カテゴリ:私の歩いた山と道
三鈷峰頂で2つ目のアンパンを食べつつ北壁を眺めていると、縦走路を歩く人影が三つ四つと認められた。後ほど出会った大山の場数を踏んでそうな人に尋ねてみたところ、今日は風がないから挑戦者が多いんじゃないですかとのこと、まるほど風が鍵か。調子者の私だが禁を犯してまで縦走する気はなかった。死亡者多数の道、上空を警備のヘリが飛んでいた。
小屋手前まで戻って元谷方面へ下る。灌木帯を横切ってしばらく進むとガレの谷に出た。「砂すべり」の道の概要をガイドブックで学んでいたが、えっ!本当にここを?と尻込みしたくなる傾斜のきつい砂礫の谷である。 最初は右端の岩場を歩いていた。注意しても落石が避けられない。コロコロ転がりだした石は止まらずはるか下へ落ちていく。前後とも無人であったが、こんな落石の雨あられの道が登山道だとは解せない。なにか違うなと思って立ち止まり、注意深く辺りを観察すれば中央部に砂の筋を見つけた。砂すべりというからあそこを行くのか?と恐る恐る下降ラインを移した。スキーのジャンプ台の上に立ったことはないが、その疑似体験とも言えるかも知れない。まるで巨大な滑り台の上だ。 本当にここを?と思いながら一歩また一歩と踏み出すと……やぁ、なんとも不思議な歩行感覚。 一歩足を踏み出せば細かい砂に踝まで深々と埋まる。足を引けば抜き跡を埋める砂の流れが起こって、ざらざらと自分の周囲の砂が流れる。踏み込めば押しのけた砂が先へざらざらと落ちる。その繰り返しで、自分の周囲の砂はずっと自分に付いてくるように映る。砂に乗って砂を滑り降りるソリの感覚。斜面へ逃げていく砂は蒲団を踏むように柔らかい。それが合わさって独特の歩行感覚を生んでいる。浮遊感があり雪を踏むのとは違う。こんな所を歩いたのは初めてだ。面白い体験だった。 砂上のラインに変えてからは落石も起こさなかった。しかし、本来ここは上からの落石に備えヘルメットの要るルートのようだ。 南壁以上に崩壊の激しい北壁、流れる砂礫は元谷という一箇所に集まる。北壁から元谷に毎年大型トラック2000台分の砂礫が落とされるのだそうだ。麓の村落を守るため、大型の防砂堤が何重にも張られているが、どの区間も既に砂満杯で受け止める余裕がもう無いように見えた。砂礫の大河である。 ▲元谷から見た北壁 迫り出した箇所には、大屏風、小屏風といった名が付けられている。溶岩円頂丘の黒い岩が露出している。 砂すべりを降りるとガレ場になった。この下りは膝の負担が大きい。弱い方の右膝に鈍い痛みが感じられだした頃、ようやくザレ地帯から解放された。まずはどこかで体制を立て直したかった。スパッツで足元をフルカバーしていたのにもかかわらず、靴の中に小石が数個入っていたからだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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