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waiting for the changes

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02話:黒き翼

~3年前~
「・・・ここは何処だ?」
白い部屋。広い部屋の片隅に翼は一人でベッドに横たわっていた。窓の外には青い海が広がっている。こんなに青い海は現在(いま)の地球じゃまず見られない。
「火星・・・か」
火星は100年ほど前、テラフォーミング計画によって20世紀初頭の地球環境になった。重力を操作し地球と変わらない重力を得た火星。火星の開拓は一気に進んだ。
「お目覚めになられましたか」
白衣の女性が入ってくる。開け放たれた窓から流れ込む風が、女性の髪を撫でた。
「俺は・・・」
「軽い記憶喪失です。墜落のショックによるものですね」
「墜落・・・?」
「ええ」
段々と思い出してきた。翼は大西洋上のフロートと呼ばれるユニットの上空で作戦行動中だった・・・。



~3年前大西洋上空~

「くっ!被弾した!アーマーを切り離す!」
胴体とエンジン部についていた追加装甲を切り離し、軽くなった黒い戦闘機は一気に加速した。
「何なんだ?こいつらは?」
黒い3機の戦闘機の中で最も高機動型の戦闘機に乗っている翼が叫ぶ。簡単な作戦のはずだった。


「大西洋第2フロートに占拠している武装勢力を排除して欲しい」


武装勢力は1~2機のGを所持していると聞いていた。実際に現場に着くとGは3機いた。しかし、今はそういう問題ではない。3機のGを排除したあと「扉」が開いた。空間が歪み、物質は時間、距離を無視して空間を飛び越える。「ゲート」と呼ばれるテクノロジーだった。「ゲート」による空間転移は珍しいことではない。空間転移の出発点では巨大な装置とエネルギーを必要とするが、出口は基本的に「ゲート有効範囲」なら何処でも可能だ。距離によって多少の誤差は出るのだが。
「ゲート」からは3機のGが現れた。白い3機のG。増援かと思われた。しかし、直後の強制通信でそれは間違いであることに気づいた。
「え・・・は存在してはならない」
「排除する」
「世界の均衡のため」
その3機はGであってGでなかった。
それぞれ個性を持たせた3機の戦闘機。高機動型、重装備型、指揮官用統制型(隊長機)。対G用に開発された機体だった。Gの進出により戦闘機は隅に追いやられた。だが、この黒い戦闘機は違う。画期的な飛行システムにより、更なる戦闘能力を手に入れた。翼はそのテストパイロットに選ばれた。対G戦闘機の力を証明するために。
「何だこの動きは?」
重装型のパイロットから通信が入ってくる。
「2人とも気をつけてください。コイツ等は只者ではありません!」
隊長機に乗るオペレーターから通信が入った直後、白い3機のうちの1機が放ったライフルが隊長機を捉えた。
「隊長っ!!」


「くっ!被弾した!アーマーを切り離す!」
装甲を切り離した機体が加速する。
「何なんだ?こいつらは?」
その3機のGは「ジャンプ」し、戦闘機と高度をあわせてきた。その状態でバランスを崩さずにブレードで斬りかかってくる。通常のGの動きでは考えられない、「人間臭い」動きだった。
「危険だ!作戦は中断、全機帰・・・」
2機の白いGが両側から隊長機を両断した。爆発を起こし、残骸が大西洋上に散る。
「隊長っ!!!」
「タカ!緊急プログラム2発動」
「何!?」
「これは、緊急事態だ!仕方ないんだ!!」
「わかった!逃げるぞ!ついて来い!!」
戦闘機のフルスピードにはGはさすがについて来れない。ましてや、対G用に開発された戦闘機だ。逃げ切れる・・・はずだった。
「排除する」
「な!?」
翼の行く手をもう1機の白いGが遮る。もう遅かった。エネルギー弾が翼の機体を捕らえた。
「タカ!!」
炎と黒い煙を吐きながら深い蒼に消えていった・・・。



「どうですか?」
白衣の女性は笑顔で問う。
「なんとなく、だな」
「よかった」
そう言うと、「また来ますね」と言って白い部屋から出て行った。どうやら、あの墜落から翼は助かったようだ。他の2機のハイロットは!?・・・思い出せなかった。隊長ではないもう1人が翼のことを「タカ」と呼んでいた。それだけは鮮明に思い出し、そして、懐かしい響きがした。
「失礼していいかな?」
扉のところには、初老のスーツ姿の男性が立っていた。翼の元に歩み寄り簡潔な言葉でこう言った。
「君の力が欲しい」



~1年前~

「はあぁぁぁ!!!」
黒い戦闘機がエネルギー弾を放つ。あっという間に2機のGが爆煙に包まれる。地上にいたGたちはその異質な戦闘機に翻弄されていた。
「相手は戦闘機1機だぞ!?何をやっているんだ!!」
世界政府軍の指揮官は通信機に叫ぶ。そのとき部下の1人が乗るGからの通信と映像に司令部全員が驚愕する。
「あ、え?何だあれは・・・」
「バカな・・・、そんなことありえるわけが無い」
黒い戦闘機は人型へと、つまりGと呼ばれる存在に変形した。戦闘機の“腹”の部分に取り付けられたロングライフルを構えた。更にそれは空中に浮遊していた。
「これからが本番だ」
翼は笑みを浮かべた。

その後、このメキシコ戦で黒い機体はたった1機で世界政府軍のGを20機、巡洋艦3機、その他の戦車、戦闘機などの通常兵器を多数撃破し、その黒い姿から“漆黒の鷹”と呼ばれるようになった。
反政府軍はパイロットである鷹山翼を英雄として祭り上げ、世界政府軍は畏怖の意味を込めてこの通り名を呼んだ。





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