33話:DOUBLE REDギア・ロッドの内部にサイレンが響き渡る。翼は自室のベッドから起き上がり、ヴィラとバラッドはシュミレータで訓練をしている最中だった。「地中海沿岸エリアで戦闘が発生中。パイロット各員は至急格納庫へ向かってください」 「んだよ・・・ったく」 翼はベッドから飛び起きてパイロットルームに向かう。パイロットルームに着くと、バラッドはまだ来てないようだ。翼がそう考えた瞬間パイロットルームの扉が開いた。 「早いな。・・・戦闘は傭兵と、らしいな」 「さあな。世界政府だろうが傭兵だろうがどっちでもかまわねぇよ」 翼がロッカーからパイロットスーツを取り出し素早く着替えながら、バラッドの方を向かずに言う。バラッドもロッカーから自分の紺色のパイロットスーツを取り出した。 「・・・そうか」 バラッドはそれ以上言わなかった。気密チャックを上げ、2人はヘルメットを持った。 「2人は?」 「まだみたいだな」 「そう・・・。先に乗ってるわよ」 くるりと向きを買えて歩き出したヴィラを整備主任が止めた。 「ヴィラ」 「ん、何?」 「これなんだが・・・」 整備主任の男性は何かしらのデータが入ったディスクをヴィラに差し出した。ヴィラはそれを受け取って裏返したりして見る。何処にでもあるようなディスクのようだ。 「これ・・・何?」 「こないだの補給で来たんだがな、ヴィラに渡してくれって」 「私に?」 整備主任の男性は首を傾げてそのときの状況を話し出した。このディスクを持ってきたのは補給艦に搭乗していたのだが、その場には似つかわしくないスーツ姿の男だったらしい。 「何なのそれ・・・」 「よく分からないんだ・・・。でも、シャイニングのバージョンアップデータらしい」 「らしい?」 ヴィラが自信なさげな整備主任に聞き返した、普通ならこの手のディスクは調べて、バージョンアップディスクならば彼ら整備班の仕事だ。 「完全な戦闘に入らないと起動しないみたいなんだ。それでもいいなら使ってくれ」 「何か、信用できないわね」 ディスクを見つめながら2人は黙ってしまった。だが、もし、このディスクでシャイニングが少しでもパワーアップできるのならそれに越したことは無い。ヴィラは頷く。 「分かったわ。使ってみるわ」 「保障は出来ないんだぞ?」 「でも、バージョンアップデータが入ってるんでしょ?もしかすると、戦闘中にしか使えないってことは“リミッター解除”システムかもしれないじゃない?」 ヴィラがウィンクしながら整備主任に向かって笑う。不安そうな整備主任はそれでもまだなにか言いたげだった。 「安心して、“ヤバイ”って時にしか使わないから」 そう言ってヴィラは自らのシャイニングの元に向かった。直後に翼とバラッドが格納庫に現れた。 「翼、バラッド!早く乗ってくれ!」 「わかってるよ!」 「ああ」 翼はブラック・バードに乗り込み、バラッドは一際大きい100に乗り込んだ。ハッチが開放され、カタパルトが起動する。翼たちはシステムを起動させ3機のGの目に灯が点った。 「新型!?・・・違う、優美と同型機だ!」 砂漠の“穴”から勢いよく飛び出してきたGは緑色のウィング・グロリアスだった。飛び出したと同時に羽根を展開し、一気に上空に飛び上がった。それを追うようにフライングアタッチメントを装着した2機の薄紫のグロリアスが飛び出てきた。 「ウィング・グロリアス・・・」 「嘘!?あれって優美っちのと同じじゃない!」 クルスがその緑色のGを見上げて言う。大きな翼がキラリと太陽に光を反射する。直後、上空から向きを換えた緑のウィング・グロリアスの右腕のライフルが火を噴いた。 「クルス!」 「・・・危なっ!・・・コイツ!!」 ミコの声と同時に赤いグロリアス・スーパーがその弾丸を回避する。地面に弾丸が突き刺さり、砂が巻き上がる。赤いグロリアス・スーパーは腕を振り上げマシンガンを緑のウィング・グロリアスに向け、放った。だが、それはすべて空を捉えただけだった。 「・・・ほう。出来るヤツみたいだな」 赤いグロリアス・スーパーを見下ろして、エルトはにやりと笑った。上空を高速で飛行しながら、1機の飛行タイプのGに目をやった。“深紅の鷹”だ。 「先ずはアイツ等だな。私は“深紅の鷹”とやらをやる。君たちは下の2機の赤いグロリアスのSモデルをやってくれ」 「了解です」 「了解」 フライングアタッチメントを装着した2機の薄紫のグロリアスが向きを変え、2機の赤いGに向かって加速してきた。ライフルを放ちながらスピードを生かして距離を一気に詰める。ミコがクルスに向かって叫んだ。 「クルス!来るわよ!」 「かかって来なさいよ!」 クルスの赤いグロリアス・スーパーはシールドを構えて、ブレードを抜こうとしていた。 「翔!まだか!?」 「待て!補給が終わらない!」 「あと、3分待って!」 レッシュの通信に翔と真琴から次々と通信が入ってくる。いくらEVEにサポートされたレッシュでもこの集中砲火と次々と到着する援軍に苦戦していた。 「左から3機!下に2機!・・・ミサイル接近!高エネルギー反応・・・来ます!!」 EVEから来るデータに反応し、全ての攻撃を回避した。最後に放たれた艦からのエネルギー砲が機体を掠める。赤いシグナルがコクピットを染めた。直ぐに次のロック反応が響き渡る。レッシュには直接その感覚が伝わる。常に殺気を感じているようだった。 「“深紅の鷹”か・・・。“漆黒の鷹”には遠く及ばないようだな」 エルトの緑のウィング・グロリアスがレッド・バードをロックした。そして、エルトが引き金を引いた瞬間だった。ロック警報がコクピットに鳴り響いた。 「何だ!?」 「レッシュはやらせない!」 緑のウィング・グロリアスの下方から2発のエネルギー弾が放たれた。ギリギリでそれらを回避してその方向を向いた。そこには純白のウィング・グロリアスが迫ってきていた。 「同型機・・・だと?“ファーストモデル”なのか?」 その姿を見てエルトは驚いた。完全な同型機だった。色は純正色の純白。スラスターが強化されているのだろうか、自機よりも速い。 「これは!?」 「やあっ!」 エネルギー弾を放つライフルを腰に格納すると純白のウィング・グロリアスはブレードを抜いた。重力を無視して、とっさにシールドでガードした緑のウィング・グロリアスを弾き上げた。今度はそれを抜き去り、更に上へと優美は機体を加速させた。そして、そこから急激に向きを変えて重力を利用したブレード攻撃を加えた。今度は、緑のウィング・グロリアスはブレードでそれを受け止め、スラスターを全開に開いて受け止めた。 「さすがだな。“ファーストモデル”のパイロットは他とは違うようだ」 エルトは久しぶりに強敵と出会えた。しかも相手は同型機に乗るパイロットだ。その戦い方から相手の姿を想像してみる。男なのだろうか、女なのだろうか。胸が高鳴った。“深紅の鷹”は後回しにしてでも、このパイロット戦ってみたい。 「優美!」 「大丈夫!このウィング・グロリアスは私が止めます!」 「分かった。気をつけろよ!」 「はい!」 レッシュの耳に優美から強い自信のある声が届いた。迷いはあってもレッシュを守りたいと言う気持ちは揺るがない。彼女を動かしているのはその気持ちだった。 「確認できました!戦闘を行っているのはリー部隊です。“深紅の鷹”の部隊と戦闘中!」 その言葉は翼、ヴィラ、バラッドにも伝わる。 「・・・レッシュか」 「アイツ・・・今日こそ・・・」 翼は目を閉じた。今までのレッシュのことを思い出してみる。彼が狂気に走ったことがあったのだろうか。そして、彼女がいる限りレッシュはきっと。 「違ってくれ、レッシュ」 翼が思いを馳せているとき、ヴィラは操縦桿を強く握り締めていた。やっと復讐できる。しかも、今は味方の部隊と戦闘中でかなり消耗しているはずだ。この機械で無いと恐らく“深紅の鷹”のレッシュを殺すことは不可能だろう。そして、彼を倒せば彼の恋人らしい、“ユミ”という人物が狙ってくるだろう。どのみち。2人はまとめて倒さなければならない相手だ。 「“深紅の鷹”・・・レッシュ・・・私は」 直後、バラッドの100が出撃し、ヴィラのシャイニングにも出撃のGOサインが発せられた。 「ヴィラ・ハイオルス、シャイニング行くわよ!」 加速されたGが飛び立って行く。次いで、翼のブラック・バードがカタパルトにセットされた。通信用のモニターが開き、ブリッツェンの顔が映った。 「鷹山君」 「何だ?」 翼は顔を上げた。ブリッツェンの顔はいつもより暗く見える。 「“深紅の鷹”だが・・・」 「安心しろ。俺が何とかする」 「そうか。頼んだぞ」 それきりで、通信は終了した。翼はもう一度目を閉じて深呼吸する。レッシュがいるならあいつとまともに話がしてみたい。あいつは何も変わっていなかった。彼女も同じだった。彼女がいれば彼は変わらない。変わっていたのは自分の方だった。自分が“あの頃”と同じように出来るのだろうか。 「鷹山だ。ブラック・バード出るぞ!」 コクピットに加速Gが襲い、飛び出して行く。慣性飛行を少しだけしてそれは戦闘機へと姿を変えて加速していった。 「ミコ!」 「うっ!」 クルスの声に反応して、ミコの赤いグロリアス・スーパーが薄紫のグロリアスのブレード攻撃を回避する。だが、相手はフライングアタッチメントを装着したGだ。機動力に圧倒的な差がある。 「このおぉ!!」 クルスがマシンガンを放つも捉えきれない。むなしく何も無いところに弾が無駄に飛んでいくだけだ。上空に上がってしまい、すぐにマシンガンの射程距離より遠くに逃げてしまう。不利の以外の何物でもない。 「大したこと無いな」 「直ぐに片付けてリー隊長の援護に向かおう」 「ああ」 2機のフライングアタッチメントを装着した薄紫のグロリアスは片方がブレード抜いて再びブレードを抜いたクルスの赤いグロリアス・スーパーと激突した。“普通”と“スーパー”ではジェネレーターや反応速度の面においては“スーパー”が上回る。だが、それはパイロットの力量でカバーできる範囲だ。性能が上の機体に乗っているクルスでも今日がこの機体に乗り換えて最初の日だ。いくら彼女の腕が良くてもまだ少し慣れていなかった。 「くっ!」 お互いの機体が激突する。フライングアタッチメントを装着していることもあって、強い衝撃がクルスの機体が十数メートルほど地面を削って止まった。グロウならば弾き飛ばされて終わっていたところだ。クルスは操縦桿を一気にスライドさせ、ペダルを踏み込んでスラスターを全開にする。 「おりゃあ!!」 「な、何だと!?」 フライングアタッチメントで加速しているはずのGが弾き飛ばされた。クルスはスラスターを掛けると同時に地面を蹴りだしていた。踏み込んで突き返した。 「コイツ・・・!」 「・・・段々と慣れて来た感じね。グロウより・・・これくらいね」 クルスは反応速度や、出力調整に若干の修正を加えた。あの短時間で出来たのは自分でも驚きだった。 「・・・やるじゃない」 「はぁ!!」 ミコの赤いグロリアス・スーパーはライフルを放ちながら迫ってくる薄紫のグロリアスの攻撃を回避した。そして、すれ違いざまにブレードを抜き、回旋運動を利用した攻撃でフライングアタッチメントを斬り落とした。 「何!?」 「クルスばっかりにいい格好させてられないわね」 バランスを崩して飛び上がれなくなった薄紫のグロリアスは、慌ててフライングアタッチメントを切り離した。ただ切り離すのではない。切り離すのをミコのGの方に向きを変え、切り離したフライングアタッチメントを赤いグロリアス・スーパーに直撃させてきた。 「はあっ!」 ミコの赤いグロリアス・スーパーがブレードを両手で構え、上に振り上げた。そして直撃する瞬間、一刀両断した。真っ二つに割れて、それぞれが地面に叩きつけられ、砂を巻き上げて滑り、そして爆発した。 「・・・この人は・・・“赤き巫女”!?」 薄紫のグロリアスは2機の赤いグロリアス・スーパーの違いを見つけた。今、真っ二つにした方のGの肩にはエンブレムがある。それは赤い袴を翻した少女のようなエンブレムだった。 「どうして・・・アサダ中尉!?」 「え!?」 突如通信が開いた。薄紫色のグロリアスのパイロットは驚きだった。同じようにミコも驚く。“赤き巫女”、世界政府部隊の中でもエリート部隊に所属したとされているパイロットだ。月での戦闘中に部隊が壊滅的被害を受けたが彼女は生き残った。だが、彼女の上官が全ての責任を彼女に押し付けた。彼女は部隊のメンバーを助けようと必死に戦ったと言う者もいた。本当は、上官の無茶な作戦で部下が巻き添えを食らったのが本当のところだった。彼女は部隊の中でもトップクラスのパイロットだと聞いている。きっと、上官がそれを妬み彼女を陥れたのだろう。彼女は反論もせずに左遷されたと噂されていた。彼の中では憧れの存在だった。 「誰なの!?」 「俺は世界政府軍にいたんです!何故、傭兵なんかになったんですか!?」 「・・・あなたには分からないわ」 明らかに動きの鈍った薄紫のグロリアスにミコも攻撃の手を少しだけ休めた。そのときだった。 「何!?」 「うりゃあぁ!!」 クルスはグロリアス・スーパーを一気に飛び上がらせた。その行動に薄紫のグロリアスのパイロットは驚いた。シールドでタックルし、弾きあげる。そしてバランスを崩した瞬間、上を取った赤いグロリアス・スーパーが薄紫のグロリアスを一刀両断した。真っ二つに割れ爆発する。そして、ブレードを構えたまま赤いグロリアス・スーパーが膝を突いて着地した。 「トスリー!!・・・お前ぇ!!」 「ちょっと!ミコ!何やってんのよ!」 ミコの前から薄紫のグロリアスの姿が消えた。横をすり抜け、一直線にクルスのグロリアス・スーパーに突進した。クルスはそれを簡単に受け止める。フライングアタッチメントを装着した状態でも突き返すことができた。つまり、性能が1つ落ちる機体にパワー負けするはずがない。互いのブレードから火花が散る。 「アサダ中尉!・・・どうして傭兵なんかになったんですか!?」 「“傭兵なんか”・・・?」 ミコの言葉が止まった。クルスにもその通信が聞こえてくる。クルスは“アサダ中尉”と呼ばれたことに驚いた。 「・・・中尉!?ミコ!どういうことなの?」 「後で話すわ。クルス」 クルスのグロリアス・スーパーが薄紫のグロリアスを吹き飛ばした。地面を滑って、止まり、ミコの方の赤いグロリアス・スーパーに向き直る。 「俺は認めません!・・・“敵”となるなら俺は・・・」 「・・・それはあなたの都合でしょ?」 「え・・・?」 「私はもう軍とは関係ないわ。私は居るべき場所を見つけたのよ」 ミコが機体を加速させる。ブレードで斬りかかるが薄紫のグロリアスのシールドに阻まれた。 「あなたには、私のことを理解するなんて出来ない・・・」 「認めません!・・・俺は!!」 薄紫のグロリアスのパイロットが叫んだ瞬間だった。シールドで突き返し、ミコのグロリアス・スーパーに斬りかかる瞬間、薄紫の機体が真っ二つに斬れた。 「ああっもう!!うっさいわね!!」 「うわああ!!!」 爆炎を上げて崩れ落ちる機体をミコは静かに見つめた。クルスの赤いグロリアス・スーパーはブレードを振って、元の状態に戻した。 「ミコ?」 「・・・大丈夫よ」 静かな声でミコから返事が返ってくる。その声を聞いてミコは強めに言い返した。 「何なのよ!さっきのアイツは、“昔のミコ”しか知らないのよ。・・・今のミコとは違うわ!」 「クルス・・・」 「ミコの過去に何があったかは知らないけど、私は今のミコが好きだよ」 「ありがとう」 ストレートに言ってくれるクルスに何度ミコは助けられたのか分からない。彼女がいなければ、今、自分がこうやっていることは出来なかったのだろう。素直に出てきた感謝の言葉にミコは胸を押さえてそっと、この感情をかみ締めていた。 ジャンル別一覧
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