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カテゴリ:判例、事件
昨日チラと書いた、最高裁が「取材源の秘匿」を認めた判決について。多くの人には馴染みのない話かも知れませんが、興味ある判断だと思うので。
要するに、報道記者が、あるネタをどこから仕入れたか、それが問題となったときに、ネタ元(ニュースソース)を秘密にすることが許されるか、という問題です。 微妙な案件に関する取材であれば、きっと、取材される側とする側の間で、 「私がばらしたことは絶対に伏せておいてくださいよ」 「ええ、絶対に、あなたがネタの提供者ということは秘密にします」 といったやり取りがなされているはずで、であるにも関わらず、後日ネタ元がばらされると、その報道機関は信頼を失って、以後、取材協力者もいなくなるでしょう。 かくて報道機関にとって、取材源の秘匿が認められることは、どうしても必要なことであった。 この判決の元の事件は(外国の政府や裁判所がからんでややこしいので単純化します)…、 報道機関(NHK)が、ある会社が脱税で追徴課税を受けたという報道をした。 その会社は、「政府の役人が報道機関に脱税調査の事実を漏らしたためにそういった報道がされ、会社の株価が下がった」として、政府に対して損害賠償を請求した。 政府に責任があるのかどうかについては「役人が責められるようなことをしたのか(漏らしてはいけないことを報道機関に漏らしたのか)」の判断が必要となり、そんな事実があったのかどうか、NHKの記者が証人尋問された。すると記者は「その点については秘匿します」と言った。 これが認められるかどうかが争われたわけです。 民事訴訟法によると、例えば医師・弁護士なら、職務上知ったことは証言拒否できると定めてある(197条1項2号)。もともと、個人の重要なプライバシーに関わる職業だからです。それ以外の職業の場合は、その次の3号で、「職業の秘密」に関することは証言拒絶できる、と大雑把に規定してある。 今回の件は、記者の取材源秘匿がこの「職業の秘密」にあたるかが問題とされたわけです。 最高裁の結論は、「公表されると深刻な影響が生じ、以後職業の遂行が困難になるもの」がこれにあたるとし、その判断については、秘密にしておくことのプラス(取材のやりやすさが確保される)と、証言させることのプラス(訴訟で重要な証言が得られる)のどっちが重要かを比べて判断する、と言った。 本件は、ある企業の脱税問題は公益にも関わる重要問題で、その取材のための資料収集を円滑に行わせるべく取材源の秘匿を認めることは重要であるが、その反面、問題となっている訴訟は一企業の損害賠償請求という民事事件であり、公益性は必ずしも高くない、として、取材源の秘匿を認めました。 つまり、報道記者の取材活動すべてに証言拒否が認められるとしたのでなく、個々の事件で慎重に判断するということです。 まだまだ「取材の自由」の保護が薄い、という意見もありましょうが、私はだいたい妥当な判断だと思います。この基準の今後の運用が引き続き注目されるところです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006/10/05 07:44:03 AM
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