63話:ロンドンの風(前「これが最新艦?・・・デカいな」「何か機動性も火力も防御力もスゴいらしいよ?」 「へぇ・・・」 マサは地下施設にある“ヴィクトリア”をリナリーと眺めていた。今までの艦とはデザインが一新され流線型の白く美しい船体になっている。強力なエネルギー砲も装備されているという噂だ。リナリーはマサのほうを見て言う。 「この前の“白いG”はこの艦が狙いって“J”さんは、言ってたよ」 「それ程のものとはな。まあいい、次も来たら皆殺しだ」 憎しみの表情を浮かべるマサを見てリナリーは悲しげな表情をした。彼は復讐に憑り付かれている。そんな彼を見るのが辛かった。リナリーは彼の顔を見つめて聞いた。 「マサ・・・私との“約束”覚えてる?」 「・・・ああ」 「絶対・・・絶対破ったらダメだからね!」 必死に言う彼女の表情を見てマサは少し赤くなって目を逸らした。 「ああ・・・わかってるって・・・大丈夫だ」 その言葉を聞いてリナリーは目を擦ると笑顔を見せた。 「ふーん・・・“ヴィクトリア”ねぇ・・・」 “ヴィクトリア”と表示された画面を顎をブラウは見ていた。手の上に乗せてノースリーブの黒いブラウスにボタンを外して、緩めた赤いネクタイと開けた胸元、黒いプリーツのミニスカートから伸びる素足をパタパタと上下に動かして、ベッドにうつ伏せで寝転がってブラウは画面を見ていた。レイは床に落ちていた黒い靴下を拾い上げて彼女の横に置いた。 「だらしないぞ」 同じような黒い制服に身を包んだレイは椅子に腰掛けた。リモコンで画面を切り替えた。 「いーじゃん別に。・・・ていうか、今度はあたし達が出るのね」 「ああ、“シルバー・ゴースト”と未確認の新型機が4機確認されている」 そして、次に表示されたのは“シルバー・ゴースト”と4機のGの映像だった。ブラウはベッドの上を這って動くと、足の向きをくるりと変えてベッドの隅に腰掛けた。 「このG・・・“MK-1”に似てる」 「ほう・・・“MK-1”・・・“無限”のGか」 ブラウはGに関する知識はかなりのものがある。旧式のGから、局地戦の生産数が少ないG、最新式のGまでのデータを彼女は記憶していた。レイは感嘆の声を上げる。 「似ている・・・と言うと?」 「映像止めて。・・・そう!ここ!!」 レイが映像を止めるとブラウは画面に近寄って指差した。 「ここの部分、胸部は“MK-1”そのものだよ。腕部と足部も大幅な変更点は無いみたい。スラスターと頭部が若干違うからセンサーが増えてるだけだと思うけど・・・」 ブラウは画面を見つめながら首を傾げた。レイはふっと笑った。 「そこまで分かれば上等だ。・・・流石だな」 そう言うレイの顔を見るとブラウは照れて、髪を触って恥ずかしそうにすると、ベッドにまた座った。ブラウは付け足すように言った。 「でも、“MK-1”自体のスペックはかなりのものだから注意が必要よ。それが4機も居るんだからね」 「そうだな・・・“シエン”と“クリックス”はどうだ?」 レイは映像を再生した。ブラウはベッドに寝転がるとクッションを上に放り投げながら言った。 「バージョンアップさせてあるよ!まあ・・・バージョン1.5って感じかな?そのジャケットにディスクがあるから見てみて」 ブラウはクッションを抱きしめながら、レイの腰掛けている椅子に掛かっている黒いジャケットを指差した。レイはそのジャケットを持ち上げる。 「右だよ」 レイは右のポケットに手を突っ込んで青いディスクを取り出した。再びジャケットを椅子にかけると、壁に掛かった大型のモニターの下にある挿入口から黄色いディスクを取り出すとディスクを挿入した。画面が“ダウンロード”に変わる。そして、“シエン”と“クリックス”の項目が表示され、クリックスにカーソルをレイは合わせた。 「シールドの出力強化・・・“オート・オービット”か」 「そ!あたしの自信作よ!状況を瞬時に計算してオービットによるバリアで絶対的な防御力を誇るわ。・・・“エデン・チルドレン”の“それ”には負けるけど、普通のヤツならクリックスに傷ひとつ付けられないって」 ベッドの上にあぐらをかいて座るとブラウは自慢げに腰に手を当てた。レイはふっと笑った後真面目な表情でブラウに言った。 「あの“銀色の光”への防御力は?」 「ああ・・・あの“深紅の鷹”の銀色の銃ね。・・・うん、“あれ”はまだ良く分からない・・・このシールドで受けきれるかどうかは分からないよ。オービットとシールドの出力を最大にして収束させれば、大丈夫な・・・はず」 ブラウは首を傾げて人差し指を頬に当て、視線を上に向けた。 「スペック上、“ミラージュ”にも耐えられるはずだよ」 「まあ、あれほどの武器・・・そうそうあるものではないが・・・。“F”と“鷹”が行方不明なのが気になるな」 レイは足を組みなおすと、リモコンを押してクリックスのデータに目を通していた。ブラウが思い出したように言う。 「ねぇ、“音速の皇帝”が出たって・・・。伝説のパイロット・・でしょ?」 レイはゆっくりと顔をブラウに向けた。 「ああ・・・“F”と共に居る」 「え?じゃあ、“スピード・オブ・サウンド”は“F”の仲間になったってこと!?」 ブラウはレイに近づくようにベッドの隅に行って足を下ろした。 「恐らくな。・・・“序曲”の影響で、正確なデータが送られてこない」 レイは立ち上がると、壁のモニターによってディスクを取り出した。それをポケットに入れるとブラウのほうに振り返った。 「準備しろ。行くぞ」 「りょーかーい!」 ブラウはベッドからぴょんと飛んで立ち上がるとレイに向かって敬礼をした。 薄明かりがブリッツェン、貴子、友子、シェリー、リドの顔を照らす。計器の放つ光だけのコントロールルームだった。外部からのデータは殆どないまま、避難民を乗せた潜水艦はイングランドエリアの領海に侵入しようとしていた。友子が告げる。 「まもなく領海に侵入します」 「報告ご苦労。進路はそのままで構わん」 「了解」 ブリッツェンが言うとシェリーは頷づいた。出力を絞って慎重に暗い海を進む。海の上は晴れているのかどうかも分からない。そして、潜水艦はゆっくりと領海へと入っていった。 イングランドエリアの司令室でサイレンが鳴り響いた。 「指令!!ソナーに反応!軍用の潜水艦です!」 「・・・来たか」 “J”の言っていた通りだった。“J”は海上ではなく、海中、つまり海底にソナーを仕掛けることを提案していた。今までゲートを使った襲撃が“白いG”たちの戦法だった。それを警戒すればよいのだが、“J”は何かを感じ取っていた。そして、イングランドエリアの領海には海中を張り巡らすようにソナーが打ち込まれていた。指令はその報告をしたオペレーターの画面を覗き込んだ。 「どうだ?」 「いえ・・・“J”氏が言っていた“彼ら”でしょうか・・・」 「わからないようなら警戒を続けろ。“J”に連絡!・・・我々も第2戦闘体制に移行」 慌しく兵が動き始め、その情報が“J”に伝わった。 「・・・って、ココどこ?」 「ったく・・・お前はこれだから・・・」 リナリーは軍施設の案内板の前で固まっていた。今どこに居るのかさえもわからない。“J”からの連絡はあったはいいが、格納庫の場所が分からなくなっていた。マサがため息を付くとリナリーはムキになって言い返した。 「じゃあ、マサは分かるの!?どーせわからないんでしょ!」 「くっ・・・お前が地図を見てないからだろ!」 「あんたが!!」 方向音痴の2人がどっちが悪いか言い合いしていても埒が明かない。ちょうどその時、特徴的な髪型をした女性がそこを通りがかりリナリーの目に留まった。綺麗な金髪を短く切りそろえて、俗に言う“おかっぱ頭”にしている。リナリーはその女性を呼び止めた。 「あのぉ・・・すいません」 「はい?・・・なんでしょう」 その女性は資料を脇に抱えたまま振り返った。世界政府軍の軍服に身を包んでいる。リナリーは申し訳なさそうにその女性に聞いた。その女性も私服で居るリナリーとマサを珍しそうに見ていた。 「あの・・・格納庫ってどこですか?」 「格納庫ですか・・・。第1~4まであるのですが・・・どちらでしょう」 礼儀正しく言うその女性の言葉にリナリーは唸った。格納庫が4つあるとは聞いていない。思わず隣に居たマサを小突いて「助けて」の表情で彼の顔を見た。マサは渋い顔をしてその女性に聞いた。 「あー・・・Gのあるところは?」 その曖昧な質問にリナリーは肩を落として、そのおかっぱの女性は首を傾げた。とりあえず、その女性は掲示板を見上げた。一番近い第3格納庫を指差した。 「第3格納庫は専用格納庫、現在は新造艦があります」 「さっき居たね」 「ああ、そうだな」 女性の言葉に2人は同時に頷いた。それを見てその女性は小さく笑った。2人は同じような表情で同じように反応していた。次に第1、第2格納庫を指差した。 「こちらは主にGの格納庫です。・・・Gパイロットですか?」 「うん・・・でもね、ココのパイロットじゃないの」 そのリナリーの言葉を聞いて「あっ!」という表情をして2人の顔を見た。おかっぱの女性は私服姿の2人の正体がわかったようだ。 「もしかして、“シルバー・ゴースト”の仲間の方ですか?」 「そうそう!」 パッとリナリーの表情が明るくなった。その女性は第2格納庫を指差した。 「一緒に機体を置いてあるのであればこの格納庫にありますよ」 「ホントに!?ありがとうございます!」 「・・・ったく、最初にアイツの名前出せば早かったんだ」 彼女と別れて歩き出したマサがため息をつきながらリナリーに言った。リナリーはムキになって言い返した。 「な!あんたが・・・」 言い合いをしながら歩いていく2人の後姿を見ておかっぱの女性はため息をついた。嘗ては自分もあのような感じだったのだろうか。“彼”は無事なのだろうか。“彼女”も。あの後、野営地が襲撃され、私だけが生き残った。無残なものだった。正体不明の白いGが襲い掛かってきた。そして、世界政府軍の部隊に救出された。 「無事だと・・・いいな」 そう言って彼女は目を閉じた。 「時間です」 「ゲート展開!!ゲート・ジャンプします!」 レイはゆっくりと目を開けた。ブリッジクルーが叫ぶと空間が歪みホールが現われる。その中へとゆっくりと“ナディア”は進んで行った。新たに建造された3隻の戦艦、“クローディア”、“ナディア”、“ヴィクトリア”女性の名前を冠した3隻の戦艦は次世代に向けた高性能戦艦だった。レイはシートから立ち上がるとブラウを呼んだ。すぐ近くに座っていたブラウは笑顔でぴょんとレイの横に立った。 「ブラウ」 「はいな♪」 「行くぞ」 「りょーかーい!」 レイの横についてブラウは敬礼をした。ブリッジルームを彼らが出て行った瞬間、ナディアは空間を飛び越えロンドンの沖合に出現した。ロンドンの司令室は一気に慌しくなった。 「ゲート反応!!」 「未確認艦出現・・・ライブラリーに照合!・・・ありません」 「光学映像・・・でます!!」 司令室の大型モニターに写された映像を見て、兵士達は驚いた。漆黒の巨大な戦艦。イングランドエリアの指揮官も思わず手にしていたファイルを落とした。 「馬鹿な・・・“ヴィクトリア”・・・!?」 「・・・違う・・・あれは“ナディア”だ!!」 「何だと!?」 その声のする方向を指揮官は見た。“ナディア”と叫んだ兵士は忙しくキーボードを弾いて、サブモニターにデータを展開させた。黒い戦艦の映像が展開した。名前の欄に“NA-DEAR”と表示されていた。 「“Lシリーズ”の内の1隻です!!」 と、言った瞬間、ナディアから白いGが4機飛び出してきた。つまり、仲間ではない。友好的な雰囲気ではなさそうだ。指揮官はパネルに拳を振り下ろした。やはり、彼らは正面撃って来た。 「くそっ!」 指揮官は横にいた兵士に早口で言った。 「各員に対侵略戦闘用意!!・・・“潜水艦”の監視も続けろ」 「了解!!」 近くの受話器を持ち上げると指揮官はモニターを覗き込んだ。映し出された映像には銀髪の青年が映る。“J”だ。 「来たようですね」 「すまないが、出撃してくれ」 「わかりました」 そう言うと通信は切れた。指揮官は落ち着かない様子でシートに腰を下ろすと腕を組んだ。 「・・・頼んだぞ・・・」 「艦長!」 友子が振り返ってブリッツェン呼んだ。ブリッツェンはすぐさま指示を出した。“上”で起きていることはこちらにも伝わっていた。ブリッツェンは受話器を持ち上げた。 「急速浮上!鷹山君、ヴィレドル君、リー君は出撃の準備を」 シェリーが艦内に警報を鳴らした。と同時に艦内に放送をかけた。シェリーは操縦桿を勢い良く引き、スロットルや出力レバーを倒した。 「クルーはショック体勢を!」 その艦内通信を聞いて翼は舌打ちした。強い衝撃が2人を襲った。その横でジャックがゆっくりと立ち上がった。 「上の状況は・・・わからねぇだろうな・・・」 「仕方ないだろ。・・・だが、どんな状況でもミッションをクリアしてのプロだ」 吐き捨てるように言った翼に冷静にジャックは言った。その言葉を聞いて、翼はふっと笑った。ジャックはすでに部屋を出て行こうとしていた。 「言うじゃねか・・・。さすが“音速の皇帝”だな」 「口を動かす暇があったら、体を動かせ。・・・敵は待ってくれないぞ」 「ああ!分かってるっ!」 翼はジャックの後ろについて部屋を飛び出して行った。 レイはコクピットの中でヘルメットを被った。そして、ブリッジに通信を開いた。 「イワサキ艦長」 「何だ?」 「“ミラージュ”であれを破壊してください」 そう言ったレイの視線に時計塔が映った。歴史的遺産、“ビッグベン”と呼ばれる建物だった。イワサキは渋い顔をした。 「いいのか?」 「構いません。新世界に旧世界のモノは必要ありません」 「了解した。・・・“ミラージュ”エネルギー充填、照準“ビッグベン”」 イワサキが指示を出すと、モニターがエネルギーチャージのメーターに切り替わった。“ミラージュ”に光が集まる。それをロンドンの指令室も察知した。オペレーターが振り返って叫んだ。 「高エネルギー反応!!・・・“ミラージュ”発射体制です!」 「目標はどこだ!?」 「“ビックベン”です!」 「ガードシステムオンライン!プロテクト解除・・・ガードオービット・・・展開!!」 避難が終了したロンドンの閑散とした街並み。車が所々に並び、窓には洗濯物が掛けられたままだ。漆黒の戦艦のエネルギー砲がその街を焼き尽くそうとしていた。イワサキは叫んだ。 「撃てぇ!!!」 「間に合え!!」 指揮官が叫んだと同時に“ミラージュ”が放たれた。真っ直ぐに“ビッグベン”へと向かう。その時、道路が開いて無数のオービットが出現した。そして、放たれた光は“ビッグベン”の300メートルぐらい先で展開したガードオービットに“ミラージュ”は阻まれた。光が拡散し、エネルギーの流動が起きた。周りの建物を吹き飛ばし、車が吹き飛んだ。凄まじい衝撃がロンドンの街を襲う。外部を映していた映像が乱れ砂嵐に変わる。ちょうどその時、“J”から準備が出来たという通信が入ってきた。指揮官はすぐに指示を出す。 「5機とも配置に付きました。いつでも出れます」 「街の被害状況確認!・・・確認後、“ナディア”に“シルバー・ゴースト”、展開した4機の“白”には“MK-2”のチームをそれぞれ当たらせろ」 「了解!」 「了解っ!」 砂嵐から戻ると、“ミラージュ”が通った道のロンドンの街は破壊されていた。それを見て指揮官は歯をかみ締めた。道路が割れ、カタパルトが現われた。 「・・・失敗か」 レイはため息をついた。イワサキも唸ってキャプテンシートに深く座り込んだ。だが、これは想定の範囲内だ。イングランドエリアは強固な防御システムがウリのエリアだ。ブラウは感嘆のため息を漏らした。 「改めて見るとすっごいね・・・。こーゆー機会がないと、“ガードオービット”が機能するか分かんないもんね」 「そうだな。・・・我々も出るぞ。・・・“シルバー・ゴースト”が来る」 レイは真っ直ぐ前を見据えた。“J”はヴァリアルスを起動させた。 「“J”です。ヴァリアルス、行きます」 銀色の機体が加速してロンドンの街並みを後ろに飛び出していった。4枚の大きな翼。銀色の美しい機体が太陽を反射して輝いた。それを確認するかのようにレイとブラウはクリックスとシエンを起動させた。イワサキからの通信が開く。 「射線は空けた。出てくれ」 「了解です。・・・レイ・ガヴリン、クリックス行くぞ」 ゆっくりとカタパルトが開く。機体が加速して空へと飛び出していった。続いてシエンがカタパルトにセットされた。ブラウはヘルメットを確認すると、両手を合わせて前に伸ばしてストレッチした。首を左右に動かす。 「ブラウ・ルーシャ!シエン行くよっ!!」 6枚の翼を持った特長的な黒い機体も大空に羽ばたいて行った。クリックスは真っ直ぐヴァリアルスに、シエンは更に出撃してきた3機の白いGを引き連れてロンドンの中心街へと向かって行った。 「神崎だ。MK-2出るぞ」 「新藤一射、MK-2、行きます」 「ジュリオルドです。MK-2“モデルG(ガンナー)”行きます」 「リナリー・フェイル、MK-2行きまぁーす!」 ロンドンの街に地下から空へ向かって迫り出したカタパルトから2機ずつ4機の同じモデルのG、“MK-2”が出撃した。それぞれチームで色が違う。射撃戦型の“ガンナー”の2機、カズとエリスは共に薄い透き通ったブルーの機体。ブレード攻撃及び格闘型の高機動型の“ファイター”装備のマサとリナリーはそれぞれ微妙に違う赤い色の機体に乗っていた。彼、彼女達の乗る“MK-2”は“MK-1”の次世代モデル。元はリッジ・クーパー設計のGだったが、“2”となるに当たって“J”が再設計しなおしたものだった。単体の性能は他の量産型Gの性能を上回るものがある。だが、それを扱えなくては宝の持ち腐れだ。彼らにはその力があることを“J”は認めている。彼らは元々目的が違えているのだが、それぞれのコンビネーションはかなりのものだった。 「エリスは援護をよろしくお願いします」 「わかったわ。・・・気をつけてね」 カズからの通信にリナリーは頷いた。そして心配そうな表情でカズの顔をエリスは見た。 「大丈夫ですよ」 マサはコクピットで指をポキポキと鳴らしていた。リナリーからの通信が開く。 「出すぎちゃダメだよ!」 「わーってるよ・・・うっさいな」 ヘルメットのバイザーを上げて、鼻の頭を掻きながらマサは言った。いつもの彼の反応を受けてリナリーはふっと息を吐いた。 彼らの目に“白いG”が映った。 「中佐!!」 「何だ?」 「例の艦から通信です。一方的なものでしたので・・・信憑性は低いですが・・・“漆黒の鷹”の艦だと名乗っています」 オペレーターは早口に言った。指揮官は口に手を当てて唸った。“J”の言う“彼ら”だろうか。オペレーターの手には紙が持たれていた。そこに潜水艦から送られてきた通信が文章に起こされていた。“白いG”、“ナディア”、潜水艦と次々と起こる事態に司令室は混乱していた。指揮官は立ち上がりオペレーターの元に向かった。 「・・・相手はなんと言っている?」 オペレーターは視線を紙に落とした。ゆっくりと記された文章を読み上げた。 「あ、はい。・・・援護を申し出る。よって、第2海中ハッチの開放、及び接岸、上陸を許可してほしい。勝手な願いだが、この状況を打破するためにはそれしか方法がない・・・です」 指揮官は静かに顔を上げた。 「・・・第2ハッチ開放!」 「ちょっ!中佐!?」 その言葉にオペレーターは目を見開いて言った。周りに居るサブオペレーターたちも驚いた。指揮官は彼らを見渡して強く言った。 「警戒態勢は解くな!・・・私はまだ信用したわけではない。・・・だが、この状況だ助けは欲しい・・・」 賭けてみるしかなかった。 “J”の言葉を。 “彼ら”の言葉を。 ただそれだけしか出来ない自分が歯がゆかった。 「私たちの“言葉”を聴いてくれるでしょうか?」 「そうだな・・・」 友子が振り返ってブリッツェンに言った。不安そうな表情を浮かべる友子他シェリーや貴子にブリッツェンは勇気付けるように言った。 「入港許可が出たら、急速浮上後、彼らを出撃させる。・・・あとは着いてからの話だ。・・・心配するな。言葉の力を信じよう」 彼らに入港許可が出たのはその直後だった。 「所属不明艦?」 イワサキはオペレーターの言葉に顔をその方に向けた。オペレーターは頷く。 「はい、ロンドン沖に所属不明の潜水艦が潜航しているという情報を入手しました」 「潜水・・・艦か」 拳を口に当ててイワサキは唸った。右側にあった受話器を持ち上げ、ボタンを押した。 「何かありましたか?」 「未確認の情報だが、所属不明の潜水艦がロンドン沖に潜航しているらしい。そっちで何か情報を掴んでいないか?」 イワサキの問いにレイはすぐに答えを出してきた。その言葉にイワサキは驚いた。 「恐らく、“F”でしょう。・・・対策は打ってあります」 「“F”だと!?」 「我々は“ヴィクトリア”の“回収”または“破壊”。・・・そして、このロンドンの消滅です」 レイは静かに言った。 「それならいいのだが・・・。では、予定通り作戦を続行する」 「よろしくお願いします」 受話器を置くとイワサキは声を張った。 「全砲門展開!!本艦は作戦を開始する!」 黒い影が一気に海面へと近づいてくる。波しぶきを上げて黒い巨体が浮上した。 「来ましたね」 レイはサブモニターに表示された潜水艦に目をやった。 「船体を確認!!・・・でかいっ!」 指令室の大型モニターにもその潜水艦の姿が映し出される。 「上部ハッチ展開!」 友子のアナウンスと同時にサイレンが鳴り響き、排水が開始される。ゆっくりとハッチが開いて漆黒の機体に眩しい光が降り注いだ。 「障害物なし!発進どうぞ!」 「鷹山だ。BB行くぞ!」 その声を聞くや否や、にやりと笑って翼はペダルを踏み込んだ。スラスターが唸りを上げて一気に上空へと飛び出す。すぐさま戦闘機へと変形し、機体を安定させる。 「発進、どうぞ!」 「リーだ。スピルス発進する」 赤い機体が静かに空へと舞い上がって行った。 そして、4人はそれぞれの姿を確認した。 「“漆黒の鷹”・・・。“鷹狩り”の時間です」 レイはゆっくりと視線を向けた。 「アイツはあの時の!!」 翼は大きなシールドを持った機体を見た。あの機体にはカリがある。 「あれがスピルス・・・。綺麗な機体・・・壊すのもったいないなぁ」 ブラウは目を細めて赤い機体を見た。そして、小さく舌なめずりをして、口元が笑う。 「新型か・・・」 ジャックは表情を殆ど変えずにその6枚の翼を持った機体を見た。 それぞれの場所でロンドンを舞台にした戦いが始まろうとしていた。 |