「医師は非常識」発言への反応を見て感じたこと
今回の話はあくまで軽い雑談としてお読みください。麻生総理が、少し前に、「医者には社会的常識のない人が多い」と発言した。その趣旨や文脈はともかく(親族が地方で病院を経営していて、病院経営の大変さを言ったものらしいのですが)、一般論として「医者は非常識だ」と言ったととられても仕方がない。医師会は、私が思っていた以上の猛反発をしました。日本医師会の会長が、首相官邸に乗り込んで抗議したとか。私は最初に麻生総理のこの発言を聞いたとき、医師会なら笑い飛ばすかな、とも思っていたのです。たとえば、私たち弁護士の業界に関していうと、社会的常識のない人の割合が確かに多い。それはどうしてかと言うと、一昔前の司法試験が異常に難しくて、それに受かることができるのは、よほどの秀才か、社会的常識を身につける機会がないくらいに勉強した人だけだったからです。法律という専門的知識を身につけたから、その世界では生きていけるけど、それ以外の世界では通用しないであろう人も多い(例 横柄である、他人の話をきちんと聞けない、書面の締切りを守らない、客の金を横領する、脱税して国外逃亡する、つまらないブログを日々書いている等々)。医師の世界も、似たような部分があるように思う。弁護士や医師に限らず、プロの世界は、ある程度そういうものだと思います。そういう世界の人々は、社会的常識ではなく、自身の専門的知識や職能を頼みにして生きている。だから、個人レベルでは「常識がない」と言われても、「だから何だ?」と笑い飛ばすことができる。ですから、今回の医師会の猛反発、これはまさに「政治」なのだろうなと思います。すなわち、一国の総理が、医師一般を非難したかのような発言をした以上、医師の利益団体でもある医師会としては抗議せざるをえない。そういう世論ができてしまうと、今後、医師の利益や立場に配慮しない法律や制度ができてしまうことになりかねない。そしてもう一つ。最近マスコミが指摘する「産科医のたらい回し問題」などのように、医師が批判されることも多い。今回の医師会会長の抗議は、そういう風潮に対する、「権力者やマスコミが現場の医師を不用意に批判するなら医師会が黙っていないぞ」という意思表明も含まれているのでしょう。医師に対する批判を封ずる意図であれば、ちょっと恐ろしい思いがするのですが、同時に、医師会という利益団体の政治力に感心せざるをえません。加えて、政界や財界と共同歩調を取ることが多い日本弁護士連合会のトップの姿勢と比べてみても、そのことを強く感じた次第です。