アルテイル家の人々

2008/01/03(木)08:59

大群

創作(90)

 新年草々、騒がしいことが起こっていた。  「では、かかって参られよ」 雑草を刈るが如く、奇妙な口調のメイドは、電気ブラシで黒い霧みたいな何かを消滅させていた。 「さすがは、南蛮の得物は一味違う」 本人は知らなかったが、ただの掃除道具である。しかし、その手に持つ者の気を発する媒体としての機能は優れていたのだろうか。この世ならざる者たちにとっては、脅威であるようだ。 「…ちと、数が多くてめんどうじゃ。うむ、暇な若旦那もお呼びしよう」 エプロンの下のメイド服に隠れていた十字架を取り出すと、おもむろに目を瞑って何かを念じた。また、それを戻すや否や、館の周囲をキーンという耳をつんざく音を奏でながら、砂煙を立てながら走って来たのは、執事服を来ててでもすぐに女性と分かるグラマスな、若い女性だった。 「若旦那、めでたい奴らに囲まれる新年というのも乙なものでござるな」 「ブリジットでいいのだ。それに、若旦那じゃなくて、ボクは執事なのだ」 「はっはっはっ、拙者はメイド無双でござる故、ねずみ退治は退屈でしてな」 「お嬢様の知らぬ間に、執事としての勤めを果たす為に、セシルも頑張って」 「承知、では、拙者の戦い易い相手にしてくれようぞ」 四方八方を取り囲む黒いもやがかった霧みたいな何かに、激震が走った。少しずつ地面から離れ、上空に飛ばされていた。上を見上げると、それらが集められた黒い雲は、不吉な空に雷鳴を響かせている。さっきまで無数にいた小さな影は、一つの巨大な闇へと変貌させられ、一つの禍禍しい形を与えられていた。 「むかし、むかし、怨霊と化した、拙者の知り合いを呼んでみたぞ」 「へー、そんな使い方もできるんだ、あの黒いので」 「あっ、お嬢様、何時の間に」 「こ、これは…姫、とんだところを見られてしまったでござる」 「あんた達が五月蝿すぎて、昼寝もできやしないわ。ところで、あれ、なんとか大魔王よ。多分、一日くらいほっといたら、世界の脅威になるから、3時のおやつまでには、元いた世界にお帰り願うことね。じゃあ、おやすみなさい」 「姫が拙者に話しかけて下さったぞ!恐悦至極でござりまする!!それにしても、あやつ意外と、有名人だったのだな。姫は、拙者の名は知らなんだのに…。だが、今は自分の名など、忘れてしまった。セシルという、南蛮風の名を、姫が与えてくれた、この名があれば十分でござりますな~」 『コノ世界滅ボス為、我ハ蘇リ』 「では、さらば友よ」 あらゆる邪気を滅する奥義があっという間に発動されていた。これで、もう二度となんとか大魔王が世界に蘇ることは不可能であろう…。 (…ところで、ボクはなんのために呼ばれたのだ?)

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