ミスプロの競馬三昧

ミスプロの競馬三昧

アメリカ人の見たJC(2003)

ミスプロの競馬三昧


 アメリカの競馬誌、ザ・ホースプレーヤーの宣伝部長、スティーヴ・テレラック氏の2003年のジャパンカップ観戦記の日本語訳です。
外国人が見た日本競馬と言う、なかなか興味深い内容です。


ジャパンカップを振り返って(アメリカ)


 日本の東京。私の旅は、東京の中心部にある明治神宮への朝の参拝をもって月曜日に終了した。
 77エーカーもの庭園に配した様々な種類の木々に囲まれる明治神宮は、1920年に建立され、19世紀後半を治めた近代日本の初代天皇である明治天皇の神格化された精神に奉献された神社である。

 東京の主要地、新宿からわずか数駅の場所にあるので、プレス用のホテルに滞在した友人から勧められた場所を見るために、私は雨のなかを思い切って出かけた。

 大まかな案内しかなく、ロサンゼルスに帰る飛行機に搭乗するまでのわずか数時間で完了させるには、難しい冒険になりそうだった。

 こんな話をするのは、冒険とそれがもたらす結果を楽しみしていたという点で、東京競馬場での私の経験とよく似ていたからである。現地の言葉を話せない、また、読めないことにより、私の旅は骨の折れるものとなった。

 新宿はニューヨークのペンシルバニア駅によく似ている。見慣れた標示、色、数字を観察することと、本能を信頼することが、ナビゲーションにとって非常に重要である。

 地下鉄の自動券売機は、自動化された馬券発売機と非常によく似ているという点で、私は日常生活と競馬場の間に最初の類似点を見つけた。

 最初、自動馬券発売機で、数人の顧客が殺到し、背後に並ばれた時には多少驚いたが、一旦、便利さに慣れるとそれは驚くほど効率的であった。また、殆んどのアメリカの競馬場とは異なり、窓口受付より機械の方が多かった。

 どこでも現金で受け付けられ、クーポン券を購入する必要はない。プレーヤーがしなければならないことは、3種類あるマークカードのひとつに記入することだけで、それを機械に挿入すると、馬券を購入することができる。

 換金はもっと簡単で、機械が的中馬券を受け付け、正確な配当金額を吐き出す。電車の駅と同様、必要ならば、顧客は窓口に助けを求めることができる。

 競馬場の広々とした敷地を歩きまわると、シービスケットの予告編と並んで、マクドナルドの金色のアーチが否定し難い西洋文化の影響を示しているのに気がついた。

 パドックへ足を踏み入れると、バックグランドに設置された巨大なカラーの掲示板は、観客全員の目に見えるほど大きいだけでなく、ITVモニターで見られる全ての情報を提供していることが印象深かった。

 ディスプレーには、現在のオッズや様々な種類の馬券の予想払戻額や前走以来の馬体重に加え、騎手の負担重量等が含まれ、これは私にとって非常に重宝であった。

 馬は装鞍された後、優に15分間、パドック内をパレードさせられ、多くの競馬ファンに各馬を十分に観察する時間が与えられる。

 騎手が騎乗すると、彼らはグランドスタンド下の地下道を通り馬場内へ導かれ、そこで例外なく精力的なウォーミングアップを受け、その後、ゲートに入る前に数分間輪乗りを行う。

 更に、もう一つアメリカの規準と違う点がある。

 トラックは、内馬場近くにスティープルチェイス用コースを配し、一周ほぼ1-1/4マイルである。

 中央のリングはダートコースで、主要なターフコースがそれを取り囲む。我々の規準からすると巨大に映る。コーナーも広く大きく、容易に20頭強の馬を走らせることができそうだ。

 私が競馬場で過ごした2日間に、どのレースも出走馬は12頭を下回ることはなかった。事実、殆んどのレースの出走頭数は15頭から18頭で、明らかに顧客に選択の多様性と多くの賭事機会を提供している。

 連勝式投票券の発売金が1,000万円を超えることは珍しくなく、基本的に、1レースにつき7種類の賭け方がある。

 単勝式と3着払い複勝式投票法(入着馬が3着馬と複勝式勝馬投票券発売金を分け合う)があり、連勝式投票法で最も人気があるのは、連勝複式勝馬投票法(Quinella)である。

 より広いアプローチを選択する人には、2、3頭が1枠に入れられている枠連(Bracket Q)も利用可能である。また、ワイド(Place Q)は、より保守的なプレーヤーにいくつかの馬券を現金化するチャンスを与える。

 広く人気のある連勝単式勝馬投票法エグザクタ(Exacta)は、全てのレースで利用できる。最後に、大儲けを狙う人は、3頭以上をマークする3連勝式のトリオ(Trio)にチャレンジすることができる。

 万一、特定の賭けに人気が集中しても、かなりの額の発売金があるため、配当率が変わるという心配は殆んどない。ジャパンカップ単独の売得金発売額は、約240億円(約2億2,000万米ドル)であった。

 ジャパンカップは、これまで私が見てきた中で最も感動的なレースのひとつであった。

 馬がゲート入りする前に、大勢のファンが一斉に手のひらにプログラムをガンガン叩きつけ、最大音量の音楽に合わせて期待を高めていく様を目の当たりにするのは、全く圧巻であった。馬が直線コースを駆け抜けていく時の群集の叫び声も電撃的である。

 また、レース後に行われる芝生上のセレモニーも見応えがあった。

 もしかすると、あなたには、ひとつの疑問があるかもしれない-その通り、私は実際に馬券を何枚か換金した。それはレースでの私の一日を豊かにした経験であった。

 明治神宮については、勝馬探しに余念のない真のギャンブラーのように、外国の土地で道を探そうとして多少間違いはしたものの、結局、本能の導くに任せ、雨の中、木々の間を通り、庭園を抜け、最終的に神宮につながる道に到達し、神主らの朝の儀式に丁度、間に合うことができた。

 旅は、私の精神と存在を豊かにした。私は10分間の余裕さえ持ってホテルに戻った。

 友人である有名なフリーの写真家シグ・キッカワの言葉を引用すれば、「ジャパンカップの影響を正しく評価するには、経験してみなければ分からない」という。私はその意見に同感だが、更に付け加えたい。我々は慣れ親しんだものだけに自分を限定すべきではない。

 楽観主義と偏見のない広い心は、勝馬予想のアプローチに役立つのみならず、自分の限界を超え、世界各地の競馬の不思議を経験する自発性を我々に与えてくれるにちがいない。

 賭けに勝つことは素晴らしいが、私の日本旅行の場合と同様、総合的な経験の価値はなお一層大きい。いつの日か、是非、もう一度やってみたいと思う。


 注:スティーブ・テレラック(Steve Terelak)氏、ザ・ホースプレーヤー誌の宣伝部長、2003年ジャパンカップを観戦。これは日本への旅の感想である。

「Reflections On Racing In Japan  Mr. Steve Terelak」


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