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カテゴリ:判例、事件
昨日の一部朝刊の記事で、小さいですけど気になったもの。
大阪の検察事務官が、JR京橋駅のトイレに落書きをして、器物損壊罪で逮捕されたと。 検察事務官というのは、検察庁にて検察官の下で働いている人で、裁判所で言えば裁判官の下に裁判所書記官・裁判所事務官がいて、法律事務所では弁護士の下に弁護士秘書がいるのと同様、事務処理を補佐する仕事です。 この人は、40代の男性で、ある日の朝7時半ころ、京橋駅トイレの個室の壁に油性マジックで、実在の女性アナウンサーの名前を挙げて「拉致してレイプする」などと書いたらしい。こんなことして何が楽しいのか。これが本件で不思議な点の第1点。 これで器物損壊罪。刑法第261条、3年以下の懲役または30万円以下の罰金。 落書きが多発する場所なんかで「落書きは犯罪です」というステッカーが貼られているのを見かけますが、落書きはこの器物損壊罪という犯罪にあたるわけです。 「落書きしただけで壊してないのに?」と奇異な感じを受ける方も多いでしょう。実は私もそうです。不思議な点の第2点ですが、これは法律的には以下のとおり説明されます。 すなわち、「損壊」という言葉が、「その物の効用を失わせること」と定義されていることによります。 物理的に壊さなくても、「うわ、こんなもん、もう使われへんわー」という状態にさせると損壊に当たります。刑法の教科書に出てくる例としては、「料理店で料理の皿に放尿した」というのがあります。「こんな皿、もう客に出されへんわー」と思わしめたので皿を損壊したことになる。 落書きもこれに当たりうる。たとえば女性が、その所有するブランドもののバッグにマジックで「あほ」などと書かれると「台無しやんかーもう使われへんやんかー」と思うでしょう。 では本件の場合はどうか。京橋駅のトイレはあまりきれいではないし、個室(大のほう)は使ったことはないですが、近年は落書きが多かったとのこと。 もともと汚い壁にちょっと落書きを加えただけじゃないか、用を足しに来た人がこの落書きを見て「うわ、このトイレ使うのんヤメとこ」なんて思わないはずだ、だから損壊に当たらないじゃないか、と思う方も多いでしょう。実は私も思います。 厳密に考えると、冒頭の行為が器物損壊罪にあたるかというと、その適用には難があるともいえます。しかし仮に裁判になったら、裁判所は器物損壊罪の適用を認めるでしょう。「損壊」の定義が広いので、かなり広範囲に適用されるのが実情です。 弁護士としてはあまりに広すぎる解釈だと思いますが、公共の物に落書きをするなど極めて迷惑な行為であり、その規制のために本罪が適用されるのは、ある程度はやむをえないでしょう。 さて、不思議な点の第3点、実はこれが最も不思議なのですが、前置きが長くなったので次回以降に譲ります。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007/03/14 08:07:42 AM
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