|
カテゴリ:判例、事件
守屋前事務次官とその妻が逮捕されるという興味ある展開に至りましたが、それについては次回に触れるとして、今日も「デブ」発言で30万円、の話の続きです。
精神的苦痛に対する慰謝料の算定根拠について触れます。 この被害者女性は、前回書いたように、デブ発言がもとで精神的ショックを受け、心療内科を受診した。そこで考えた方もおられるかも知れません。 まず第1点。心療内科を受診したから、賠償請求が認められたのか。 もしそうだとすれば、被害者が精神的にナイーブですぐ医者に駆け込むような人であれば賠償請求が認められやすくなり、逆にタフで医者にも行かないような人なら認められないということになる。 そして第2点。心療内科でかかった治療費も、賠償金のなかに含まれているのか。 そうすると、とてもナイーブで医者に長くかかるような相手であれば賠償金は跳ね上がることになりはしないか。 判決文を見ていないので想像でしかありませんが、結論から言うと、答えはいずれもノーだと思います。 第1点。人に同じようにデブと言って、その言われた人がたまたまナイーブであるかタフであるかによって、賠償金が認められたり認められなかったりするのは不合理です。 賠償金は、そのような偶然の事情でなく、「およそ人にそんなことを言えば、一般人が受ける苦痛は、金銭に見積もればこの程度だ」という観点から決まります。 第2点。この事件の新聞報道を見ますと、賠償金の額は「30万円」。心療内科の治療費の実費も賠償金として認められたとすれば、きっとこんなきれいな数字ではなく、「端数」が出ていたはずで、報道では「約30万円」とでも書かれたと思います。 30万円というきれいな数字になったのは、「一般人が受ける苦痛を金銭に見積もればざっと30万円程度だろう」という判断なのでしょう。 一方、交通事故などであれば、治療費の実費は賠償金として認められます。これは、肉体的なケガをしている以上、誰だって治療を必要とするということで、事故と治療費の「因果関係」は明らかだからです(もちろん、不必要な治療を継続してもその全額が認められるわけではない)。 精神的苦痛の場合は、その因果関係を立証しにくい(デブと言われたすべての人が心療内科に通うわけではない)。 本件でデブと言われた女将についても、心療内科に通うほどのショックを受けた心情は察するとしても、その治療費を賠償金に上乗せしたのではない。それも一つの事情として酌むけど、あくまで慰謝料は「一般人を基準に」算定されたものと理解しています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007/11/29 03:12:36 PM
[判例、事件] カテゴリの最新記事
|