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イン　ワンダーランド　-プロローグ

「イン　ワンダーランド」

～はじまり～
その日は曇っていた。今にも雨が降りそうな天気。春の訪れを待っているのに、どうしてか冬が舞い戻ってきた感じだった。私は職場に向かって車を走らせていた。どうも私の気持ちは上がらない。今日の天気みたい。
ぽつり、ぽつり。フロントガラスに雨が当たり始めた。雨がふってきた。遅刻するかもしれない。私は少しあせっていたのかもしれない。そんな時、横から白い何かが飛び出してきた。一瞬目を疑った。ぱじゃまとかであるかぶりもの。かわいい白いウサギのかっこをした人が出てきたからだ。しかもこっちを見ている。顔を見ようとした時に雨が一気に強く降ってきた。ワイパーを動かす。被り物の隙間から見える顔はものすごくキレイな人だった。まるで物語から出てきたみたいに目鼻のはっきりした人だった。でも、男性か女性かもわからなかった。どこかで見た顔に見えた。でも、不思議と思い出せなかった。そのキレイな人はわたしをみつめてきた。一瞬ドキッとした時に車がスリップした。ハンドルがいうことをきいてくれなくて、ブレーキを力いっぱい踏んだ。目の前に白いガードレールがどんどん近づいてくる。その瞬間、衝撃がわたしを襲った。目をつむった。
気がついたら世界は静かだった。そして、真っ白だった。その白い世界にあの、キレイな顔をしたシロウサギがいた。こからかとりだした銀の懐中時計を見ている。そして、私を見てきた。

「こっちの世界に来たいの？」

すごく優しい声だった。声を聞いて男性ってわかった。私はそのキレイな顔を私に近づけてきた。私はその赤い瞳に引き込まれてそのままコクリと頷いた。
シロウサギのきぐるみの合間から見えた白い肌はすごくきれいで触りたくなった。けれど指すら動いてくれない。シロウサギの人がなにかをはなしてくる。でも、何も聞こえない。まるで、爆発音を聞いた後みたいに耳がおかしくなっていた。シロウサギは私の頬に触れると顔を近づけてきた。きぐるみのはずのシロウサギのひげがチクっとした。その時初めてシロウサギの声がまた聞こえた。

「じゃあ、始めようか。＊＊＊のための物語を」

一瞬名前を言われたのがわかったのに聞きとれなかった。その瞬間に大きな風の渦に巻き込まれて私はどこかに飛ばされていった。

～チェシャ猫と私～

気がついた私はベッドに横たわっていた。そうだよな。車がスリップして、ガードレールに激突したんだもの。私はまわりをみた。広い部屋の真ん中に不思議とベッドが１つだけある。窓もなく、壁は灰色のコンクリートだった。そして、木で出来た扉がある。私はベッドから起きた。なぜか白いワンピースを着ている。こんなワンピもってないのに。私は不思議に思って立ちあがった。裸足だった。白い足が見える。

「起きたんだね」

いきなり声をかけられた。ベッドのすぐ近くから人が出てきた。明るい金髪のような色。右目がそのキレイな髪で隠れていた。長いのだろうかツインテールにしている。そして、何故か頭には猫耳をつけていた。真っ白な肌に、ちょっとつぶらな瞳。細い体。着てる服は紺色の女子高生の制服だった。プリーツスカートがヒラヒラとしていた。かわいいって思った。でも、声は男性のようにも感じた。私はどこかで会ったことがあるのか、この人の顔を知っていた。

「あ、＊＊＊だ」

私は名前を言ったはずなのに、音にすらなってなかった。猫耳の彼はこう言ってきた。

「仕方ないよ。ここに来るために失ったんだから。名前を。＊＊＊は君から名前を奪ったんだ。だから君にとっては誰かの名前は話すことも、聞くことも出来ないんだ」

猫耳の彼はそう言った。そんなの知らない。望んでもない。なんでこんな事になったんだろう。呆けている私に猫耳の彼は話しかけてきた。

「でも、名前がないっていうのは不便だよね。だから君に名前をつけなきゃだ。でも、今使える名前はひとつだけなんだよ。それはこの世界では伝説の名前。伝説を受け継ぐ事が出来たなら君はどの世界にもいられなくなるんだ。そう、元いた世界にもね。それでも、いいのならこの名前が使えるけれど、どする？」

猫耳の彼は優しく話しかけてきた。どこにもいけないだなんて、そんなのイヤだ。でも、名前がないのも困ったもの。私は自分の名前を覚えている。でも、口に出すと音にもならずに消えていく。何度やっても同じだ。
「どうするの？」

上目づかいに猫耳の彼がこっちを見てくる。私はこういうキレイな人に弱いんだよな。迷っている私に猫耳の彼はこう言ってきた。

「ちゃんと＊＊＊を助けるから」

名前はやっぱり聞きとれなかったけれど、私に向けていってくれているのがわかる。私はその上目づかいに押し負けてコクリと頷いてしまった。猫耳の彼がものすごい笑顔になった。

「では、決まりだね。では、この瞬間から君の名前は伝説の少女『アリス』だ。ようこそボクらの『アリス』この世界へ」

そう言って猫耳の彼は私の手を握ってきた。小さい手だった。私はその手の温もりを感じながら笑顔になった。二人は手を取り合いながら周っていた。楽しかった。まわりながら私は猫耳の彼にこう聞いた。

「あなたの名前は？」

まわっていた猫耳の彼がたちどまった。

「僕は＊＊＊。アリスを、この世界の最初と最後を見届けるものだよ」

猫耳の彼は真剣な表情で話してきた。一瞬きょとんとしていたら、猫耳の彼が続けて話してきた。

「アリス。私に新しい名前をくれないかな？」

そうだ、猫耳の彼に名前をつけないと私は呼べないんだ。猫耳の彼を見るとものすごく笑顔でこっちを見ている。そんなに期待しないでよ。私は不安になった。でも、不思議。なんで私は決められていたのに、私以外は決まっていないんだろう？
私は疑問を聞いてみた。

「どうして、私は『アリス』って決まっているのに、あなたは私が決められるの？」

私がそういうと猫耳の彼はこう言ってきた。

「それは、君が『アリス』だからだよ。僕らの『アリス』さあ、僕に名前をつけて」

猫耳の彼はそう言って可愛く私の顔を見てきた。私は考えていた。私が『アリス』なんだったら、この猫耳の彼はやっぱり。

「チェシャ、あなたの名は今日からチェシャよ」

私はそう言った。アリスで猫っていったらチェシャ猫。私はそう思ってる。だからチェシャって名前をつけた。猫耳のチェシャは満面の笑顔で私を見た。

「ありがとう。アリス。素敵な名前をくれて」

チェシャはちょっとはにかみながらわらってくれた。私もその笑顔をみて名前をつけてよかったって思った。

「では、『アリス』の名のもとに出かけようか。この『ワンダーランド』に」

そういってチェシャは木で出来た扉をあけた。そして、指を鳴らした瞬間に私の周りに光があつまってきた。光は私の意思とは関係なく、扉の向こうに私をつれていってくれた。

扉の向こうは真っ暗な闇に、扉が４つだけあった。さっき通り過ぎた扉はもうなくなっていた。

「一体ここは？」

私は不安そうにチェシャを見た。チャシャは笑顔で話しはじめた。

「ここは全ての始まりの扉だよ。これから『アリス』としての名を受け継がなきゃいけない。このどの世界を選ぶのかは『アリス』次第だから。さあ、僕らの『アリス』運命の扉を開けて」

そして、こう言いながら抱きしめられた。
「いつも一番近くでアリスを見守っているから」

そういって、チェシャは消えた。

「え、どういうこと？」

私は一瞬呆気に取られた。でも、チェシャは現われてくれなかった。
私は扉を見つめる。扉には、スペード、ハート、ダイア、クローバーが描かれてあった。そういえば、一つひとつに意味ってあったよな。でも、意味は思い出せなかった。私は一番右側にあった「クローバー」の扉を開けた。

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