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misty247

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2006.06.24
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 少し間が空いたので、昔のテキストから圧縮物語を1つ再掲します。
 オリジナルもとても短いお話しです。

 ======θθθ======θθθ======θθθ======θθθ======θθθ======

 秤屋に奉公する小僧の仙吉は、番頭同士が旨い鮨屋の話をしているのを傍らで聞いて、いちど旨い鮨というのを食べてみたくなった。
 貴族院議員のAは、同僚に、鮨は握るそばから手掴みで食べる屋台に限ると教えられ、屋台の鮨を食べてみたいと考えていた。

 或る日、Aは旨いと聞いていた屋台の鮨屋の暖簾をくぐった。そのとき同じ店へ、お遣いに出ていた小僧の仙吉が入ってきた。小僧は、四銭だけなら懐にあるので一つは食えるだろうと決心して飛び込んできたのだ。鮨を載せる板を見廻して「海苔巻きはありませんか」と小僧は聞いた。鮨屋の主は「ああ今日は出来ないよ」と応じて小僧をジロジロと見た。鮨屋は初めてじゃないよと云うような勢いで前にあった鮪の一つを摘んだが、「一つ六銭だよ」との主の声に四銭では足りない小僧は鮪を戻した。「一度持ったのを置いちゃあ、仕様がねえな」と主はその鮨を引き上げた。小僧はその場を一寸動けなくなったが、すぐにある勇気で暖簾の外へ出て行った。

 Aは同僚に屋台の鮨を食べてきた話をしたが、そのときに小僧の話をした。
「何だか可哀想だった。どうかしてやりたい気がしたよ」
「ご馳走してやればいいのに」という同僚とは、そういう勇気を出すのも難しいものだという結論となった。

 或る日、秤を買いにきたAは偶然その店に仙吉を見た。仙吉はAを知らない。どこかで先日できなかったご馳走をしてやろうと考えて、秤の届け先まで小僧さんをちょっとお借りしたいと聞いて了解を得た。購入者台帳用にと名前を聞かれて、名を明かしてご馳走するのでは憚られると思い、出鱈目の住所と名前を言った。
 秤に関する用事を片付けると、Aは小僧に「お前も御苦労、お前には何かご馳走してあげたいからその辺までおいで」と云って、横町の小さい鮨屋の前へと連れて歩いた。鮨屋の前で小僧を待たせて、ひとりで店に入り出てくると「私は先へ帰るから、充分食べておくれ」と云った。かみさんが「小僧さん、お入りなさい」と招き入れた。Aは逃げるように立ち去った。
 仙吉は三人前を忽ちに平らげた。
「もっとあがれませんか、お代はまだ沢山頂いてあるんですからネ」とかみさんが云う。
「お前さん、あの旦那とは前からお馴染みなの?」
「いえ」
「へえ……。粋な人なんだ。それにしても、小僧さん、又来てくれないと、こっちが困るんだからネ」
仙吉は只無闇とお辞儀をした。

 小僧と別れたAは変に淋しい気がした。小僧も満足し、自分も満足してよいはずの、人を喜ばす悪いことではないはずの事が、どうしたわけか、変に淋しい。悪いことをした時にも似たようないやな気持ちがする。何故だろう? 善事だと意識する気持ちが、本当の心から批判されているのだろうか、とAは考えた。

 店を後にした仙吉は、先日自分が屋台の鮨屋で恥をかいたことと、今日の出来事に関係があることを見抜いた。しかし、自分が秤屋に居ることを知っている点が解せなかった。そして、あの客は只者ではない、神様か、でなければ仙人か、若しかしたらお稲荷様かも知れないと考えた。

 後日、Aの一種淋しい気持ちは消えた。しかしあの鮨屋へ近寄る気はしなくなっていた。「俺のような気の小さい人間は全く軽々しくそんな事をするものじゃあ、ないよ」とAは話の折にそう述べた。

 仙吉の頭の中で、あの客は日々益々忘れられないものとなった。あの客が人間か超自然的なものかは別にして、ただありがたいものと思えた。あの鮨屋へ再びご馳走になりにいく気はしなかった。そうつけあがることは恐ろしかった。
 仙吉は苦しい時、悲しい時に必ず「あの客」を想った。いつかは又「あの客」が思わぬ恵みを持って自分の前に現れて来る事を信じていた。

作者はここで筆をおくことにする。実は、小僧が「あの客」を確かめるため購入者台帳の住所を元に尋ねていくと、そこに人の住まいはなく、小さい稲荷の祠があった。小僧はびっくりした。-と書こうと思ったが、そう書けば小僧に残酷な気がしたので止めた。 <終>

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Last updated  2006.06.27 09:42:57
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