049747 ランダム
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waiting for the changes

waiting for the changes

45話:すれ違う心

「無理でもやらねぇとダメなんだ!・・・気合入れていけよ!」
「はいっ!!」
「待って!」
翼が優美に声を掛けその元気な返事が帰ってきたとき、翼に通信が掛かった。通信モニターの向こうではヴィラが医務室から心配そうに見つめていた。
「翼君・・・」
「何だ?」
「・・・絶対に帰ってきて。みんなで一緒に」
ヴィラの言葉に翼はふっと笑った。そして、力強く言った。
「任せろ。行って来るぜ」
その顔をヴィラはほっとした。彼なら大丈夫だ。ブラック・バードがカタパルトに下ろされる。計器類が光を放って、メインモニターが点りに外の世界が映し出された。その下の小さなモニターにはEVEの信号を元にした大体の位置が表示されている。
「ブラック・バードにデュアルリニアライフルをセット・・・進路クリア発進してください!」
「鷹山だ!BB行くぜ!!」
カタパルトが加速して、ブラック・バードが飛び出していった。新装備が今回から施されており、レッド・バードのパーツを使うことで更なる軽量化を図ることが出来た。機体が軽く感じる。翼はブラック・バードをすぐさま人型形態から、戦闘機形態に変形し加速していく。続いてカタパルトにはウィング・グロリアスがセットされた。
「優美機には標準装備を・・・カタパルト動作確認、進路クリア・・・発進してください!」
「樹村優美です!ウィング・グロリアス行きます!!」
カタパルトから放たれたウィング・グロリアスは翼を展開し、太陽光を反射して輝いた。
「優美、一気に決めてさっさと帰るぞ!」
「了解!!」
2機のGが地図上に示された場所に向かって一直線に飛んでいった。


――数時間前
「輸送機を確認。・・・信号認証、着艦を許可する」
「了解」
小型の輸送機がギア・フルードのカタパルトに着陸した。コンテナが搭載されており、それを下ろすとすぐさま飛び立っていった。コンテナはGが入る大きさで2つあった。受取証を見て整備主任は唸る。
「これがレイ特佐の機体か・・・」
「こっちは・・・ブラウ・ルーシャ?誰だ?」
「あたしのよ!ちゃんと扱ってよね!」
整備主任は声のする方向を向いた。その声の若さから一瞬幼い子供かと思ったほどだった。そこには年のころ18、9歳ぐらいの少女が歩いて来ていた。世界政府の特別職を表す裾と襟に赤いラインの入った黒ジャケットの制服に襟にワンポイントのある黒いブラウス、黒ネクタイ、ジャケットと同じく裾に赤いラインの黒いプリーツのミニスカートに黒いハイソックスにちょっと厚底のローファーと、全身黒で固められた少女だった。
「レイに言われてないの?」
両手を腰に当ててはきはきと喋るブラウはあたりを見回した。
「レイは?お迎えにきてくれるって聞いたんだけど?」
「さぁ?・・・あ!来ましたよ」
「レイ!!・・・元気だった?」
ブラウはレイの姿を確認すると駆け寄っていった。レイに飛びつくと、彼を見上げて笑う。レイは彼女を少し離すと、無表情な顔で言った。
「まあな。で、持ってきたのか?」
「当たり前よ!・・・あたしの、し・ん・さ・く!」
ブラウはにっこりと笑って、ジャケットのポケットからディスクを取り出した。
「はいこれ!データだよ」
「これか・・・」
レイはディスクを受け取るとそれをまじまじと見つめた。その表情を見てブラウは膨れた顔をした。レイは相変わらず無表情で、起伏の無い声で話す。
「もー、レイってば!」
「何だ?」
「もっと感謝してよね!納期より3日も早めたんだから!大変だったんだよ?」
ブラウはレイに迫る勢いで顔を近づけた。そんなブラウを見てからレイはやっと感謝の言葉を発した。
「ご苦労だった」
「もう!もっと感謝してよ!」
「・・・感謝している」
レイの言葉にブラウはため息をついて手をひらひらと振った。
「・・・もういい。次戦闘起きたら、私も出るから」
そう言うとブラウはディスクをもう一枚取り出すと整備主任に投げた。落としそうになったが何とかキャッチできた。笑顔を見せてブラウは言う。
「それでセッティングしといてね!・・・“シエン”の方が私のだから!」
そう言うとブラウは居住区へとコツコツと足音を立てながら歩いていった。レイはコンテナから出された新しい自分の機体を見上げた。白に黄色いラインが入ったカラーリングが施されている。その横に立つのは“シエン”と呼ばれた黒を基調とし、ワンポイントで赤が使われた機体だった。どちらの機体も現行のどの機体にも属さないシリーズの機体のようだ。
「“クリックス”か・・・これのセッティングも頼む」
「了解」
レイはディスクをコンピューターに入れ、コピーさせると1枚は整備主任に渡した。もう1枚を黒いジャケットの内ポケットに仕舞った。


「はぁ・・・」
ブラウは用意された部屋に入るとジャケットを脱ぐと無造作に机に放り投げた。インナーの黒いノースリーブのブラウスを着ている。苦しい格好から開放されてため息をつく。ネクタイを思いっきり緩めて2つ、3つボタンを外して、椅子にどさっと座り込んだ。天井を見上げてぼーっとしていたが、「よし!」と膝を叩いてブラウは立ち上がった。この艦を見て回るのがいい暇つぶしになるだろう。扉のところまで行ってブラウは立ち止まった。
「あ、そうそう・・・これ付けてないと」
部屋の机まで戻るとブラウはジャケットを持ち上げた。胸元についていた特別階級を表す金色のバッジを取ると、ブラウスの左の胸元に取り付けた。見たこともない人が突然艦にいれば誰もが疑うだろう。
「さてと・・・どこに行こうかなぁ~」
軽くスキップしながら人が殆ど通らない通路を行く。突き当たりのT字路で誰かと思いっきりぶつかった。
「きゃっ!」
「痛ったぁ・・・もう!」
飛ばされたブラウはスカートを直して勢いよく立ち上がった。すると、目の前にいたのは見たこともない美人だった。ついその姿に見とれてブラウは怒っていたことを忘れてしまう。世界政府軍の制服の胸元を大きく開いて、白い大きな胸が見える。茶色い毛先に向かって軽くウェーブが掛かった、腰に届くほどの髪の毛が揺れていた。
「大丈夫?」
「あ・・・うん」
「見かけない顔ね?配属されてきたの?」
桜はきょとんとしているブラウに微笑んだ。その顔を見てブラウは赤くなってしまう。しかし、その笑顔の向こうにある暗い影のようなものをブラウは見たような気がした。
「な!まあ・・・あたし・・・」
「ふふっ、私は美山桜よ、階級は少佐、よろしくね」
笑顔で挨拶をする桜にブラウは気を取り直して言った。
「ブラウ・ルーシャ!階級は特佐。・・・見て!これよ!特別職ね」
そう言うとブラウはブラウスの左胸に付けていた金色のバッジを見せた。そのバッジを見て桜は固まる。レイが付けていた物と同じものだったからだ。
「それ・・・あの人が」
「あ、レイと知り合い?・・・レイは無愛想で困るでしょ?」
笑顔で言うブラウを桜は黙って見つめた。この子はレイがやっていることを知っているのだろうか。彼女の知るレイと桜の知るレイには温度差があるように思えた。悲しい表情に変わった桜をブラウは見上げる。
「どーしたの?」
「ううん・・・なんでもない」
桜は横に首を振るが明らかに元気がなくなったことははっきりとしている。ブラウははっと思い出したように、桜に聞いた。
「ねぇ!“F”ってどこにいるか知ってる?」
「え・・・?」
「知らない?“エデン・チルドレン”の施設外で生存した珍しい“サンプル”だって聞いたから」
あたりをきょろきょろと見回してブラウは言う。桜はサンプルという言葉にまた胸が痛む。彼はやはりただの珍しい“モノ”のようだ。桜は唇をかみ締め聞こえるか聞こえないか分からないぐらいの小さな声で言った。
「・・・レッシュはサンプルじゃないわ」
「え?・・・桜少佐?」
「ううん・・・なんでもない」
「・・・知ってるの?“F”がどこにいるのか?」
この子もきっと興味本位なのだろう。桜の内心ではこんな子をレッシュに会わせたくなかった。だが、彼女は年下に見えても立派な上官だ。“特別職”に与えられた権限は相当なものがある。
「・・・Bブロック・・・医務室2」
「わかった!ありがと!」
そう言うとブラウは桜に手を振って走っていってしまった。桜は壁に軽く頭を打ちつけた。悲しくて、何も出来ない自分に涙が溢れる。
「うっ・・うっ・・・何も・・・わた・・・しは」
桜はそのまま力なく座り込んでしまう。その直後、艦内に敵機が接近することを知らせる警報が鳴り響いた。


「確認されている機影は2!ウィング・グロリアスと“漆黒の鷹”」
その言葉に桜はぴくりと反応した。間違いない。彼と彼女だ。レッシュを取り戻しに来たのだろう。だが、たった2機ではこちら側の戦力を考えると無謀とも言える。
「・・・やっぱり、あの人を・・・」
桜は拳を握り締めて桜色のグロリアス・バーサスを見上げた。彼を簡単に奪い返されるわけには行かない。・・・絶対に。機体に乗り込もうとしたときに、はきはきと話す声が桜の耳に届いた。
「“シエン”の整備終わってる?」
「はい」
「ありがと!・・・あ!桜少佐!」
整備主任と話していたブラウは桜の姿を見つけ、駆け寄ってきた。さっきと同じく黒のパイロットスーツ。肩と腕、足や腰に赤いラインが入っている。
「あなた・・・」
「私も出るの!よろしく!・・・あ、それから」
「何?」
「さっき、桜少佐に“F”の居るところ教えてもらったんだけど、行っても居なかったんだよね」
しょんぼりして言うブラウだったが、桜は衝撃を受けた。嘘を言った覚えは無い。あの部屋に居ないということはどういうことなのだろうか。
「知らない?」
「・・・私にも分からないわ・・・あの部屋に居たはず・・・」
桜は思いつめたような顔をして考え込んでしまった。そんな桜を見て、ブラウは肩をパンパンと叩いた。
「大丈夫!この艦のどっかに居るんでしょ?もしかして、部屋が換えられただけかもしれないでしょ?」
腰に手を当ててブラウじはにっと笑った。桜はその笑顔を見て少しだけだが気が楽になったような気がした。それに彼女はレイとは違うようだ。
「ありがと」
「さ、さっさと片付けちゃいましょ?」
ブラウは桜が乗っていたゴンドラから飛び降りると自分の機体に乗るためのゴンドラに乗って上がっていった。桜は彼女の機体を見上げた。漆黒の機体。背中に4枚の水平翼、真ん中に長い筒のような推進装置と思われるものがついている。さらに、バックパックにはジェネレーター強化パックと尾翼、しれに小さな副翼が2枚左右に取り付けられている。脚部にも推進装置が施され、完全な空間戦闘を意識した機体だった。両手にライフルをもって両腕には小さなシールドが取り付けられている。完全に新型、といったフォルムだ。ブラウがその機体に乗るのを確認してから、桜も機体へと乗り込む。
「・・・もう・・・これ以上私は・・・」
桜のグロリアス・バーサスが起動し、モニターに灯が点る。カタパルトに運ばれてセットされた。ハッチが開いて光が差し込んできた。青い世界が広がる。
「美山桜、グロリアス・バーサス行くわよ!」
機体が加速し、空中に飛び出した。フライング・アタッチメントが機体を空へと運ぶ。続いてビリシャ、部下の青年が発進してくる。
「ブラウ・ルーシャよ!シエン、行って来るよ!!」
空中に飛び出したシエンは、凄まじいスピードで加速していく。あっという間にビリシャたちを抜き去り、先行した桜に追いついた。通信が開いてブラウの顔が桜のモニターに映る。
「ねぇ!敵は“漆黒の鷹”なんでしょ?・・・聞いたよ、レイから」
「え?」
その言葉に桜は驚いた。言葉に詰まる。ブラウはさっきまでの口調とは違っていた。
「あたしはウィング・グロリアスを片付けるから、桜少佐は“漆黒の鷹”をお願い!」
「・・・」
桜が黙っていると、ブラウは「あ・・・」と小さく言ったあと言った。通信モニターに映し出される桜の表情は硬いままだった。
「ここで決めて、・・・早く全部終わらせましょ?」
「・・・ええ、そうね」
小さく返した桜にブラウは笑顔を見せた。桜色と黒い機体が平行して飛ぶ後方には20機近いGが続いていた。

「多いな・・・」
「でも・・・っ」
翼と優美はGの多さに少しだけ圧倒された。だが、退く訳には行かない。無茶でも、何としてもレッシュを奪還する。2人はそれだけだ。

「見えた!!」
「・・・今日こそ」
ブラウが迫ってくる戦闘機と純白の機体を見つけた。両機とも相当なスピードだ。ブラウは最高階級者として全機に指示を出した。
「各個撃破を命ずる!相手は“漆黒の鷹”だよ!常に最低2機以上で行動!上を取られたり、単機になった場合は構わず引いて、体勢を立て直して!・・・いい?」
「「「了解!」」」
「この子・・・」
桜はブラウが出した指示に感心した。若い彼女にしては的確な指示だ。後方に居るGたちが散開して左右から“漆黒の鷹”とウィング・グロリアスを狙う。
「ちっ・・・!アイツか!」
翼はそのGたちを引き連れているのが、“乱れ桜”であることを確認する。とりあえず“アレ”を重点的に押さえれば、他は優美の敵ではないだろう。と、翼はその横に居る黒いGが気になった。
「何だありゃ・・・?見たこともねぇモデルだな・・・」
先に仕掛けたのはその黒いGだった。両腕のライフルからエネルギー弾が放たれた。それはブラック・バードとウィング・グロリアスを捉えていた。
「行っけぇ!!」
「行け!!優美!!」
「はいっ!!」
ブラック・バードは機体を回転させてその弾を避けた。ウィング・グロリアスは急激に高度を落として回避する。海面まで一気に降りると、波しぶきを高く上げて一気に加速する。
「あの白いのはあたしがやるから!」
ブラウは操縦桿を引き、ペダルを一気に踏み込んだシエンは真っ直ぐ優美のウィング・グロリアスへと向かう。速い。
「速い!?・・・このっ!!」
優美はトリガーを引いて“G-4”を放った。一直線に向かってくるGなら回避するのは難しいはずだ。だが、シエンは羽根を“羽ばたかせ”微妙に機体をずらした。その動きを見て翼と優美は同時に驚いた。
「マジかよ!?可動翼か!?」
「これ・・・レッシュと翼さんの・・・!」
4枚ある水平翼が微妙に動き、速度を緩めるとこなく向かってくる。両手のエネルギーライフルが放たれた。銃弾が降り注ぐ中それを全て優美は回避した。
「嘘っ!・・・ちょっとやるじゃん、あのパイロット。それにあの機体・・・」
ブラウは純白のウィング・グロリアスをよく観察した。ノーマルとは違う装甲デザイン、恐らく“ファーストモデル”と呼ばれる上位生産型だろう。それにスラスターの“質”が違う。反応速度も速い。相当な手馴れとブラウは判断した。甘く見ていたブラウは考えを改める必要があった。冷静になって、ひとつ息を吐いた。
「イエロー・チーム、ブルー・チーム!あたしの援護をお願い!」
「了解、イエロー・リーダー」
「ラジャー、ブルー・リーダー・・・行くぞ!!」
海面を飛んでいたアスロート3機と上空からウィング・グロリアスとグロリアスのフライング・アタッチメントモデルが一気に迫ってきた。優美のコクピットにロック警戒シグナルが響き渡る。
「それでも私は・・・止まる訳にはいかないの!!」
さらに優美はペダルを踏み込んでウィング・グロリアスを加速させる、雨のように降り注ぐ銃弾が機体を捉えずに海面へと落ち、水柱を上げる。ブラック・バードがウィング・グロリアスの援護に向かう。
「優美の邪魔はさせねぇぞ!!」
ブラック・バードは戦闘機形態から人型形態へと形を変えると、デュアルリニアライフルを放った。強力な弾丸が2機のアスロートを葬り去った。だが、ブラック・バードの後方には桜のグロリアス・バーサスが迫る。ブレードを降り下ろしたが、リニアライフルに受け止められた。その大型のリニアライフルは銃身の下方が高出力なブレードになっていた。
「くっ・・・“漆黒の鷹”!!」
「あんたも同じだ!!レッシュは返してもらうぞ!!」
その言葉に桜は胸が痛む。やはり、レッシュが狙いだ。だが、彼を簡単に渡すわけにはいかない。
「レッシュは渡さないわ!!」
「んだと!!」
桜の言葉に翼は歯をかみ締めて叫び返した。


「・・・優美が来てる。・・・レッシュはどこ?」
EVEはセンサーを起動して周辺を捜索した。ある部屋でセンサーはヒットする。
「距離129メートル。・・・周辺に生体反応2」
レッド・バードは手をつけられていない状態でコクピットハッチを開いたままそのままの状態で放置されていた。レッシュがコクピットから出てからレッド・バードに調査が入ったが性能の把握やメインコンピューターにはアクセスが出来ない状態だった。EVEが前システムにプロテクトを掛けて、ロックしていたからだった。

――格納庫
「どうなってんだ?」
「うんともすんとも言わないぞ・・・」
レッド・バードのどのスイッチを押しても何も反応しない。キーボードを弾こうが操縦桿を動かそうがレッド・バードはそのままだった。技術者たちは首を傾げる。
「それに何だコリャ?・・・AIか?」
通常のGには搭載されていないような装置が目に入ってくる。それはどうやらこの機体に深く組み込まれてるようだ。
「いじってミスったら使い物になりそうにねぇな。これは置いておくのが得策だな」

ラッキーだった。機体自体に損傷は少ない。動かせる。だが、最警戒プロテクト状態を解除できるのはレッシュだけだ。彼が来ないと話しにならないが。
「レッシュ・・・早く来て」
EVEの願いの向こうでレッシュにレイが迫っていた。


「邪魔しないで!!」
ウィング・グロリアスが“G-4”を放った。シエンはそれをまた回避して、迫って来る。至近距離で両手のライフルが光った。
「これでどう!?」
「くっ!!」
ギリギリでそれを回避した優美のウィング・グロリアスだったが、バランスを崩して、右足が海面を掠める。そこ軸に、前につんのめるような形になった。そこに2機のフライング・アタッチメントを装備したグロリアスが迫った。
「きゃっ!」
「喰らえ!!」

直撃する。
死の恐怖。
全身の血の気が一気に引く。
・・・終われない。
彼を・・・レッシュを助けるまでは・・・
また一緒に居るためにはこんなところで・・・。

「私は!!」
スラスターが全開になり、機体が前方宙返りをした。体勢を立て直すと思っていたグロリアスのパイロットたちはその動きに驚いた。
「何だと!?」
攻撃を回避して、ウィング・グロリアスは途中で体勢を立て直すのを止めた。海面を背にして平行に飛び、“G-4”を放った。2発ずつ放ち、攻撃能力を奪う。その滑らかな動きに翼も桜、ブラウも驚いた。
「な!何で!?」
「へぇ・・・やるじゃねぇか」
「あの機体・・・この前と動きが違う」
桜はウィング・グロリアスを見て思った。この前と違う。ぎこちなさが無い。そしてあの動き、恐らく“ユミ”と呼ばれたパイロットだろう。彼女は・・・強い。桜の表情が硬くなった。彼女の力がレッシュの力となっているのは桜は気づいていた。その逆も考えられる。ブラウにそのことを伝えた。
「その子は強いわ!気をつけて」
「あれ見れば只者じゃないって!・・・大丈夫っ!」
ブラウは早口で返して来た。桜の言葉を聞いてブラウはまたひとつ息を吐いた。落ち着け。落ち着けば倒せない相手ではない。オリジナル機体であるシエンに量産型の機体が負ける訳が無い。あのパイロットに隙を見せたら、終わる。
「・・・狙いが“F”なら・・・」
ブラウはシエンを加速させると優美のウィング・グロリアスの前に立ちはだかった。
「ここからは行かせない!」
「・・・っ!」
翼はちらりと優美の機体に目をやると再び目の前の桜色の機体に視線を移した。一旦距離を取ったグロリアス・バーサスに向かってリニアライフルを放った。それはあっさりと回避される。回避した瞬間、桜はそれが陽動であることに気づいた。狙いが甘すぎる。
「フェイク!?・・・しまった!!」
桜が気づいたときにはブラック・バードは戦闘機形態へと変形していた。桜のGを抜き去ると、再び人型形態に変形する。リニアライフルとそれに一体になったブレードで一気に4機のGを片付けた。そこにブラウの指示が飛ぶ。
「指示を忘れないで!引いて立て直すの!」
世界政府軍のGたちはブラック・バードから距離を取ると体勢を立て直し始めた。単機で居ることを避け、常に2機以上の体勢を取っている。動きも違う。
「コイツ等・・・動きが違う!?」
翼は世界政府軍のGたちを睨みつける。決して突っ込んでくるGは居ず、常に距離を取って攻撃を仕掛けてくる。2、3機で固まっている分距離を詰めづらい。後ろから、桜の機体が迫った。
「もう・・・、全部ここで!!」
「ああ、くそっ!!お前は!!」
ブラック・バードは振り返ると桜色のグロリアス・バーサスのブレードを受け止めた。


「・・・誰だ?」
レッシュはうっすらと目を開けた。誰かが目の前に居る。
「“F”・・・活用させてもらう」
「・・・?」
その男の手には注射器が握られていた。薄い黄色の液体がその中で光る。
「うっ・・・」
その注射器はレッシュの右腕に打たれ、液体が流れ込んでいった。注射器を抜かれたその直後、レッシュの体がビクリと大きく動いた。目を大きく開いてベットの上で暴れる。
「ぐあああああ!!」
「さあ、働いてもらうぞ」
「ぐうう・・・があああっ・・・」
静かになったレッシュはベッドからゆっくりと起き上がった。その深い緑色の目には力が無い。輝きを失っていた。レイはレッシュと目線を合わせて呟くように言った。
「さあ、あの2機と、ジア・エータを落として来い」
「・・・了解」
レッシュはベッドから立ち上がるとゆっくりとその部屋を出て行った。




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