目標達成!!ドリーム・ゲート

2006/05/27(土)23:02

親父の指

 進学高校の子がある書店から万引きをした。 その子にとって人生で初めてのことだ。 ほしくもない本だったが、一瞬の気の迷いだった。          しかし、                バレタ! 少年の体は硬直し、頭の中は真っ白になった。 奥の事務室に連れて行かれた。 店のオーナーが出てくる。 名前・高校名・家の電話番号を聞かれる。 沈黙が続く。気を落ち着かせようと深呼吸を何度もする。 でも、言葉が出ない。声を出すのが怖い。  「警察に電話しするけど、いいね。」 「・・・・・。」  「じゃあ、家の電話番号を言いなさい。」 「・・・92○-△■・・・。」 彼は仕方なく、そしてやっと家の電話番号をオーナーに告げた。      十数分後。   事務所のドアがゆっくりと開く。 チラッとそちらを見た。父だった。会社から帰ってすぐに来たのだろうか、背広のままである。 少年は、ぎゅうーとうつむいた。彼の眉間に、なおいっそうのしわが深く入る。 体が震えだす。 ああ、殴られる。 怒りの言葉を浴びせられる。 もう、家には帰れない。 親子の縁を切られる。  学校にも行けない。みんなから泥棒呼ばわりされる。 先生からも友人からも、知らないものからも・・・・ あの家の子は万引きしたと近所の人から 後ろ指を差される。 ああああああ、もう終わりだ、人生おわった・・・ なんて馬鹿な事したんだろう・・・     ― 死 に た い ― そのときだった。ササー。服のすれる音が足元から聞こえた。    「私の息子が大変申し訳ないことをいたしました。 すべては父親である私の責任です。 この子の罪はわたくしの罪でございます。 どうも、申し訳ございませんでした。」はっきりとした、大きな声が緊張ではりつめていた空気を打ち破った。声のするほうをみると、あの頑固で体の大きい父親が体を小さく丸めて、土下座をしている。骨でごつごつとして、かさかさの5本の左右の指はまっすぐにのびて床に張り付き、薄くなった頭頂部をさらしながら額を床にこすり付けている。 いつの間に、父さんはこんなにも年老いていたのだろう・・・ その、予想もしない姿に店員もその少年も驚いた。 初犯であるという事。ここのオーナーとこの親子が同じ出身高校であったこと。そして、何よりもその父親の真摯な態度に免じてこの一件はこれ以上大くはならなかった。 その後、この少年はこの事件をきっかけに猛勉強して、第一志望の大学に合格した。そして、この書店にその報告と当時の反省の手紙をおくった。  『一時的とはいえ、気の迷いで大変な過ちを犯しました。 それを、寛大な措置をしていただいたことを 大変感謝しております。もし、あの時許していただかなか ったら気の弱い私は恐らく、立ち直れなかったと思います。 許していただいて本当にありがとうございました。 あれから、私は気持ちを入れ替え猛勉強しました。 オーナーさんのあたたかい気持ちに背かないためにも がんばることができ、何とか第一志望に合格できました。  しかし、もっとも私のこころを動かしたのは、父のあの姿 です。 あの後、父は万引きの件について一言もいいませんでした。 あの時の父の姿が忘れられません。 これまで、私にとって頑固で怖い存在であった父がこんなに も私の事を思っていたなんて気づきもしませんでした。 もう、父を悲しませることはしない、そう誓いました。 わたしは、この人生の最初で最後の経験を心に刻み 法学部へ進むことにしました。 オーナーの寛大な心と父の愛情を糧とし、困った人を 法律の力で救い、また立ち直らせていきたいと思います。 本当にありがとうございました。 』  今、彼は弁護士となり、父親ゆずりの大きくごつごつした手で多くの少年たちの手をぎゅっと握り締めながら立ち直らせている。     

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