【 暴走する資本主義 】
ロバート・B・ライシュ(訳=雨宮寛・今井章子)「暴走する資本主義 /Supercapitalism The Transformation of Business, Democracy, and Everyday Life」(東洋経済新報社、2008.6)を読んだ。いわゆる経済学書の中でも著名な本と言われているが、実際に読んでみて本当に良書で読みごたえのある本であった。今日、日本を含む先進国では、貧困問題・格差問題等の社会問題が尖鋭化しているが、なぜこのような状況に陥ったのかを示した本である。すなわち、1970年代以前の古き良き「民主的資本主義」に基づく大企業や政府による、寛容で真摯な社会が、いわゆる「グローバリズム」による競争圧力が企業に加わり続けることによって、より安価な製品・サービスを望む「消費者」とより企業の利益の拡大を望む「資本家」が圧倒的な力を持ち、企業で働き企業にとってはコストである「労働者」と社会を構成しより良い地域の環境を望む「市民」への配慮や寛容さが急速に失われたことで、貪欲で情け容赦のない社会が必然的な流れとして現れているのである。これを筆者は、民主主義とは相いれない「超資本主義(=Supercapitalism)」と呼んでいる。論理的かつ本質をつき明確にその答えを示した深い考察である。その通りだとも思う。問題を矮小化し、政府の規制緩和、あるいは企業のグローバリズムに問題を押し付けた本は多々あるが、根本原因を民主主義の崩壊と捉えた本書は秀逸である。さらに言えば、本書が執筆された2007年当時は、グローバリズムも一般的な言葉でなく、リーマンショック以前に書かれたことを思うと、本当に素晴らしいと思う。加えて、翻訳もストレスなしに読むことができ、訳者の力量も感じられる。おしむらくは、書名が「暴走する資本主義」とはちょっと違うと思われる点、超資本主義の処方箋について書かれた第6章についてあまり共感しない点と、すばらしい訳者のあとがきがある前に、なぜか勝間和代の不必要な推薦コメント文がある点である。これら点を割引いても、十二分に広く読まれるべき本と言える。(評価 星五つ:★★★★★)暴走する資本主義