【小部屋】 ポーカー:a
ポーカー:a 思わず零れそうになる笑みを堪える。だって流石に神田が怒るかな?って思って。 「ストレートフラッシュです」「っ!」 ぱさりと広げたカードを目の前にしてやっぱり彼は固まった。ああ、なんて可笑しい。こんな彼、見る機会なんて滅多にない。 「神田ってばあんなに大口叩いた割には大した事ありませんね♪」「…」 思わずふふふと笑う。神田からは脱力したような感じはしても怒りの気配はしないから、ついつい調子に乗ってしまう。 カードを持ったまま固まっている神田がなんか可愛らしい。(まあ十連敗すれば当然か)こういう風に普段見れない彼を見るのが最近うれしくって仕方がないんだ。 「さあて、何をお願いしましょう?」 口許に人差し指をあててアレンは呟いた。固まったままの神田の肩がピクッと動いたのを横目にしながら、むーと考え込む。 ホントに、どうしよう。とアレンは心の中ではワタワタしていた。 やっぱりここは無難なお願いをした方がいいのかな?でも神田が大人しくお願い聞いてくれる事なんてもうないかも…。 だってそもそも神田がトランプに付き合ってくれるなんて珍しいし。 そう思いながら、アレンはこのトランプのスタート、数十分前を思い出した。 *** 『暇だな』思えば、不意に神田が呟いたこの一言が始まりだった。 『あ、僕トランプ持ってますよ』いつも通りの、神田の部屋。ベッドの端に座ってしゃべっていたけど、珍しく話のネタを無くしてしまった僕は、不意に落とされた神田の言葉に思わず言ってしまった。 …って、神田がトランプなんてやってくれるわけないじゃん!僕の馬鹿!と内心青くなっていた僕に神田は意外な言葉を返した。 『仕方ねぇ。付き合ってやる』 えっ?いいの?普段なら「ハァ? ザケてんじゃねェよ」と言われること必死なのに、と思わず訪れた幸運に浮かれつつ、ポーカーなら得意です。と言った自分を褒めてやりたい。 何せ、珍しさはここでは終わらなかったのだ。 『ただやってもつまらねぇ。なんか掛けようぜ。先に十勝したヤツの命令を聞くってのはどうだ?』 こんな一言が神田から発されるなんて明日は雪かもしれない。そして明後日は猛暑日かも。そういえば、かれは知らないのだ。自分がどういう類のことで日々の糧を得てきたのかを。 しかし、そこは『良いですね、それ』と迷わず答えた。こんなチャンス、めったにない。にっこり笑ってやると、神田の目が少しだけ細められた。 *** 「――― じゃあ…」 んー実はまだ決めきれてないんですけど。どうしようかなぁ…。 既にあきらめたのだろう、カードを投げ出して、片膝の上に頬杖をしてこちらを眺めてくる神田の気配をひしひしと、しかしどこか幸福な気持ちで受け止めながら、アレンはことりと小首をかしげた。 …ここで突然、デートしてみたいです、なんて言ったら神田はどんな顔をするんだろう。って、ホントにぼくのお願いなんて聞いてくれるのかなぁ? あやしいなぁ何せ相手は神田だし……と、ちらりと視線を送ると、こちらを見ている黒曜石の瞳にどきりとしてしまう。…瞳を向けられただけでも嬉しいなんて、僕も相当毒されてる。 「…早く言え」 痺れを切らせたような神田の声に、飛んでいた思考が戻って来た。うー…どうしよう。 「ホントに何でも良いんですか?」「男に二言はねぇ」 「――― じゃあ、」 言ってしまっても、いいよね? 「ぼくとデートして下さい。」 さて、貴方はどんな返事をくれる?***ポーカー:kのアレン視点。コメント→web拍手→