虫プロダクション 1 富士見台
はじめちゃんの東京騒動記 第28回 ●虫プロダクション 1 富士見台1 富士見台 富士見台駅に電車が入る。 多くの乗客が席を立つ。 長い髪の女性もサッと席を立つ。 それを見て三人も席を立った。 群集と一緒にけっして大きくない富士見台駅の改札口をぬけて、駅を出る。 髪の長い女性の姿はどこかに消え、代わって多くの男性が虫マークの封筒を持って駅を右に折れる。 それに引きずりこまれるように三人が歩く。 井上は、午前中に虫プロ商事から借りてきたマンガ原稿の入った大きな手下げ紙袋を引きずらないようにしながら、村上やたかはしに遅れまいと早足で歩いた。 「村上センセイ!あの人たちはみんな虫プロの人だが? みんなカッコイイなっス」 たかはしの率直な感想は当っていた。 長髪でジーパンがブームの時に、虫プロマークの封筒を持った男性たちは意外なことに髪は七、三分けの背広姿だ。「たかはしセンセイ、前を歩いている人たちはほとんどが虫プロへ向かっていると思うよ。 だから住所をキョロキョロ確認する手間は省けるはずさ」 そう言うと、村上は住所を書いた手帳を背広の中にしまい込んだ。 前を歩く数人の集団は歩幅が大きく、早い。 アッという間に田舎の三人との距離が開いて行く。 たかはしは井上に目で「急げ」と合図する。 ■ 虫プロダクションは、当時日本のアニメーションとテレビ界をリードする「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝」を世に送り、この数年は「アニマル1(ワン)」、「あしたのジョー」と、手塚マンガ以外の時流に乗ったヒットマンガを原作にアニメを制作していた。 その虫プロに間もなく行ける。 三人は三様に、胸の高鳴りが1メートル毎に高まってくる思いだった。 ■(文中の敬称を略させていただきました)はじめちゃんの東京騒動記●第28回 完 つづく 第29回にご期待下さい!!