あるセクハラ判決から
毎日朝刊から。昨年10月に出されたというこんな判決が紹介されていました。セクハラ訴訟です。阪大の女性研究員が、平成11年に、男性教授から、出張先のその男性の部屋で「性的暴行」を受けたとして500万円の損害賠償を求めていた裁判で、大阪地裁は、慰謝料300万円の支払いを命ずる判決をしたと。「性的暴行」の具体的内容が書かれてはいませんが、仮に強姦行為(強いてセックスする)だとしたら、刑法にも触れる、ゆゆしき事態です(本件の具体的行為は不明なので、新聞に合わせて「性的暴行」としておきます。この表現は不明確で嫌いなのですが)。男性教授側は、性的暴行は全くしていないし、その女性は自分の部屋にも来ていない、と言って、現在控訴して争っているらしい。訴えの提起があったのは平成16年で、性的暴行があった5年後。密室での出来事でしょうから、直接的な物証や証人も存在しないはず。男性側は否定しているのに、どうやって「性的暴行」の事実を認定したのか、純粋に興味あるところです。女性の「暴行された」という証言だけで敗訴したわけではないはずで(もしそうなら世の男性は大変なことになる)、どのような状況証拠が積み重ねられていったのか、知りたいと思います。この判決が注目されるべきなのは上記の事実認定の点と、もう一つは、理論構成です。慰謝料を支払えという法的責任の根拠は、「安全配慮義務違反」からです。判決によると、被告男性は「女性研究者の安全に配慮し、セクハラ被害から守る義務があるのに、それに反した」ということです。なんでこんな回りくどい表現なんだ、「性的暴行」自体が責任の根拠じゃないか、と考える方もおられるでしょうけど、この先は専門的な話になります。性的暴行を含めた暴行や、交通事故など不慮の事故によって他人にケガをさせると、「不法行為」(民法第709条)に該当します。不法行為の損害賠償請求権の時効は3年(同724条)。今回のケースでは、いろんな事情で提訴が5年後になったので、この条文は使えない。ならば、「契約責任」を問う、というやり方がある。職場の事故でケガしたときなどに、使用者(会社または社長)に対し、雇用契約を結んで働いている従業員のために、職場を安全に管理する義務があったのに果たさなかったという、「契約上の」責任(債務不履行責任、民法第415条)を問うのです。こっちの時効は10年(同167条)。冒頭のケースでも、男性は、自分の部下としての立場にある研究者をセクハラ被害から守る義務があった、と認定した。通常、安全配慮義務は、直接の加害者でなく、その職場の会社自体またはトップに対し主張されることが多いのに、今回は直接の上司であり加害者であった男性教授に対する関係で、その責任が認められたという点でも珍しいケースと思います。控訴審の判断に注目したいとことです。