049704 ランダム
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waiting for the changes

waiting for the changes

27話:MIRROR

「大丈夫ですか?」

街で手を差し伸べてきた青年は、“彼”だった。忘れることは無い。桜の目の前で散った“彼”そのものだった。突然の出来事に桜の頭の中はそのことで一杯だった。
「姉さん?」
「え・・・?」
部下の青年が心配そうに桜に声を掛けた。彼が部屋に入ってきたことにさえも気づかなかった。「返事が無いから心配だった」と言って入ってきたようだ。すると桜が机に座って何か物思いにふけっている。あれから桜はこの調子だ。どこか上の空で、話しかけても生返事しか帰ってこない。何か思いつめたような顔をしている。
「あの、もう直ぐアフリカ砂漠です」
「ありがと」
桜は小さく返事をしただけで、またうつむいてしまう。部下の青年はそっと、桜の部屋を後にした。
「あの人・・・」
もう一度会いたい。桜は彼のことが忘れられなかった。


「“鍵”・・・“無限”がそう言ったのですか?」
「ああ、EVEのことも何か言ってたけど・・・」
レッシュとミコ、優美、貴子で集まって話をしていた。“無限”のこと、そして、レッシュのこと。“無限”が放った言葉には謎が多すぎる。貴子がキーボードを弾きながら眼鏡を左手で直す。そのモニターには今までのことをまとめてあった。
「EVEが“エデン・チルドレン”って言ったのですね?」
「ああ、EVEの調子が悪い。前からEVEは何かが違うと思ってたんだけどな」
「そもそも、“エデン・チルドレン”って、何ですか?・・・うまく言えないけど、はっきり分からないし・・・」
レッシュが机に肘を付いて貴子の方を見た。優美が根本的な質問をする。その質問には的確な答えを出せなかった。
「俺も思う。“エデン・チルドレン”ってどういうやつを“エデン・チルドレン”っていうんだ?機体を思うように操るのか?・・・じゃあ、EVEはどうなるんだ?・・・あの白いGたちも気になる」
「・・・それに、“無限のクーパー”のあの動き・・・レッシュと一緒でした」
レッシュが静かに言った。その後の優美の言葉にレッシュは頷いた。ミコが首を傾げる。
「え?・・・じゃあ、“無限”も“エデン・チルドレン”なんですか?」
「・・・わからない。だけど、“白いG”たちのような感じはしない・・・けど」
「けど?」
レッシュがゆっくりと続けた。その言葉に皆が驚いた。
「何か・・・懐かしいような・・・前に会った感じがする」
「え!?」
レッシュはなんとなくだ、と付け加えた。なんとなくでも、彼の力を知る優美はその言葉をしっかりと受け止めていた。きっとそれはこれから関わってくるかもしれない、と。


薄暗い部屋。2つのディスプレイの光と、赤い小さな光が灯る。
「・・・なんだと?」
「はい、“無限”の消息が掴めなくなりました」
煙草から灰が床に落ちる。モニターの向こうの青年は同じ言葉を2度繰り返した。灰皿に煙草を押し付け、モニター横のコンピューターに目をやる。そこには“クーパー隊”と3人の顔写真が映し出されていた。
「大西洋にて“ED-02”を8機破壊しています。更に、“漆黒の鷹”、“F”とも接触があった模様で・・・」
「くそっ!!」
青年が話し終わる前に男が机に拳を叩きつける。モニターの向こうの青年はそれを見て押し黙ってしまった。これほど取り乱した男の姿は見たことがなかった。
「ヤツは・・・気づいたようだな」
「・・・そう考えるのが妥当ですね」
もう一度、男は再び煙草に火をつける。何とか落ち着こうと、大きく煙を吸い込んで吐いた。そして、モニターの向こうの青年を睨みつけた。
「“E-システム”でも掴めないのか?」
「“無限”の機体は特別な機体で・・・識別が難しいのです。・・・追跡装置も解除されています」
それ以上、男は何も言わなくなった。そして、いつもの報告をする。
「“F”はアフリカに入ったようです。そろそろ、“アレ”を使うことをご検討ください・・・では」
青年は思い出したように付け加える。
「・・・“Z”、“J”共に所在不明です」
そう言って、片方のモニターはプツリと消える。男は“無限”のリッジ・クーパーと直に会ったことがあった。彼はよく掴めない男だった。はっきり言うと気味が悪いほど落ち着いている。正確な出生がよく分からないため、彼は年齢もはっきり分からない。そして全てを見透かすような深い緑の瞳、それが特徴的だった。モニターに映る“無限”の顔が憎らしく見える。
「何を考えている・・・?」
モニターのクーパーは笑いもせず、真っ直ぐな深い緑色の瞳で男を見ていた。


「砂漠か・・・」
優美が感慨深げに窓の外を見た。横にも数機の戦艦や輸送艦が見える。砂漠を制圧しているのは世界政府軍。着陸して居るレイザーから見える景色は何処までも広がる砂漠だけだ。少し先に見える山は小さく見えるが1000メートル以上の高さがある。砂漠では高低感覚を失いやすい。Gパイロットとしては辛い場所だ。
「優美っち?何やってんの?」
後ろからクルスが声を掛けた。優美は振り返らないでそのまま喋った。
「砂漠を見てるの・・・また戻ってきちゃった」
「ここに来たことあるの?」
優美はクルスの方に向き直って立ち上がる。壁にもたれかかって優美は話し出した。部隊に配属される前、ここでミッションをこなしていたこと。いつものようにピンチをレッシュに助けてもらったこと。優美はゆっくりと話した。
「へぇ・・・砂漠での戦闘経験者なんだ」
「2回しかやったことないけどね」
優美は謙遜して苦笑する。それでも経験ゼロのクルスにとっては貴重な経験者であることには変わりはない。クルスは優美に近づく。
「ねぇねぇ、どんな感じなの?」
「どんなって・・・通信は近くても届かないし、視界は見えにくいし、センサーは基本的にダメだし、エネルギー兵器は熱で曲がるし、それから・・・」
「す、ストップ!」
段々とクルスの顔が曇ってくる。次々と問題点を挙げる優美に慌ててストップを掛けた。まだあるの?とクルスは辛そうな顔をした。クルスは指折り数えては頭を抱えている。
「・・・やっぱ、まだあるよね?」
「うん。あと・・・」
大きなため息を付いてクルスは再び頭を抱えた。パイロットルームに召集が掛かったのは丁度その時だった。


「みんな・・・」
桜は部隊のメンバーを見回した。当初からは随分と人数が減っている。半分近く居ないだろうか。“漆黒の鷹”やシアトルでの戦闘で多くの仲間を失った。これ以上仲間が減るのは隊長として辛い。部隊のメンバーの雰囲気も暗くなっていた。桜は部隊のメンバーに喝を入れる。
「・・・みんな!死なないで!」
「おおっ!!!」
皆が一斉に声を上げる。怒声のような声も上がっているが桜はもう一度ゆっくりと見回した。心の中でもう一度願い、そして誓う。
「死んじゃダメよ・・・これ以上は」
傭兵たちの力は予想以上だった。あの赤い戦闘機、“深紅の鷹”と言われたパイロットに敗北を喫した桜。“漆黒の鷹”は敵だと言ってはいたが、桜には信じられなかった。きっと彼は“漆黒の鷹”繋がる何かを握っている。
「・・・あの人」
桜はいつもの写真を見た。そこには嘗ての夫が写し出されている。この前中立地帯で見たあの人のことを思い浮かべた。何度見ても、何度思い出してもよく似ている。だが、今はそんなこと言っては居られない。桜はいつものように写真に口付けして後ろのポケットにしまった。

直ぐそこまで迫った傭兵たちに桜たちは向かった。


「全機出撃を確認。これより作戦行動に移行します」
友子の通信にレッシュたちは頷く。艦の近くなら通信はクリアに聞こえるが、離れてしまうとG同士の通信のみとなってしまう。そうなってしまえば不鮮明な通信で混乱が起きかねない。友子は作戦内容を一気に説明する。
「砂漠地帯に駐留する世界政府軍、反政府軍を撃破します。まずは世界政府軍の部隊との戦闘になると予想されています。世界政府軍の部隊は“乱れ桜”の部隊を筆頭にした大部隊です。皆さん注意してください。次いで、反政府軍との戦闘になると予想されていますが、今後の作戦は追って通信します」
「了解!!」
レッシュたちは勢いよく返事を返し、Gの歩みを進めた。砂漠戦闘経験のあるレッシュと優美のデータを流用し、砂漠での戦闘に適応させていた。砂を“足”が捉えて歩く。通常の歩行プログラムだと砂を捉えて歩くことは難しい。そのためプログラムの変更が余儀なくされる。しかし、砂漠歩行用プログラムでも完全ではない。滑るし、砂を確実に完璧に捉えることは2足歩行ロボットでは非常に難しいからだ。スピルスは大型のシールドを装備して歩みを進める。防空システムがあるのだが、戦闘が始まってしまえば関係はない。それにスピルスのスピードには対空防御システムは追いつけないだろう。いつものように翔はかく乱する役目となっていた。
「砂漠だな・・・」
今回の戦闘ではEVEの搭載を回避していた。“調子の悪い”は詳しく調べる必要がある、と貴子の言葉がきっかけだった。戦闘を歩くレッド・バードから通信が入ってくる。一番近くに居る優美だけに聞こえるような回線でレッシュは話しかけてきた。
「はい」
「大丈夫か?」
「はい、平気です。レッシュも気をつけてくださいね」
若干、掠れた映像でお互いを見る。優美は笑顔でウィンクする。レッシュも優美に向かって笑いかけた。
そして、レッシュは砂と青い空の境目を見た。多くのGがまるで、古の時代の行商のように砂漠を歩いていた。


「傭兵部隊と思われるGを確認!・・・先行部隊と戦闘を開始しました!!」
後方支援の大型の通信用アンテナを搭載したトレーラーから通信が入る。桜は機体を立たせ、付近の部隊メンバーに指示を出した。通信範囲が限られているため、Gを次々と伝い水面に落ちた雫のように広がっていく。
「私たちも援護に向かうわよ!」
「了解!!」
一際目立つ2本のブレードを背負った桜色の細身のG。そのGを中心にゆっくりと歩みを進める。あの砂の丘の向こうでは爆音が響き、炎と煙が上がる。桜たちは機体を一気に加速させた。


「始まったな」
レッシュの前にある丘の向こうから爆炎が上がる。レッド・バードの横から赤いグロウが躍り出る、そのままレッシュたちの前に居る部隊に紛れていった。
「よーし!」
「ちょっと!クルス!」
直ぐ後を赤いグロリアス・スーパーが追いかけた。レッシュはクルスに通信を掛ける最早聞いていない。ミコに向かってレッシュは叫ぶ。
「ミコ!・・・クルスは頼んだ」
「・・・う解」
予想以上に通信障害が大きい。レッシュはミコにクルスの“お守り”を託すと、レッド・バードを加速させる。それを見て、優美、亜実、亜希の3人もレッド・バードに続いた。砂漠の殆どのエリアで通信は制限されている。特にこのエリアはそれが強い。
「クルス!」
「・・・ミコ?」
赤いグロウに追いついた赤いグロリアスが通信を開く。気の抜けた声が返ってくる。
「もう!隊長の命令聞かなきゃダメでしょ!」
「だって・・・じっとしてられないし・・・」
予想された答えが返ってきたが、ミコは大きなため息をついた。
「・・・ったく、私から離れないでね」
「うん・・・わかった」
渋々クルスはミコの“命令”を聞く。赤い2機のGが同じように砂漠の上を滑るように移動している。ライフルとマシンガンを放ちながら、世界政府軍のG部隊へと突っ込んでいった。

「射撃開始!味方に当てるなよ」
世界政府軍の後方には無数の地上艦や移動砲台があった。そこから傭兵たちの母艦の周辺へと砲撃が始まった。
「があ!!」
「ほ、砲撃・・・」
傭兵たちは不意打ちに近い形でその砲撃を受ける。数機のGたちが炎を上げた。散開しようにも砂で足が取られる上に、高く飛び上がり過ぎると防空システムに引っかかり、更に味方を危険に晒すことになる。一気に傭兵たちは不利な状況へと追い込まれた。
「な、何だ!?・・・今の攻撃は」
3機のGがたった1機のGに攻撃で一気に破壊される。その恐るべき破壊力に世界政府軍のパイロットたちは驚愕する。その赤いGの放つ光は次々と世界政府軍のGたちを沈めていく。
「“深紅の鷹”・・・だと!?」
「凄いな・・・何だあの兵器は?」
レッシュは感覚を開いて、感覚で捉えた世界政府軍のGたちを破壊していく。“敵”の居る場所が手に取るように分かる。優美と亜実、亜希のGを引き連れて、どんどんと進んでいく。
「対空システムに機影!!・・・迎撃します」
「ふっ・・・馬鹿な。死にたいのか」
「迎撃開始!」
砂の中から迎撃用の機銃やミサイルが出現する。そこから放たれた弾丸は全て何も無い場所や空で爆発する。灰色のGが超高速で飛び回っていた。
「ちっ・・・早くやってくれ!」
翔がスピルスのコクピット内で呟く。出現した迎撃システムを発見し、傭兵たちはそれを破壊していく。
「迎撃追いつきません!・・・対象が速過ぎます!」
「やつらはこれが狙いか・・・」
大きなモニターに表示されているのは時々途切れながらもギリギリでレーダーに捉えられているスピルスの動きと迎撃システムが設置されている青い点。それが次々に赤い点に変わっていく。破壊されているということだ。このエリアの防空システムが破壊されてしまうと、空からの進行が可能となる。反政府軍にも侵攻されかねない。
「まあ、こんなもんか・・・」
ミサイルの数も減り、機銃の弾丸も飛んでこなくなった。翔は破壊されて行く迎撃システムを満足そうに見下ろしていた。


「クルス!」
「分かってるって!」
ミコに声に反応しクルスがミコの背後をとったグロリアスをマシンガンで破壊した。通信がクリアに届くギリギリの距離で戦っていた。ミコが基本的に攻撃をし、それをクルスがサポートする。暴走癖さえ起こさなければ、クルスは優秀なパイロットだ。部隊の中でミコがその扱いに一番慣れている。振り向きざまに赤い2機が同時に銃撃し、世界政府軍の“50”を破壊する。砂漠仕様の茶色のカラーリングが施されていた。
「私、四本足キライ」
「何で?」
「だって、虫みたいじゃん!」
50を破壊した後に緊張感の無い声がクルスから届く。その言葉に思わずミコは噴出してしまう。噴出した後、我に返ったミコは自分も十分緊張感の無い人間だと自覚し、苦笑した。
「そんなこと、どうでもいいから行くわよ!」
「あ!逃げた!笑ってたくせに!」
ミコは機体を少しだけジャンプするように空中に飛ばす。周辺の対空防御システムは殆ど破壊されていた。その時、クルスが叫んだ。
「うわっ!趣味悪っ!」
「な、何!?」
「見てよあの機体!・・・ピンクじゃん」
ミコは目を凝らして立ち上がる砂煙を睨む。見えるのは・・・味方らしき数機が世界政府軍らしきGにボコボコにされていた。そして、その向こう側に2本のブレードが輝いていた。細身の薄いピンク色のGだった。ミコはクルスの視力に半ば呆れて言う。
「・・・よく見えたわね」
「あんな派手な機体、どっから見ても目立つって!」
そして、さっきの薄いピンク色のGに見覚えがあるような気がした。どっかでみたことがある。2本のブレード、薄いピンクのG・・・。
「“乱れ桜”!!あいつ、世界政府軍の“乱れ桜”よ!」
「マジ!?・・・って、ミーティングで言ってたわね」
赤い2機のGは桜たちの部隊に接触する。
「赤い2機のG、グロウ、グロリアス・スーパー接近!」
5機のグロウが一気にミコとクルスに迫る。クルスはブレードを抜いて斬りかかった。
「ミコ!援護して!」
「もう!」
1機のグロウの武器を持った右腕を切断し、蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたGは後ろのGに直撃し、倒れた。砂漠地帯での転倒からの復活は非常に厳しい。更に障害物が乗っていれば尚更だ。着地した赤いグロウに迫る茶色のグロウを赤いグロリアス・スーパーがライフルで攻撃手段を奪った。接近しすぎているグロウたちは倒されたグロウに引っかかり将棋倒しのように折り重なった。
「甘いわね」
「アレ行くよ!」
クルスの赤いグロウがブレードで桜色のGを差す。その声は自信たっぷりだった。
「ちょっと!相手は“乱れ桜”よ」
「でも、“ヘッド”を落とせばこっちのもんよ!・・・2機で仕掛ければイケるって!」
その時掠れた声が飛び込んで来る。亜希だった。
「・・コさん!・・・追・・ついた」
赤い2機のGの横にそれぞれ武装が対になるように装備された白いハイジェンが追いついてきた。


「傭兵のGよ!」
桜も赤と白の4機のGを確認する。それぞれ2機ずついた。桜の声に反応して桜の部隊のGたちが一斉に飛び掛ってくる。4機の紅白のGは一気に散開する。
「私とクルスでコイツ等引き付けるから、亜実と亜希は“乱れ桜”をやって!」
「「まかせて!」」
ミコとクルスはライフルとマシンガンで牽制しながら下がる。10機近くのGに圧倒されてクルスから弱気な声が聞こえてきた。
「ちょっと!多すぎ!」
「もう直ぐ隊長が・・・」
ミコがそう言い掛けた瞬間、赤い2機のGの合間を強烈な光が駆け抜けた。その光は一気に5機のGを包み込む。その姿は桜の目にも捉えた。
「あの機体!!」
「隊長!!」
「危ないじゃないですか!」
愚痴るクルスにレッシュは叫んだ。
「よそ見してる場合じゃない!」
その言葉を聞いた瞬間、赤い2機のGがブレードを抜いて残された5機のGに斬りかかった。今の“シルバー・アロー”に腰が引けた彼らを戦闘不能にするのは簡単だった。武装を持った腕だけを斬って、蹴り倒す。そうすればまた将棋倒しだ。
「よし!あの趣味悪い機体よ!」
3機の赤いGが“乱れ桜”に迫った。


「あの機体は!!」
「あ、姉さん!」
桜は機体を加速させた。あの真ん中の赤い機体には用がある。“漆黒の鷹”と同じ機体。あの機体のパイロットが“漆黒の鷹”に繋がるな何かを必ず握っている。加速し始めたその時、2機の白いGが砂漠を這うように滑り、桜色のG両サイドから迫った。2機ともブレードを抜いて一気に加速した。2人に通信はいらない。タイミングを合わせることは造作も無い。亜実と亜希は同時に叫んだ。
「「行けぇ」」
「姉さん!!来ます」
「うっ!」
桜は両方を見た。殆ど死角から同時に白いハイジェンが迫ってくる。どうする、どっちから攻撃すればいいのか。考えてるうちに2機はどんどん迫ってきた。
「間にあわない・・・あっ!?」
亜希のハイジェンが桜色のGとの間にある残骸となったGを飛び越えようとした瞬間だった。地面を蹴ったはずだった亜希のハイジェンは、右足が砂に取られバランスを崩した。つんのめる様な形に突っ込む。その瞬間を桜は見逃がさなかった。
「っ!・・・はあぁっ!!」
桜色のGが左手のブレードで白いハイジェンに向かって突きを繰り出した。コクピットのある腹部を真っ直ぐに貫く。
「きゃあああ!」
亜希のGがブレードが突き刺さったままで炎を上げて爆発する。その場面を見た亜実はキレた。レッシュの声も通信状況が悪く届かなかった。もしかすると、届いていたが聞かなかったのかもしれない。
「おまえぇぇぇぇ!!!!」
「待て!!亜実!!」
冷静さを欠いたその攻撃はただ真っ直ぐ突っ込んでくるだけだった。桜は1歩後退し、踏み込んで水平に斬った。真っ二つに切れハイジェンは爆発する。
「亜希・・・」
最後の言葉は誰にも聞こえなかった。桜色したGが右手のブレードを侍が血を振り払うように振って、地面に突き刺さった鉄の塊になったGからブレードを引き抜く。桜は2機目のGから不思議な感じがした。言葉では言い表せない、何かを。
「今の・・・」
「亜実!亜希!!・・・お前ぇぇ!」
レッシュが左腕を振り払う。レッド・バードも同じ動きをした。その赤いGは桜を睨みつけたように見えた。そして、その光景を見たクルスの赤いグロウが突っ込んで来た。
「お前!!亜実と亜希を!!」
「な、何なの!?」
ブレードで真っ直ぐに振り下ろしてきた。両手のブレードでそれを受け止める。バチバチと光が弾ける。機体重量とスラスターで加速してはいるが、出力の差で負けてしまうのは時間の問題だった。
「クルス!!・・・アイツ!」
ミコは機体を一気に加速させた。ミコは仲間を殺された怒りで一杯だったが、クルスよりはマシなのかもしれない。完全に周りが見えなくなっている。クルスのGが弾き飛ばされ、そこに桜の部隊のGが迫る。冷静な判断が出来なくなっていたクルスはただそれを見ているだけだった。
「クルス!!」
ミコはクルスの機体をキャッチするとスラスターを全開にして離脱した。そこに、レッド・バードの“シルバー・アロー”の光が襲う。間近で見たその威力に桜が一瞬だけ圧倒された瞬間だった。レッド・バードが突っ込もうとする瞬間に、突如危険信号が点る。とっさに防御体勢を取った桜のGに凄まじい衝撃が起きる。
「きゃあぅ!」
「・・・」
目の前に居たのは白い翼をもったGだった。見たこともない型。どこかグロリアスに似ている。スラスターを全開にし、信じられないほどの力で圧倒する。
「くうっ・・・!」
桜の機体が砂地にめり込みバランスを崩した瞬間、桜のGをその白いGは蹴り飛ばした。その動きは信じられないほど滑らかだった。まるで人間の動きのようだった。蹴り飛ばした瞬間、追いかけるように加速し、白い翼を持ったGは、桜のGの左腕を肘から切断する。斬り上げたその左腕を受け取り、桜色のGに突き立てた。とっさに桜はスラスターを掛けて直撃を避けた。
「ぎゃあ!!」
桜色のGの右腕に長いブレードが突き刺さった。右側の胴体も掠め、コクピットの右側が大きく歪み、モニターが爆発する。コクピットは煙に包まれ、桜の体にきつくシートベルトが食い込んだ。
「・・・っ!」
優美は目に映る桜色のGを睨みつけ、ブレードを更に深く刺す。桜色のGを貫いたブレードは砂漠の中にズブズブと埋まっていき、熱で辺りの砂が吹き飛んだ。
「姉さん!!」
「あの白い翼のGに照準を合わせろ!」
無数の砲台が優美の機体をロックした。優美にはロック警告音が聞こえなかった。怒りで聞こえなかったというのもあるが、鳴り響く性能限界音でロック警告音がかき消されて聞こえなかった。ウィング・グロリアスの関節などの動きが渋くなって、遂に悲鳴を上げた。機体がギクシャクとぎこちなく動いて、そのまま固まってしまった。優美の周りを闇が包む。完全に機能がシャットダウンした。そうなって初めて、優美は我に返った。
「・・・?」
「優美!!・・・っ!!」
さっきの衝撃で通信システムに障害が発生したのだろう。目の前のGと回線が開いた。桜はその名前を聞いた。「ユミ」という名前。そして、その声。あの声と同じだった。突然の出来事に桜は虚を突かれたように動けなくなってしまう。レッシュは、レッド・バードを戦闘機に変形させ一気にウィング・グロリアスのもとに飛んだ。ウィング・グロリアスの手前で人型に変形し、ウィング・グロリアスを抱えると、一気に上空に飛び上がった。レッシュの目に映ったのは、破壊された味方の無数のGたちと、奥に見えるのは地上艦、砲台たちだった。この砂漠での戦いは傭兵たちの完全敗北だ。レッシュはスラスターを全開にし、レイザーへと向かった。
「レッシュ!レッシュ!!・・・あのGが!!」
「くっ!撤退する!!急げ!!」
通信モニターの向こうで叫び続ける優美が大声を上げて泣き出す。クルスもコクピット内で暴れていた。
「離して!あのピンクを殺すのよ!!」
「黙って!!・・・隊長命令よ」
「でも!」
「うるさい!!」
その声にクルスは驚く。その声は震えていた。そのミコの震える声を聞いた瞬間、クルスの目から涙が溢れた。
「ああぁ・・・」
桜のGは味方のGに運ばれていた。両手、片足を失いボロボロになっている。優美の“蹴り”でハッチが壊れて脱出が出来なかったためだ。桜は時々砂嵐が起きるモニターで去っていく赤いGを見ていた。
「嘘よ・・・」
桜にはそれしか言うことが出来なかった。

翔のスピルスが異変に気づいた瞬間にはもう遅かった。全てが終わった後だった。傭兵たちは完全に敗北し、撤退を余儀なくされた。




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