中年層の障害者の広場

2010/07/05(月)11:38

参院選 高齢者の投票権/上 郵送は「要介護5」限定

政治(64)

◇ 手続き難しく煩雑、「支援不可欠」の声も  参院選の投開票日が迫ってきた。国や自治体は投票率アップを呼びかけるが、心身の衰えなどで投票をあきらめざるを得ないお年寄りがいる。10年後には国民の3割が65歳以上となるこの国で、高齢者がさまざまな思いを託す「1票」が揺らいでいる。  「選挙の紙が来たよ。今回は郵便投票する?」。6月末、白山利子さん(49)は東京都内の実家で母(85)に尋ねた。母は迷わず「するよ」と答えた。  母は父(84)と2人暮らし。11年前に脳出血で倒れて右半身にまひが残り、今年3月に最も重い「要介護5」と判定された。利子さんは介護のため、週5日実家に通っている。  若いころから地元市議の選挙の炊き出しを手伝ってきたこともあり、母の政治への関心は高い。今回もテレビの政見放送を見て、早々と心を決めたようだ。画面の向こうで日本の未来を熱く語り「よろしくお願いします」と頭を下げる候補者に、母は「立派だねえ。わかりましたよ」と返していた。  6年前、利子さんは市の広報を読んでいて、身体障害者手帳1級(体幹)の母が郵便投票の対象者であると知った。身の回りのこともできなくなった母は「もう何の役にも立てない」とひどく落ち込んでいたが、自宅で投票できると知ってとても喜び、利き手ではない左手で字を書く練習を始めた。  しかし、手続きは煩雑だった。申請して認定されると証明書が届く。これを選挙のたびに選挙管理委員会に郵送しないと、投票用紙をもらえない。証明書は後日返却されるので、次の選挙まで保管しておく必要がある。投票用紙を送る際も本人が記入する欄が多く、少しでも書き間違えると無効になりかねない。「老夫婦だけでは、とても無理だった」と利子さんは話す。 毎日新聞 2010年7月5日 東京朝刊 郵便投票は不在者投票制度の一つとして1948年に始まり、不正が相次いだことから4年後に廃止。福祉政策に光が当たり始めた74年に復活したものの、極めて重度の身体障害者に限られた。 その後、手の自由が利かない筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)の患者が「代筆による郵便投票を認めないのは選挙権の侵害」と訴えた裁判で、東京地裁が02年に違憲状態と判断。国は対象を拡大し、04年には要介護者も加えたが、対象は「要介護5」にとどまった。 だが「要介護4」以下でも歩行困難な人は決して少なくない。各地の選管には「家族が投票所に連れていけない」「自宅で投票できないか」といった声が寄せられており、国に対象の拡大を要望する自治体もある。 これに対し、総務省選挙課は「要介護5の人は99%が歩けないとのデータがあったため、対象になった。それ以下も含めるとなると、投票に行ける人と行けない人をどうすれば公正に判別できるのか」と、慎重な姿勢を崩さない。       ◇ 対象150万人…利用は3万人 重い身体障害で投票所に行けない人の参政権を保障する郵便投票。04年の公職選挙法改正時、厚生労働省は対象者を140万~150万人と推計したが、実際に投票しているのは2%程度にとどまる。 証明書の発行件数も投票者数も、国政選挙のたびに減り続けている。投票者数は04年7月の参院選(選挙区)で3万6389人だったが、この10年で投票率が最も高かった昨年8月の衆院選(小選挙区)は3万3020人だった。 手続きが煩雑なこともあるが、選挙権に詳しい井上英夫・金沢大教授は「そもそも郵便投票という制度の存在が周知されていない」と指摘。「ヘルパーやケアマネジャーが情報提供や手続き支援をするなど、介護サービスと連動してはどうか」と提言する。

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