「身分なき共犯」の典型例
守屋前防衛次官が収賄罪で逮捕。妻も逮捕されました。収賄罪(刑法197条)は公務員でないと適用されず、妻は公務員ではないのですが、「身分なき共犯」とされたと、普段は刑法の教科書でしかみないような言葉が新聞やテレビニュースで踊っています。収賄罪は公務員という身分がないと成立しないが、その身分がない者でも、身分がある者(公務員)と一緒に犯罪(収賄)に関わった場合は、共犯として処罰できる(刑法65条)、ということです。刑法の教科書ではその典型例の一つとして、公務員の妻が事情を承知の上で夫と共に賄賂を受け取ると収賄の共犯になると書かれています。そんなエゲツナイ妻がいるんかいなと思っていたのですが、まさにいたわけで。(やや細かい話をすると、本件では教唆や幇助ではなく、共同正犯として扱われたのでしょう)夫と一緒になって、防衛専門商社からゴルフや食事の接待を受けていた、それが賄賂とされたわけです。お金や物品に限らず、こういった接待であっても、「職務に関し」受け取ると、収賄になる。防衛関連の商社から頻繁に接待を受けていたのであれば、職務に関するもの、つまり賄賂を贈る側が職務上の便宜を図ってもらう(そこの商品を買ってもらう)ことを期待してのものだと言われても仕方ないと思われます。報道されたところでは、夫は収賄を認めているが、妻は否認しているとか。妻としては「友達としておごってもらっただけ」で、「私は公務員じゃないから職務に関係しない」とでも言うつもりなのでしょうか。しかし、賄賂を贈る側としては、妻も接待して喜ばせておけば次官の夫も喜ぶ、それがひいては便宜につながると期待していたはずで、そして妻自身もそのことを重々承知の上で、それらの接待を受けていたはずです。公務員(しかも次官)相手に、職務上の便宜を期待せずに、妻まで巻き込んで何百回もゴルフや食事に連れていってくれる人がいるとでも思っているのでしょうか。私の依頼者には、たまに「奥さんにどうぞ」とキャベツを持ってきてくれる方はいますが(持って帰るのが重いので困ってるんですけど)、奥さん連れでゴルフや料亭に行きましょうなんて言ってくれる方はいません。私は次官の妻だから接待されて当然、という意識はあったはずで、これこそまさに身分なき共犯というものだと思われます。