カテゴリ:私の歩いた山と道
槍平まで戻った。ここまで戻るともう半分は帰ってきた気になったが、これはとんでもない錯覚だった。ピストンする場合、行きはあんなに長かったのに、帰りは意外にもあっという間だったということも少なくないが、私の感覚はこのルートでは逆で、帰り道はうんと長く感じられた。
そう感じられた理由は、個人的な都合によるのかも知れない。というのも、車のガソリンの残量が乏しかったからで、19時半までに降りて20時まで営業していると期待される近くのガソリンスタンドに寄らねば、明朝までの行動が著しく制限されてしまうのだった。 さしたる根拠なく、きっと間に合うと思っていたようだ。山道は、歩けども、歩けども、はてしなく続いた。 ヤマルリトラノオ はゴマノハグサ科。クガイソウも近い仲間である。色が薄いのでヤマルリトラノオとした。ヤマのつかないルリトラノオは伊吹山の固有種。もっと濃く鮮やかな紫色をしている。オカトラノオも似ているが、なぜかサクラソウ科になる。 知らない花に出会っても、似た花を知っていれば、科で絞り込める図鑑が助っ人になる。少し違うがあの花と同じ科だろうと当たりをつけて。でも、このように惑わせられる場合もある。 ホタルブクロ(?) はキキョウ科。ヤマホタルブクロかと調べていたら、どうも違う。ハクツリガネニンジン属のハクサンシャジンか? いや、それらしく見えない。花のふくらみが、5弁のキキョウ科らしくないのだ。なんだろう……なんだろう……。 こうやって、分からない花と格闘するときが、あとあと識別に活用できる知識の一番得られるときである。結局、分からずじまいになっても。 紅い草の実(?) 何の実かなと調べたが、花の図鑑は実まで載せていない。「赤い草の実」でググってみると、昔にそういう曲名の歌があったようで、それがヒットする。 言葉を変えて「紅い草の実」で調べてみたら、今度は殆どヒットしなかった。「ルビー色した草の実」「グミのような草の実」とあれこれ試すも、結局、分からずじまいとなる。 『やっとこさ、ここか』という思いで白出沢を越した。林道に入った頃はまだ明るかった。樹林に空を覆われると陰って暗かったが、眼も次第に慣れて19時半ぐらいまではライトなしで歩いていた。花はとうに闇に紛れて、視点は足元にのみ注がれた。やがてライトを点けた。道を横断する排水溝が幅広で深く危険だったので、誤って踏みこまないように。 20時のガソリンスタンドはもう諦めた。星が見えた。山は眠っているかのようだった。やっとでロープウェイの麓駅についた時は、20時半ぐらいだったろうか。21時までやっているスタンドがあることに期待して、158号線との出合い「平湯」まで飛ばしたが、開いている店はなかった。ガソリンの件は結局、高山市で22時閉店直前のスタンドに辿り着けて事なきを得た。途中インターで2時間仮眠して、翌朝の通勤ラッシュ寸前に大阪へ帰り着いた。 大阪から槍ヶ岳山頂への、一直線のピークハントだった。好天に恵まれて、計画は無事に達成できた。 「あっ、槍が見える!」 次に私がアルプスのどこかでそう発するとき、この日のことが楽しく思い出されることだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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