【 世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す 】
ジョセフ・E・スティグリッツ(楡井浩一=訳)「世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す」(徳間書店、2006.11)を図書館で借りて読んだ。筆者は、2001年「情報の経済学」への貢献でノーベル経済学賞を受賞したコロンビア大学の教授である。グローバル化やグローバリズムという言葉が、世の中に氾濫しているが、改めてグローバリズムとは何かを理解するために読んだものである。もともと経済学の領域には土地勘がないことから、この本の読破には時間がかかった。通常、岩波新書クラスであれば、だいたい1ページ~1.5ページ/1分で読める。したがって、一冊200ページ程度であるので、読了に3時間程度すなわち通勤他の読書時間で3日程度で読める。ところが、この本は、平均して2ページ/3分程度のペースでしか読めなかった。内容が深いことに加え、文章に触発されて考えさせられることが多かったことも影響している。これは、悪い意味でなく、とてもいい本であることの証左である。筆者は執筆時点で、既に、アメリカの住宅バブルがはじけて経済成長が維持できない懸念を示している。その上で、アメリカと世界銀行・IMFの新興国に対する誤った経済政策を、堂々と指摘している。説得力は強力である。グローバル化とは、商品・サービス・資本・労働のフローが増加することにより世界各国の経済がさらに緊密になることを言う。グローバル化は、「明るい未来=世界中の人々が生活向上の恩恵に浴す」ことをもたらすはずであったが、現実は、大きな利益にありつく人々が誕生する一方で、更なる生活水準の低下に苦しむ人々が存在するという、格差が増大する問題を生み出した。この本は、グローバル化自体が問題なのではなく、グローバル化の進め方が問題であったことを示そうとしている。グローバル化の形は、先進国の利益を増大させる形が採用されてきたし、世銀・IMFを通して途上国に押し付けられた経済システム(アメリカモデル)が、国情を無視して大きな損害を与えてきた。加えて、先進国内にも、アウトソーシングの脅威と非熟練労働者の賃金低下という不平等を拡大させもする。これらを正すには、民主的でグローバルな協調行動が必要不可欠というのが、簡単に言うと本書の要旨である。これらを踏まえ、日本でのグローバル化を考えてみる。日本では、米英に見られるようなコールセンターや会計業務、システムエンジニア等のサービス産業の海外アウトソーシングという形での労働の海外移転は、日本語という障壁のため顕著ではない。また、コスト競争力確保を目的とした製造業の労働者の海外移転も、高付加価値製品の国内確保の考え方からそう顕著でもない。実際、リーマンショックまでは製造業の輸出は絶好調だったはずだ。日本の問題は、つまるところ、派遣法改正に伴う非正規雇用者の増大による、サービス業での非熟練労働者の低賃金固定化(労働者の供給が多ければ賃金は下がる)と製造業での雇用調整の容易化である。一見、グローバル化による非熟練労働者の賃金低下のように見えるが、実際は、グローバル化の問題の本質とは異なると思われる。今の製造業企業の問題は、単に、世界的な総需要の大幅な減少と比較的サブプライムローン問題に無縁なための円高であり、設備の先行投資との需給ギャップの調整問題であるにすぎず、グローバル化とはの関係ないものと判断できる。と、こんなことを読みながら考えていました。いい本です。(評価:星四つ ★★★★☆)世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」2002「人間が幸福になる経済とは何か」2003