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ブログ版 南堀江法律事務所

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2007/03/26
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カテゴリ:法律、制度
向井亜紀氏の代理出産の問題についてもう少し。
一昨日の記事の最後に、国会は動きがトロいので最高裁が解釈で立法に先んずるやり方があると書きました。
教科書によく出てくるのはこういう例です。

明治時代、電力がまだ豊富に供給されていなかった頃に、他人の家に電線をつないで電力を盗むということが横行し、これを窃盗罪で処罰できないかが問題になりました。
しかし窃盗罪とは他人の「財物」を盗む罪であって、素直に考えると電気は「物」ではないから、窃盗罪は適用できないことになる。
しかし大審院(今の最高裁)は「電気も物に含まれる、だから窃盗罪が成立する」と、「物」の解釈を拡げてしまった。
(なお現行の刑法には、窃盗罪等の適用については電気は「物」とみなす、と規定されており(刑法第245条)、国会の立法が大審院の後をついていった形になっています)

さて代理出産の問題で、「母」の解釈を拡げて、卵子を提供した人が「母」にあたるんだ、と解釈で片付けてしまったらどうなるか。
向井氏の事件になぞらえて、日本人夫と日本人妻の夫婦が、アメリカ人女性のお腹を借りて出産したケースで考えます。
この場合に、日本人妻が、生まれてきた子の「母」になると解釈します。

向井氏のケースでは問題になりませんでしたが、アメリカ人女性が、生んだ子を引き渡したがらないケースが実際にあるようです。
この場合、日本人妻が「母」とすれば、アメリカ人女性に対する「子の引渡し請求」を認めることができることになるでしょう。しかし、赤の他人が子をさらったというのならともかく、自分のお腹を痛めたアメリカ人女性に対しても全く同様に考えてよいのか、またそうこうしているうちに、子がアメリカ人女性に母性を感じてなついてしまった場合にも引渡しを強制しうるのかと考えると、なかなか微妙です。

もちろん、逆に、日本人妻が、赤ちゃんの引き取りを拒んだらどうなるかについても、ややこしい問題がありそうです。

また出産までの間に夫婦が離婚してしまった場合、この子の父親は誰になるのか。
いま議論されている民法772条の問題です。夫婦婚姻中に「懐胎」した子は夫婦の子(1項)、離婚後300日以内に出生した子も夫婦の子(2項)、ってやつです。

代理出産の手順と、かかる期間というのは、きちんと調べていないのですが、通常の出産に比べると、いくらかのタイムラグはあるのでしょう。
で、提供された卵子を保存した上でアメリカ人女性の胎内に入れて…、とやっているうちに、夫婦が離婚してしまったとします。アメリカ人女性が「懐胎」したときに夫婦が離婚してしまっていた場合は、この子に父親がいなくなります(民法772条1項)。

現行民法を前提に、代理出産での母子関係を認めると、ざっと思いつくだけでもこのような難しい問題が生じます。個別のケースで「かわいそうだから」を理由に例外を認めると、多くの不都合が生じるわけです。
親子関係にこんなに不安定な問題を残す以上、やはり最高裁の決定はやむをえないでしょう。やはり立法的による統一的な解決が望まれます。





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Last updated  2007/03/26 02:03:07 PM
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