０ｍｍｆ２と５８ｍｍｆ２が作られ、１９３８年には今でもカリスマ的存在の７５ｍｍｆ１．５が登場する。他にも、中判用の８０ｍｍｆ２に加え、１６ｍｍカメラ用の２５ｍｍｆ１．４と、軍事用と思われる１００ｍｍｆ２，１４０ｍｍｆ１．４，２５０ｍｍｆ２を開発。既に１９３０年にはビオター５０ｍｍｆ１．４も存在していた。他にもＸ線カメラ用のＦ０．８５のＲ－ビオターがあるけど、これのレンズ構成の基本はペッツバールタイプらしい。５５ｍｍｆ０．８５の構成図。戦前はコーティングもなく反射面が多い事から、ゾナーの陰の陰に隠れていた非対称ダブルガウスも、戦後になると開花して西側ではプラナー銘で復活。戦後の東側ツァイス・イエナで作られた、１９５３年のエクサクタマウントのビオター５．８ｃｍｆ２。やがて東側でもビオターはパンカラーという名前で進化を遂げ、看板レンズとしてブランドを担っていった。ビオターは戦後に旧ソ連でもコピーされて、ヘリオス４４／５８ｍｍｆ２として大量に生産された。また、中望遠のヘリオス８５ｍｍｆ１．５も、中身はビオター７５ｍｍｆ１．５が下敷きになっている。旧いＭ４２マウントのビオター５．８ｃｍｆ２。シリアルから戦後の１９４９～５２年に作られたレンズ。同じ非対称ダブルガウスの、シュナイダー・クセノンＦ１．９に比べると、地味で性能も明るさも劣るけど、そこが良い。左がエクサクタマウントで右がＭ４２。Ｍ４２・ビオター５．８ｃｍｆ２の作例（全て銀塩写真）冬になり物置の陰で休んでいる一人の案山子。冬になって雪が降っても、まだ畑で頑張っている案山子。こちらは物置の陰で休憩中の夫婦（めおと）案山子。雪が残る畑で頑張っている案山子は、春先から同じ場所でずっと蓼科山を眺めている。こちらは林の切れ間から覗く、雪化粧で真っ白の八ヶ岳を睨んでいる案山子。段々と冬が深まり、ついに農業用の溜池にも氷が張ってきた。

  2023.05.06

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  東側のツァイス・イエナのビオターを横目に老舗のシュタインハイルが作ったクルミノン７５ｍｍｆ１．５

  １８０１年に貴族の両親を持つアルザスで生まれのドイツの発明家、カール・アウグスト・シュタインハイル氏。１８２５年に学業を終えると父親の邸宅で個人学者として天文学、物理などを研究。１８３３年には王立プロイセン科学アカデミーの星図シートを出版して、１８３５年にはミュンヘン大学の数学と物理学の教授に任命される。ダゲール写真発表の４か月前の１８３９年には、同僚と塩化銀紙を使った直径４ｃｍの写真を撮影して、ネガ・ポジ式のシュタインハイル法というダゲレオ写真を確立する。当時シュタインハイル氏により撮影された、ミュンヘン聖母教会の写真。その後も、ナポリ、オーストリア、スイスの政府関係の仕事をこなし、１８５２年にミュンヘンに復帰した時、レオン・フーコー氏と共にガラス表面に銀の薄い層を形成して、これが反射望遠鏡の元となり屈折望遠鏡を駆逐する事になる。１８５５年にバイエルン公国のマクシミリアン２世の要請により、息子のヒューゴ・アドルフ・シュタインハイル氏とシュヴァビンクに光学工房を設立。これがシュタインハイル・ミュンヘンの始まりである。１８６０年に次男のエドゥアルト氏が入社して、１８６２年にはヒューゴ氏に引き継がれＣ．Ａシュタインハイル・ゾーネと改名。一時サレネス城に拠点を置いていた。創業者の死後も科学顧問を務めたルートヴィッヒ・ザイデル氏に支えられ、優れた望遠鏡、分光器、光度計などを天文学界に供給していたシュタインハイル社。１８６６年にアプラナートレンズを発明し、１８９０年には息子のルドルフ氏が入社して１８９２年に事業を継承。１９３０年代には株式会社となりルドルフ氏の娘５人による共同所有になる。１９４０年代にはレンズ交換式のカスカを発表。１９５２年にアメリカで、オプティッシュ・ヴェルケ・Ｃ．Ａ．シュタインハイル・ゾーネＧｍｂＨの商標登録を行い、１９６０年代になるとシュタインハイルのレンズをポンダー＆ベストにより発売開始するも、１９６２年にアメリカの大手レンズメーカー、エルジー・オプティカル・カンパニーが５６万ドルで株式の８０％を取得して買収する。それが１９６４年には航空コングロマリットのリア―・シーグラー・インクへ売却され、社名をシュタインハイル・シーグラーとして照準器や航空航法機器を製造。それも１９８０年代になると、ブリティッシュ・エアロスペースに１７０万ポンドで売却。社名はシュタインハイル・オプトロニックとなる。やがて１９９４年１２月２６日にシュタインハイルの商標は失効。それは次に更新される事は無かった。そして１９９５年になると、ついにシュタインハイルは解散して、タンクサイト、ポンプとアクチェーター、ジャイロスコープなど、あらゆる部門が切り売りされて、光学機器と商標の一部はジェノプティックＡＧに引き継がれて消滅してしまった。老舗のシュタインハイルが、１９５６年頃に東側のカールツァイス・イエナが作っていた、高価で有名な大口径中望遠レンズのビオター７５ｍｍｆ１．５に倣ったと思しき、クルミノン７５ｍｍｆ１．５というレンズがある。余り見掛けないレンズで数は少ないようだけど、昔アメリカのウッドメアーの通販リストで見付けた時は、かなり安い値段だったと記憶している。マウントはＭ４２なのだけど、後ろが結構飛び出ているレンズで、ペリクルミラーで万能マウントのＥＯＳ・ＲＴでも、ネジが１山掛かるかどうかというレベル。デジタル時代の今ならミラーレスで余裕だろうけど、当時は使えるカメラが無かったのだ。以来、置物のクルミノンだったけど、最近のマウントアダプターの氾濫のお陰で、”Ｍ４２－ライカＭマウント”というのを入手。連動しない距離計はどうしようもないので、測距は目測で行い本来の銀塩フィルムで使ってみる事にした。クルミノン７５ｍｍｆ１．５の作例（全て銀塩写真）農業用水の溜池には時々鴨が来ている事があって、それに気が付かないで近付くと、いきなり羽ばたいて飛び立ったりして、結構ビビる事があるので注意が必要。秋が深まってきた。既に種を飛ばし終わったススキの背景で変化している、ヒツジ雲の変化が面白くて立ち止まる。終点の電信柱の上に浮かんでいる秋の雲。低い高度には灰色の雲が立ち込めて来た。恐らく明日の天気は下り坂だろう。晩秋になり、殆ど作物のない畑で頑張っている案山子。そろそろ役目を終えて姿を消してしまう時期が訪れている。こちらの案山子には、もう少し畑仕事が残っている。実は手前にあるビニールトンネルの見張りをしているのだ。大分冷え込んだ湿地では水が凍り始めて、枯れた植物にまとわりついた霜が冬の到来を告げている。ちょっと開けただけでグルグルのフヤフヤで周辺光量も落ちるクルミノン７５ｍｍ。これは、ひょっとしたらレントゲンの間接撮影用のレンズではないかとも思うけど、色収差が結構マトモなので本来の用途はムービー用とも考えられ、他には工業用とか宇宙/軍事用かもしれない。フルサイズでは特有のＢ級描写が、有名な中望遠ビオター以上のヘナチョコかもしれないけど、このレンズでしか撮れない写真がある筈であり、今時にきちんと対峙するのであれば、フルサイズよりも画面サイズの小さいデジタルが良いかもしれない。

  2023.04.01

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  デジタルの台頭で日本で終焉を迎えたベルテレ式ゾナーの最終型ポートレートレンズのゾナー８５ｍｍｆ２．８

  かつては大口径の花形だったベルテレ式ゾナーが表看板をプラナーに譲った後は、堅実な高性能レンズとして再登場して、合理的な実質主義者には評判の良いシン・ゾナーレンズ。全体的にはエルノスターを思わせる、テッサーの１枚目と２枚目の間にもう一枚レンズを追加したようなレンズ構成が、日本で終焉を迎えたベルテレ式ゾナーの最終形態だ。レンジファインダー時代の高級ポートレートレンズで有名な、ゾナー８５ｍｍｆ２がコンタレックス時代にも生き延びたのは不思議ではないけど、製造コストと手間が掛かる上に収差補正に限界が来ていたのは事実で、１９７０年のローライＱＢＭと共に新しくｆ値を落としたｆ２．８で再登場する。レンズ構成は大幅に変更されて、何となく有難みとカリスマ性が消えてしまったけど、これこそ、あの名作ポートレートゾナーの後継である。同系列でフォクトレンダー銘のカラーダイナレックスも中身は同じで、ローライ３５用の４０ｍｍとコンタックスＴ，Ｔ２のレンズや、ヤシコン・ゾナー１００ｍｍｆ３．５も同じ様な構成になっている。このポートレートレンズは、次のヤシカ／コンタックスのプロジェクトでも、カールツァイスにとって重要だったらしく西ドイツ製で１９７５年に再登場しているけど、この時に再設計がされたらしくレイアウトは少し変更されているらしい。鳴り物入りで登場した機械式シャッターを搭載したコンタックスＳ２は、東側ツァイスが作り上げたコンタックスＳの後継として企画されたようだけど、マニュアルカメラで写真を撮った事が無いと思しき設計者によって、露出計がまるで使い物にならない欠陥カメラである。バッテリーを入れなければ機能とデザインは文句がないのだけど、もう少し西側を震撼させたオリジナルのコンタックスＳのエッセンスが欲しかった。シン・ゾナー８５ｍｍｆ２．８の特徴は、ＭＴＦを見ても開放からコントラストの高さが際立っているのと、コンパクトなゾナー型の特徴である標準と変わらない大きさだ。ヤシコン・ゾナー８５ｍｍｆ２．８の作例（全て銀塩写真）秋も深まり古びたガードレールに掴まって日向ぼっこをしているトンボ。以前、ヤシコールで紹介した餌を漁るトンボの群れは、５０ミリの画角だと小さくて分かりにくいけど、８５ミリならどれだけトンボが群れているか良く分かると思う。別の角度から暗い林をバックにすると、こちらにも餌を漁るトンボの大群。大量のトンボを養う事が出来るここら辺の自然の豊かさが良く分かる。蓼科山が見下ろす田んぼは、既に刈り入れが終わり静かな時期になった。昔は天日干しのハサ掛けが幾らかあったのだけど最近はコンバインで一気に収穫。藁の二次利用も少なくなり収穫と同時に粉砕して田んぼに戻すところが増えた。蓼科山が見守る畑の一角に植えられたマリーゴールドはお飾りではなくて、作物に害を及ぼす土中の細菌や害虫避けの意味があるらしい。ここも蓼科山が覗いている畑。既に収穫も終わり殆ど何もない畑で頑張っている案山子。色づき始めた木々をバックに風にそよぐススキとセイタカアワダチソウ。アワダチソウは帰化植物で、昔は花粉症の原因とされたけど実際には関係はないらしい。昔は大きかったアワダチソウが年々小さくなったり勢いがなくなる理由は、５０ｃｍにも及ぶ根で土中の肥料成分を消費して巨大化した後、養分が枯渇した上に、他の植物が生えないように分泌している、アレロパシーという物質が堆積していくので自身も影響を受けるらしい。収穫が終わって静かになった田畑を抜ける農道を行く犬の散歩。僅かに残された野菜の傍らで２０２２年の畑じまい。ヤシコンの８５ｍｍと言うと、皆が絶賛するプラナーのｆ１．４が特に有名で、他にもｆ１．２なんてのもある。それでも、カールツァイスが名作ポートレートレンズの名前を冠した、ｆ２．８がニ線級の安物である筈がなく実力は文句ないし、何より軽量コンパクトで取り回しが楽な点が良い。ブランド信仰のコレクターとは無縁の、あくまでも実戦向きの一級レンズなのだ。

  2023.03.11

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  ツァイスと言えばビオゴン／ゾナーだった時代のプラナーの奥ゆかしさ３５ｍｍｆ３．５の広角サンハンプラナー

  レンジファインダー・コンタックスの３５ｍｍレンズというと、ベルテレ氏による１９３７年に登場したｆ２，８のビオゴンが特に有名。同時期にオルソメターという普及版の３５ｍｍｆ４．５が登場するも、鳴かず飛ばずで今ではコレクターズアイテム。他にもビオゴンの普及版として企画されたのが、２群５枚のヘラー３５ｍｍｆ３．５だったのだけど、これも今では珍品扱いというもので普及する事は無く、当時、コンタックスを買う顧客は高価なビオゴン以外は眼中に無かったらしい。これは戦後のオーバーコッヘン・コンタックスになっても同じ状況で、相変わらずベルテレ氏により再設計されたビオゴン３５ｍｍｆ２．８が幅を利かせ、１９５０年に東側のツァイスイエナから供給された、ビオメター３５ｍｍｆ２．８はコレクターズアイテム。当の西側ツァイスでも普及版は企画されていて、１９５４年に登場したプラナー３５ｍｍｆ３．５も討ち死に。今のブランド信仰にも繋がるようだけど、いかにベルテレ式ビオゴンが有名で、絶賛され神格化していたか分かる。戦前のオルソメターやヘラーは言うに及ばず、戦後のイエナ製ビオメターの陰にも隠れて、何とも地味な４群５枚の広角プラナー３５ｍｍｆ３．５。レンズ構成図を見ると、ビオメター（クセノター）型の前後を逆にしたように見えるのが面白い。逆ビオメターの広角プラナーは、前群がトポゴンで後群はガウス型なのだ。売れなかったせいで今では余り見掛けないけど、もう２０年以上前に購入した時は年に一度は市場に出ていたので、なるべく安いのを探して入手したものの、ヘリコイドが硬くて手元に来てから直ぐにオーバーホールをする羽目になった。へそ曲がりはビオゴンの前にプラナーを選ばなければならない。鏡胴の造り込みは５０年代のオーバーコッヘン・クオリティーそのもので、２１ｍｍや３５ｍｍのビオゴンと何ら変わりがない酒の肴になるレベルだ。シャッターの作動音が低くて気にっている、ウクライナ製のキエフ４Aに付けたプラナー３５ｍｍ。２１ｍｍもそうだけど、意外に使い易い組み合わせなのだ。２０１４年のロシアとのウクライナ紛争以降、ウクライナ政府は”KiyvNotkiev”運動を繰り広げて来たので、今時は”​К​иїв​​​”／クィイヴ（キーウ）と呼ぶべきなのだ。​刻印は消せないけど、カメラに罪はない。プラナー３５ｍｍｆ３．５の作例（全て銀塩写真）別所温泉の一角に置かれた、文化財と言って良い味わいの古い木のベンチ。薄暗い八角堂は絞り開放の１／１５秒でギリギリ。誰も居ない古い建屋の前でアジサイは咲き誇っている。中々良い味わいで時々訪れていた古い建屋も、今では消えて更地になってしまった。悪天候でヒョロヒョロのトウモロコシを見張る案山子が一人。１年遅れの御開帳でにぎわう善光寺。諏訪の御柱だって出来たのに。御朱印帳をお願いしようと思ったけど、幾つも窓口があるのに凄まじい込み具合と日差しで断念。善光寺さんで用意していた団体客用という、一枚の紙に書かれた御朱印にも長蛇の列。それでも御朱印帳に直に書いて頂く列に比べれば１／４位だった。戦後のオーバーコッヘン・ツァイスを代表する、改良版ビオゴンの描写が今でも見事な点は認める。それでも独特の逆ビオメター型とも言うべき広角プラナーには、描写以上の捨てがたいものがある。

  2023.02.18

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  ベラルーシのБеломо／ベロモ製 Пеленг (фишай)／ぺレング・フィッシュアイ１７ｍｍｆ２．８

  キリル文字でПеленг（ぺレング）という変な名前の、１７ｍｍｆ２．８のフィッシュアイを見付けたのは２５年以上前のプラハだった。キャップにはБеломо（ベロモ）というロゴマークが印刷されていて、ずっとロシア製だと勝手に思い込んでいたけど、最近になって調べてみるとベラルーシ製のレンズであり、そのベラルーシでは既に１９５８年にはミンスク機械工場において、レニングラードのロモと共同でスメナというカメラを生産していたらしい。他にもヴェスナ、チャイカ、アガートなどのコンパクトカメラをはじめ、一眼レフはКМЗ(KMZ)で開発されたゼニットＥ以降は、ベロモが共同生産を開始しているのを見ても、ベラルーシは意外に光学機器の歴史があるのが分かって驚いた。 БелОМО／ベロモは、正式には”Белорусское оптико-механическое объединение ”といい、ベラルーシの光学機械産業協会の意味を持つ。（ローマ字にすると”Belorusskoye optiko-mekhanicheskoye obyedineniye”　英語では”Belarusian optical and mechanical Association” ）提携先だったロモとは関係はなく、”Белорусское”の３文字に始まり、”оптико”、”механическое”、”объединение”の頭文字の組合せだと思われる。元は１９７１年にミンスクでС. И. Вавилова　（Ｓ．Ｉ．バビロフ）氏により設立され、正式には１９７３年に旧ソ連の光学機器メーカーの一つとして出発している。２００８年１２月２９日付けベラルーシ共和国国有財産委員会の命令第３６９号により、民営化されてЗенит-БелОМО（合資会社ゼニット・ベロモ）に改組。現在のベロモは小型兵器をはじめレーザーや自動車部品から家電製品まで手掛けているらしく、軍事の監視システムや射撃管制システムは世界市場の２～３％を占め、ロシアでも１０％のシェアを持つ。１９９２年以降はВячеслав Бурский （ビャーチェスラフ・ブルスキー）氏が率いてきたのだけど、何かでベラルーシ政府に目を付けられたらしく、２０１９年に当局に拘束された後は、大統領令によりАлександра Мороза （アレクサンダー・モロス）氏に交代している。その後、２０２２年にロシアの侵略に加担したという事で、今ではＥＵやアメリカをはじめ西側の経済制裁の対象になっている会社。一方Пеленг（ペレング）というのを調べてみると、別の企業が存在していてカメラやレンズとは関係はないようだ。参考までに、ペレングは１９７４年１２月１９日にベロモを再編して、独立した企業としてЦКБОП（ＴＳＫＢＯＰ＝光学機器設計局）のパイロット生産を割り当てらた。１９７５年にはЦКБ ・Пеленгに改名してソ連の国防産業省の一部だったのが、ソ連崩壊後はベラルーシの産業省の管轄になり、１９９４年になると中央設計局ペレングは株式会社へ改組。２０１０年代にはベラルーシ初の人工衛星に参加。２０１９年株式の半分弱をミンスク州が握っていて、民営化以降は今でもゼニット・ペレングと称している。最近では気象機器や宇宙関連機器や高解像の地球リモートセンシングを製造して、製品の殆どは中東とロシアに輸出されている。そして２０２１年にはアメリカのカナダの制裁リストに加えられ、２０２２年にはベロモと同じように西側の制裁対象企業になった。所で、Пеленг／ぺレングというのを訳してみるとベアリングと出てくるけど、機械に使われているクルクル回る丸い軸受の事なのだろうか。ベロモ独自の写真用レンズを調べてみると、ペレングという名前の魚眼レンズだけのようだ。オマケに幾らネットで突いても出てくるのは、８ｍｍｆ３．５の丸い画像が得られる全周タイプばかりで、１７ｍｍの対角１８０度は結構なレアのようである。プラハで購入した真っ黒で謎の広角１７ｍｍレンズはインナーフォーカスで、今時珍しいプリセット式の絞りというものでマウントはニコンだった。当時、現地ではボディが無かったので魚眼レンズであることは知らず、本来はムービー用か何かの特殊な広角レンズだと思っていた。それには青いナイロンのポーチが付属していて、中にはレンズ後端にねじ込むタイプの、お猪口の様なフィルターが茶色い紙で未開封のまま包まれていて、使用感の全くないレンズだった。構成図は分からないけど７群１０枚の１８０度対角魚眼レンズであり、センターで５０本／ｍｍ、コーナーで１５本／ｍｍの解像度を持ち、実際に使ってみても写りの良いレンズだ。ただし、レンズ後端のフィルターが必須で嫌でも付けないとピントが出ない。カラーの場合ではＵＶを付けなくてはならないけど、これが結構飛び出ているのでニューＦＭ２などではミラーがぶつかって使用不能。とにかく思いっきり捻じこんでもダメで、フィルター後端の淵の部分をヤスリで削ってマジックで塗り、ようやくニコンＦならいけそうになったけど、結局アダプターでＥＯＳ・ＲＴを使い試写に漕ぎついたのを覚えている。魚眼なんて、そうそう使うものではないので放っておいたのだけど、久しぶりにニコンＦ２に付けて持ち出してみた。残念ながら、やはりミラーの干渉があるらしく、幾つか何も映っていないコマがあった。ぺレング１７ｍｍｆ２．８の作例（全て銀塩写真）通称、心臓破りと呼んでいる散歩道に雪が積もっているのが久しぶり。フィッシュアイも水平と垂直ラインを考慮すると魚眼臭が消える。諏訪地方は上雪が殆どで余り積もる事はない。最初の頃は日が出ればあっという間に消えていく。冬の静かな畑に人の気配はないけど、その代わりに色んな生きものの記録が雪面に残っている。稲の刈跡が残る冬の田んぼの清澄さが清々しい。雪に埋もれながらも畑を見守り続ける案山子が一人。畑の一角にある物置の陰で休憩中の案山子。春になったら再び畑へ登場する。雪が降っても立ち続ける案山子の向こう側には、もう直ぐ消える冬の短い日が覗く。畑の脇で頑張っている冬案山子。上の案山子と一緒に畑の脇で大分前から立ち続けている。外観も含めてインナーフォーカスにプリセット絞りという、独特の雰囲気を持つぺレング１７ｍｍの写りはＡクラス。どうやら生産数の少なさも含めて普通の写真レンズではなく、軍事用の監視システムとかの特殊用途のレンズではないかと思われる。

  2023.02.04

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  Ｍ４２マウントで老舗の英国ダルメィヤー謹製ニューアードン９インチｆ４．５望遠レンズ

  ジョン・ヘンリー・ダルメイヤー氏は、１８３０年にウエストファリアのロクセンで生まれた。１６歳で学校を卒業すると、オスナブリュックの眼鏡技師に弟子入り。１８５１年にロンドンへ出るとW・ヒューイット氏と、眼鏡と望遠鏡に関わる仕事を始める。所が、居心地が悪かったらしく、１年ほど商業会社で独仏の駐在員として働き、やがてROSS（ロス）へ科学顧問ととして呼び戻されると、光学機器のテストと仕上げを任され、これが縁でロス氏の次女ハンナさんと結婚。それから、１８５９年にロス氏が無くなると、１／３の大きな遺産と望遠鏡の製造部門を相続。これをきっかけに、天文部門から当時の最先端技術だった写真レンズへの転向をして、ポートレートや風景用のレンズを始め、顕微鏡の対物レンズとかランタン用のレンズまで制作。この中にアプラナートとも呼ばれる、今でも名が残る１８６６年のラピッド・レクチリニアー・レンズが含まれ、対称性のレンズ構成により、ペッツバールレンズの歪曲収差を改善した。このレンズが誕生した１８６０年代から１８７０年代までに、幾つかの天文台やイギリス政府向けに、フォトヘリオグラフも納品されている。ダルメイヤーブランドの製品は欧米で成功し評価もされて、ロシアとフランス政府は叙勲を行っている。１８８０年になると健康の問題から経営は諦め、１８８３年ニュージーランド沖の船中で亡くなり、事業はトーマス・ルドルフス・ダルメイヤー氏に引き継がれる。家にあるダルメイヤーのニューアードン９インチｆ４．５は、M４２マウントで余り見掛けないレンズだけど、プラハのカメラ屋で見付けたレンズ。値札がそのままで、１８００コルナというのは、当時で５０００円ちょっと位だったと思う。レンズフードが付いていて、とても軽いレンズ。三脚座がどこでもセットできるようになっていて、大きな黒いマイナスネジを緩めると、どんな角度でも位置が決められる。このレンズの金属部品を見ていると、往年のイギリス製モーターサイクルの部品を思い起こしてしまう。世界で一番好きなバイクは、ヴィンセントのブラックシャドウだ。ダルメイヤー・ニューアードン９インチｆ４．５の作例（全て銀塩写真）そもそも、２００ｍｍを超える望遠なんて殆ど使い道がない。晩秋の秋。寒いと思ったら八ヶ岳には雪が降っていた。畑の脇にある物置小屋は、時間が経つほど風景に溶け込んで違和感が無くなる。諏訪から見る八ヶ岳は、実質的には阿弥陀様がいらっしゃる阿弥陀岳が主峰である。背比べをして負けた富士山が怒って蹴られて、頭がギザギザになった八ヶ岳を見て大泣きをして、諏訪湖を作った蓼科山。焦点距離が９インチ／２２．８６センチで撮った月は世界的にも珍しいと思う。だから何だという事も無いけど。これは、地元の方に聞いたら馬糞（まぐそ）柿というらしい。他では見掛けない珍しい柿で、縦で５ｃｍ程の大きさ。毎年鈴なりで思わず見とれる程の景色を作っていたけど、最近になり接ぎ木の新しい部分を残して伐られてしまったのが残念。２００ｍｍオーバーのレンズはブラパチ写真では使い道が殆ど無く、大概は何というか気の抜けたような写真しか撮れないけど、この場合はイギリス製金属部品の質感や手触りを愛でるのが主目的なのだ。

  2023.01.14

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  富岡光学謹製のクセノター型とかテッサー型とか騒がしいライカマウントのヤシコール５ｃｍｆ２．８

  １９５８年頃にニッカを買収して完成したヤシカＹＦのレンズとして登場。元々提携関係にあって、やがてヤシカに買収される富岡光学製なのは間違いないだろう。レンズ構成に関してはフジノン５０ｍｍｆ２．８と同じ４群５枚のクセノター型と思っていたら、実は３群４枚のテッサー型が大多数だったりして中々油断ならないレンズのようだ。ｆ値からしてテッサー型でも十分な性能を得られると思うけど、最初がクセノター型だったけどコストが掛かるので止めたのか、最初にテッサー型だったのがヤシカ３５に付いている４５ｍｍｆ２．８が評判が良くて、性能追及の為にクセノター型に変更したのか良く分からない。いずれにせよ、バラシてみなければ分からないようで、余り気にするほどの事もないと思いつつも…。家にあるヤシコール５ｃｍｆ２．８は１９５９年物で実測１７９ｇ。ヤシコール５ｃｍｆ２．８の作例（全て銀塩写真）諏訪富士と呼ばれる蓼科山が見守る田んぼの稲も無事に首を垂れている。農道脇に小さな花壇があって、その向こうの田んぼは一面見事に色づいて清々しい。稲からの転作作物のソバの花も満開になっている。刈り取りは自治体に申請しておくと勝手にやってくれるらしい。余り金にはならないようだけど、耕作放置で荒れるよりは絶対に良い。この日は八ヶ岳が雲に隠れているのが寂しかったけど、もう直ぐ田んぼも稲刈りで賑やかくなる。上の写真の左手。普段は見える筈の蓼科山も今日は隠れてしまっている。近くで草刈りで刈られた草を燃やしている。大概は湿気ていたりまだ青い状態で火をつけるので煙がモウモウ。ガマが生えている湿地の上空には無数のトンボがエサを漁っている。林の暗い部分をよく見るとキラキラしたものが見えるけど、それがトンボだ。夕暮れになり上弦の月が誰もいない田んぼを静かに見下ろしている。３群４枚か４群５枚か良く分からなくても、ヤシコール５ｃｍｆ２．８は良いレンズなのは間違いなく、メインを張れる実力は持っている。

  2023.01.07

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  ２４ｍｍでも２８ｍｍでもないディスタゴン２５ｍｍｆ２．８は画の収まりの良さが申し分ない

  カールツァイス・オーバーコッヘンのレトロフォーカスタイプはディスタゴンという、”ディスタンス”と角度を意味する”ゴン”を組み合わされた造語が付けられている。エルハルト・グラッツェル氏によりデザインされたディスタゴンは、コンピューターの登場と共にグラッツェル法として確立され、何か新しいレンズが完成する度に世界の耳目を集めてきた。最初のディスタゴンは意外にも３５ｍｍ用ではなく、アンジェニューのレトロフォーカス３５ｍｍが発表された３年後という、１９５３年にデザインされた６０ｍｍｆ５．６という、ハッセルブラッド１０００Ｆ用に作られたものだ。戦後西側のカールツァイス・オーバーコッヘンではレンズの供給がままならず、シュナイダーや東側のカールツァイス・イエナに協力して貰っていたような状態だった。３５ｍｍ一眼レフ用の広角レンズに関しても、アンジェニュ―とカールツァイス・イエナに先行されたのは仕方ないとしても、西ドイツでもエンナやイスコにまで先を越されるような有様だった。件のハッセルブラッドにも当初はアメリカのエクターが供給されたのを見ても、西側カールツァイスの混乱ぶりが伝わってくる。西側ツァイス初のレトロフォーカスだった中判用の６０ｍｍは、１９５７年になるとハッセル５００Ｃ用に改良されて、この時に３５ｍｍ一眼レフのコンタレックス用３５ｍｍｆ４がようやく登場。１９６１年になると西側ツァイスの追撃が始まり、トポゴンの画角とダブるディスタゴン２５ｍｍｆ２．８が登場。１９６３年には３５ｍｍがｆ２にリニューアル、１９６８年には画期的な１８ｍｍｆ４を発表する。昔、まだ真面目にコダクロームで写真を撮っていた頃、へそ曲がりなので、２４ｍｍでも２８ｍｍでもない２５ｍｍという焦点距離に惹かれて、ヤシコンのディスタゴン２５ｍｍｆ２，８を入手したのだけど、標準の５０ｍｍの倍という画角の収まりと、逆光に強いのが気に入って一番愛用した広角になり、いずれ３５ｍｍも買おうかと思っていたけど、結局１８ｍｍと２５ｍｍで終わってしまった。ディスタゴン２５ｍｍｆ２．８はコンタレックス時代の生産数は６６３３本。コンタレックス・スーパーが登場した１９６９年以降は黒鏡胴に変更されている。他にも、ローライＱＢＭマウントは１９７０～１９９１年まで生産されたようで、当初はドイツのフォクトレンダーで生産され、やがてシンガポールへ移管され、１９７４年以前のものにはＴコートの刻印があり、それ以降はＨＦＴコートに変更された。Ｙ／Ｃマウントのレンズ構成を見ると、１９６１年のコンタレックス用から殆ど変わっていない。硝材は変わっているかもしれないけど、今でも通用する完成度に驚く。１９７６年のＲＴＳ対応のＹ／Ｃマウントに変更されても、ドイツで生産されていたのは西側ツァイスにとっても重要なレンズであったと見える。標準レンズ用のラバーフードの一部が破れてしまい、それの周辺を適当に切り取ったお下がりが２５ｍｍに丁度いい。Ｙ／Ｃディスタゴン２５ｍｍｆ２．８の作例（全て銀塩写真）今年は紅葉が良かったので、久しぶりにディスタゴン２５ｍｍを連れての紅葉狩り。元より誰も居らず恐らく野鳥以外に誰も来ない静かな山の中で、色んな色のカエデが共演している贅沢な空間に息を呑む。日当たりが良くてカエデの色付きは良いのだけど、山の斜面がきつくてカメラを保持するのが大変だ。木漏れ日を浴びて輝く黄色いカエデと森の奥深さ。逆光で透過光というカエデの写真は山ほどあるので、へそ曲がりは敢えて撮らないようにしている。きつい斜面で足を踏ん張りカメラを保持して息を止めてシャッターを切る。眩暈がしてくるけど景色は一瞬なので息が抜けない。山から下りた農道脇の紅葉も山と似たような樹種が連なり、見事な曼荼羅を描いて背後には柳川が覗く。この下には田畑しかなくて殆ど軽トラしか通らない。今の時期は何とも贅沢な未舗装の細い農道。いつもの案山子写真も１枚。前回見た時よりも空き缶をぶら下げた旗竿が増えている。手元のディスタゴン２５ｍｍｆ２．８はもう３０年以上の付き合いで海外へも持ち出した思い入れのあるレンズだけど、最近のブラパチ写真では広すぎて仕舞い込んだままだった。高いコントラストと色乗りの良さが印象的で、標準の倍という画角の収まりが良くて逆光にも強いので、どんなシーンでも安心して任せられる懐の深い傑作レンズだ。休日の散歩道から山の様子を見ていて、色づきの良い紅葉に連れ出したディスタゴン２５ｍｍは、最初にファインダーを覗いただけでパッと頭の中にフレームが浮かんで、昔マトモに写真を撮っていた頃を思い起こさせてくれた。景色に釣られディスタゴンに煽られて、今では高騰して貴重ともいえるフィルム１本を、もう記憶にない位に昔の事以来、僅か数時間で終わらせてしまう事になってしまった。現像されＣＤ－Ｒに焼き付けられた、Ｊ－ＰＥＧの写真をモニターで眺めて思ったのは、誰にも見られないまま消えていく一瞬の景色なんかを、吟味して集中して切り取って記録する行為は、個人的に昔から一度に３６コマが限界だったなという事だった。

  2022.12.10

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  戦前からポートレンズで有名だった名作中望遠／オリジナルのカールツァイス・イエナ謹製ゾナー８５ｍｍｆ２

  １９３２年に登場した驚異の大口径ポートレンズだったゾナー８５ｍｍｆ２。終戦後の一時期は東側のカールツァイス・イエナから、まだレンズ生産が難しかった西側のカールツァイス・シュツットガルトへ供給されていた事がある。その１９４０年代の戦前を引きずった時代の東側イエナ製ゾナー８５ｍｍｆ２は、西側で戦後ベルテレ氏によって硝材などを変えて改良されたものに比べ、コーティング以外はオリジナルに近いのではないかと思う。写りに関しては後期の方が一段と良いものになっているのは当然だろうけど、そうは言っても初期型にしか撮れない写真がある筈だ。レンジファインダーコンタックスの最終形態ともいえる、ベッサＲ２Ｃに付けたイエナ製ゾナー８５ｍｍｆ２。１９４０年代製のイエナ・ゾナー８５ｍｍｆ２の作例（全て銀塩写真）漆喰の落ちた土壁の前に薪が詰まれ、手前にはラベンダーだろうか紫色の花が咲いている。二人の案山子が見守る畑の向こうにはまだ夏の雲。山間の畑を見守る３人の案山子と、右端に農作業中の農夫が一人。空き缶と黄色いリボン従えた案山子が一人。逆光気味でも古いゾナーは結構粘ってくれる。昔は超の付く高級ポートレートレンズだったゾナー８５ｍｍでのポートレート撮影。ある意味では、ヤシコンのプラナー８５ｍｍｆ１．２よりも贅沢なレンズだと思う。麦秋を迎えた小さな畑の中に案山子が一人で頑張っている。蓼科山山麓のキャベツ畑。山の下にある松の木の左横に鹿が２頭いてこちらを伺っている。案山子から伸びた長い影法師が秋の到来を告げている。上の案山子の相方が左手前で、夫婦で畑を見守っている。時代が時代なら一般庶民とは全く無縁の高級レンズだった、本家本元の本場で作られたベルテレ式ゾナー。鬼才ベルテレ氏が大口径レンズの理想を求めてデザインされて、手の掛かる３枚張り合わせユニットが必要な高コストレンズは、コンピューターで設計し合理性とコスト計算が重視される今では、もう二度と作られる事はないだろう。

  2022.11.12

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  明治初期にルーツがある老舗の小西六が戦後に作り上げたコニカⅠの造り込みに唸る

  創業明治６年／１８７３年という老舗のコニカ。当初は写真機材や石版機材の販売に始まり、明治３５年には印画紙と写真乾板の工場六桜社設立すると、明治３６年には国産初の印画紙と、国産初のカメラだったチェリー手提げ暗箱を発売する。１９３８年には名作のセミパールが登場。１９４０年には国産初のカラーフィルムを販売すると、１９４２年には映画用の独自のカラーフィルムを発表する。戦後の１９４７年には早くもヘキサー５０ｍｍｆ３．５付の、コニカスタンダードを米軍のＰＸ専売で製造開始。翌年にはコニカブランドのコニカⅠが登場している。戦後の国産カメラ生産でも一頭抜けて常に日本の光学界をリードしてきた小西六。その後も、カメラの大衆化やフィルムで日本中の写真ファンを沸かせることになる。手元にある古いコニカⅠは、とても戦後の２年足らずで作り上げたとは思えない見事な造り込みで驚く。特にダイキャスト製ボディーの軍幹部にある、大きく刻まれたコニカの文字が何ともいじらしい。戦後の混乱期で、まだ写真の余裕など庶民には無かった筈だけど、これから訪れる庶民の写真熱を予言していたかのようだ。所で、戦後の東京復興を象徴する建造物の一つに東京タワーがある。実はこれには朝鮮戦争の停戦で不要になった米軍の戦車９０両分の鉄が、展望台から上の部分の１／３に当たる１３００トンに使われている。あくまでも個人的な推測だけど、戦後の早い時期に完成したコニカⅠのアルミ・ダイキャストボディーには、元は航空機用のアルミ材が流用されているのは間違いないとしても、加えてＧＨＱの命令により破壊された、日本の陸海軍機の廃材が使われたのではないかと、勝手に思い込んでいるのだ。当の元航空機メーカーがアルミ材で鍋を作っていた時代である。航空機関連のアルミ材は戦前の在庫は市中に放出されて、元航空機もリサイクルが容易なアルミクズとして活用されたはずだ。当時の主なアルミ素材製品と言えば、鍋と釜に加えて水筒や弁当箱の日用品で、資源不足の日本でリサイクルが容易なアルミを鋳つぶしての再利用は必需だったと思われる。もう大分前に入手した、手持ちのコニカⅠは１９５０年に追加されたｆ２．８付。綺麗に大きく面を取られた軍幹部の造り込みから名門の意地がヒシヒシと伝わってくる。恐らく初期の頃は海外向けが殆どだったので、日本製品が安かろう悪かろうではない事を示したかったと思われる、老舗の光学メーカーによる意地を感じさせる作り込みが凄い。隣は１９５５年に藤沢商会から供給されて、チヨタックスなどと組み合わされたライカマウントのヘキサー５ｍｍｆ３．５。元は引き延ばし用のレンズだったらしい。どこをとっても、同時代の海外製レンズシャッター機と比べても劣る部分は何一つない。１９５０年代の世界中の光学機器の造り込みがピークだった出来栄えそのものなのだ。実は、手持ちのライカマウントヘキサー５０ｍｍｆ３．５はピントは悪くないけど、割と頻繁に画の中心部に白いゴーストが現れる。ヘキサ―５０ｍｍｆ３．５の作例【全て銀塩写真】馬と共に暮らし馬と共に仕事をしてきた地域の馬頭観世音。納屋になっている旧いサンバー。馬に変わって仕事の愛棒になった道具の一つ。田んぼを見張ってる案山子の向こうにも仲間が見える。光線状態で白いゴーストが中心に表れる。白いゴーストの中に息絶えたシカが一頭横たわっている。最後のあがきでグルグル回ったらしく丸いサークルが出来ているけど、これも自然の一コマなのだ。

  2022.10.01

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  オリンピアゾナー直系のイエナ・ゾナー１８０ｍｍｆ２．８のオーバーホール上がりで春の案山子のポートレートを撮る

  今更、詳しくは書かないけどカールツァイス・イエナの１８０ｍｍｆ２．８は、１９３６年にベルリンオリンピックの記録の為に作られた大口径望遠レンズで、当時のドイツ光学界＝世界の最先端にあったレンズだった。昔、プラハで購入したのはペンタコン６マウントで、最初からＭ４２マウントがくっついていた。こういう被写体が限定されてデカくて重い取り回しの悪いレンズは、どうやら買う事に意義があったらしく帰国してからリバーサルで試写して、上がってきた写真をルーペで覗いて良いレンズだなと思いつつお飾りになっていた。申し訳ないけど、拙ブログでも同スペックの旧ソ連のジュピターや、ヤシコン・ゾナーと並べて面白がっていただけのレンズ。実は置物状態から、２０年振り位で使って見ようかと思ったら、絞りが開放のまま動かなくなり、ヘリコイドまでガサガサになってしまって、とてもじゃないけど実用には適さないものになっていたのだ。そこから幾年月、去年の暮れに遂に意を決して、関東カメラサービスに発送してオーバーホールを実施。定かではないけど購入価格の５倍は掛けて帰ってきたゾナー１８０ｍｍは何もかもが一新。カールツァイス・イエナのレンズは元からヘリコイドなどの操作系が、ガサガサしているものという思い込みは間違いであった事を思い知った。到着した週末に、数十年ぶりにキチンと向き合うべく春の田畑に持ち出してみた。ヤシコンメタルフードと、ペンタコン６／Ｍ４２マウントが付いた、カールツァイス・イエナのオリンピアゾナー１８０ｍｍｆ２．８とベッサフレックス。関東カメラサービスの職人技で、光学系も一新。作例は全て銀塩写真蓼科山が見守る畑でも、農作業が始まった。田んぼでは田植えが始まっている。畔には田植え機の操縦者の親と祖父母らしき人が絶えず声がけ。田植えが終わって、人間の代わりに案山子が一人。蓼科山の麓のキャベツはとても美味い。その苗を見守る２人の案山子。八ヶ岳の阿弥陀岳が見守るキャベツ畑を見守る案山子。案山子が居る畑の方がキャベツの味も良くなるような気がする。キャベツのお子守りプロがズラリ。植えられたばかりのキャベツの苗を見ると、とても同じ植物とは思えない。家でも作った事があるけど、モンシロチョウさえ排除出来れば無農薬で簡単に作れる。オマケに好きに規格外の大きさに出来るのが面白い。今年のキャベツの出来はどうなりますか。基本的に１９３０年代に設計されたカールツァイス・イエナのゾナー１８０ｍｍ２．８は、ヤシコン・ゾナーとは違った味わいでオツなものだけど、レンズの進化とは一体何なのか考えさせられる。登場当時は、とてつもなく高価で特殊な国家の威信を背負ったレンズも、２１世紀のデジたり時代では需要が無いらしく、オマケにオーバーホールなんか殆どなされていない個体ばかりらしく、大半が元の価値からは値段なんてあってないようなものになってしまっているのが残念。

  2022.09.03

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  O/H上がりのニコンS4とニッコール５ｃｍｆ１．４－Ｓで旅に出る

  ニコン製レンジファインダーカメラのＳシリーズに、１９５９年３月に登場して５８９５台作られた、普及型のＳ４というのがある。前年にライバルのキヤノンから販売されたキヤノンＰが、標準の５０ｍｍｆ１．８付で５万円を切る￥４７，７００であり、一方ニコンと言えばＳＰの普及版ともいえるＳ２の後継だったＳ３が、５ｃｍｆ１．４の標準付きで￥８６．０００もしていたのだ。衝撃を受けたニコンではＳ３から幾つかの機能を省いて、キヤノンＰに対抗するべく低価格を目指したカメラがＳ４だ。しかし低価格化の為に最初から生産方式まで根本的に見直したキヤノンＰに比べると、Ｓ３の焼き直しではコストカットの効果はそれほどなかったらしい。その上、３か月後には一眼レフの傑作機であるニコンＦが登場するので、輸出もされなかったＳ４は何とも中途半端な立ち位置にいる。ニコンは既にライカＭ３ショックで打ちのめされていたのに、ここへ来てキヤノンによるレンジファインダー機の大衆化路線で追い詰められて、Ｆの発表以降は一眼レフへの傾倒を強めていく。Ｓ４の６千台弱という生産数はそれ程少ないと思えないのだけど、金持ちであるライフの看板カメラマンに取り上げられて、既にニッコールレンズと共にプロ用高級機材として認識されていたＳシリーズを、恐らく、まだ等しく貧乏だった日本国内向けとして企画されたお蔭で、特に海外のニコンコレクターには人気のカメラになっている。手持ちのＳ４は、安い分だけ入手した時から距離計像がかすれていて、殆ど役に立たないので測距は目測で使っていたのだけど、昨年の１２月に意を決して関東カメラサービスにオーバーホールを依頼。やがて、ほぼ半年ぶりに帰ってきたＳ４を動作チェックを兼ねて旅に連れ出す。５０ｍｍｆ１．４レンズは以前紹介したＳ２のゾナー型でクローム仕様の初期型Ｓ．Ｃではなく、ダブルガウス型で掛け値なしのｆ値が１．４０という黒い後期型を装着。ニッコール５ｃｍｆ１．４－Ｓは、以前からＳＰ用の新標準レンズを企画しつつ、当時、まだ広角に関してはレンジファインダーが優位にあった事もあり、東京オリンピックの記念で１９６４年に再生産が決定された黒いＳ３の為に新しく作られたものだ。それまで大口径の標準レンズは基本的にツァイスのゾナー型であったけど、これは製造コストが掛かる上に収差補正も限界になっていた。やがて始まる国産標準レンズの大口径化競争の嚆矢は、１９５３年に登場したズノ－５ｃｍｆ１．１であり、これはまだ大口径レンズの象徴だったゾナー型を引きずったレンズ構成だった。ニコンが２年もの開発試作期間を掛けて作り上げた、国産大口径標準の第二弾という１９５６年２月に発売されたニッコール５ｃｍｆ１．１は、得意のゾナー型に見切りをつけ、新しい硝材とダブルガウス型を採用している。ついでに、このレンズは１９５８年になると、新しいレンズ構成が認められてアメリカでパテント取得した。ニッコール５ｃｍｆ１．４ーＳの設計報告と試作報告はいずれも１９６２年であり、試作品を改良した量産図面の日付は１９６４年４月。７枚のレンズの中で４枚に新しいランタン系が使われていて、それはレンズの生産現場からレンズ設計に引き抜かれた清水義之さんの処女作であった。新時代のダブルガウスらしく非対象なのが特徴で、前群が旧色消しで後群が新色消しという構造になっている。実は近距離で収差変動が大きくなるゾナー型に合わせて調整された距離計では、収差補正が良好なダブルガウスでは近距離でピントが出ず、仕方なく最終レンズの曲率を変えて、焦点距離をオリジナルの５１．６ｍｍから５２ｍｍに変更。これはコンタックスマウントも同じ様で、旧ソ連のキエフ用でダブルガウスのヘリオスレンズの焦点距離が、中途半端な５３ｍｍなのは同じ理由なのだろう。Ｓ２とは違うロゴマークだけど同じ様にシンプルなＳ４は、Ｓ２共々に標準レンズ用のカメラとして今でも古びる事が無い。Ｓ４にカラーを入れてＳ２にはモノクロを入れて海外へ行ってみたい。作例は全て銀塩写真一方通行の矢印の先でカラスが鳴いている。お寺の門の脇で緑陰に佇むお地蔵様が２体。植物に占拠された建屋は元電気屋さんだろうけど、ツタで覆われた支柱に取り付けられた看板が良く残っている。商店街の脇にあるスナックが連なる一区画。夜になると何軒の看板に明かりが灯されているのだろうか。首輪の付いた隻眼のネコがビール箱に板を敷いたベンチの傍で佇んでいる。目を失った理由は分からないけど今は大事にされているようで嬉しい。色んな方の尽力で、水害で流出した赤い橋脚が復活した別所線の終点。別所線はそれ自体を含めて駅構内も文化遺産。クルマでは決して味わえない贅沢だ。薄暗い林の奥にひっそりと佇む安楽寺の国宝八角三重塔。到着したのが閉門間近で薄暗くて、シャッターは１／１５で殆ど開放に近い状況だったと思う。今では希少なトタン壁を見掛けると何となく目が行ってしまう。どうやらトタンはプラ素材より持ちが良い様で、サビついたポストの口に差し込まれているものを見ると、まだ現役の様子。コロナ禍を象徴するパンダ。一体、マスクはいつまで続けなくてはならないのか。暗い店内で一番目立っていたマネキン。恐らく、もう何年もここに立っているのだろうけど、また明日も同じ場所で立ち続ける。o

  2022.08.20

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  世界で２番目の一眼レフ用２８ｍｍ広角レンズだったお蔭で地味なＥｎｎａリタゴン２８ｍｍｆ３．５

  １９５３年登場で世界初の一眼レフ用２８ｍｍ広角レンズだった、アンジェニューのＲ１１レトロフォーカス。それに隠れて何とも地味だけど、世界で二番目に西ドイツで作られた、スーパーリタゴン２８ｍｍｆ３．５というのがある。エンナのレンズデザイナー、ハンス・ローテンバッハー氏により設計されて、Ｒ１１に遅れる２年後の１９５５年に発表し、１９５６年のフォトキナに登場した。１９６０年にはゼブラ模様のセカンドバージョンに変更。この時に、スーパーが外れてリタゴンへと名前も変更された。実はリタゴンの後端がは微妙に飛び出ていて、普通の一眼レフにアダプターを使うと無限遠でミラーがぶつかる事がある。エンナ・リタゴン２８ｍｍｆ３．５の作例（全て銀塩写真）土手にタンポポが咲いて、その下には稲の苗床とそれを見守る案山子が二人。色んな樹種が混じって微妙な色合いを見せる。凄い目立つのに、人がいる事は稀という贅沢な場所。どこへカメラを向けても、ひたすら桜。川べりの八重桜も満開だ。ここも殆ど人を見掛ける事が無い花見スポット。田んぼの脇に植えられた桜が咲いて農作業の到来を告げている。桜の向こうに、花が終わったレンギョウと青い空。モルタルの壁に懐かしい木の枠で出来た小さな窓。何の建屋だろうか。

  2022.07.16

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  マジャール人の誇りハンガリー光学界の中心的存在だったＭＯＭ（ハンガリー光学工場）のモメッタⅡ

  ハンガリーを訪れたのは大分前で、近隣のスラブ系やゲルマン系とは違うアジア語圏なので、馴染みのない挨拶言葉を覚えるのが大変だった。ハンガリーへはウイーンから鉄路でブダペストへ向かったのだけど、国境を越えた途端に鉄道設備が良い具合に古臭くて、その映画のセットのような鉄道風景が堪らない。やがて到着したブダペストの駅が、これまた古いヨーロッパのモノクロ映画に出てくるような、かなり高さのあるガラスと鉄で出来た見事な建物に圧倒された。ハンガリーの人達はヨーロッパではない独特なマジャール人の国に誇りを持ち、同じアジア語圏という事なのか、一見の日本人にも親切な国だった。実は、結構期待していた有名なヘレンド磁器が、ハンガリー国内なら安いだろうと思ったら国外と同じ値段でガッカリ。有名な甘口のトカイワインは安かったので、これと適当に料理を選ぶのだけど、有名なパプリカを使ったグヤーシュという煮込みスープが、どこで注文しても塩辛かったのが印象に残っている。最後には居心地の良さと旅の終盤の疲れか、ドナウ川の巨大な中洲であるマルギット島のベンチでうたた寝をしていた。ハンガリー製のカメラは殆ど馴染みがないのだけど、戦前にはPontos Optikai Lencsegyárというメーカーから、１２７判のＤＩＣＩというカメラが１９３８年に登場している。戦後の１９５０年代になるとカメラ需要に応じて、Ｆｏｒｔｅ、Ｉｒｏｄａｌｏｍなどから６Ｘ６判のボックスカメラが登場。３５ｍｍカメラは１９５３年登場のキノボックスというのが最初らしい。単速シャッターと思われるシンプルなカメラだけど、生産数は３万台を超えている。特筆するべきは、Gamma Művekというメーカーにより、１９４８年には、まだライカがバルナック時代の頃に、クイックリターンの一眼レフファインダーと、３５～９０ｍｍのフレームを備えた光像式の２つのファインダーを備えた、世界の１０年先を行っていた精密カメラが登場している。他のハンガリー製３５ｍｍ精密カメラというと、ＭＯＭというメーカーで作られたカメラがある。ＭＯＭは、ナンドル・ズュス氏により、ブダペストで１８７６年７月１日に創業した企業で、元はクルージュナポカ大学にあり、後にモザール通りに移転した後に、Csörsz utcábanで１９０５年から独立した企業として運営された。【Magyar Optikai Művek（＝ハンガリー光学工場）】１８７６～１８８４年は大学内でワークショップを開始して、１８８４～１９００年はブダペストで国営企業訓練ワークショップ。１９００年に、Süss Nándor-féle Precíziós Mechanikai Intézet（＝ナンドル・ズュス・精密機械研究所）として独立。１９０５年頃のＭＯＭの工場。１９１８年には、Süss Nándor Precíziós Mechanikai Intézet Részvénytársaságに変更。（＝ナンドル・ズュス精密機械有限責任会社）１９２２年になると、Süss Nándor Precíziós Mechanikai és Optikai Intézet Rtに変更。（＝ナンドル・ズュス精密機械機器光学研究所）１９３１年から、Süss Nándor Finommechanikai és Optikai Részvénytársaságへ、１９３８年には、Magyar Optikai Művek Részvénytársaságとなる。１９３９年にMagyar Optikai Művek Rt.（＝ハンガリー光学研究所）になり、１９５２年にMagyar Optikai Művek＝ＭＯＭ（＝ハンガリー光学工場）に変更。１９６６年にはハンガリー光学大手産業会社切手にまで描かれているＭＯＭ。ハンガリーの誇りそのものだった。１９８９～１９９１年まではハンガリー光学工場機械光学会社、１９９１～２００６年にはハンガリー光学工場水測定技術会社、２００６～２０１６年までハンガリー光学工場水測定技術有限会社と変遷。２００８年頃のＭＯＭ本社の外観。真っ青の空に渋いターコイズカラーのＭＯＭの文字が美しい。最大手のＭＯＭは、実質的には１９９８年に法的な後継者が居ないまま解散している様で、ハンガリーの光学機器を生み出していた歴史的な建物も１９９７年には取り壊されている。１９５４～１９５６年にＭＯＭで作られた、モミコンという名前のレンズ固定のカメラは、２４ｍｍＸ３４ｍｍという、日本では二ホン判と呼ばれたフィルムサイズのカメラで、その後モミコンは幾らかファインダーを大きくしてモメッタと名前を変え、１９５７年にはレンズ固定のモメッタⅡと、Ｍ４２レンズ交換式のモメッタⅢが登場。ＭＯＭで作られたカメラには、６Ｘ６判のボックスカメラもあり、Ｆｏｔｏｂｏｘという機種が１９５９～１９６３年まで生産されている。モメッタⅡのパンフレット。１９５８年には、モメッタⅢの廉価版のモメッタ・ジュニアが登場するも１年で停止。１９６２年には全て生産中止となる。モミコンに始まった、モメッタシリーズ最後のモメッタⅢのパンフレット。背後には、ブダペストを流れるドナウ川と、世界一美しい国会議事堂と謳われる建物が見える。カメラは消えてしまったけど、２つとも今でもマジャール人の誇りだ。カメラの生産数は、モミコン（３４７０台）、モメッタ（１１４０３台）、モメッタⅡ（１２２２０台）、モメッタⅢ（３２０１台）、１９５８年から１年だけ生産されたモメッタ・ジュニアは（１７３０台）。モミコンが目指したのは、低価格でライカ並みの画質と頑丈さを実現する事であり、それは、工場労働者の手に届くものである必要があった。その為にレンズを固定として、シンクロソケットもない構造になり、恐らく、フィルム枚数を稼ぐために長辺を３２ｍｍに短縮して４０枚撮りにしたのではないか。実際のモミコンの価格は、１９５５年当時に１４９０フォリントで、専用ケースを付けると、更に１９０フォリントが必要だった。因みに当時の労働者の賃金は１０９０フォリント。手元にあるのは、モミコンシリーズで一番生産数の多いモメッタⅡ。柔らかいプレスラインと厚みのあるカメラの形状が独特で、造りは１９５０年代の光学機器そのもの。１９５７年にモメッタとダブりながら４２２０台が作られて、１９５８年にレンズ交換式のモメッタⅢとダブりながら８０００台が作られた。大きさの比較でミノルタのＡ５と並べてみる。精密感で言えばモメッタⅡの方がずっと上だ。レンズはＹｍｍａｒ５０ｍｍｆ３．５というテッサー型で優秀。レンズを設計したのはImre Újvári 氏。

  2022.07.09

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  その昔パリで売られていたレンズは特別の味わいがあると説明していたらしいアンジェニューのＹ１２中望遠レンズ９０ｍｍｆ２．５

  ピエール・アンジェニュー氏が、P. Angénieux PARISの名前を刻んだ最初のレンズは、１９３８年に登場したアルパマウントの５０ｍｍのｆ２．９とｆ１．８。戦後の１９５０年には、今に名残すレトロフォーカス３５ｍｍｆ２．５を発表してから、１９５３年には２８ｍｍ、１９５７年には２４ｍｍを発表して、レトロフォーカスシリーズは５０年代の内に４，５０００本を売ったらしい。更に、今でも映画産業と密接に関わっているアンジェニューが、最初にムービー用のレンズの発表をしたのは１９５１年の事であり、それは、レトロフォーカスの技術を応用した１６ｍｍ用の１０ｍｍｆ１．８と、３５ｍｍ用の１８．５ｍｍｆ２．２であった。そんな花形でアンジェニューの看板だったレトロフォーカスの陰に隠れて、何とも地味なのが望遠系のレンズで、９０ｍｍ、１３５ｍｍ、１８０ｍｍなどがあった。昔は余程のマニアかヘソ曲がりしか興味を向けない対象だったので、特に大口径でなければ、値段だって大した事は無かった。個人的に、最初のアンジェニューがアルパマウントの９０ｍｍｆ２．５で、赤い箱に入ったピカピカだけど、既に絞りの手動と自動切換えが怪しくなり、手動のみ有効という黒鏡胴でダイヤル絞りの後期型だった。アメリカの通販で２００ドル程で３０年近く前に購入したレンズは、いつの間にか発生したアルパブームの煽りで、高騰したボディーを買う気にならず、取り合えず、無理やりコンタックスＲＴＳに当てがってリバーサルで近接撮影。所が、上がってきたスライドフィルムをルーペを覗いてガッカリ。当時、メインで使っていたのはヤシカ・コンタックスだったけど、近接という事を差し引いても、何というか緩いコントラストと色乗りの浅さに驚き、そのまま箱に入れてコレクションとして持っていたのだ。とにかく鏡胴の造り込みが凄くて、それは酒の肴になるレベル。リバーサルのコダクロームとの相性は良くないレンズだけど、モノクロが本筋のレンズかもしれない。次に買ったのが、時々用事があって出掛けていた香港。当時の香港は映画産業のせいか、世界でもアンジェニューの密度が高い場所だったのだ。最初に香港から持ち帰ったのが、同じレンズでもライカやＭ４２よりも安かった、エクサクタマウントで前期型の９０ｍｍｆ２．５。確か、日本円で２万円ちょっとだったと思う。構成図を見ると典型的なエルノスター型なのが分かる。早速フジのリバーサルが入った、トプコンＲＳに付けて試写してみたのだけど、後期型のアルパマウントと同じ独特の色乗りとコントラスト。やっぱり、こんなものなのかと再認識して２本目のコレクションアイテムに。やがて、フィルムがリバーサルからカラーネガをメインになってから、同じように良い印象の無かった、戦前の旧いレンズが使い物になる事が分かったので、２０年ぶり位にアンジェニューの９０ｍｍｆ２．５を引っ張り出してみた。基本的には相変わらず柔らかいコントラストと色乗りだけど、写真を撮る方も齢を重ねて寛容になったらしく、これはこれで良いかもしれんなと再認識。トプコンＲＥ－２に付けた前期型のアンジェニュー９０ｍｍｆ２．５。アンジェニューＹ１２　９０ｍｍｆ２．５の作例（全て銀塩写真）だいぶ緑が濃くなってきたカラマツを背景に、北の斜面にある白いコブシが咲いている。日当たりの良い場所では八重桜が満開になり、お隣のカイドウの蕾も開きだしている。初夏へと繋がる一コマ。放置されて一面枯草に覆われた畑の一角に、大分色が濃くなったカラマツを背景に、スモモだろうかピンク色の花が満開になっている。濃いピンク色の花桃は、遠目からも存在感が抜群で目立つ。八ヶ岳山麓は曇天なのだけど、一瞬だけ光が差した瞬間。左上に飛んでいるのはトンビだろうか。蓼科山が見下ろす畑を囲む林の緑も大分濃くなってきた。ボーボーとした木にピンク色の花が満開になっている。バラ科らしいけど何の木か分からないまま最近になり切り倒されてしまった。柔らかいコントラストは、春の写真に向いているかもしれない。流石、かつてパリで売られたレンズは味わい深い。

  2022.06.25

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  戦前を引きずった真鍮とガラスで出来た重くて旧いシュナイダー製クセナー１３５ｍｍｆ３．５の曇り空

  ヨーゼフ・シュナイダー氏により、ドイツのバート・クロイツナッハで１９１３年１月１８日に創業した、シュナイダー・クロイツナッハは、当初、Optische Anstalt Jos. Schneider & Co.という名称でスタートしている。そのシュナイダーが作るクセナーというのは、基本的にツァイスのパウル・ルドルフ氏によって作られたテッサータイプのレンズの事で、１９１９年にテッサーのパテントが失効した後は、当初シュナイダーにのみ許されたレンズ構成であり、それは、シュナイダーの主任レンズ設計者だった、Ａ．Ｗ．トロニエ氏により完成している。ただ、１９２６年頃の小型カメラ用のＴｙｐｅＤ／ｆ３．５クセナーには、テッサーと逆の前群が張り合わせだったり、トリプレットもあったらしい。本来のテッサー型に統一されたのは１９３５年頃のようで、戦後のｆ３．５クセナーには５０ｍｍ～２４０ｍｍまで８種類ほど存在している。どうも、焦点距離が長いものは昔から中・大判と兼用されていたらしく、例えば戦前の１３５ｍｍは、フィルムサイズが９Ｘ１２ｃｍのカメラにも使われていた。１９４９年にはゾナーに似たレンズ構成で鏡胴が短くなった、新しい４群５枚のテレクセナー１３５ｍｍｆ３．５が登場している。名前は同じでも、レンズ構成に色んなバリエーションがあり、１９７０年代には５群５枚へ変更。家にある３５ｍｍ判用で一番焦点距離が長いクセナー１３５ｍｍｆ３．５は、戦前を引きずったオリジナルのテッサー型らしく、ずっしりとした真鍮製の鏡胴のクロームが眩しい。同じ１３５ｍｍでも、ゼブラ模様で鏡胴が短いテレクセナーは良く見掛けるけど、クセナー銘の真鍮鏡胴の高比重タイプは意外に見掛けないレンズだ。５円玉でお馴染みの銅と亜鉛の合金で黄銅とも呼ばれる真鍮は、光学系の支持体としての物性は一番良くて、戦前の高価で本物のレンズはこの素材が普通であり、現在でも顕微鏡などの高精度が必要な光学はこの素材が使われる。戦後のアルミ鏡胴は、ローコスト化の為の手抜きとも言え、最近のプラスティック製に至っては説明するまでもない。クセナー１３５ｍｍｆ３．５の作例（全て銀塩写真）とにかく、２０２１年の夏は天気が悪かった。右下に飛んでいる鳥もエサを探して、曇天の下をさまよっているのだろうか。悪天候続きの八ヶ岳山麓の田んぼでも稲穂が出てきた。畔の縁に２羽のコサギが居て、食いものの相談をしている様に見える。曇天下で見る終点の電信柱はどことなく侘しい。良くならない天候の下で田んぼを見守る案山子。畑の土手から田んぼを見守る案山子が二人。右手はキャベツ、手前の芽を伸ばし始めたソバを見守る案山子。ジャケットを羽織った案山子が田んぼに睨みを利かせている。右上の白い点も別の田んぼの案山子。キャベツ畑を守護する、風で麦わら帽子が外れた案山子の向こうには仲間が３人。雨を降らしていた黒い雲が移動した向こうに、八ヶ岳の阿弥陀岳が一瞬だけ見える。最近のプラスチック製とは次元が違う、今よりずっと貴重で高価だった、高密度な旧い真鍮で出来た比重の高いレンズを手にすると、設計段階から膨大な手数を掛けて、殆ど人の手で仕上げられた工芸品のような精密機器というものは、遠くからでも分かるくらいの存在感からして今時のとは次元が違うのだ。

  2022.06.18

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  謀略で息の根を止められたワルツ（Ｗａｌｚ）のカメラには諏訪産の日東光学製レンズが付いている

  時々、ジャンクワゴンの中にあるフィルターに、Ｗａｌｚ（ワルツ）という銘が刻まれているのを見掛ける。個人的にワルツ製品となると、そのカメラには地元の諏訪で今も盛業の、日東光学製のコミナーレンズが付いているので気にはなっていたのだけど、元々の数がそれ程多くないのか、どこかで死蔵されているのか、意外に出会う機会が無いカメラだった。そのワルツの始まりは、戦前からワルツのブランドでカメラ用品を扱っていた日本商会だ。カメラに関しては戦前の１９３６年に、Ｗａｌｚ銘の３Ｘ４判のカメラを発表している。当時のＷａｌｚ　Ｗｏｒｋｓ、或いはＷａｌｚ　Ｃａｍｅｒａ　Ｗｏｒｋｓと刻印が入ったカメラは、実際には岡田光学で作られたようで、１９４０年のＯｋａｄａ　ＷａｌｔａｘにもＷａｌｚの名前が入っているものがあるらしい。少なくとも日本商会は１９４９年まではワルツ商会の前身であり、ワルツのブランドの所有者であった。その日本商会には、後に因縁浅からぬワルツ商会の社長となる太田俊夫氏と、やがて、マミヤの購買部長を経て１９４６年にシャッターでお馴染みのコパルを立ち上げた、笠井正人氏が机を並べていたけど、二人は上海出張に一緒に出掛けたりして仲は良かったらしい。日本商会は戦後の１９５１年には太田氏により引き継がれて、１９５２年１１月には既にＫ．Ｋ．（株式会社）ワルツ商会が存在していた。当時は国内最大手のアクセサリーメーカーであり、市中のフィルターの６割はワルツブランドという状態だった。更に、露出計やセルフタイマーを始め、あらゆる写真用品を扱いつつ、１９５４年にはオリンパスの正規代理店でもあったのだ。たがて、１９５５～５６年頃に社名を”株式会社ワルツ”に変更。当時のワルツ製アクセサリー。戦後のワルツ系カメラとしては、二眼レフのワゴ―フレックス（後にワルツフレックス）や、１２７フィルムのワルツＡｕｔｏｍａｔ４４があり、３５ｍｍカメラは、１９５５年に発表されたＷａｌｚ３５に始まり、１９５７年の３５－Ｓに加えて、１９５８年には３５－ＳＶとＣｏｍｅｔを発売。１９５９年には、ライトバリューシステムを搭載したＥｎｖｏｙ　３５と、それに非連動のセレン露出計を加えたＥｎｖｏｙ　Ｍ－３５や１９５７年から１９５９年に発売された、３５ｍｍｆ２．８レンズを搭載したＷｉｄｅなどがある。１９６０年には連動セレン露出計と、ミノルタＡＬと同じシステムの、レンズシャッターで１／１０００秒の高速を実現した、同社最後のＥｌｅｃｔｒｉｃが発表された。その１９６０年頃には、東京、大阪、名古屋、福岡、ワシントンにオフィスを構えていたけど、１９６１年になると、太田氏がシャッターメーカーのコパルに社長の座を追われて倒産。この倒産劇の発端は、太田氏がワルツのアクセサリーだけではなく、カメラの生産を始めようと画策した時に始まる。実は、このワルツカメラの製造に関わる相談相手が、かつての盟友であり、１９４９年に株式会社組織となっていた、コパルの笠井氏であった。太田氏に相談された笠井氏は、当然ながらシャッターが売れれば文句は無いので大賛成。早速ワルツは千住に土地を確保して、１９５２年に二眼レフのワゴ―フレックスを生産をする。所が、数年で二眼レフのブームが去り、１９５６年以降に３５ミリカメラを作る事になったワルツは、矢継ぎ早の新製品ラッシュで１９６０年には資金繰りが厳しくなり、再びコパルの笠井氏に相談する。やがてコパルから送り込まれた笠井氏の部下は、とにかく設備を増やしてカメラを増産していく。当然、コパルシャッターもドンドン発注されていくけど、元々カネの手当てが付かない状況だったのであえなくショート。その倒産に至る止めになったのは、１９６１年登場のキャノネットだった。キヤノンが出した最新のカメラは、当時としては画期的な自動露出機能を備え、オマケに戦略的な１９，０００円という価格で大ヒットする。実の所、コパルはキヤノンが売り出すキャノネットの事は先刻ご承知。なぜなら、キャノネットのシャッターユニットが、全てコパルに発注される事になっていたからだ。そんな事をおくびにも出さず、ワルツに過大な投資をさせて潰した後、最大の債権者として、ワルツの生産設備をそっくり譲り受けたのがコパルだった。ついでに、コパルによる謀略話をもう一つ書き留めておく。同社は、縦走りフォーカルプレーンのコパルスケヤを出すけど、これの原型は、発明家で１９２９年創業のエフシー製作所の社長でもあった、茶谷薫重（くんじゅ）氏が考案したシャッターシステムであった。コパルは同氏との共同事業としてスタートするも、なぜか、その特許料の支払いを５年で打ち切ってしまう。当然、特許料の支払いを求めて茶谷氏は訴訟に踏み切る。所が、長引く裁判沙汰は１０年が経過した時点で、原告の茶谷氏側が金銭的に追い詰められてしまい訴訟の継続を断念。”人の和”と”誠実”を謳う、コパルの笠井氏のやり口や経営方法には色んな見方がある筈で、それはそれで構わないのだけど、人として救いようが無いなと思いつつも、経営者としては、確かに成功者ではあった。その後、茶谷氏の経営するエフシー製作所は、写真の自動現像システムでは世界的にも随一だったけど、デジタルの台頭でリーマンショックの頃に姿を消すことになる。一方、ワルツの社長だった太田俊夫氏は、次にビジネス小説家として活躍していく。著書は３０冊近くあり、直木賞候補になった”暗雲”を始め、会社を倒産させられた経営者を描いた内容の、自伝的な”社長最後の日”などがある。家にあるワルツ３５。従来のテッサー型コミナーを改良したSコミナー４５ｍｍｆ２．８付。箱もケースもそのままの個体なのだけど、残念ながら、例の改良テッサー型特有のレンズの腐食により撮影は出来ない。箱に入っていたカメラの取説と共に保証書も未記入のままで、コパルのパンフレットまで入っていたのは皮肉。大株主の権限で強引に押し込まれたのか、太田社長が良かれと思って入れたのだろうか。ワルツのカメラの中で、一番好きなエンボイ３５。レンズの銘板に刻まれた"７Elements"は、搭載しているSコミナー４５ｍｍｆ１．９のレンズ構成枚数の事で、その構成図が軍艦部に刻まれている珍しいカメラ。いわゆるゾナー型なのだけど、中級機では他には見当たらない豪華なレンズ。ワルツ・エンボイのコミナー４８ｍｍｆ１．９の作例（全て銀塩写真）街中に据えられた巨大な送電鉄塔。逆光やハイライトがきついとフレアっぽくなるけど、それがセブンエレメント・コミナーの個性なのだ。大分前から閉まっている様子のタバコ屋のショーケース。時々ある、閉店してからずっとショーケースに残されたモノを見掛けると寂しい。古い床屋さんの看板が良い味を出している。往時にランプが点灯するとどんな表情を見せていたのか気になる。廃医院の裏窓には使われていた衣料資材が今でも積まれている。奥の”ちか”という看板は焼き肉屋で、遠目からでは入り口がどうなっているのかサッパリ分からない。手前の駐車場にはずらりと車が並び、今にも一斉に出口へ向って飛び出しそうな雰囲気が面白い。他の作例を見ても、ゾナー型のＳコミナー４５ｍｍｆ１．９は、いわゆるオリジナルのゾナー型レンズとはイメージが違う描写で、このレンズでしか撮れないものがあるけど、ＬＶが連動したライトバリューのシャッターが煩わしい。

  2022.06.11

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  西ドイツの意地を見せたＩＳＣＯのウェストロゴン（ヴェストロゴン）２４ｍｍ広角レンズ

  ドイツのＩＳＣＯは、Josef　Schneider　COompanieの略号で、１９３６年にシュナイダー・クロイツナッハの子会社として設立された。成り立ちとして、当時のドイツ帝国航空省に代わり、シュナイダーがゲッティンゲンにOptischen Werke GmbH　ISCOを立ち上げたのは、当時、空軍が要求する、明るくて解像度の高いレンズを供給するメーカーが無かったからだ。こういう背景を持つＩＳＣＯは、最初から軍需に特化した光学メーカーで、どことなく、東京光学と岡谷光機の関係を思い起こさせる。シュナイダーでは、ゲッティンゲンのピアノ工場の敷地で新入社員の教育を開始。同地出身のシュナイダーで主任光学デザイナーを務めていた、Ａ．Ｗ．トロニエ氏の監修により兵舎の隣に工場が建設された。工場が完成して1942年になると、軍事専用で焦点距離が125、330、400、500mmのナハトクセノンが作られ、これらと共にクセナー銘のレンズが航空偵察や対空望遠鏡に使用された。当時の軍事用レンズの一例。シュナイダー・ゲッティンゲンのクセノン１２．５ｃｍｆ２レンズ。シュナイダーの本拠地クロイツナッハではない事に注目。戦後になると、軍需工場の意味合いから解体され、当初は、Optische Werke Göttingen（オプティッシェ　ヴェルケ　ゲッティンゲン）と称して、シネマ用のレンズを生産していたが、１９５１年には写真用レンズの生産も開始。IsconarやWestanarという組み込み用のレンズがカメラメーカーに供給された。一眼レフ用のレンズ生産はＥＸＡ用の１９５２年のWestar2.8 / 50が最初で、 West Anar 2.8 / 50とWestagon2.0 / 50はＯＥＭ供給もされていて、Westrocolor1.9 / 50は、親会社のシュナイダー・クセノンと殆ど同じものである。１９５３年になると、ようやくＩＳＣＯ銘の使用が許可され、１９５８年には、当時の一眼レフ用広角としては一番の単焦点だった２８ｍｍを超える、世界初の超広角レンズのウエストロゴン２４ｍｍｆ４を発表する。このレンズは１９６０年に登場した、カールツァイス・イエナのフレクトゴン２５ｍｍｆ４よりも広角で、西側よりも優位性を示すべく作り上げた労作のフレクトゴンが、僅か３年で消えて行った要因はウエストロゴンではないだろうか。ＩＳＣＯのレンズで良く使われているＷｅｓｔ（ウェスト）は、英語で西なのだけど、ドイツ語でもＷｅｓｔｅｎ（ヴェステン）なので、東側に対抗した西側の誇りを表しているのかもしれない。ウエストロゴンのレンズ構成図。レンズ構成枚数は８枚と表記されている場合もあるけど、入手した構成図では６群７枚に見える。ひょっとすると、最後群がテッサーのような張り合わせなのか。絞りｆ４～２２、画角８２度、フィルター径８２mm、最短撮影距離は０．５m。エクサクタでお馴染みのＩｈａｇｅｅ（ＩＨＧ）の価格表によると、１９５８年当時のウエストロゴンの価格は４９０ドイツマルクだった。これは、その当時のレートだと１マルクは８６．３３円なので、ドイツ国内での価格は４２，３０２円という事になる。１９５８年における日本の大卒公務員上級の初任給は、９、２００円だったので大体４．６ヵ月分という高級レンズだった。殆どの旧い一眼レフ用レンズに対応可能な名作カメラの、ＥＯＳ・ＲＴに付けたウエストロゴン２４ｍｍ。ウエストロゴン２４ｍｍｆ４の作例（全て銀塩写真）ブルーシートに覆われた建屋の前に放置された石膏像。弦植物が絡んでいて、生い茂った時の景色が気になる。晩秋になり人通りが無くなった小さな農道。稲藁を有効利用していた頃は田んぼの脇で良く見られた、ニウとかニョオと呼ばれる藁タワー。終点に立っている電柱を見ると、寂しさが込みあげてくるのはなぜだろうか。宮沢賢治さんの寓話、”月夜のでんしんばしら”を思い出す。”ドッテテ、ドッテテ、ドッテテド”。

  2022.05.28

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  東に向かって舞う翼をニッコール１４ｍｍｆ２．８D　ＥＤで追いかけると中島みゆきさんの「前途」のジャケットが見えた

  散歩の途中で時々空を見上げると、余り見た事がない変ちくりんな雲に出会う事がある。例えば、以前ゲリオス５０ｍｍｆ２で撮影した、ピンク色の雲景色なんかその一例だけど、今年の冬、久しぶりに面白い雲に出会った。最初は夕方の東の空に丸くて黒い変な形の雲が浮かんでいるなと思っていたら、それの両側が膨らんできて、段々広がっていくように見える。歩きながら観察していると、それは明らかに翼のように変化して左右に広がっていく事になる。その大きく広がった白い翼を眺めながら真っ先に思い出したのが、中島みゆきさんの”２１世紀ベストセレクション「前途」”のＣＤジャケットだった。勿論、選曲も良いけど本人による解説が嬉しい傑作アルバム。【写真は全て軍塩写真】最初に丸くて黒い塊から変化を始めて、翼が広がり出した頃をビオター５８ｍｍｆ２で撮影。まだ標準域で収まる大きさで、どうせ消えるか普通の雲になるだろうと思っていたら、これがヒヨコだったとは。ニコン・ニューFM2に付いていたアポランサー９０ｍｍｆ３．５で中心部をクローズアップ。卵型の中心部から左右に伸びた付け根と、尻尾から尾を引いているのが分かる。ニューＦＭ２の９０ｍｍを、ニッコール１４ｍｍｆ２．８D ＥＤに交換。この頃には、翼が超広角でも縦位置では収まらない大きさに成長。太陽を隠している中心部から上に、半円の”白虹”【暈（かさ）／ハロ】が現れている。横位置でも全景が１４㎜レンズでは収まり切れない。中心部分から後方へ白虹の元になる氷晶の長い尾を引いている。この半円の白虹は、もっとハッキリと二重に見える時もあった。田畑の上を長い尾を引きながら西の空に浮かぶ巨大な翼。翼も長いけど尾の長さは後端が良く分からないほど長かった。丸くて黒いタマゴから翼が生えて大体３０分弱の時間が経過。何となく手塚治虫さんの”火の鳥”も思い起す光景も終わりに近づいてきた。２０世紀最後の２０００年８月頃に登場した、ニッコール１４ｍｍｆ２．８D　ＥＤは、新時代の超広角レンズらしくＡＦ対応で、複合非球面とＥＤガラスを仕込んだ１２群１４枚のレンズ。当時、税別で２５万円弱の価格の上に、１５ｍｍでさえ使いあぐねていたので、こんなレンズもあるんだな、という程度の存在だった。ニコンの説明では、引きのない室内での撮影に有効とあるけど、いつの間にやら、特殊な超広角は需要が無いらしく、３万円台だったか４万円台で見付けたレンズだ。ファインダーを覗いて、こんなレンズで一体何を撮ろうかと考えていたけど、巨大な翼を追いかけて引きのない屋外で使うとは思ってもいなかった。ニッコール１４ｍｍｆ２．８D　ＥＤのレンズ構成図。２枚の複合非球面（水色）と１枚のＥＤガラスレンズ（黄色）が仕込まれている。ニコンの超広角レンズへの挑戦は世界でも早い段階から始まっており、１９７０年より前から森征雄（いくお）さんによって設計されていた、超広角３部作の１３ｍｍ、１５ｍｍ、１８ｍｍに始まる。１３ｍｍｆ５．６が１９７３年にはアメリカでパテントを取得した事実から、二ッコールの一眼レフ用超広角は、独自のニッコール型と呼ぶべきウルトラワイドレンズなのだ。このレンズを次に引っ張り出すのは一体いつになるだろうか。とにかくパースペクティブがきついぞ、という単なる作例という以外に何もない、いかにもな詰まらない写真になってしまうので、相当使いこなしが難しいレンズだ。大概は、一応持っているというコレクション止まりか、画角で他人にマウントを取る為の道具でしかないらしく、死蔵されているのが殆どだと思われる。

  2022.05.21

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  ”鷲の眼”でお馴染みの本家カールツァイス製テッサーは最後に日本へ辿り付いていたのだ（Y/Cテッサー４５ｍｍｆ２．８）

  本家のツァイスだけでも４００種類５００万ユニット程生産されたともいわれる、大好きなテッサーに関しては、以前から散々書いてきているので割愛。戦前のテッサーのパンフレットの表紙。上には有名な、”あなたのカメラは鷲（わし）の眼”と英語で書かれて、下にはドイツ語でツァイス／レンズとロゴマーク。【ツァイス　レンズパンフレット　－鷲の眼－（１９３４）】【Ａｄｌｅｒａｕｇｅ】／アドラーアウゲ＝イーグルアイ《元々は鋭い眼の意》戦後のツァイス・イエナのパンフレットに載っているテッサーの歴史。いずれにせよシンプルな構成で比較的ローコストなテッサーが、パテント消失後はハイファイレンズの入門用として、世界中の色んな光学メーカーで、最初に自社ブランド用として設計される事になる。当然、日本製のカメラにも名前を変えて使われたお蔭で、海外から見た場合の為替レートと人件費の安さと相まって、値段の割に良く写るという評価を得るのに重要な役割を果たしてきた。また、コンパクトカメラ以外にも、一眼レフ用の薄型パンケーキ標準レンズとして、４０ｍｍ～４５ｍｍという焦点距離で、色んなメーカーで生き延びていった。その中で、一応は正統派の本家本元として”テッサー”銘で発売されたのが、ヤシカ／コンタックスマウントとして、１９８２年に登場した純正テッサーの４５ｍｍｆ２．８だった。どうも、日本製で黒いプラスチック製のテッサー型という事で、ドイツ礼賛で高級志向のコンタックスユーザーには受けなかったのか、早々に消えてしまったのだけど、なぜかＭＭ時代に復活する。更に、そのヤシコン・テッサーが、テッサー誕生１００周年で２００２年に限定生産したタイプが出た。テッサーファンは、独特の色調に輝く金属製の鏡胴を見て、ようやく、これを入手するために奔走する事になる。他にも、ヤシカブランドのテッサーというと、コンパクトカメラのＴ－ＡＦ－Ｄという１９８４年登場のカメラには、３５ｍｍｆ３．５という、Ｔ＊ではない渋いテッサーが付いていたけど、これが高級コンパクトのコンタックスＴで、ローライ３５のようにゾナーと選べたら良いなと思っていた。やがて京セラブランドになると、テッサー３５ｍｍはＴ＊へと進化して、最後には防水機能があるＴプルーフとして２００１年まで生き残っていた。他にもテッサーを積んだコンパクトカメラは色々あったけど、通称で”べっぴんレンズ”のテッサーは別格だったのだ。ついでに、東側ツァイス・イエナ製の一眼レフ用テッサー５０ｍｍは、１９４６年にｆ３．５が登場して以来、１９５２年からｆ２．８も登場。１９５５年にはｆ２．８だけとなり、最後は１９９０年まで作られていた。ツァイス・イエナの盟友だったマイヤー・ゲルリッツにも、テッサータイプのプリモターがあり、５０ｍｍｆ３．５が１９５２年に登場して１９５８年まで継続。１９５９年にはｆ２．８が出るけど、翌年には生産中止。マイヤー・テッサーは、ここで一旦途切れるけど、２０年後の１９７９年には、ペンタコン・プラクチカ―５０ｍｍｆ２．４として復活。やがて、１９９１年にはテッサー５０ｍｍｆ２．８より１年生き延びて生産中止となる。３０年以上、コキ使っているタフなＥＯＳ・６５０に付けた、ヤシコン・テッサー４５ｍｍｆ２．８。実は他のヤシコンレンズと違い、少しフランジバックが合わないのか、無限遠にするとミラーが当たるので注意が必要。ペリクルのＥＯＳ・ＲＴに付けると像の消失もないので、まるでフルオートのレンジファインダー機だ。コンパクトで実に快適な道具になる。鏡胴がオリジナルの黒いプラスティック製から、金属になり、少し重量が増えた９５ｇのレンズは、操作感からして高級レンズの要素を備えている。恐らくコストを考えて軽量を前面に出したかったのだろうけど、もう少しテッサーの名前に敬意を持って最初から金属鏡胴で作るべきだった。ヤシコン・テッサー４５ｍｍｆ２．８の作例（全て銀塩写真）古いアパートの前のススキも穂が出そろって、秋の到来を告げている。無事に米も実り、ほっと一安心の夫婦（めおと）案山子が二人。今時珍しい、木と竹で組まれたハサ掛けで乾燥させている稲。秋の日差しを浴びながら畑を見守る夫婦の案山子。２０２１年は夏の悪天候の割に紅葉は綺麗だった。アケビがまだ青々としている中、カエデは色づき柳川沿いの葦は銀色に輝いている。まだ緑が残るカエデの向こうに、色づいたカエデが覗いている。入笠山から見る八ヶ岳は、秋の深まりを告げている。高所恐怖症には想像しただけで足がすくむパラグライダーが離陸。

  2022.05.07

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  アンジェニューの世界初第二弾レトロフォーカスレンズ【Ｒ１１】２８ｍｍｆ３．５

  レトロフォーカスで後世に名を残すアンジェニュー。１９５０年にＲ１／３５ｍｍｆ２．５を発表して以来、次の２８ｍｍｆ２．８の試作が完了していたのは１９５１年だったらしい。このｆ２．８のプロトタイプは世に出る事は無かったけど、実際にアンジェニューが、例の３５ｍｍに続くレトロフォキュス（レトロフォーカス）の、Ｒ１１／２８ｍｍｆ３．５を発表したのは１９５３年だった。因みに、西ドイツで初めて登場した１眼レフ用の２８ｍｍは、エンナのウルトラ・リタゴン２８ｍｍｆ３．５で１９５６年。レンズ構成もＲ１１と似たような、接合したエレメントのない６枚構成だった。ついでに、日本で初めての一眼レフ用２８ｍｍレンズは、ニッコール２８ｍｍｆ３．５で１９５９年であり、１９６０年代になると、日本もようやくドイツへの追撃が始まり、１９６２年にタクマ―２８ｍｍｆ３．５、１９６４年にはキヤノンのＦＬ２８ｍｍが登場している。Ｒ１１／２８ｍｍの初期型は、当時のアメリカでの価格は１２０ドル。この時代、パリで売られているレンズに関しては、特別な味わいがあるので高額であると説明されたらしい。世界初の一眼レフ用広角レンズの始祖ともいえる、センセーショナルな２本が並んだパンフレットを見ると、フランス光学界絶頂期の熱気が伝わってくる。ついでに、１９５８年になると西ドイツのISCOから２４ｍｍが発表され、１９６２年には東ドイツのツァイス・イエナから２０ｍｍが登場して、一旦、レンズの広角化競争は休止する。ＥＯＳ・ＲＴに取り付けたアンジェニュー２８ｍｍｆ３．５。シリアルから１９５５年製のレンズだ。もう３０年くらい前に買ったレンズだけど、昔は好き者かへそ曲がりしか需要が無かったので安かったと思う。アンジェニュー２８ｍｍｆ３．５の作例（全て銀塩写真）リバーサルだと一段と特徴的な発色をするアンジェニューの２８ｍｍ。曇天とアンジェニューの色味は相性が良いと思う。新緑を背景に咲いている山桜。こういうフワッとした光景にはカチカチのハイコントラストよりも、アンジェニューの方が向いているかもしれない。稲の苗床を見張る案山子が手前と奥に２人。逆光のハイライトにフレアが出ているけど、こういうものだと理解出来れば悪くない。畑の一角で畑を見守る、お下げの案山子。ここら辺は紫外線が強いから重装備だ。未舗装の農道が続く山間の畑。どうも天気が怪しくなってきたので早く帰ろう。上の写真の右側でポツンと頑張っている案山子のアップ。秋から一冬越えてボロボロになってしまっているのが切ない。「ほら、あれ見なよ」と言っているようだ。

  2022.04.23

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  レンズ構成が同じならバカ高いディスタゴン１５ｍｍｆ３．５よりも断然ペンタックスですな(SMC PENTAX 1:3.5/15)

  ７０年代に入ると一眼レフ用としては驚異的な、魚眼ではない２０ｍｍを超える１５ｍｍレンズが続々と登場している。そのエポックメイキングな超広角の１５ｍｍレンズに関して、世界に先駆けたニコンは、１９７２年にカタログに載せたけど販売は実現せず、実際には１９７３年に販売を開始した、１２群１４枚のニッコール１５ｍｍｆ５．６がある。トータルの生産数は３０００本だったｆ５．６は、その後に驚異の１３ｍｍに発展するけど、やがて１９７８年になると１１群１４枚のＡｉ仕様の１５ｍｍｆ３．５に代わり、それは２００５年まで生産されている。海外ではカールツァイスが１９７３年にローライＳＬ３５用のディスタゴン１５ｍｍｆ３．５を発表。所が、ローライのプロジェクトが失敗してしまい、その後はヤシカのＲＴＳプロジェクトで復活。実は、この時にペンタックスとカールツァイスは関りがあったようで、真実は良く分からないけど、ディスタゴンとタクマ―という、２本の１５ｍｍレンズの構成図を見るとそっくりなのを見ても、どうやらタクマ―１５ｍｍは、カールツァイスのライセンス生産なのだろう。そのペンタックス製の１５ｍｍｆ３，５は、当初Ｍ４２マウントの”ＳＭＣ　Ｔａｋｕｍａｒ”として１９７５年に登場し、次のＫマウントに引き継がれて”ＳＭＣ　ＰＥＮＴＡＸ”として１９８４年まで生産されていた。主なローライ向けのディスタゴン１５ｍｍとの違いは、フローティング機構が無く最短撮影距離が１６ｃｍから３０ｃｍに変更。実際にペンタックスとヤシコン・ディスタゴンを並べると、重さや大きさの違いはあるけど、横から見た一枚目のレンズの曲率や、上から覗いた内面の様子がソックリなのである。実は、ヤシコンのディスタゴン１５ｍｍｆ３．５は、友人が好きで２本も持っていて自慢していたので、いつか自分も手に入れたいと思いつつ当時、中古で安くても２５万円という値段に中々踏ん切りが付かなかった。やがてアメリカの通販で、最低価格新記録に相応しい、かなり使い込まれた、付属品が邪魔なグリップだけという、１５ｍｍ専用機のホロゴン・ウルトラワイドを入手。この頃は、まだ中古カメラブームの前だったので、確か＄１５００もしない値段だったと思う。以来、ホロゴン１５ｍｍが魚眼以外で一番広い画角のレンズだったけど、ある日、アメリカの通販で２５０ドル位だったと思うけど、程度が良さそうなＳＭＣ　ＰＥＮＴＡＸ１５ｍｍｆ３．５を発見。この手の超広角レンズの中でも、特にバカ高いディスタゴンは、何を根拠にしているのか分からないけど、雑誌や巷で絶賛されて日本では相当売れたようである。どうも、最初の頃は何を撮っても面白いのだけど、やがて、写真の本質はレンズではなく、撮る人間そのものである事に気が付いて、後から見ると詰まらない写真を山ほど撮った挙句に飽きるらしい。コレクターや、見せびらかすための小道具でもない限り、いずれ殆どが手放してしまうらしく、元が高価なディスタゴンは下取りに出してもカネになるので、日本では、いつでもどこでも中古で見掛けることが出来た。所が、中身はディスタゴンやスーパーエルマーと殆ど同じなのに、この焦点距離が必要な合理的で実質主義者が選ぶ、地味なペンタックスの１５ｍｍは手放さないらしく、日米を通じて中々お目に掛かれなかった。最初の、ペンタックスの１５ｍｍｆ３．５超広角レンズは、Ｍ４２マウントで自動露出を内蔵した１９７１年のＥＳに対応した、ＳＭＣタクマ―レンズの一つとして作られたもので、トータルの製造本数は２５００本であり、その内の５００本が非球面レンズを使用したものであった。初期型のＳＭＣ　Ｔａｋｕｍａｒの、どのレンズに非球面が仕込まれているかは、資料が何もなく、要は１／５の確率のクジ引きのようなものであり、普通に写真を撮る分には殆ど違いは分からないと思う。ただ、１９７５年のみに発売されたＭ４２時代の初期型に於いて、距離環のフィート表示が初期型の”∞-7-4-2-1.5”には、”非球面”を使用したものが”含まれて”いるらしく、距離環のフィート表示が後期型の”∞-7-3-2-1.5”のタイプに非球面は存在しない。ごく僅かに軽い光学系を持つ非球面バージョンに関しては、Ｍ４２／Ｐマウント時代の初期段階で、恐らく製造コストの問題で早々にフェードアウト。その後の全ては球面レンズというのが自然であり、巷の夢を壊して申し訳ないけど、次に出たＫマウントに非球面タイプは無いだろう。くどいようだけど、巷のＫマウントにも非球面は存在するという夢物語は、残念ながら噂話以上に何の裏付けも無い。ディスタゴン１５ｍｍｆ３，５と共通する、ＳＭＣ　ＰＥＮＴＡＸの１２群１３枚のレンズ構成図を見ると、前群に幾つもの凹メニスカスレンズがあって、幾つものワイドコンバーターを前面に重ねた上、最後端には２分割の凸レンズを配して、最後までバックフォーカスを稼ごうとしているのが見て取れる。そのＫマウントで”球面”レンズの量産バージョンには２種類の刻印があり、”SMC PENTAX 1:3.5/15” が初期型で、”smc PENTAX 1:3.5 15mm” が後期型。参考までに、Ｙ／Ｃ・ディスタゴン１５ｍｍｆ３．５のパンフレット。これを見ても、フローティングはアナウンスされているけど、非球面に関する記述は無いので、オリジナルは全て球面レンズだと思う。兄弟分のライカＲ用のスーパーエルマーは、ツァイスでディスタゴンと同仕様がＯＥＭ生産されて、ペンタックスはパテントを含めた技術供与だけのような気がする。最初はオリジナル越えの性能向上を目指して非球面を奢ったのは良いけど、生産性が悪くて手間とコストが掛かるので止めてしまったのではないか。ついでに、ディスタゴン１５ｍｍｆ３．５のＭＴＦ性能表。ＳＭＣ　ＰＥＮＴＡＸも似たようなものだろう。ペンタックスＭＸに付けた、Ｋマウントの初期型で”球面”のＳＭＣ１５ｍｍｆ３．５。小振りなＭＸと、ギョロリとした１５ｍｍレンズの対比が面白い。３０年近く前に、好奇心と値段の安さで買い込んだものの、試写しただけで放置していたレンズ。この焦点距離となると、常用とはかけ離れた特殊なレンズなので、大概は死蔵されるか、とっとと下取りに出される。ペンタックス　ＳＭＣ　ＰＥＮＴＡＸ　１：３．５／１５の作例（全て銀塩写真）２０２２年の初日の出。八ヶ岳は雲に覆われて何も見えなかったけど、右端の僅かな雲の切れ間から一瞬だけ顔を表した初日の出。本来であれば橙色の筈が、既に白い光へ変わってしまった。おむすび型の山に続く、手前の田んぼの土手には鹿の足跡が残されていた。畑の脇にカラマツが並ぶ向こうには、初日の出から時間が経って鋭い光に変化している太陽。いい大人ならば、球面とか非球面に関わる詰まらない噂話よりも、その存在に感謝して、何とか使いこなしを考える事の方が遥かに重要なレンズではないか。

  2022.04.02

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  望遠鏡を発明したオランダのオールドデルフト製アレファー１８０ｍｍｆ４．５

  オランダのオールドデルフト／デ・アウデ・デルフトに関しては、以前このブログで取り上げた事がある。世界で初めてオランダで実用化された望遠鏡は、イタリアのレオナルド・ダヴィンチ氏による天体観察にまで影響を与えたのだけど、そのオランダの正統望遠レンズを作っていたのがオールドデルフトだ。手持ちのアレファー１８０ｍｍはアルパマウントの、１９５０年頃に登場した３群４枚のレンズで、どうも、テッサーと逆の前群が張り合わせのレンズらしい。殆ど知られていないマイナーな存在で、数もそう多くないらしく余り見掛けない割に、長焦点レンズ全般が下落している現在では驚く程安い値段で入手出来た。アルパ９ｄに付けたアレファー１８０ｍｍｆ４．５。黒い艶のある鏡胴とシルバーの独特の距離環は、実際に見た事は無いのだけど、どことなく中世のオランダの望遠鏡を連想させてくれる。とても軽量なレンズで、マウント部と絞り環にスイス製の表記がある。アレファー１８０ｍｍｆ４．５の作例（全て銀塩写真）ジャケットを着こみキャップを被って田んぼを見守る案山子。下に見える田んぼの向こう側にも２人の案山子が見える。畑を取り囲む案山子が３人居て、何となくこちらを見ているような気がする。ここら辺は手造りの案山子なので、どれ一つとして同じ者は居ない。キャベツ畑の案山子三人衆。蓼科山が見守る畑で一人頑張る案山子。向こう側の田んぼの土手が、草刈り作業でみるみる綺麗になっていく。諏訪富士と呼ばれ、たおやかな山容を持つ蓼科山。実は二重火山で山頂は瓦礫だらけ。曇天の空の下で、田んぼの畔に立つ一人の案山子。明日は良い天気でありますように。

  2022.02.26

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  戦前の１９３７年に自社ブランドレンズ待望で生まれたキヤノン製標準レンズの原点だった５０ｍｍｆ３．５

  個人的に３群４枚のシンプルなテッサー型のレンズが好きで、特にｆ値が３．５の通称サンハンテッサーと呼ばれる地味な奴が良い。以前紹介した、本家カールツァイス・イエナ製の、戦後すぐに作られた旧いアルミ鏡胴のサンハンテッサーとか、分家のシュツットガルト製のサンハンテッサーはどちらも一級の描写であり、古臭いレンズのイメージを持って接すると裏切られる。これに限らず、旧い国産や旧ソ連製のテッサーは、今使っても一級の実力があって、明るさを含めた実用性を考えれば、写真を撮る標準レンズなんて、バカ高くて重い大口径なんか放っておいて、これらがあれば十分である。ライカマウントの国産テッサーで、恐らく一番古い歴史があるのが、アニタ―に始まるニッコールの５０ｍｍｆ３．５だ。これは日本精機光学研究所がカンノンカメラの機構を見直して、日本光学の協力を得て１９３６年2月に発売された、国産精密35ｍｍカメラの嚆矢だったハンザキャノンに付けられたレンズだ。所が、当時はまだレンジファインダーの高級３５ｍｍカメラは、庶民とは無縁なものだったので経営は苦しく、１９３７年になると出資者を募り、精機光学工業株式会社として再出発する。やがて１９３９年になると４種類のカメラを生産し、セイキキヤノンと呼称するようになる。戦前の精機光学工業が、オリジナルのレンズを画策し始めたのは１９３７年半ばであり、同社の光学技術者だった古川良三氏により、５０ｍｍｆ４．５が試作され、５０ｍｍｆ３．５と１３５ｍｍｆ４が製品化された。それらには、社内公募により、月面の海であり”澄んだ”を意味するセレナーという名前が付けられている。戦前の「科学朝日」に取材されていた、戦中の精機光学工業のレンズ部門の様子を見ると、今の世界を代表する光学メーカーのイメージは皆無で、町工場の風情がある。軍需工場だった日本光学、東京光学などと違い、民生が主だったので取材可能だったと思われる。戦後を迎えた精機光学は、板橋工場の一部を焼失した事を除き、目黒の本社と疎開先の山梨県にあった２つの工場は無事であったけど、物資も無く何もできない状態であったため、一旦会社は休業・解散となる。所が、その僅か２か月後の１０月には、進駐軍の民需製品製造の許可を得て再開する。戦前・戦中に製造していた”標準型”セイキキヤノンのパーツを掻き集めて作られた最初の機種は、独自のＪマウントと呼ばれるレンズマウントの、後にＪⅡ（戦後型）と呼ばれるもので、１９４５年の生産数はたったの３台であった。それでも、１９４６年になるとＪⅡ型は進駐軍向けに５６０台が生産され、戦後初の新製品で、まだ独自のＪマウントとライカＬマウントが混在するＳⅡ型が登場。１９４７年にはキヤノンカメラ株式会社へ改組して、１９４９年にはⅡＢ型が発表され、今のキャノンの基礎を築く事になる。最初のＪⅡには、ニッコールとセレナーが混在して付けられたようで、１９４７年に５０ｍｍｆ２が完成すると、これが標準レンズとなり、１９４８年には日本光学の供給が停止されて、自社レンズ時代が到来。１９５１年には、ついに名作の５０ｍｍｆ１．８が登場すると、ドイツ製レンズへの追撃が始まる。キヤノンでも戦前からの歴史がある、キヤノンＪマウントのセレナー５０ｍｍｆ３．５は、１９５２年にライカＬマウントのセレナー５０ｍｍｆ３．５Ⅱとしてリニューアル。その後、キャノンの製品名称統一で１９５３年にはキヤノン銘に変更される。このレンズの登場時の価格は￥１３、０００。随分と安いなと思うけど、実は大卒公務員の給料が￥７．６５０だった。キヤノン５０ｍｍｆ３．５の作例（全て銀塩写真）２０２１年８月の悪天候を乗り越えて、今年も稲が無事に実った。草刈りをされて手入れの行き届いた田んぼの土手が清々しい。畑の作物は殆ど終わっているけど、田んぼの稲は首を垂れて刈入れを待っていて彼岸花も咲いている。農道脇の煙が空に昇っていく。右の林を背景に白い小さな点々はトンボ。稲の刈入れが終わって、あちこちから焚火の煙がたなびく。手前のススキの穂も種を飛ばして秋が深まっていく。古い建屋で窓が開いているけど、壁になっていてツタが這っているのが良く分からない。昔のソニー製品は最先端でカッコ良くて憧れのブランドだった。

  2022.01.22

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  僅か３年で消えたカールツァイス・イエナ製広角レンズのフレクトゴン２５ｍｍｆ４

  戦後の東側カールツァイス・イエナの広角レンズというと、オリジナルのコンタックスⅡとⅢ用のビオゴン３５ｍｍｆ２．８に加えて、西側のコンタックスⅡａとⅢａ用のビオメター３５ｍｍｆ２．８が、終戦後の割と早い段階の１９４６年頃から生産が開始されている。やがて１９５０年になると、西側コンタックス用にトポゴン２５ｍｍｆ４が追加され、オリジナルコンタックス用のビオゴン３５ｍｍは生産中止になっている。１９５１年にはビオメター３５ｍｍも生産中止となり、入れ替わるように、一眼レフ用のフレクトゴン３５ｍｍｆ２．８が登場する。西側のカールツァイス・シュツットガルトが、まだ戦後を引きずっている時期に、その西側用のレンズも含めた新しいレンズを世の中に供給する事が出来た、東側のカールツァイス・イエナの余裕と底力が伺える。一方、西ドイツ製初の一眼レフ用３５ｍｍレンズが登場したのは１９５３年であり、そのリタゴンというエンナで作られたレンズは、３５ｍｍｆ４．５というスペックだった。これは東ドイツのマイヤーオプティックが、高価なフレクトゴンの代りにアマチュア用に作った、プリマゴン３５ｍｍと同じスペックである。西側の一眼レフ用広角レンズは、フランスのアンジェニューが東側をリードする存在であり、レトロフォーカスＲ１・３５ｍｍの次は、Ｒ１１・２８ｍｍを発表する事になる。因みに、西ドイツで初めて一眼レフ用の２８ｍｍを発表したのはエンナだった。常に世界の光学の先端を行き、研究成果を世界中に提示してきたカールツァイス・イエナ。どうやら、戦後はレンジファインダーに見切りをつけて、一眼レフに舵を切ったらしく、１９６０年にはトポゴンの生産も終了して、盟友のマイヤーオプティックと共に、レンズに関しても一眼レフ用に傾注していく。その１９６０年に登場したのがフレクトゴン２５ｍｍｆ４だ。トポゴンと同じスペックの広角レンズは、僅か３年で生産を中止してしまうけど、それは１９６２年に登場する、超広角のフレクトゴン２０ｍｍｆ４への助走でしかなかった。カールツァイス・イエナを代表する一眼レフ用広角レンズのフレクトゴンのパンフレット。当時は、とても高価で特殊なもので一般人には縁の無い高級レンズだった。フレクトゴン２５ｍｍｆ４のパンフレットの表紙。生産期間も短く生産数も少ないレンズで、フレクトゴン２０ｍｍの踏み台で終わったような印象がある。たったの３年で消えた理由は、恐らくフレクトゴン２５ｍｍが登場する２年前の１９５８年に登場した、西ドイツのＩＳＣＯ製ウェストロゴン２４ｍｍｆ４の影響だと思われる。せっかく苦労して作り上げたのに、フレクトゴン３５ｍｍに続いて、西側に大ツァイス・イエナのプライドを傷つけられたという事だろうか。フレクトゴン２５ｍｍｆ４の内部構造図。２０ｍｍもそうだけど、機械的にはかなり凝った造りになっている。レンズ構成を見ると、４群５枚のレトロフォーカスの広角レンズの前に、更に２群２枚のワイドコンバーターを追加したような構成になっている。家にあるフレクトゴン２５ｍｍは、昔ホーチミンをうろついていた時に見付けた中古カメラ屋さんで購入したもので、どういう経緯でベトナムに流れて来たのか分からないけど、他にも、イタリアのコンドルⅠとか旧ソ連のＭＴＯ１０００ミリとか渋いものが沢山あった。レンズ自体には少しカビがあったけど、確か３０～４０ドル程で余り見た事が無いレンズだったので、ベトナムから連れて帰ってきたのだ。ベッサフレックスに付けた、フレクトゴン２５ｍｍｆ４。フレクトゴン２５ｍｍｆ４の作例（全て銀塩写真）２０２１年の稲も、夏の長雨を乗り切ってちゃんと首を垂れてきた。夕方になり、幾つもの光の筋がソバを照らしている。この時期の散歩は楽しい。フレクトゴンは、どれも近接撮影が可能。画面の中央左寄りにイナゴがいる。そこら中でソバの花が満開を迎えている。匂いが独特で一言で言えば臭い。一本の木が植えられたソバ畑。何の木か分からないけど、真夏の農作業では休憩場所として極めて有効だ。農道脇の萩が秋の到来を告げている。ソバ畑の土手に咲いているヒマワリ。結構畑の一角で見掛ける花だけど、意図的に種を蒔かなければ育つことは無い。夕方になり日もなくなり誰も居なくなった静かな田んぼ。奥には、麓を見守っている八ヶ岳連峰の全景がシルエットになっている。厚くなってきた雨雲と対峙する案山子が頼もしい。東側のカール・ツァイスでは消えてしまった一眼レフ用の２５ｍｍ広角は、その後、どういう訳か西側のカール・ツァイスからディスタゴン２５ｍｍとして再登場している。他のブランドでは見掛けない、世界でも珍しい２５ｍｍというツァイスレンズは、かつてのトポゴンとフレクトゴンに対するオマージュという事かもしれない。

  2022.01.08

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  東側の”乾坤一擲”世界初の３５ｍｍ一眼レフ用超広角レンズだったカールツァイス・イエナのフレクトゴン２０ｍｍｆ４

  東西に分裂したカールツァイスに於いて東側のカールツァイス・イエナが、西側にレンジファインダー・コンタックス用のレンズを供給しつつ、１９４９年に東側から西側に対して繰り出した先制パンチが、コンタックスＳという一眼レフだった。シンプルなＭ４２マウントを持ち、ペンタプリズムを頭に載せた画期的なカメラは、やがて商標問題でペンタコンと名前を変えて行くけど、どうやら、東側では既にレンジファイダーに見切りを付けていたらしい。結果としては１９５３年にレンジファインダー用のイエナ・ゾナー５０ｍｍは生産中止となり、最後はトポゴン２５ｍｍのみ１９６０年まで生産されていたようだ。一眼レフ用のレンズとしては、戦前から関わりのあったエクサクタマウント用が、既に戦後の１９４６年には４０ｍｍと５０ｍｍのテッサーと、５８ｍｍのビオターが作られていて、望遠系ではトリオターとゾナーの１３５ｍｍが２本と、それに加えてゾナー１８０ｍｍと３００ｍｍが生産されていた。１９５２年になると、ビオター７５ｍｍｆ１．５が再登場して、同時期にマイヤーからもヘリオプラン４０ｍｍから、テレメゴール４００ｍｍまでの、１１本に及ぶツァイス・イエナを補完する色んな種類のレンズが供給されるようになる。バックフォーカスが必要で広角化が難しい一眼レフに於いて、初期の広角というとツァイス・イエナでも４０ｍｍのｆ４．５が限界であり、東側の盟友だったマイヤーからも同スペックのヘリオプラン、西側でも、似たようなシュナイダーのイソゴンとか、それらよりも、２ｍｍ広い広角で３８ｍｍだけどｆ値が５．６という、べルチオのオロールといった小口径レンズしかなかったのだ。この状況に革新をもたらしたのが、１９５０年にフランスのアンジェニューから登場した、明るさがｆ２．５の３５ｍｍというレトロフォーカスＲ１・レンズである。当然、東側のカールツァイス・イエナでも、テッサー４０ｍｍに代わる広角レンズを模索していたらしく、それが１９５２年に登場して１９７６年まで生産されたフレクトゴン３５ｍｍｆ２．８であり、一気に古くなったテッサー４０ｍｍは１９５３年に生産中止となる。ただ、フレクトゴン３５ｍｍに関しては、アンジェニューのレトロフォーカスと殆ど同時期に開発が始まり、既に１９５０年には試作品が完成していたのにも関わらず、不思議な事にツァイス・イエナのハリー・ツェルナー氏のグループが、１９５３年までパテント出願をしなかった為に、世界初の一眼レフ用３５ｍｍ広角レンズという栄誉はアンジェニューに奪われている。それでも、東側のツァイス・イエナからは、レンジファインダーコンタックス用で１９５０年に登場した、トポゴン２５ｍｍと同じスペックで、当時の一眼レフ用としては世界で最も焦点距離が短かい、フレクトゴン２５ｍｍｆ４が１９６０年に登場する。その２５ｍｍレンズで気を吐いた東側のツァイス・イエナは、更に世界を瞠目させる画期的なレンズを次に発表する事になる。１９６２年に登場して２５ｍｍに代わったそれは、マスターレンズの前に複数のワイドコンバーターを重ねたようなやり方で、更に広角化を図ったレンズであり、世界初の３５ｍｍ一眼レフ用の２０ｍｍ超広角レンズだった。実に６群１０枚という凝ったレンズ構成のフレクトゴン２０ｍｆ４は、その後、１９７６年になるとｆ２．８へと発展していく事になる。個人的に最初のフレクトゴン２０ｍｍｆ４を入手したのは３０年以上前だ。アメリカの通販で見付けたそれは、ニコンＦマウントに改造されたもので、エアメールやり取りして購入したレンズだった。６０年代のアメリカといえば共産主義排除で赤狩りが激しかったのに、まだ世界のどこにもなかった一眼レフ用の超広角レンズは、治外法権で入っていたらしい。使ってみると中々の写りで、以来東側のレンズに興味を持つようになるけど、ある日、友人のニコンＦ４に取り付けたら外れなくなってしまった。やがてＦ４とセットで修理に出されていたフレクトゴンは、ヘリコイドのストッパーが壊れて最短の１６ｃｍを超えて近接が可能になり、それはそれで面白いのだけど、マトモな奴が欲しくなって、プラハでエクサクタマウントの奴を買い直した。いずれも、既に２０ｍｍの広角レンズなんか普通の存在であり、時代遅れの６０年代の東ドイツのレンズなんか、どこで買っても安かったのだ。フィルター径が７７ｍｍという独特のラッパ型が、レトロフォーカスの超広角レンズが持つダイナミズムを表現している。やっぱり、一眼レフ用の超広角は、こういう形態の方が信用できる。ＥＯＳ１に付けたフレクトゴン２０ｍｍｆ４。フレクトゴン２０ｍｍｆ４の作例（全て銀塩写真）長雨で暑くもなかった夏も過ぎて、何とか２０２１年も稲が実った。その田んぼを、奥の方から蓼科山が見守っている。日が暮れ始めた八ヶ岳山麓。まだ青いけど、首（こうべ）を垂れ始めた稲を見て、他人事ながらホッとする。今年は、余り天候に恵まれた感じは無かった。長雨と寒さのお蔭で、遅く蒔かれたソバはヒョロヒョロ。幾ら荒地でも育つとはいえ、水よりも日差しが重要な作物なのだ。天候が回復するように祈っているように見える案山子達。今年の長雨で、うな垂れているように見える案山子。「どうも、晴れんなぁ」。日が落ちて秋の気配が漂う田んぼ。取り合えず明日の天気は良さそうだ。作物が実る時期にずっと雨が続いた典型的な２０２１年夏の景色。殆どこんな状態だったので庭のレタスは腐り、特に太陽光が大好きなカボチャやキュウリなどのウリ科には打撃だった。今年はヒマワリが咲く頃にも悪天候続きだった。スッキリ晴れない空の下で、畑の脇に咲いて必死に種を実らせているヒマワリが寂しい。曇天続きの今年の夏は萩の咲き始めも早かったように思う。来年こそは良い天気になって欲しいと、切に願う。２０ｍｍのような超広角レンズは、なるべく広角臭を消すのが使うポイントだと思うのだけど中々難しい。いかにもな広角臭がプンプンする写真は、単純な作例写真としては良いのだろうけど、一つの作品となると見ている方が白けてしまうので、注意しなくてはいけないと自戒している。

  2021.12.04

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  当時のツァイスが世界最高性能を目指したヤシコンの中望遠マクロプラナー１００ｍｍｆ２．８は鏡胴からして只者ではない

  ヤシカ／コンタックス時代のカールツァイスレンズに、マクロプラナー１００ｍｍｆ２．８というのがあった。写真に凝っていた当時は、とても高価で特殊なレンズのイメージしかなく、中望遠はプラナー８５ｍｍｆ１．４に代わり１００㎜ｆ２をメインに使っていた。所が、デジタルが伸してきて京セラがカメラから撤退して暫くすると、マクロプラナー１００ｍｍは暴落してしまい、なんとなく手元にやってくる事になる。パッと見は、真っ黒でズームレンズの様な形態を持つレンズは、大して凄そうに見えないのだけど、実際に手にしてみると意外に重くて高密度で、当たり前だけど安物のズームとは次元が違う感触と雰囲気を知ると、最初の先入観とは違い、一級のプロ用ツールが持つような凄みを湛えたレンズである事に驚く。　ー１９９３年刊の”Only Zeiss”よりーＭＴＦ曲線を見ても、開放からコントラストがしっかりしているのが分かる。ほぼ３０年前の価格は２３３，０００円という、超の付く高級レンズだった。ちなみにプラナー５０ｍｍｆ１．４ＡＥは４５，０００円。このレンズの実態は、カールツァイスがトップレベルの性能を目指して、持ちうる技術とノウハウで世界最高を目指した夢の中望遠レンズなのだ。　ー１９８７年刊”Hearts And Minds”よりー１００ｍｍの焦点距離でｆ２．８なのに、７枚構成で張り合わせのエレメントが無いレンズユニットが、タダモノの中望遠ではない事を教えてくれる。無限遠から近距離まで、像の平たん性とコントラストは当然ながら、小さな歪曲収差と中心と差がない周辺光量が要求された結果がこれだ。ダブルヘリコイドとフローティング機構を仕込んだ鏡胴の最短撮影距離は４１ｃｍで、直径７６ｍｍＸ長さ８６．５ｍｍの重さが７４０ｇ。Ｐフィルターが付いた手元のマクロプラナー１００ｍｍは、日本製の後期モデルだったけど、殆ど使われた形跡がなく、レンズエレメント自体やマウント部は勿論、付いてきた巨大なメタルフードとキャップ類も、まるで最近購入したかのようにピカピカで、使うのが惜しいようなレンズだった。恐らく、マクロレンズという事で、近接撮影に数回使ったきりで仕舞い込まれたのか、スペックの割にデカくて重いので、持ち出す事に億劫だったのか…。フローティング機構を内蔵して、４１ｃｍまで寄れる凝った構造の鏡胴は、操作感も精密機器そのもので、先端にあるドイツ語表記のＭａｋｒｏの文字が、最初に抱いた特殊なレンズの雰囲気を盛り上げている。実際に手にしてみると、鏡胴の割に光学系が小ぶりなので、何というか、真っ黒の７００ｇを超えるゴツくて重い鏡胴が主体で、中心に嵌め込まれた７群７枚構成のレンズがオマケの様に見える。軽量でコンパクトなコンタックスＳ２に付けたマクロプラナー１００ミリ。このＳ２は、機械式で６０周年記念というのが気に入って奮発したのは良いけど、恐らく写真を撮った事が無い人間によって設計されたらしい露出計は、ポンコツの役立たずなので最初からバッテリーを抜いて使っている。ニコンのニューＦＭ２とは比べる意味もない駄作だけど、露出計が無ければタフでとても良いカメラだ。もう少し、オリジナルのコンタックスＳに寄せてくれると更に良かった。マクロプラナー１００ｍｍｆ２．８の作例。全て銀塩写真。秋も深まり、作物も終わりを迎えている畑を見守る案山子。畑の案山子も秋の深まりを感じて、麓を見守る蓼科山が見えている筈だ。石碑に掴まって、秋の日差しを浴びて日向ぼっこをしているトンボの姿。寂しいけど、もうすぐ見られなくなってしまう光景。紅葉を死に化粧と表現した写真家がいたけど冗談ではない。樹が健康で生きているからこその紅葉であり、カエデは春の新緑も良い。マクロプラナーの描写に関して色んな表現があるけど、レンズの主体は鏡胴にあり、その鏡胴のイメージそのままの精密描写。秋の日差しを浴びて、頭にお馬さんを乗せた馬頭観音様が居並ぶ。お地蔵様が草に埋もれて土の中に埋もれている。後どの位でお顔が消えてしまうだろうか。恐らく土壌が寒暖の差で凍ったり溶けたりを繰り返して、沈んで行くのではないかと思うけど。こちらは、小さな道祖神スタイルの石仏。上のお地蔵様よりお顔を拝める期間は長そうだ。雲間から顔を出した蓼科山に雪が見える。もう直ぐ里にも雪が舞うだろう。同じヤシコン中望遠の１００ｍｍでも、ゾナーｆ３．５の硬調で高解像も好きだし、８５ｍｍｆ１．４より、遥かにプラナーのイメージに近いプラナーｆ２も外せない。それを踏まえても、当時の超高級中望遠で鏡胴お化けのマクロプラナーｆ２．８は、別の視点を教えてくれるようで、持っていると色々と発見がある。

  2021.11.20

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  銀塩カメラの終焉を見届けた最新ＭＦテッサーだったＡｉニッコール４５ｍｍｆ２．８Ｐ

  デジタルが台頭して、カメラといえばオートフォーカスが当たり前になっていた２００１年に、ニコンから、手動ピント合わせ（ＭＦ／マニュアルフォーカス）のＦＭ３Ａが登場している。ベストセラーのＦＭ２とＦＥ２の後継という事で、ニコンの中野さんと塚本さんにより開発されたけど、結局はデジタルの台頭でＦＭシリーズとしては短命の、５年で消えるカメラになってしまった。そのＦＭ３Ａと運命を共にしたレンズに、パンケーキレンズのＡｉ４５ｍｍｆ２．８Ｐというのがある。このレンズはＦＭ３Ａにマッチした金属製の鏡胴を持つ、開放からよく写る薄型レンズとして、ニコンの大下さんにより２０００年１月から設計が開始されている。大下さんは、名作のＧＮ４５ｍｍｆ２．８へのオマージュもあり、３群４枚のテッサー型を中心に検討。やがて、エルマーと同じ一枚目の凸レンズの後ろに絞りを配して、その凸レンズに開発したばかりの高屈折ガラスを使用した、テッサー型のレンズが完成する。それは、厚みが１７ｍｍで４５ｃｍまで近接が可能であり、フジツボと呼ばれる独特のレンズフードを備えたレンズは、発売当時には話題になったもののデジタルの台頭も目覚ましく、セットで５万円近い値段に加えて５年ほどの生産期間だったので、生産数は、それほど多くないと思われる。ニューＦＭ２に取り付けた、フジツボフード付きのＡｉ４５ｍｍｆ２．８。メッキの風合いも同じなのでピッタリの組合せだ。テッサー型の弱点は、球面収差と像面の平たん性と言われるけど、むしろレンズの構成枚数が少ないメリットの方が大きいかもしれない。総じて辛口の描写で個人的には大好きなレンズ構成だ。Ａｉニッコール４５ｍｍｆ２，８の作例（全て銀塩写真）春になり、田んぼに水が張られている。手前には稲の苗床が作られ、それを見守る案山子が一人。いよいよ新緑も深くなり、田植えも完了。何枚もの田んぼの上に５月の柔らかい風が吹き渡る。植えられたばかりの田んぼの後ろの山は、大分緑が濃くなった。今年の天候といえば、最初は良かったのだけど８月の長雨が辛かった。田んぼに写り込んでいる背景も、稲の生育と共に消えて行く。田んぼを見守る、案山子キッズ。案山子キッズのお母さん案山子というところだ。こちらは、案山子キッズのお祖母ちゃん案山子。今年の春は、桜の開花が駆け足で進む暑い天候だった。稲が植えられた八ヶ岳山麓の田んぼが清々しい。農道脇にニョキニョキ生えているのが、ここら辺ではハチクと呼ばれているタケノコ。流石に、生だとエグみがあるけど、普通のタケノコよりもアクが少なくて、茹でて置けば色んな料理に使える。北信ではネマガリタケだけど、ここら辺ではハチクが春のお楽しみだ。かなり育った奴でも、意外に柔らかいのも特徴。トリプレットの発展型であるテッサー型は、最後の接合レンズで像面の平たん性を改善しているけど、これが球面収差やコマ収差を悪化させる要因にもなるらしい。また、像面の平たん性を重視すると非点収差が発生しやすいので、ここら辺の匙加減や使用目的を明確にして設計するのが腕の見せ所になる。現時点でＡｉ４５ｍｍｆ２．８Ｐは最新の国産テッサーであり、連れ出せば、マニュアルフォーカスが真剣に被写体と対峙させてくれる。このレンズには思い出があって、行きつけだったカメラ屋さんがデジタルの台頭で、カメラ機材は安売りの電気店で売られるようになり、プリントの仕事も激減してしまったようで、ついに閉店するというので、店頭に置いてあったのを、かなり割り引いた値段で譲って貰ったレンズだ。まだリバーサルフィルムで真剣に写真を撮っていた頃は、この店で機材を含めて色々とお世話になった。

  2021.10.23

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  旧いライツ製一眼レフ用レンズの描写に嵌ると危険である（２カムのライカ・エルマリート３５ｍｍｆ２．８）

  昔は、ライカの一眼レフ用レンズレンズなんか、レンジファインダー機用よりもずっと割安で、特に１カムとか２カムというのは、アメリカの通販では高くても１００ドル台で買えたのである。個人的にライカのＲ用レンズといえば、ずっとアポテリート１８０ｍｍｆ３．４が欲しかったのだけど、日本では高値安定で縁が無かったので、アメリカの通販で出物を買い込んだのは良いけど、ボディーが無かったので、知人のＲ－Ｅを拝借して試写したのが最初だった。その後、試しに一番安い１カムのズミクロン５０ｍｍｆ２を購入してみて、以来、ライカは一眼レフ用の旧い奴も良いレンズだなと認識して、当時、ライカが世界一安かったレモン社でライカ貯金をはたいてＲ６を調達する羽目になる。ラチュードの狭いリバーサルフィルムの場合、Ｒ６のボディーで１カムや２カムを使用する時は、絞り込みレバーで絞り込んでから測光する必要があるけど、その１アクションが、被写体とじっくり対峙する時間となって、露出計別体のカメラの様な間合いで写真を撮れるのが良かった。手元にある、Ｒマウントのライツ２カムのエルマリート３５ｍｍｆ２．８は、５群７枚というレンズ構成で最短３０ｃｍまで寄れる、高密度で小ぶりな割に重いレンズで、１９６５年に登場して１９７９年辺りまで生産されたベストセラーだった。アメリカの通販で購入したけど、１００ドル位ではなかったか。元は程度上だったけど、道路に落としてフィルター枠が変形してしまった。すまない。２カムのエルマリート３５ｍｍｆ２．８の作例（全て銀塩写真）広大なソバ畑の向こうを、良く見ると散歩をしている人がいる。ソバ畑の向こうには色づいた田んぼ、右手には木の棒が組まれて山芋のツルが絡まっている。最近、手の掛かる稲からソバに転作するのが目立つようになってきた。雲に覆われた薄暗い夕景の下に見えるのはソバ畑。一本の木が印象的なソバ畑も、日が落ちて大分暗くなってきた。田んぼの脇に咲くコスモス。土手の草刈りをしても、ちゃんとコスモスに気を掛けて残している。白い花のソバ畑を背景に咲くコスモスは遠目からも目に付く。

  2021.09.11

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  ヤシカのカメラを世界レベルに押し上げた富岡光学のレンズ／ヤシノン５ｃｍｆ１．８

  ​​諏訪に住んでいるカメラファンとしては、地元にあった光学メーカーはいつも気になる存在だった。一番規模が大きかったのがヤシカで、”蝋燭１本で写る”がキャッチコピーのエレクトロ３５は、シリーズ累計の生産数が５００万台を超えたという。京セラによる買収後にヤシカの商標は香港の企業に買い取られて、現在、ファンディングを使いデジタルカメラで復活を目指しているようだ。​​​​​https://www.yashica.com/カメラのファンディングページ　https://greenfunding.jp/lab/projects/2487​​​​​現代によみがえるヤシカ（YASHICA）​​​​ELECTRO 35（エレクトロ35）風カメラ Y35​​​​という事で、往年のエレクトロ３５にそっくりのカメラ。レンズはガラスで出来た３５ｍｍｆ２の４群４枚。電源が単三２本で、デジフィルムというモジュールを交換する事により、色んなフィルムカメラの様な写真が撮れるらしい。Y35を見ると巻き上げレバーが付いていて、カメラを操作するビデオを観ると、実際に巻き上げ操作を行っているので、シャッターチャージでもしているのかな。企画・製造が香港とあるけど、今一番気になるデジタルカメラ。１９４９年、諏訪市で電気時計を作る為に八洲精機（株）として創業したヤシカは、エンドー写真用品（株）よりカメラ生産を受託した事により、折からの２眼レフブームに乗り、やがて自社ブランドのカメラを生産して発展。１９５５年には、本社を下諏訪に移転。一時、国内販売と輸出の販売額が首位になっていたこともあったくらいで、１９５９年になると戦前から続いていた老舗のニッカを買収して、ズノ－光学まで買収する。１９６５年には、世界初の電子制御自動露出を謳うエレクトロ３５が大ヒット。１９６８年になると、レンズを供給していた富岡光学を子会社化する。優秀なレンズと電子技術を持つヤシカは、１９７４年に名門カールツァイスと提携。１９７５年には、コンタックスＲＴＳシステムを発表するも、身内の横領事件や過大投資とオイルショックで経営破たん。１９８３年には京セラに買収される。ヨーロッパでもヤシカはカールツァイスが目を付ける程、良く映るカメラとして認知されていたけど、ヤシカの電子技術と共に、富岡光学が貢献した部分は大きかった。やがて、京セラオプティックとなる富岡光学は、カールツァイスのレンズ生産まで手掛け、日本の光学技術の高さを世界に知らしめた陰の立役者でもある。家にも、何本かヤシカブランドのレンズがあるけど、一番好きなのが、ライカＬマウントのヤシノン５ｃｍｆ１．８だ。元は１９５９年発売のニッカの血筋を引く、ライカマウント機だったヤシカＥ，ＹＥ，ＹＦに合わせて作られたレンズだ。１９５９年は、ちょうどキヤノン５０ｍｍｆ１．４が登場して、ヤシノンも、既に日本のダブルガウスが世界でもトップレベルに達していた時に作られた。実際にレンズを作った富岡光学でも、かつてはニコンが付いていた、老舗のニッカ直系のカメラに付けるｆ２を切るライカマウントのレンズという事で、かなり気合が入っていたのではないかと推察される。地味だけど、実際に使用しても良いレンズだなと感心する事が多い。キヤノンＬ２に取り付けたヤシノン５ｃｍｆ１．８。ドイツライカよりも国産ライカの方が似合うレンズだ。ライカばかりもてはやされる昨今だけど、写真機材として何の不満も無い。ヤシノン５ｃｍｆ１．８の作例（全て銀塩写真）台風が近づいて強風に煽られ躍動する竹。幾ら強風が吹いてもへっちゃら。黒い板塀の前に２体の塞ノ神と消防ホースの格納箱。どちらも災厄に対応する為に、ずっとこの場所で待機している。トタンの雨戸が閉められた旧い建屋。そのトタンにプリントされた、メーカーの商標が良い味を出している。出っ張った部分のモルタル壁に取り付けられた小さな窓。何の為の窓か気になる。もう何年も出窓に置かれている椅子。色んな建物が複雑に入り組んでいて境界が良く分からない。丸目ライトの軽トラが良い味を出している。シャッターの陰で寝ている猫。今日は、ここが一番居心地が良いらしい。ひっそりと佇む、享和３年（＝１８０３年）の年号が刻まれた、頭にお馬さんを載せた馬頭観音様。一緒に苦労してきた牛馬に対する慰霊碑でもある。ここら辺で見掛る塞ノ神は、殆どが馬頭観世音菩薩様。開墾、農耕、運搬で使役されていた馬を、家族と同等に扱いとても大切にしていた名残だ。​​

  2021.08.21

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  昔は高価で殆ど見掛ける事も無かったハッセルブラッド用のCディスタゴン４０ｍｍｆ４

  昔は高価で、とてもじゃなかったけど中古でも簡単に手が出なかったレンズの一つに、ハッセルブラッドのレンズがある。銀塩写真が実質的に終焉を迎えデジタル時代になり、最近ではハッセルのレンズが大分身近になってきた。昔は１０万クラスだったのが数万円で売られたりしていて、最近は中判なんかロクに使わないのに気になってしまう。それで、つい何か買ってみようかと思い、調子に乗って入手したのが広角のＣディスタゴン４０ｍｍ。そもそも、中古市場でも殆ど見掛けず、あっても実に高価で、余り使用例が無いという点が気になっていた謎のレンズだ。レンズマニアやプロが絶賛する、ハッセルの超広角レンズの定番という、ビオゴン３８ｍｍ付きのＳＷＣ系を無視したのは、今でも高値安定の上に、へそ曲がりなので、誰もかれもビオゴンばかり絶賛するのに辟易していたから。何より初めて手にしてみると、改めてデカくて重いラッパ型のデザインが良い。ファインダーでレンズを透過した画を常時見られるのがＳＷＣと違い何より大分安いの嬉しい。次の、新しいフローティング機構を内蔵して性能を向上させたＣＦタイプはいけませんな。デザインが普通になってしまい退屈の上に、なぜか何より今でも高価。Ｃディスタゴン４０ｍｍｆ４のデータシート。画角は８８度で、５０ｃｍまで寄れる広角レンズ。ピントが無限遠～０．９ｍまでと０．９ｍ～０．５ｍに切り替えられるけど、切替は距離ヘリコイドの小さなボタンで行う。外観図を見ると、特徴的なラッパ型が良く分かる。９群１０枚で重さが１３７５ｇという、ビオゴンとは別次元のデカさと重さ。レンズのありがたみだって見てくれの押しだしも、こっちの方が上だ。ＭＴＦ曲線図。開放の描写もビオゴンでは得られないものが得られるレンズということ。周辺光量はＦ４だと大分落ちてしまうけど、むしろ広角レンズは少しくらい落ちた方が良い。ディストーションは普通に写真を撮るぶんには何の気にもならない。もし、建物の直線における歪みが気になったとしても、それはこのレンズの特徴として尊重するべきだ。ハッセルブラッド５００ＣＭに付けたディスタゴン４０ｍｍ。家にあるのはTスターではないシングルコートタイプ。ＳＷＣと２ｍｍ違うだけの焦点距離なのにレンズの存在感が段違いで、とにかく重い。５００Ｃ／Ｍがオマケでレンズが主役。春になりコロナ籠りの運動不足を解消すべく、リュックに背負って持ち出してみた。ディスタゴン４０ｍｍＦ４の作例（全て銀塩写真）春になり日差しが濃くなってきた。まだ人の気配もなく舗装もされていない田畑に続く農道を歩く。春の日を浴びる、昨年からずっと田んぼを見張ってきた案山子。八ヶ岳の麓も、桜が咲いていよいよ春本番。とにかく、今年の桜は２週間くらい開花が早かったのではないか。色んな樹種の桜が一斉に咲き誇っている。例年なら、少しずつ時間がずれて咲いていく筈だったのにせわしない。６Ｘ６判で画角８８度の広角と言っても所詮は４０ｍｍなので、３５ｍｍ判の広角レンズのようにパースペクティブが強調された、いかにもな写真にはならないのが良い。

  2021.07.17

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  カメラ＝スマホの時代に登場したカールツァイスの標準原器高性能レンズＯｔｕｓ(ｵｰﾀｽ:(アポディスタゴン))５５ｍｍｆ１．４をぶった斬る

  ​​２０１２年のフォトキナに出品されて、日本では２０１４年の５月２９日に発売されたＯｔｕｓ　５５ｍｍｆ１．４。コンピューターと硝材と製造技術の発展のお蔭で完成した、日独合作によるカールツァイスファンには夢の世界最高峰レンズの一つだ。ラテン語でOtus とは、”鳥網フクロウ目フクロウ科コノハズク属”の事。漢字で書くと”木葉木菟”とか”木葉梟”という難読文字になってしまうけど、頭に耳の様な羽毛があるので、日本ではミミズクの一種に分類されて、日本ではコノハズク（学名Otus Scops）が有名で愛知県の県鳥。実は、レンズ前面の記銘にはApo　Distagonの名前も刻まれていて、これが、このレンズの本質を表している。現在主流のデジタル撮像素子の場合、薄膜エマルジョンの銀塩フィルムと違い、極端に言うと井戸の底にCCDの画素があるようなものなので、主光線がレンズ光軸に対して角度を持っている従来の光学系では、周辺の撮像素子に対して斜めに入射する光線により、まともに光をとらえることが難しくなってしまう。​​​(厳密言えば、銀塩時代のレンズはＣＣＤでは本領を発揮していないと思う。)​​​そこで、撮像素子側の主光線がレンズ光軸と平行になる、像側テレセントリックという光学系が必要になってくる。デジタル用を謳うレンズの場合は、殆どがこの光学系の筈であり、当然、Otusも今時の高性能レンズである以上はテレセントリック系のレンズに違いない。(テレセントリック系のレンズは銀塩カメラで使っても何の問題もない。)銀塩時代には、一眼レフのミラー用に必要なバックフォーカスが稼げる、レトロフォーカスのディスタゴンは広角レンズの名称だったけど、標準域のレンズでディスタゴン系を使い、本来であれば余計なバックフォーカスを必要としたのは、絞りを挟んだメインレンズの前後にも収差補正の役割を持たせ、合わせてテレセントリック系を実現する為の光学系を追加したからだ。当時、オータス５５ｍｍｆ１．４は、名門カールツァイスが、ありったけの技術を盛り込んで最高の性能を目指したレンズという事で話題になり、当初の販売価格が４０万円越えで、海外では４０００ドルレンズと呼ばれていた。非球面レンズと異常部分分散レンズしかない１２枚に及ぶレンズエレメントと、フローティング機構まで内蔵して徹底的に収差の補正を行っているのが特徴だ。昔から、歴史と伝説に彩られたカールツァイス贔屓なので、地元のヤシカからコンタックスブランドが復活した時は嬉しくて、以来、岡谷で作られたコンタックスのボディーと、ドイツと日本で作られるカールツァイスのレンズは大事な相棒だった。その当時に、カールツァイスが考える理想レンズに対する回答が、限定で発売されたプラナーのｆ１．２であり、デカくて重いレンズが手元に届いた時の感激は今でも忘れられない。所が、新時代の理想レンズである筈のオータスを手にしてみて、ローレットも無いノッペリとしてウレタンのような感触を持つ操作部分に首を傾げ、レンズの先端に、簡単に傷が付く薄くて微妙なカーブが付いた専用のフードを付けてみても、大して凄そうでもなく高価にも見えず特に感動するわけでもなく、何となく損した気分になるのはなぜだろうか。往年のヤシカ／コンタックス時代までのツァイスレンズは、他よりも大分割高な上に、大概はデカくて重い特別な存在で、拘りのある訳知りの好き者しか買わなかった。何であれ、薄膜エマルジョンフィルム時代の写真は、機材による画質の差は明らかで極めて明確にクラス分けがされていた。実際に、”写ルンです”というプラスチックで出来た単玉写真機よりも、低感度のリバーサルフィルムを仕込んだ一眼レフに代表される高価な光学機器の方が、最終的に得られる写真を見ても相当差があった。それに、持っている写真機材を一目見るだけで、ある程度の懐具合が推察出来て、大まかな趣味嗜好まで分かったのだ。所が、２１世紀になり写真と言えばスマホという時代になると、コンピューターの発達とグローバリゼーションで情報の普遍化に伴い、中国をはじめとする新興光学メーカーの台頭もあり、あの１５０年を超える歴史を持つカールツァイスですら、大勢の中に埋もれてしまったという事ではないか。どうやら大多数の写真を撮る人間には、全く意味のない高性能レンズのオータス。少なくとも、銀塩時代には価値があった事がスマホ写真の時代になって、とても高性能であるとか、時には高価である事が、殆ど無意味なものになってから登場したのは不幸だと思う。既に少数派のデジタル高級一眼レフでさえ、レンズはとても良く写るズームという今時に、特に大口径でもないｆ１．４の５５ｍｍという標準レンズのオータスで撮った写真を見せても、それに価値を見出すのは、輪を掛けてホンの一握りのマニアしかいないのだ。２１世紀に於けるデジタル写真の発達は、そのままスマホ写真に反映される。どんな状況でも、個々のアプリと内蔵された画像の処理エンジンが凄い働きをして、殆ど何もしなくても瞬時に思い通りの写真が完成。それを直ちにＳＮＳへ投稿して皆で共有して評価されるという、著作権も曖昧な写真が氾濫する時代のスマホカメラの存在は、殆どが、そのまま表層から消えて行く即時性が主体の写真の氾濫により、かつて憧れだった職業写真家とかハイアマチュアによる写真の存在理由を希薄にしてしまい、ついには老舗の朝日カメラや日本カメラという写真雑誌ですら生き残る事が出来なくなった。なにせ、昔は憧れだったライカレンズが付いた、３眼の４千万画素を超えるスマホが登場して驚いていたら、ついにライツフォンなるライカブランドのスマホまで登場するに至って、そろそろ、ハイエンドユーザーの写真ファンからも、デジカメの存在理由を一掃してしまいそうだ。既に、オリンパスはカメラ事業から撤退を余儀なくされて、あのニコンでさえプロ用の高価なカメラまでが国内生産が難しくなったのを見ても、今後は、安くて小さなトイカメラレベルか、とても高価なハイエンド機種以外は消えると思われる。その内に、プロ野球などのスポーツ写真も、巨大な望遠レンズとフルサイズのカメラのセットではなくて、それ用のアプリを使う、スマホとかタブレットに取って代わられるかもしれない。しかし、これも、写真を撮るカメラブースには、今のウエブカメラに毛が生えたような全天候型の複眼機材が、シーズン中はずっと設置されていて、撮影自体は、各報道機関のパラメーターによる独自のアルゴリズムで、無人のＡＩに取って代わられ、放っておいても自動撮影。撮影された写真は自動で選別されて報道機関に転送しつつ、ＡＩ自体も学習しながら勝手に進化していくだろう。現在、長野県中野市のコシナで作られている、ツァイスブランドの一眼レフ用標準レンズは３つもある。ディスタゴン系のオータス５５ｍｍｆ１．４とミルバス５０ｍｍｆ１．４に、１８９７年に登場して以来、現在までカールツァイスを代表している、世界でも稀有な名前を持つプラナー５０ｍｍｆ１．４という３本だ。オータスが５５ｍｍなのは、基本的に完全補正型のツァイスは、像面の平坦性を昔から重要視しているので、なるべく収差を無くすために５ｍｍ延長したのだろう。この５５ｍｍという焦点距離は、１９９６年にプラナー１００周年という事で、オータス同様に当時のカールツァイスの技術の粋で作られた、プラナー５５ｍｍｆ１．２と同じ焦点距離という事実がある。５５ｍｍはカールツァイスの高性能標準レンズの代名詞なのだ。ツァイス銘が刻まれている、３本の現行標準レンズのデータを並べてみると、少しは違いが分かるかもしれないと期待してみる。３本のＭＴＦ曲線３本の周辺光量３本の歪曲収差ＭＴＦ曲線を見るとｆ４に絞り込んだプラナーだって高いレベルにあるのが分かる。むしろプラナーの場合、絞りを開けた時の描写が一番好ましいと思える写真を撮れる事もある筈で、周辺光量と歪曲に至っては、街中で写真を撮るのであれば比べる意味は無くなる。それでも、流石にオータスの歪曲収差の小ささと、開放から高いレベルのＭＴＦ曲線を見ると驚く。この５５ｍｍレンズは単に標準レンズというよりは標準原器レンズと呼ぶべきだ。２０世紀なら国家機密レベルの軍事や宇宙空間でしか使われない、特殊用途のワンオフで作られたレンズの様なものが、誰でも手に入るのに愕然とする。暗い場所で開放のまま、シビアな精度の画像処理を必要とする工業用とか、特殊な学術用としての用途にもピッタリの高性能レンズだ。ニコンFに付けたＯｔｕｓ／Ａｐｏ　Ｄｉｓｔａｇｏｎ５５ｍｍｆ１．４。最新のカールツァイス製高性能レンズを、１９５９年に誕生した国産のプロ用一眼レフに付けられる喜び。ニコンがＦマウントを２１世紀なっても堅持してくれているお陰で、こんなお遊びが可能になっている事を感謝するべきだ。手持ちのオータス５５ｍｍは、価格が落ち着いても新品を買い込むほど熱が上がらず、使い込まれた中古を数年掛かりで見付けたけど、それでも結構なお値段だった。その後、買って満足してしまい、どうせ良い写りだろうし、ｆ１．４の標準レンズのくせに、デカくて（最大径９２．４ｍｍＸ長さ１２５．３ｍｍ）、重い（９６０ｇ：ニコンマウント）ので、眺めて満足の御飾りレンズだった。今年の駆け足の春に煽られて、ようやく思い切って引っ張り出す。オータス５５ｍｍ／F１．４の作例（全て銀塩写真／エクター１００）今年は、いつもより早く八ヶ岳の麓に春がやってきた。農機具の物置小屋前のサクラもアッと言う間に満開に。とにかく、いつもなら場所によって咲く時期の違う桜が、一斉に咲いていってしまうので気が気でない。左上に月が見えている。月下の花桃。今年は花桃もあっという間に咲き切ってしまった。ついでにカラマツの芽吹きも早かった。右下の赤い木は１年中葉が赤いカエデの芽吹き。右側に小さな鳥居があり、土がえぐれて根が露になった太い杉の木が見える。昔はそこそこの神社だったかもしれない。向こう側に雪を被った八ヶ岳が見える。日が落ちて桜への残照もあと僅かで消える。色んな樹種の桜が咲き誇っていて飽きない。せっかくなので日が落ちて大分寒いけど、もう少し留まる。家に帰ったら、残像で花見だ。芽吹いたカラマツの下に、ひっそりと椿が咲いている。年月を重ねた建屋の前にも、ちゃんと春が訪れている。殆ど人気のない山間の小さな神社にも春が訪れている。八ヶ岳山麓の一瞬の春。例年ならもっとゆっくり鑑賞できたはずなのに。今年の桜は、一瞬のうちに咲いて、一瞬のうちに散った。残照の夕桜。​​

  2021.06.19

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  ヘリア―型中望遠レンズの傑作ペンタックス１００ｍｍｆ４マクロ

  ペンタックスの望遠マクロレンズに１００ｍｍｆ４というのがある。原型はタクマ―時代のM４２マウント時代に登場したベローズ用のレンズらしく、その後、アメリカOCLIとの提携で生み出されたSMC時代を生き抜き、１９７５年のKマウントを経てMレンズ時代を超え、Aレンズになっても生き残っていたベストセラーレンズだ。これのレンズ構成が３群５枚のヘリアー型というのがミソで、ヘリアーファンには外せない１本でもある。地味で今では値段も安いレンズであるけど、実力は流石の一言に尽きる。大体、１９７７年に登場して１９８４年に生産を終了した。最短撮影距離は４５ｃｍで最小絞りがｆ３２、重さは３５５ｇ。個人的には、望遠マクロレンズを近接撮影に使う事は殆ど無くて、無限遠側のピント調整がクイックなのが気になるけど、いつも普通の中望遠として使っている。赤革のアサヒペンタックスKMに付けた、SMCペンタックスMマクロ１００ｍｍｆ４。機械式の一眼レフのKＭは、基本的な部分が旧いのだけど、旧い分、機械的にも熟成されて安定している傑作カメラ。ＳＭＣペンタックス　Ｍマクロ１００ｍｍｆ４の作例（全て銀塩写真）今年は、春の訪れが早く、過ぎ去るのも早かった。小道の脇にある幹がコケだらけのサクラの古木も一杯に花を付けている。このピンク色の花を見ると、春が来た事を実感できる。１年の始まりは、１月１日ではなくてサクラが咲いた時点だ。時々散歩で歩く農道脇の若い桜も、今年のいきなりの暖かさでアッという間に満開になってしまった。道端の塞ノ神達の足元には芝桜が咲いて、奥の方では水仙も揺れている。春の光を浴びて、手前の桜が満開になっている。その向こうの風にそよぐ竹林をバックにして並んでいる塞ノ神達が、どうやらサクラを眺めている。竹林をバックに咲く古い桜の木の一枝。ここら辺の竹は細いのだけど、５月の終わり頃に生えてくるハチクと呼ばれる細いタケノコはアクも無いので、そのまま天ぷらにしたり、２０分程茹でれば色んな料理で楽しめる。曇天の下の蓼科山。麓でも桜が咲いてカラマツの梢も色が変わってきている。その上を飛ぶカラスにも春が見えている筈だ。カラマツの緑も大分濃くなってきた。山桜との共演は、ほんの僅かの間。新緑も大分濃くなって、田んぼの草刈りも忙しい季節になった。今年は春もあっという間に去ってしまった。日が落ちた田んぼ脇のヤマザクラもたったの２～３日でもかなり花の雰囲気が変わってしまう。新緑の芽吹きの中、案山子が睨みを利かせている。２：３５写真追加

  2021.06.05

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