049743 ランダム
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waiting for the changes

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10話:崩れる安定

「まだそんなことを言っているのか!?」
一人の男が机を叩いて立ち上がる。薄暗い部屋、ドーナツ型のテーブルに12人が座っている。テーブルの内側の部分にはモニターが取り付けられ、その光が12人の顔を照らす。それらの中心には大きく“世界政府連合”の英字があった。
「落ち着くのです。まだ我々は優位にあります」
その2つ隣に座る女性がたしなめた。数人がそれに賛同する。
「“漆黒の鷹”あれは早急に排除しなければならない!危険すぎる!!」
「分かっている。だがヤツ等は“鷹”だけではない」
「それに火星衛星軌道上で未確認の部隊に襲撃を受けてほぼ全滅したという、情報もあるのだぞ?それはどうするつもりなのだ?」
「分かっている!」
「ええ、聞いたことがあるわ。“エンジェル”と名乗っていたそうね」
「未確認のGも確認されたとの情報もある。※“グロリアス”か“グロウ”の新型だろう」
「まずは反政府組織だな」
口々に自らの意見を言い合っているだけで髭を蓄えた初老の男性がモニターに映し出された翼の顔写真を見て言った。
「名前、機体が分かっていながら未だ排除できないとはな。鷹山 翼・・・黒き翼の戦士、“漆黒の鷹”。英雄と呼ばれるにふさわしい名前だな」
男が声を荒げて言った。
「冗談を言ってる場合ではない!反政府軍は“鷹”だけではないのだぞ?今、ヤツ等は勢力を拡大しつつある。そこでだ・・・」
彼は11人にモニターを見るように促した。席につくと、カバンからディスクを取り出した。そして、自分のモニター横にある挿入口に入れる。映し出されたものに皆がどよめいた。
「おいおい・・・。我々が安定を破壊しようと言うのか?」
「こんなもの、民が認めるわけが無いだろう」
異論を唱えるものたちに男は再び立ち上がった。
「安定・・・?既に反乱分子が現れた地点で、既に“安定”ではない。ヤツ等が破壊したのだ。そして、彼らは我々に協力する必要がある。彼らも私に言わせればヤツ等と同じ部類だ」
「だが、彼らが認めるのか?彼らは“自由”が信条なのだぞ?」
一人の男がすぐさま問いを投げかけた。男は動じない。
「所詮は金で動くヤツ等だ。金をちらつかせれば簡単なものだ。そこは、貴方に任せる」
男はさっきの女性とは別の女性に言った。その女性は、「分かったわ」と一言だけ言った。
「作戦名は・・・“オペレーション:ラウンド・ダウン”と名付ける。この作戦は“オペレーション:メテオ・アタック”と同時に発動させる」
男がつけたその作戦名に髭の初老の男が呟いた。
「“ラウンド・ダウン”・・・切捨て・・・か。ヤツ等には相応しい作戦名だな」
そして、12人は席を離れ議会の形式をとった作戦執行会は閉幕した。


「“オペレーション:パートナーシップ。これは世界政府連合が発表した作戦である。反政府組織打倒の為に共同作戦をとるという作戦である。だが、我々はこの“真実”を手に入れた。オペレーション:ラウンド・ダウン。これが真実の姿である。世界政府連合は表面上共同作戦という名をとりながら、ラウンド・ダウン、つまり切り捨てるということである。用済みになれば切り捨てる。それが世界政府連合の出した答えだ。これは我々に対する暴挙である。我々は世界政府連合政府に屈するすもりはない。しかし、反政府組織と呼ばれるものたちにも屈しない。我々はどちらの味方にも付かない。もし、これに異議を唱え、永続的な契約によって両組織のどちらかに付く場合、傭兵連合からの除名処分とする。我々は立ち上がる。我々は世界を許さない   傭兵組織GM ”」
友子がバカンスから帰ってきたばかりのレッシュと優美に数時間前に発表された文書を読み上げた。つまり、報酬によって動いてきた傭兵たちは1つの“軍”としてまとまり、世界政府軍と反政府組織に宣戦布告した形となった。だが、傭兵組織上層部は反政府組織より、世界政府連合を倒すことに重きを置いているようだ。レッシュは声を荒げて、声明が印刷された紙を投げつけた。
「こんなバカなことがあるか!?」
「今すぐ、荷物まとめて出撃みたい。ここは本格的な上の本部になるみたいだから、私たちみたいな“問題児”は前線で頑張って下さいってわけ」
腕組みしたクルスが皮肉たっぷりにレッシュに言う。ミコも沈んだ顔で椅子から立ち上がりながら、不安そうにしている優美に言った。
「上の命令は絶対よ。“自由”が信条の私たちでもそれだけは例外なの。“マスター”と同じようにね」
「世界政府は何を考えているんだ!?この世界をどうしたいつもりだ?こうなることは目に見えてたはずだろ?」
レッシュは壁に拳をぶつけた。ギリッと歯をかみ締め、投げ捨てられた文章を睨む。
「レッシュ・・・」
優美はこんなレッシュの姿を見たこと無かった。普段はちょっとクールで戦闘中でもこれほどにまで激怒することは無い。任務の内容やそれにおいても同じだった。壁にもたれ掛かっていた翔がレッシュの側に行き小さく聞いた。
「・・・レッシュ、お前はどうしたいんだ?」
「俺は・・・世界政府のやり方には納得できない」
「じゃあ、“傭兵組織”として戦うんだな?」
「ああ・・・」
「隊長命令だ。準備するぞ」
翔は顔を上げると皆を見回して言った。それを聞くと同時にクルスが腰掛けていた机から飛び上がるようにして立ち上がり、亜実と亜季も行動を起こす。パイロット達は自分たちの部屋に向かい、真琴は格納庫へと向かった。レッシュも自分の部屋へと向かう。それを、翔が呼び止めた。
「レッシュ」
「・・・何だ?」
「本当にいいんだな?」
「ああ・・・」
その顔を見て翔は頷いた。レッシュは自分の部屋に入って行ったのを見送ると、隣で唖然としていた優美にも荷物をまとめるように促した。優美は今になって気づく。“第4倉庫”は意外とすっきりしていた。既に大まかな片付けは終わっているようだ。モニターや、機材などは“レイザー”に積み終わっているのだと、翔は言った。傭兵組織を離れても、傭兵組織軍として戦ってもここを離れることには変わりない。少し名残惜しい気もしたが、それが改めて今は戦時下だということを気付かせた。


数十の輸送機や小型の戦艦が東京上空に集結する。北アメリカ大陸、ユーラシア大陸、オセアニア大陸へ向かう編成が成された。それらが空を黒く染めていた。レッシュたちの輸送艦はその中でも大きな部類に入る。大所帯の上輸送機が1機しかないのだから仕方が無い。だが、輸送艦といっても多くの武装を施されているため一見には輸送艦には見えない。輸送艦の機動性、巡洋艦並みの攻撃力を兼ね備えたのが“レイザー”だった。
「ヴィレドル隊!貴艦らは太平洋を横断。第8、第9、ハワイ島、第11フロートを通過後、シアトルに侵入してくれ。詳細は追って報告する」
「了解しました」
友子がその通信に答える。同時に北アメリカ大陸に向かう傭兵部隊のデータが転送されてきた。友子はディスクにそのデータを入れ、レッシュに手渡す。
「目を通して置いてください」
「友子は?」
「データはこちらにも残ってあります。パイロットルームで説明をお願いします」
友子はこちらに向き直って引き締まった表情で言う。
「分かった」
パイロットスーツ姿のレッシュはレイザーのコクピットを後にして、パイロットルームに向かう。そこには全員が集結していた。普段は調子のいいクルスも真面目な顔をしている。クルスもこんな事態は初めてなのだろう。それは皆同じことだった。
「これから、俺たちは第8、9、そしてハワイ、第11フロートを経由して、北アメリカ大陸、シアトルを目指す」
「シアトルって・・・」
ミコが驚きの声を上げた。
「そう、シアトルだ。太平洋も世界政府の領域だ。それを潰しながら進むことになる」
シアトルは世界政府連合のロサンゼルスに並ぶ西岸拠点がある。更に軍事基地、宇宙ヘと上がる設備も整っている。マイアミにも宇宙へと上がる、宇宙センターがあったのだが、1年前のメキシコ戦の余波を受け、破壊された。つまりはシアトルの守りは尋常なものでは無い。ロサンゼルスからの援軍も来る。こちらは圧倒的に不利だ。レッシュは続ける。
「だが、やってこその“傭兵”だ。更に、北アメリカ中央部で孤立している傭兵部隊の救援にも向かう」
レッシュは皆を見回す。
「最後に、この作戦に異論があるものはこの場で離脱してかまわない。・・・どうだ?」
クルスがふっと笑って顔を上げた。
「私が、逃げる訳ないでしょ?やってやろうじゃないの!」
「そうよね。傭兵も舐められたものよね」
ミコも笑って答える。亜実も亜希も貴子も頷く。翔も「仕方ないな」とため息をついた。最初から皆そのつもりだったようだ。最後にレッシュは優美に向き直った。
「優美はどうする?」
「え?」
優美は驚きの色を隠せない。正直そんなこと聞かれるとは思わなかった。優美は迷わず答えた。
「私は、レッシュと行きます!」
「わかった」
レッシュはそう一言だけ言った。ひとつ深呼吸した後、声を張ってレッシュは言う。
「ヴィレドル隊、出撃する!!」
「了解!!!」


暗闇の中で1つの明かりが灯る。小さく揺れながら、燻っていた。
「オペレーション:ラウンド・ダウン、成功したようです」
「そのようだな」
男は煙を吐き、コーヒーを飲む。
「で、“F”はどこに向かった?」
「はい、シアトルですね」
モニターの向こうの若い男は用意していたように直ぐに答えた。
「シアトルか・・・運命とは分からないものだな」
「は?」
男は意味深なことを言う。黙ってしまったモニターの向こうの若い男に男は「気にするなと」たしなめた。
「“F”は追跡調査を続けろ」
「わかりました」
そう言うと、モニターの通信を切った。男はあの部屋に向かう。そこは天井の高い円柱形の部屋で、15メートルほどの長方形のプレートが宙に浮いていた。男はその近くまで歩み寄り、それに触れる。回路の道を赤い光が走った。
「運命は動き出したようだ・・・」
そのプレートの中心では緑の球体から光が放たれていた。



※:ここでのグロリアス、グロウは企業名


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