ミスプロの競馬三昧

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大レースにおける日本の戦略は要改善

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 大レースにおける日本の戦略は要改善


 今年に入って2度、日本の競走馬が欧州のトップ中距離レースに出走している。 
そして2度とも最後の直線で勝つかに見えたが、あえなく敗れた。 ディープインパクト(Deep Impact)の凱旋門賞における走りと、キング・ジョージ(キング・ジョージVI&クイン・エリザベスII・ダイアモンド・ステークス)に出走したハーツクライ(Heart’s Cry)の走りとは奇妙な程似ている。 その結果明らかになったことは、日本の馬主・調教師は戦略について真剣に検討し直すべきだということだ。 世界の競馬の歴史を鑑みれば、特に中距離以上のトップレースで優勝するためには、出走と出走の間の期間が長くなると非常に困難であることがわかる。

ディープインパクトのような完成度の高い馬には、トライアルレースへの出走は不要だという主張は、もっともらしいが信憑性は低い。 パドックで見ただけでその馬が100%の出来であると断言できる者がいないのと同じである。
凱旋門賞で3馬身以下につけている馬は、99.8%の力を出し切っているといわれるが、本当にそうなのかを外見だけから見抜くことは不可能である。

重要なことは、世界中のどこに遠征しようと、チャンピオンレースで優勝するためには準備こそが全てであるということだ。 追切りとトライアルレースへの出走を組み合わせて、馬がトップクラスの競走のペースに耐えることができるようにし、そして蓄えたエネルギーを消耗させないよう、バランスを取らなくてはならない。

凱旋門賞の3歳馬の重量は優遇されすぎており、早急に見直されるべきだが、出走スケジュールを組み立てる上で古馬にも多くの利点がある。
フランスで好成績を残した3歳馬の通常の方式は、比較的楽なステップ競走であるニエール賞(Niel、訳注:9月10日、ロンシャン、G2、3歳芝2400m)でシーズン半ばの休養から復帰するというのが一般的である。 また、7月初旬のアイリッシュダービー(Irish Derby、訳注:7月2日、カラー、G1、3歳芝2400m)、あるいはその2週間後に行われるパリ大賞典(Grand Prix de Paris、訳注:7月14日、ロンシャン、G1、3歳芝2400m)を休養前の最後のレースとする傾向がある。 レールリンク(Rail Link)もこのようにした。(訳注:凱旋門賞勝馬レールリンク号は、5月29日に3走目の一般競走を勝って未勝利を脱し、6月20日のリス賞-G3、パリ大賞典-G1、ニエール賞-G2、凱旋門賞-G1を連覇)。

 凱旋門賞で数多くの管理馬を優勝へと導いたアンドレ・ファーブル(Andre Fabre)調教師も、このパターンに従い大きな成功を収めている。 しかしファーブル調教師でさえも、トップクラスの競走馬を大レースに出走させる時には必ず優勝させる保証があるわけではない。 今年は彼の3頭の管理馬のうち、2頭が不調に終ったにもかかわらず、彼がヨーロッパ最高の調教師と讃えられるのはいささか皮肉であるが、彼の業績は「勝利へのパターンを発見したならそれにこだわれ」という考えが正しいことを証明している。

凱旋門賞の正確な勝時計2:26.3は、著者の同僚デイブ・エドワーズ(Dave Edwards)がTopspeed値114(トッピスピード社のレーティング)に匹敵すると査定した。 この査定はレーシングポスト誌のレーティングとほぼ同じような値であり、至極論理的である。
ペースは穏やかで、特に早くはなかった。 初めの6ハロン(約1200m)は1:12程で到達し、1マイル(約1600m)は1:38、10ハロン(約2000m)は2:02だった。
このスピードは、トップ中距離レースでよく見られる安定したハロン12秒のペース(12-12)とほぼ同じである。 中間地点で一度落ち込み、その後加速したことで少々ブレが生じ、そのせいでTopspeed社とレーシングポスト誌のレーティングには若干の相違が出たが、全般的に妥当なテストだったと言えるだろう。
しかし回顧されるべきは、シロッコ(Shirocco)とハリケーンラン(Hurricane Run)のペースメーカーが出走しなかったのは何故かということだ。 シロッコはこれまでの凱旋門賞レースでよく見られた“早-遅”というパターンでは向いていないタイプだった。 しかしハリケーンランは、昨年の凱旋門賞のように “早-遅”パターンが今年も踏襲されていれば、もっと好成績を収められただろう。

ファーブル調教師がレールリンクを出走させたのは賢明だった。 それなくしては、彼はここまで聡明だとは思われなかっただろう。

 ディープインパクトに騎乗した武豊騎手は、戦略的には何の失敗もしてない。 彼は日本ではペース判断に抜群に長けていると考えられており、それはディープインパクトのいつもと違う位置取りを決断したことからも明らかである。 同馬が、凱旋門賞のために通常のスタイルを変更して冒険したと考えるのは興味深いが、同馬のような馬には無理におさえてそのエネルギーを無駄にしないために、自由に行かせたのだろう。 一つ確実なことは、ディープインパクトは来年こそは凱旋門賞前に出走し、その際に我々は、同馬が日本で賞賛を受けているのに相応しい競走振りを見られることになるだろう。(この記事の掲載後、同馬の今年度引退が発表された)。

By James Willoughby

Racing Post 「Japanese have to seriously rethink their strategy for major races」


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