66話:因果の鎖「すげぇ・・・」オペレーターは目を丸くしていた。ハッチを破壊して勝手に出て行ったMK-0が瞬く間に4機の“白いG”を撃破したからだ。司令室は小さく湧き上がっていた。 「フェイル!応答しろ!フェイル!」 「ジュリオルド、新藤、両名とも生存を確認!」 次々とオペレーターから情報が舞い込んでくる。メインモニターにはクリックスと激突するMK-0と、ナディアとヴィクトリア、ヴァリアルスを映し出していた。 「くっ!」 押される。パワーはこの白い機体の方がパワーは上のようだ。レイは目を細めた。 「しぶといですね・・・」 「あんた達は・・・どれだけ人を苦しめればいいの!?」 と、桜はその言葉を発した時にはっとした。 彼女・・・クルスにも同じことを言われた。 自分も立場や方法は違えど、彼らを苦しめていたことは事実だ。 一瞬弱まったMK-0をレイは見逃さなかった。 「ですが、ここで最期です」 クリックスはシールドで弾き飛ばすとエネルギーライフルを構えた。MK-0のコクピットにロックが掛かる。レイはトリガーを引いた。エネルギー弾が放たれ、MK-0に迫る。が、桜は操縦桿を一気にスライドさせ、左手の赤いブレードでそのエネルギー弾を切り払った。 「何!?」 桜は一瞬目を伏せて顔を上げた。 ちゃんと伝えよう、自分の気持ちを。 謝らなくていけない。 謝っても許してはもらえないだろう。 それでもいい。伝えたい。 そのためには・・・。 桜はまた一気に距離を詰めると、真っ直ぐに突っ込んできた。振りかぶったMK-0を見てクリックスはシールドを構えた。それを見て、MK-0は両手の赤と白のブレードを大きく広げた。そして力任せに両側から挟みこむようにして斬りかかった。 「ちっ!」 クリックスは“ランサー”のブレードを展開しそれを受け止めたが、パワーに押されバランスを崩しながら吹き飛ばされてしまった。 「まだよ!!」 桜は叫ぶと、MK-0はクリックスに向かって“飛び蹴り”を食らわせた。空中にいるためにそう呼ぶかは分からないが、クリックスはそのまま落下し、地面に叩きつけられ、滑って行った。苦しそうにレイは顔を上げた。 「・・・何だこれは」 「レイ!!」 「よそ見していてもいいのか?」 レイに向かって叫ぶブラウにジャックにはふっと笑った。次の瞬間またスピルスは姿を消した。今度はシエンの下方からブレードで斬りつけてきた。 「はあっ!」 「やばっ!」 とっさに反応し、シエンは後方に引いて回避した。相手はブレードだけ。距離を取って戦えば問題は無い。シエンは一気にスピルスとの距離を取った。ブラウは鼻で笑う。 「ふん!きょ・・・」 「距離を取って戦えば問題は無い、か?」 「な!?」 スピルスは一気に距離を詰める。完全に動きを読まれている。ジャックは冷静に言った。 「このスピルスから逃げられると思うな」 「レッシュ!・・・あれ・・・」 「・・・何だあのGは?」 レッシュはEVEに言われ“その方向”を見た。白に赤いラインのテストカラーのG。あの黒いGを圧倒していた。それにこの感覚。・・・知ってる人物だ。 「あれは・・・」 「“乱れ桜”・・・美山桜って人よ」 EVEがライブラリーにある桜のデータをサブモニターに展開した。レッシュはそれを見てもう一度そのGを見た。ちょうど“飛び蹴り”を食らわせた瞬間だった。 「どこ見てんだよ!!コラァ!!」 目の前に灰色のGが立ちはだかった。このままではダメだ。レッド・バードが人型への変形が出来ない今、“あの力”でないと対応できない。レッシュは目を閉じた。EVEがすぐさま止めに入った。 「レッシュやめて!!」 「“この力”を使わなければ・・・勝てない!!」 レッシュは目を開いた。赤い目。さらに反応速度が上がる。“Y”の放ったブレード攻撃を回避し、羽を“羽ばたかせ”すぐさま方向転換し、灰色のGの背後を取った。 「くっ・・・」 「やめて!このままじゃ・・・」 レッシュは頭を押さえた。こめかみがキリキリと痛む。EVEはやめるように叫び続けている。ここで止めを刺ささないと体が持たない。それはレッシュにも分かっていた。歯を食いしばってレッシュは叫んだ。 「終わりだ!!!」 レッシュはトリガーを引いた。“シルバー・アロー”の銃口に光が収束し、灰色のGに向かって独特の発射音を残して放たれた。が、それはもう1機の灰色のGのシールドに阻まれた。 「ちっ!」 「戦闘機に相手に何をやっている・・・。足を引っ張るなよ」 「・・・悪ぃ」 “Y”がかみ殺すように“Q”に向かって言う。レッシュは赤い目を苦しそうに細めた。顔にも疲れが見える。息も荒い。 「はぁ・・はぁ」 「レッシュ!」 EVEの必死な叫びを聞きながらレッシュは言った。 「こいつ等を・・・倒すまでの辛抱だ」 「・・・もう無理よ、あなたは限界に来てる!・・・私には分かるから!!」 「それでも!!・・・こうするしか方法はない!!」 その時“Y”のGに向かってエネルギー弾が放たれた。それを素晴らしいほどの反応で回避したが、目の前に銀色のGが出現した。その両手にはブレードが握られている。 「チェック・メイト!」 「しまっ・・・」 次の瞬間には、“Y”の灰色のGは縦に三つに切り裂かれていた。 医務室ではうわ言のように優美が呟いていた。 「レッシュ・・・ダメ・・・」 「あー・・・どうしたらいいのよ・・・」 整備兵の少女はオロオロするばかりだった。さっきの騒ぎで怪我人が出ていないか医務室の先生は外に行ってしまい、優美を任せるように言われていた。汗びっしょりでうなされている優美のおでこに置いたタオルを交換するぐらいのことしか出来ない。 「・・・優美ちゃんがこんなになるってことは・・・隊長に何かあったんじゃ・・・」 整備兵の少女は余計に不安に駆られ、どうすることも出来なくなっていた。 「このままで・・・死ねるか!!」 「何!?」 “J”が気づいた時にはもう遅かった。“Y”の残留思念が残った右腕がしっかりとヴァリアルスの左腕を握っていた。 「・・・ハッキング!!」 「ぐあああっ!!」 突然頭を抱え始めたヴァリアルスの異変にレッシュとEVEは驚いた。そして、すぐにその異変が“ハッキング”によるものだと言うことが分かった。“J”はコクピットで頭を抱え入り込んでくるモノを必死に排除しようともがいていた。そこに“Q”の灰色のGが止めを刺しに掛かった。 「よくやった・・・後は俺がやる」 「やらせるか!!」 レッシュは叫ぶとヴァリアルスと灰色のGの前を、レッド・バードを横切らせた。その時、ブレードを展開し、斬りかかったことで、“Q”の灰色のGは一旦距離を取る羽目になってしまった。 「ちっ」 「“J”!!しっかりしろ!!」 「くっ・・・ぐ・・は」 苦しむ“J”を見てEVEがレッシュに慌てて言う。 「ダメ・・・“J”のダメージは大きいわ!・・・これ以上の戦闘は無理よ!」 そういった瞬間、ヴァリアルスは高度を失い、一気に地上に向かって行った。あのままの速度では激突する、そう思った瞬間だった。北と南から2機のGが躍り出た。 「カズさん!」 「よおし・・・キャッチできたか!?・・・タイミングを合わせるぞ!」 「はい!」 それはカズとリナリーの乗るMK-2だった。タイミングよく飛び込んだ2機のGはヴァリアルスを絶妙のタイミングでキャッチし、落下Gを相殺させた。そのままゆっくりと地上に降り立った。それを見てレッシュとEVEはとりあえず、ほっとした。 「よかった・・・」 「・・・こっちも仕留めるぞ」 あと少し、“Q”を倒せるまでの時間だけでいい。 体よ持ってくれ。そう自分に言い聞かせて、レッシュは赤い眼差しを“Q”の灰色のGに向けた。 「目標・・・ヴィクトリア、ミサイル全砲門開け!」 ナディアの黒巨体の側面から無数のミサイルが放たれる。あれを回避するわけには行かない。回避すれば街が破壊される。ブリッツェンはクルーに向かって叫んだ。 「前進しつつ、迎撃!街に落とすな!!」 「了解!」 貴子はゴーグルから通して見える世界を見た。グリッドが表示されてナディアまでの距離や、地表や街の状況も一目で分かる。そして、グローブをはめた左手でその空間に映っている迎撃プログラムに触れた。そこには攻撃プログラムと防御プログラムが“置いて”あった。先ほど貴子が元々組み込んであったプログラムを修正し、改良したものだった。それを分かりやすく、使いやすい位置に配置しとっさに対応できるようにしておく。その迎撃プログラムを自分だけが見えている世界の中心に持ってくると、ダブルクリックをするように軽く2回触れた。それが展開し、様々な迎撃プログラムが現われる。その中からミサイル迎撃プログラムを選択し、また軽く2回触れた。 「迎撃プログラム起動・・・システム:マニュアル迎撃」 貴子はそう言うと“オート”と“マニュアル”の選択肢が表示される。マニュアルを選択すると、見えている世界の様子が一変する。無数のミサイル全てにすぐさま、マーキングが施され、ミサイルの軌道が予測され始めた。貴子は最も左下に配置された“迎撃”と書かれたパネルにそっと触れた。緑から赤にそのパネルの色が変わり、貴子の見えている世界もまた、オレンジに色を変えた。 「迎撃開始!」 貴子は次々と、見えている世界上のミサイルに触れる。視線を素早く動かし次々と触れていくと同時にヴィクトリアの両側の迎撃ミサイルとレーザーが次々と発射された。ナディアから放たれたミサイルが現実世界でも次々と迎撃される。イワサキはその光景を見て驚いた。 「馬鹿な!?・・・ミサイルを完全迎撃することなど・・・」 そこまで言ってイワサキははっとした。確かヴィクトリアには射撃管制を一手に引き受けることの出来るシステムが搭載されていたはずだ。だが、あれは相当なスキルがないと扱えないはずだ。 「あれを使いこなせるヤツがいるとはな・・・リニア砲、エネルギー砲照準・・・撃てぇ!!!」 ミサイルを全て迎撃し終わると貴子はひとつ息を付いた。まだ来るはずだ。次は恐らくエネルギー砲だろう。対エネルギー防御のシステムを左手に触れ、その世界の中心に持ってくる。左手で2回また触れた。後ろで見ていた翔とミコ、クルスは口が開き放しだった。 「すげぇ・・・」 「ていうか・・・貴子さんもすごいけど・・・この戦艦すごすぎ」 「ええ・・・」 と、クルスは警報が鳴っていることに気づいて、クルーに報告した。 「・・・ロックされました!高エネルギー反応!副砲クラスです!」 それを聞いてブリッツェン以下のクルーの顔が引き締まる。貴子が対エネルギー防御システムを起動した瞬間だった。ナディアからエネルギー砲とリニア弾が放たれる。貴子は凄まじい速度でキーボードをタイプし始めた。数字や記号が乱立する式を組み立て、エンターキーを押した。すると、ヴィクトリアのいくつかの場所が小さく開き、オービットが射出された。それはガードオービットで、エネルギー砲の着弾予測地点に寸分の狂いもなく配置される。そして、貴子はリニア砲にキーボード横の2本のコントローラーを接続し、マニュアルでロックを掛けた。貴子はトリガーを引いた。 「そこ!」 リニア弾に向けてリニア砲が放たれ、ナディアが放った2発のリニア砲は空中で同じリニア弾をぶつけられ相殺させられてしまう。エネルギー弾も完璧に構築し配置されたガードオービットの前に霧散した。その出来事にはナディアのクルーは言葉を無くしていた。 「・・・ばかな」 「ありえ・・・」 「ガードービット・・・だと」 逆にヴィクトリアのブリッジルームではクルスと翔の歓声が起きる。 「よっしゃああ!!!」 「やたーー!!」 貴子は自らの仕事に満足したかのようにふっと笑って息を吐いた。その後も今したことが、さも当然であるかのように迎え撃つ作業を行っていた。そう、今度はこちらから仕掛ける番だ。ブリッツェンが叫ぶ。 「“ミラージュ”発射体制!・・・侵入角を上方30度に調整!」 「了解!」 シェリーがヴィクトリアの船首を若干空に向けた。貴子が“ミラージュ”へとエネルギーを送り始める。貴子だけが見る世界の中心付近にカウントダウンが開始される。 「“ミラージュ”発射体制まで残り6秒」 ブリッツェンが船首を上げたの理由を貴子は一発で理解していた。このまま真っ直ぐに撃った場合、ナディアに万が一回避されると、ナディア後方へと“ミラージュ”が飛んで行くこととなる。それはつまり、高エネルギー砲である“ミラージュ”の威力であれば遥か遠い街にまでも影響を及ぼしかねない。発射角を若干上向きにすることで、空に向ける。そうすることで回避された場合でも被害を少なく抑えることができるだろう。 「3・・・2・・・1・・・発射体制完了」 貴子の言葉にブリッツェンは手を正面にかざした。 「“ミラージュ”照準・・・撃てぇ!!!」 「あんただけは許せない!!」 「許してもらおうとは思ってませんよ」 レイの挑発的な言葉に、桜はカッとなった。力任せにブレードを振るう。 「怒りは弱さを見せます・・・。誰かを思うことも、です」 「何を・・・」 桜は思った。この男は絶対に許せない。人の人生や思いなどをなんとも思っていないようだ。だが、怒りで周りが見えなくなることが桜でもよくあることだ。そうならないために桜は大きく息を吸い込んで吐いた。レイが思い出したように言う。 「あの“イクシーダー”の少女は今回はいないようですね」 「“あの”って・・・まさか・・・」 “優美”と言いかけて桜はぐっと押し黙った。少しでも情報になることを漏らしてはならない。前にそれを経験している。レイのクリックスを睨みつけた。 「・・・知っているようですね。あの“イクシーダー”は素晴らしい」 「え・・・」 「“F”が居れば“あれ”もいると思ったのですが・・・残念です」 レイはにやりと笑う。その笑みは淀んで見えた。桜の頭にまた血が上る。 「何をするつもりなの!?」 「素晴らしい能力を持っている・・・是非我々の手に入れたいものです」 「そんなことはさせない!!」 「させない?・・・美山少佐?あなたはそんなことを言える立場なのですか?」 クリックスが距離を取ってエネルギーライフルを放った。距離を取られたことに桜は歯をかみ締めて悔しそうにクリックスを睨んだ。桜のMK-0はそれを回避した。距離を詰めなければ自分の能力を生かすことができない。 「くっ!」 が、その時、クリックスの背後を取ったGが居た。その赤い機体は真っ直ぐにブレードを構えていた。 「何!?・・・シエンは?」 「シエン?・・・あのGか。装甲をパージして逃げて行ったぞ」 ジャックはコクピットで静かに言った。レイは小さく舌打ちをした。やはり使えない。自分で“処理”した方がよっぽどマシだ。レイはシート横に設置されたトリガーを引いた。と同時にカウントダウンタイマーが5分を示した。 「もう手加減はなしです」 その瞬間、MK-0とスピルスの包囲網からクリックスが消えた。桜とジャックはすぐに上を見上げる。そこに居たのは装甲の各所が浮き上がり、その中から小さなスラスターが見えていた。そして、あの大きなシールドが2つに割れ、それぞれ、両肩に機体に垂直に取り付けられていた。レイは静かに言う。 「“クロスモード”」 「・・・十字架・・・。あなたの最後には相応しい姿だわ」 桜が不敵に笑った。正面から見ればクリックスは黒い十字架のように見えた。 「言ってくれますね」 レイも同じように笑う。桜はクリックスから目を離さずにジャックに言った。 「赤いスピルスのパイロット!!」 「・・・何だ?」 ジャックは静かに答えた。 「あなたにレッシュは任せるわ!コイツは私が倒す!!」 桜の強い言葉にジャックは静かに頷いた。 「了解した」 そして、辺りを見回した。あの黒い戦闘機が・・・彼が居ない。 「・・・それに“あの人”が居ない」 「ん?」 「“漆黒の鷹”よ!」 「・・・」 ジャックは何も言わなかった。それだけで桜は状況を理解した。悔しくて涙が出そうになる。次に、スピルスが居た方向に目をやった桜だったが、そこにはもう赤い機体は居なかった。レイがコクピットから桜のMK-0を見下ろした。 「あなたは用済みと言ったはずです」 「望むところよ」 桜も強い眼差しでクリックスを見上げた。 カウントダウンは残り4分51秒から50秒を指していた。 「レッシュ!」 「・・・ジャックさん!?」 レッシュの赤い目が赤い機体を捉えた。レッド・バードを追いかける灰色のGをブレードでガードし、行く手を阻んだ。“Q”はその姿を見て苦悶の表情を浮かべた。 「“音速の皇帝”ですか」 灰色のGは距離を取ると、エネルギーライフルを放った。次々と放たれるエネルギー弾を軽々と回避していく。回避しながら距離を詰めるとスピルスは再びブレードで斬りかかった。 「くっ!」 「詰めが甘いな」 振り下ろしたブレードを回避した“Q”の灰色のGだったが、次の瞬間にはスピルスは背後に居た。スピルスは振り下ろしたブレードをそのまま振り上げた。とっさに回避した“Y”だったが、左腕を完全に斬りおとされた。機体とリンク状態のため、左腕に激痛が走る。 「ぐああぅ!」 「止めだ」 ジャックはいつものように静かに継げた。スピルスがすっと、“Q”の視界から消えた。その正面には銃口が輝く赤い戦闘機が映る。 「何!?」 「終わりだ!」 「終わりよ!」 レッシュとEVEの声が重なり、独特の発射音を残して“シルバー・アロー”が放たれた。 「・・く・・・」 灰色のGは光の中へと消え、機体諸共“Q”は霧散していった。 「はあああっ!!」 MK-0はクリックスのパワーとスピードに互角に張り合っていた。が、少しずつだが、“クロスモード”のクリックスが押し始める。MK-0のブレードを受け止めるとクリックスは蹴り飛ばした。凄まじいGか桜を襲う。 「ぎゃうっ!」 「ふっ・・・口ほどにもない」 元々シールド内に装備していたのだろうか。今までとは違うライフルとブレードが一体になった武器を両手に持っていた。取り回しがきくように短く改良している上に、エネルギー弾ではなく実弾のマシンガンだった。連射力が向上していることで、攻撃に隙がなくなり、桜も簡単には懐に飛び込めないで居た。それに瞬間的な速度も速い上に先ほど確実に捉えたというブレード攻撃はあの2つに割れて両肩に装備されたシールドに受け止められた。正直言って、打つ手がない。 「くっ・・・こうなったら」 桜は覚悟を決めた。これしか方法はない。ペダルを思いっきり踏み込んで機体を加速させた。クリックスは正面に両手のマシンガンを構えてMK-0に向かって放った。が、桜は引かなかった。 「何!?」 MK-0は右腕で機体を覆うように構えると真っ直ぐ突っ込んで来た。分厚く大きなブレードや右腕や脚部に次々と被弾する。コクピットには警告灯が次々と灯り、コクピットを赤く染めた。肩の装甲が弾け飛び、ブレードが爆発する。 「まだよ!・・・もう少し・・・」 右腕が完全に破壊された時には、桜の最も得意とする間合いだった。そこでようやく桜は左手の赤いブレードを振りかぶった。右腰に溜めるようにして構えられていた赤いブレードの軌道は左利きの剣士が抜刀による斬撃を繰り出したように見えた。 「はああっ!!!」 「くっ!」 とっさにレイは機体を引いたが間に合わなかった。カウントダウンタイマーが“ゼロ”になった瞬間、クリックスの両腕は宙に舞っていた。肩部のバルカンが放たれ、MK-0の頭部に着弾し、桜の視界が砂嵐に変わる。桜はすぐにコクピットハッチを開いた。クリックスがゆっくりと離れていくところだった。MK-0も高度を失い落下していく。桜はコクピットに吹き込む強い風の中、髪を乱しながら身を乗り出して叫んだ。 「レイ!!!」 「・・・くっ」 レイは歯をかみ締めてその姿を見つめていた。 「“ミラージュ”照準・・・撃てぇ!!」 ヴィクトリアから放たれた“ミラージュ”が真っ直ぐに黒い巨体へと向かう。イワサキはすぐさま回避行動を起こすように叫んだ。 「フィールド全開!!回避!!」 ナディアは巨体を目一杯逸らせた。着弾すると予想される場所に分厚くジェネレーター・フィールドを張る。凄まじい振動がナディアのブリッジを襲う。“ミラージュ”はナディアの右側を掠め、装甲が剥がれ落ちた。ヴィクトリアのコクピットではブリッツェンが友子に指示を出した。 「今です!!」 イワサキは右舷の彼方に目をやった。そこには赤い戦闘機が見えた。 「これが最初から狙いだったのか!?」 “シルバー・アロー”のエネルギーチャージが完了したことをEVEが告げた。 「行けるわ!」 「終わりだ!!」 レッシュはトリガーを引いた。戦闘機状態ではパワーを上げて撃つことが出来ない。反動でブレてしまうからだ。それでも、この状況では決定打を与えるには十分だった。“シルバー・アロー”が発射され、真っ直ぐにナディアのブリッジに向かう。が、その前に影が躍り出た。凄まじい光が拡散し、“シルバー・アロー”は何かに止められた。イワサキは目を細めた。 「くっ!」 そこには右腕をかざしたGが居た。光はそのGに吸い込まれていくようにレッシュには見えた。 「何!?」 「うそっ・・・」 EVEも同じように驚く。“シルバー・アロー”の光は消え、右腕を正面にかざしたままの白いGが居た。その右の掌は左手よりも大きく、赤かった。コクピットで男が静かに呟く。 「・・・撤退だ」 「お前か・・・助かったぞ」 イワサキは気を取り直して叫んだ。 「撤退する!彼らの収容を急げ!」 次の瞬間起きたことにレッシュたちは目を疑った。またあの白いGが正面に手をかざした。と、空間が歪んでぽっかりと穴が開いた。それはあのナディアをもすっぽりと入るほどの大きさだった。友子が警告信号を見て驚く。 「ゲート反応!?」 「そんなはずはないわ!ゲートシステムがあんなGにあるはずがないわ!」 EVEも目の前に起きたことが信じられなかった。 そして、レッシュたちの目の前からナディアと白いGは姿を消した。 凄まじいエネルギーの流動で、近づくことすら出来ず、ただただ見ていることしか彼らには出来なかった。 司令室ではそのありえないような戦いに言葉を失っていたが、はっとしたようにざわめきだした。 「被害状況を報告!」 「“漆黒の鷹”は!?」 「各機報告せよ!!」 「あれは・・・」 レッシュは息を飲んだ。 「ゲートシステムを・・・Gに流用した・・・!?・・・そんなことはありえない」 EVEの言葉がレッシュの頭の中で渦巻いていた。 |