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泉涌寺のエイドを過ぎると、右に悲田院の大きな案内板。悲田院とは、聖徳太子が隋に倣って四天王寺においた福祉施設「四箇院」のひとつで、もとは行き場のない人の救済所だそうだ。
いまの悲田院は宿坊である。1泊朝食付4,725円。朝のお勤めや法話も付いてくる。京都らしい宿泊が体験できそうだ。
広い敷地に幅広い道。一直線に走り抜けるだけでも数分かかる。御寺(みてら)と呼ばれる泉涌寺は、まず一番に皇室の菩提寺として知られる。悠然とした構えは背後の山と一体で、裏山は代々の天皇の墓所である。宮内庁が管理するこの山は神域で立入禁止。
畏れ多いお寺さんであるが、このお寺はランナーであれば跪拝せずにおれない神様がおわすところでもある。四天王三十二将軍神の一神、韋駄天を祀るお寺さんなのだ。
速く走ることを韋駄天走というが、韋駄天の走りはキロ何分というようなレベルではない。釈迦のお骨を盗んだ捷疾鬼を追いかけて捕らえたそのスピードは、132万キロを一瞬だったという。ちなみに赤道一周が4万キロ。もう光より速いから、韋駄天が走ると世界が裏返る。
住宅街を抜け、竹林の路地を進み、常緑の木々の下の林道となった。そしてついに山道に。
伏見稲荷まで残すところ数キロの地点までくれば、あとはロードを流すだけ、と私は勝手に思っていた。それが、紛れもない山道である。
『まだ、こんなところが残されているのか……』
▲ここにきて、また山道
ハーフを走っていて残り3キロとあればもう半分ゴールした気分だが、金剛山の千早本道もたしか3キロかそれぐらいだったはず。山道の3キロは侮れない。
この山登りは、東山三十六峰、最後の稲荷山。標高は約230mで、頂は一の峰、二の峰、三の峰と分かれる。いずれも神蹟で、稲荷山は稲荷大社の御神体である。稲荷山一帯にある神蹟を巡拝することを「お山する」という。
▲稲荷山の下山は疲れた足に危険度大
マラソンコースは「お山」の一部、一の峰を抜けて、奥ノ院から稲荷大社へと降りていく。
山の反対にまで出ると、いよいよあとは流すだけになった。神社と山の境界の路地を走った。
▲伏見稲荷奥ノ院から大社へ
鳥居や石塔がひしめきあう境内。圧し掛かってきそうな石塔群。行進をはじめそうな鳥居群。妙な雰囲気の道だ。
ラストスパートするほど足に余力は残っていなかったが、気持ちは何かに追われ急かされた。
不思議の国のアリスは、最後にトランプの兵隊に囲まれて窮して、はっと目覚めて救われる。背後に感じる鳥居の兵隊。万事休す! ―― その目覚めは、ぱっと目前に現れたFINISHの横断幕がかかるゴール地点だった。
▲東山三十六峰、ついにゴール!
ゴール横の時計を見ればタイムは3時間28分。ゴールしてすぐにWさんに呼び止められた。Wさんを待たせた時間は17分。これぐらいならと私は内心ほっとした。
アミノバリュー500mlとソイジョイ、それに参加賞のバッグを貰って、伏見稲荷を後にした。
走ったあと風呂に寄る計画だった。私が選んだのは、竹田駅のまだ向こうのスーパー銭湯「力の湯」。ちょっと遠い。「追加のロードRUN2キロ半要りますが……」といったら「いいんじゃないですか」となってここに決まった。
搬送したリックを背負って、いざロードRUN開始。走って「結構あるな」とWさん。いま地図でみると3キロはあったかな。疲れた足には5キロ分あった。
汗を流して昼御飯を食べて、互いの完走を祝し、楽しいコースだったと感想を語りあった。
* * *
東山の地図と史蹟情報をもとに、この大会参加記を書き終えた。あとからになったが、東山を回峰する当大会コースの魅力が厚く裏付けされた。多くを見過ごしてぼんやり走ってきたのが悔やまれるほどに。
しかしこれで東山に少し詳しくなった。ゴールラインのどちらがうつつか分からなくなる、そういう域までありそうな東山。次回はどんな発見をするだろうか。 <終>
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misty247
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