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カテゴリ:法律、制度
民法772条の当否について書いてます。3回目。
第1項は、婚姻中に妊娠したら、その子供はその夫婦の子だと扱う、とある。 第2項は、離婚後でも300日以内に出生したら、その子供はその夫婦(つまり母と前の夫)の子だと扱う、とある。 離婚しても子供が前の夫の戸籍に入ってしまい、新しい男性(本当の父親)の戸籍に入れないという2項が、一部で評判が悪いです。 では、この772条2項を廃止したとすればどうなるか。 ある制度を廃止するということは、その制度によって犠牲になってきた人たちを保護する反面、その制度によって保護されてきた人を犠牲にすることになります。これを常に考えて、どっちがいいか判断しないといけない。 たとえばこんなケースを考えます。 女性Aが、夫である男性Bとある夜に肉体関係に及び、その翌朝、男性Bは交通事故で死んでしまった。その1週間後に女性AはBの子を身ごもったとして、Bの死後280日で子Cが出生した、とします。Cの法律上の父親は誰でしょうか。 これはいま私が考えたケースですが、現実的に充分ありうるでしょう。 たとえば「北斗の拳」の「金色のファルコ」がこんな死に方をしたかと(これはマンガですけど)。 まず、上記の772条1項は使えません。妊娠したとき夫Bは死んでいますので、ABは婚姻関係にない。そして、772条2項もないとすれば、Cは戸籍上、Bの子であると扱って(推定して)もらえない。 ある事実(Cの父親がBであるということ)を推定してくれる条文がないのなら、その事実を、証拠によって証明する必要があります。 DNA鑑定か? しかしBはすでに灰になって墓の下にいます。母Aは、墓を掘り起こさないといけないのか?(遺灰でDNA鑑定ができるかどうかは知りませんが) 他の証明方法として、 「母Aが子Cを妊娠した当時、AはB以外の男性とは一切肉体関係がなかった(だからCの父親はBしか考えられない)」 ということを証明することが考えられます。しかしそれを客観的物証によって証明するのは不可能でしょう。「ドラえもん」の「タイムテレビ」でもない限りは(今回マンガの例えが多くてすみません)。 となると、子Cの父親は不明となる。戸籍上は母Aが「誰だか分からない男性との間に設けた子」になる。そして男性Bに何がしかの財産があっても、子Cには一切の相続権はない。Cがかわいそうなのは明らかでしょう。 民法772条2項を廃止すると、こういうことが起こります。 この条文の当否を論じるときには、この条文によって保護されてきた多くの親子関係があるはずだということを念頭に置いてほしいと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007/01/10 10:25:11 AM
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